20-迷探偵きららのすやすや推察
───あたし、晴蜜きららには気になる子がいる。
日本有数の財閥グループ、晴蜜財閥の令嬢。肩書きだけ仰々しいけど、中身は普通の女の子……ちょっと、いや、かなり甘いのが大好きなだけの中学二年生。
ひょんなことで魔法少女ハニーデイズになっちゃって、毎日アクゥームと戦っているけど、うん、それ以外はまだお金持ちの娘ってだけの女の子なの。
そんなあたしには、御伽草中学校に入学してから仲良くなった、ちょっと変わった女の子がいる。
「寝子ちゃー!助けて!」
「やだ……他を当たって……本当に、私の快眠を邪魔するヤツは、須らく奈落に落ちろ……」
「そこまで!?」
夢之宮寝子。御伽草で一番頭がいい、史上最高の天才。バカなあたしでも知ってる、あらゆる文学賞を総ナメして独占した博学者。学校のテストでも満点以外取ったことがない……それどころか、試しに受けさせた大学のテストを難なくクリアした逸話もある、すごい子だ。
そんな子と友達になれて、それも勉強を教えてもらっているあたし……これって結構、幸運なのかも。
でも。
最近寝子ちゃんについて……一つだけ、気になっていることがあるんだ。
「はふ……眠い……」
『はふ……眠い……』
まんま一緒なんだよね。あのネコちゃんみたいな怪人、三銃士のチェルシーちゃんと。
魔法少女の敵、アリスメアーの幹部。罪のない一般人を傷つけて、悪夢に閉じ込めて、アクゥームを作る犯罪者。あたし達と同じ年齢の子、だと思う、のに……あんな悪いことをするなんて、最初は許せないと思った。
……いや、最初から、言葉にできない違和感があった。
それが寝子ちゃんと……あたしの親友と、ネコちゃんが似ていると気付いてからは、早かった。
ねむねむなとことか、ダルそうなとことか、色々が。
あと、抱っこしたときに過ぎった既視感が、いつまでも離れなかった。
顔立ちは、何故かこう、一致しそうにないんだけど……これも認識阻害の力だと思えば、ありえる。この前ので、三銃士が普段認識阻害とか、変装魔法とかを使ってるって知ってからは、余計に。
寝子ちゃんとチェルシーちゃんは、同一人物なんじゃと疑う気持ちが強くなった。
取り敢えずお話がしたくて、おっきな声で呼びかけるんだけど。
「寝子ちゃん!」
「チェルシーちゃん!!」
「「お話しよ!!」」
「ぇ、やだ」
なのに、なんでそんなに辛辣なのかなぁ……きららよくわかんない。
でも、似てるってだけ。イメージっていうか、類似点があるっていうか……なんか似てるな、ってだけで。まぁ、最初はあたしの目とか頭がおかしくなっちゃったかなって思ったんだけど……信憑性、っていうの?だんだんやっぱそうなんじゃないかって思うようになってきて。
それで、色々暈してほまるんに聞いてみた。
ぽふるんよりも、詳しいんじゃないかなーって、直感で思ったから。
「認識阻害の脆弱性ぃ?」
「うん!ほら、あたし達って魔法少女やってるの、誰かにバレないように魔法かけてもらってるじゃん?それって、どれくらい有効なのかなぁ、って」
「うーん、そうだなぁ〜。バレる時はバレるからなぁ」
「そうなの?」
「普段きららちゃんと接してる人ほど、認識阻害って弱くなっちゃうんだぁ。なんていうのかな……そもそも、この魔法は魔法少女を危険から遠ざける為の魔法なんだよね。だから、その相手が身内とか、親友とか……あと大好きな人相手じゃ、効力が弱くなっちゃうことがあるんだぁ」
「へぇ〜!」
つまり、認識阻害がかかっていてもなんとなーくで薄ら感じ取れてしまう、そんな前例として有り得るわけで。
それを知ったとき、あたしの疑問は半ば確信に至った。
……指摘するのはまだ怖くて、漠然とそうなんじゃって思いながら見てるだけ、なんだけど。
聞いていいのか、知っていいのかもわからないから。
というか隠す気あるのかな……ねむねむなとこ、そんな変わってないじゃん……
口には出さないけど。
でも、アリスメアーなんかやめて、あたしのところに、こっちに来て欲しいなー、なんて思うのは……まぁ、別にいいよね?
そう思って声を上げるも、届いたことはない。
「チェルシーちゃん!悪いことはもうやめて!!そしたらいっぱい寝させてあげるから!!」
「んんぅ……魅力的な提案。でも、無理」
「っ、なんで!?」
「私は……私は、幸せな悪夢の中に、沈むの。ずっと底に浸ってたいの……だから、やだ。私はこっちで、あなたはそっち。それでいいの」
「ッ……」
なに、幸せな悪夢って。わかんないよ。そんなの。
わかんないから理解しようとして、でもわかんなくて、聞こうにも聞けなくて……少しでもチェルシーちゃんを、寝子ちゃんのことを知りたくて、一緒に遊びたくて……
邪険にされても構い続けた。
本当に勉強はわからないことだらけだから、無理にでも頼んで教えてもらった。
ウザがられても絡んで、抱き着いても怒られないぐらい仲良くなれた。
……なれたよね?いやがられてないよね?寝子ちゃんてぽかぽかぬくぬくで、抱き心地いいから……どうしても、こう、抱き締めたくなるんだよね。
この前その体勢のまま一緒に寝ようとしたんだけど……結局断られちゃった。
なんでぇ。人の温もりあった方がよく寝れそうじゃん。
「寝子ちゃん?」
「……ん、なに」
「……ううん。やっぱなんでもない!」
「ふーん」
たまーに出てくる、本物そっくりの……偽物ちゃん?がいるときは、チェルシーちゃんと魔法少女としてドンパチ戦うのが多いから、多分そういうことなのかなぁ、なんてちょっとずつわかるようになってきた。
本物との違いは、正直わかんないんだけど。
なんか違うなー、って。どうも、ハニーデイズになったことで、あたしは一度でも魔法に違和感を感じると、看破できるようになってしまったようだ。
多分だけどね?これ、まだ誰にも言ってないんだ。
穂花ちゃんにも蒼生ちゃんにもぽふるんとほまるんにも言ってない。
なんか、こう……あたしだけが知ってたいな〜、なんて思って。
これっていけないことかな?
「きららって、バカだよね」
「な、なんでいきなり罵倒なの!?確かにバカだけど!!突然すぎてちょっとよくわかんないよ!?」
「ふん」
バカバカバカって、酷すぎじゃない?教わってばっかでなんの成長もしてないあたしが悪いのは確かだけども……だって頭良くなったら、寝子ちゃんと遊ぶ口実が……ん?あれ?別にそんな建前なくても……うーん?
よくわかんないけど、取り敢えずあたしはあたしだ。
今のままでもいいと思うの。だから勉強教えて、お礼で一緒にスイーツ食べいこ?
「パパのお金で!」
「うわぁ、親に集るとかすごっ……真似出来ないや」
「その言い方やめよ?醜聞?てのがあるじゃん」
「ねぇ、空梅雨だっけ。こいつパパ活してるよ。ちゃんと裁いた方がいいと思うよ」
「語弊!!」
「情報提供感謝するわ。さ、きらら……申し開きはあるのかしら」
「うわぁー!!」
だからって、あたしの扱いが酷いじゃんね!!
……まぁ、それはともかく。
そんなこんなで寝子ちゃん=チェルシーちゃんじゃねと疑惑を確信に変えながら、あたしは花園の魔法少女としてアリスメアーとしのぎを削り合う。
勝つのはいつだってあたしたち。
でも、いつか───あの動画で見た、先輩たちのような最期を迎えてしまうかもしれない。普通の配信サイトとは違って、国が規制とかできないから、今も残っている……あまりにも惨くて、苦しくて、最悪なアーカイブ。
リリーエーテも、ブルーコメットも、最近はあれを見て勉強している。
───先輩たちの苦難を、失敗を、死を、自分たちの糧にする為に。
あたしはちょっと……怖いから見るの無理☆グロいのは本当に無理。
でも、きっと大丈夫。エーテとコメットと一緒なら……どんな苦境でも、乗り越えられると思うから!
諦めない心は大事って、エーテも言ってたしね!
そう、イマジネーションだよイマジネーション!いつも大丈夫だって思えば、それはもう大丈夫なんだよ!!
暴論だって?知ーらない!
次に覚醒?するのはあたしだもんね!ドリームスタイルゲットだぜするよ!
───カポーン…
「い・い・湯、だーなぁ〜♪」
「うゅ……」
「……悪くないわね……」
「あぁ〜、疲れが取れる〜…………ねぇ、いいの?これ。どう思う?」
「主文、後回し」
「いいのかなぁ」
「さぁ?」
ちなみに今、あたしは県外の有名温泉に浸かってるよ!
この前、三銃士が潜在的なんちゃらかんちゃら?の為に遠征するーって、宣言したの。そんなことがあってから、三銃士の人達が日本各地に出没してはアクゥームを顕現、発見報告を受けてあたし達魔法少女が出向く……っていう鬼ごっこが続いてて。
すんごい疲れる!徒歩移動じゃないからまだいいけど。
そして今日、県外の温泉街に歪夢がいるーってサイトに通報が入ったから、ぽふるんの設置型転移魔法で、急いで駆けつけたんだけど……
色々あって、今。温泉に浸かってるの!
「あったかいね〜」
「んにゅ……ぅん」
……うーんと、あれ?なんでチェルシーちゃんも一緒に入ってるんだっけ?
まいっかぁ!!




