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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
ユメと希望、友情のブルーム

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19-揚げたて片手に宣戦布告


「ダブルチーズバーガーの昼セット三つ、全部コーラで。ああ、サイドはポテトでお願いします……あっ、二つだけサイズ上げてくれます?」

「はっ、はい!かしこまりました!」

「あざす〜」


 昼下がりの某チェーン店。身体に悪い食べ物は高頻度で食べたくなると言うべきか……この日、3人の幹部怪人が街中に出没していた。

 歪魔法と色魔法の複合による変装魔法を使わず、普通に生身で堂々と。


 困惑と恐怖で若干挙動不審の店員にメニューを頼んで、その怪人……ペローは同僚に席取りさせた机に座る。既に座っていた2人、チェルシーとビルは、退屈そうに寝息を立てるなりスマホを弄るなり、各々時間を潰していた。

 世界の敵、アリスメアーの幹部。実働部隊である3人が街中で堂々と食事しようとしている。その指摘するべきか通報するべきかが困る光景に客や店員たちが戸惑っている傍ら、三銃士は歓談する。


「まとめて頼んだけど、変えないでよかったん?」

「選り好みするほど食わねェからな……腹に溜まりゃあ、それでいい」

「そすか」


 こだわりのないビルの返答に納得したペローは、自身もスマホを取り出して暇を潰す。見るのはネットニュース。アクゥーム速報や今日の魔法少女など、自分たちに関わるニュースが所狭しに流れている。

 エゴサにも近い。どれくらい自分が、自分たちが世間にバッシングされているのか気になっているから。

 ……魔法少女つよーい、魔法少女かわいー、なんだこの知能指数が下がった記事は。


 思わずサイトを閉じた。見たら呪われそうで怖い。


 ……チェルシーが起きる気配はない。ポテトを目の前でチラつかせれば起きるだろうか。


「お、お待たせいたしました〜」

「どうも〜」


 届けられた商品を受け取り、テーブルに配って並べる。全員食べるモノが同じ……サイズの違いはあるが、大して悩む必要もない為すぐに配り終わる。

 バーガーを紙から取り出して、一口。チェーン店特有の美味さを堪能する。

 ……ついでにチェルシーの前でポテトを揺らせば、突然ガバッと顔を上げて頬張った。その速度マッハ6。風圧でちり紙が吹き飛んだが、まぁ気にしない。

 顔面に張り付いた紙を退かして、ペローはチェルシーにおはようと一言告げる。


「おぁよ……うまうま」

「寝ながら食うの行儀悪いから、はよ食べてから寝なよ」

「だいじょーぶ……油で目が覚めるから……」

「そういう理由?」

「笑えねェな」


 目覚めたチェルシーがハムスターのようにポテトを食む光景を横目に眺めながら、ペローは食事を再開した。


 ……三銃士が白昼堂々とハンバーガーチェーン店にいる理由は、偏に言えば仕事の前の息抜きだ。普段は帽子屋の手料理を食べているのだが、偶には外食がしたくなる。

 わざわざ変装せずにいるのは……まぁ、誘き寄せる為と言えばわかるだろうか。


 決して面倒くさくなったとか、別にいいだろとか思って放棄したわけではない。


「……はふ……ん。帽子屋さんに頼んだら、業務用ポテト揚げてくれるかな」

「いけんじゃねぇーの?あの人お前に甘いし」

「食いたきゃ好きなだけ食えばいいだろ。追加注文ぐらい許されんだろ」

「や、それはいい」

「そうか……」


 教育方針で今まで食べれなかったジャンクフードに見事ハマっているチェルシーは、一心不乱にポテトを食べて、今まで摂取できなかった油分を積極的に取り込んでいく。

 さり気なくビルの分から奪っているのは……彼に甘えている証拠か。


「……ふむ」


 このままでは太る一方。そう懸念したビルが、帽子屋に食事制限を申し出るのはまた別の話。


「わ〜お、ほんとにいる」

「……危機感とかないわけ?あなたたち」

「こんにちはー」


 そこに颯爽と現れる魔法少女。店員に一言断りを入れ、彼女たちは並んで三銃士を睨みつける。なにせ相手は普段敵対している怪人。警戒するのは無理もない。

 リリーエーテにブルーコメット、ハニーデイズ、三者共武器は構えていないが、いつでも戦闘に移れるよう注意を払っているのは流石といったところか。

 ……給食を抜け出してまで駆けつければ、呑気に食事を楽しんでいるのを見せつけられたイライラもあるが。

 だが、三銃士は臆さない。

 なにせ魔法少女が突入してくることは想定済み。まさか店内に客を残したまま……というか睨み合いの隣で普通に食べてる客の気が知れないが、そこは置いておく。

 ここで一戦おっぱじめるつもりはない3人は、大人しくジャンクフードを食べ進める。


 眼中にないような扱いをされた魔法少女たちは、若干名キレながら詰問する。


「通報受けて来たんだけど……なにしてるの?」

「腹ごしらえ」

「飯食ってる」

「見てわからないの……?」

「そうだけどそうじゃない」

「わかってて言ってるでしょ」

「グーで行く?グーで」

「物騒」


 衝動のまま拳を握るコメットを宥める2人に、ペローは悪い顔をして尋ねる。


「ククッ、オレっちたちが罠張ってるとは思わないわけ?そっちこそ危機感どーなのよ」

「ふふーん。そこは看破の魔法で見破ってるもん」

「えぇ、あなた達が呑気にお昼ご飯を楽しんでるのはもうわかってるのよ!!せめて変装しなさいよ!私たちがまだ食べれてないんだけど!?」


 中学二年生の少女たちにお昼抜きは些か厳しい代物。

 悪いのは確かに自分たちだが、少し哀れに思ったビルがチェルシー以外手をつけていないポテトを差し出す。勿論毒も何も入っていない。


「あー、そいつは悪いことしたな……食べるか?」

「「「食べる」」」

「即答じゃん」

「危機感…どこ…ここ…?」

「育ち盛りだな……」


 一旦食事休憩挟みます。

 ……躊躇いなく敵対者から渡されたモノを食べるのは、蒼月印の解毒魔法があれどおかしくないだろうか。3人の傍にぷかぷか浮いていたぽふるん、そして三銃士達はそう思ったのだが、あまりの気迫に口を噤んだ。

 結局追加で注文して、6人で二つのテーブルを使った。勿論三銃士の奢りだ。


「……って、ちがーう!!」

「お?」

「なにが目的で白昼堂々してんのよッ!それはそれとしてご馳走様!!」


 一時緩い空気が広がったものの……少しして我に返ったコメットが、なんか違うと叫びながら立ち上がり、バッとマジカルステッキをペローに突き付ける。

 三銃士が一体なにを企んでいるのか。

 悪夢で世界を閉ざさんとする巨悪に、ブルーコメットは問い質す。


 ジャンクフードで紛らわされるわけにはいかないのだ。


「目的なぁ……まぁ、息抜きって理由もあるっちゃある、つーか、そっちが主目的になってるっつーか……あーうんめんどくさい。ビルの兄貴、詳細はヨロ」

「2人に聴いて…私は、誘われた…だけ………」

「……はァ、人任せ共が……まぁ、簡単な話だ。今日は、ちょっとした遠征でな?」

「遠征?なんで?」


 三銃士の本当の目的───それは、リリーエーテ以外の潜在的悪夢適合者を見つける旅に出ること。流石に戦いで勝ち取る以外の手段で確保したい。そんな帽子屋の思惑に乗っかって、3人は遠征とは名ばかりの遠出を計画した。

 この店にいるのは、所謂決起集会。久しぶりに食べたくなってきたからでもあったのだ。

 そして、こういうのは口を滑らせ他方がおもしろいと、配信を嗜んできた彼らのエンタメ力が発揮され、こうしてわざわざ魔法少女に報せる暴挙に出た。

 無論、問題はない。

 次狙われるのは自分かもしれない───そんな恐怖を、ユメエネルギーに変換して力にできるのだから。


 その説明を聞いて、リリーエーテたちは顔色を変える。


「なっ……そ、そんなのダメだよ!関係ない人をまきこむなんて、絶対許さない!」

「かぁ〜!甘ちゃんッスね〜!」

「当ッたり前じゃない!勿論エーテもあげないわ!!その遠征とやら、全力で妨害させてもらうわよ!!」

「断固拒否ぽふ!」

「きゃーっか!きゃーっか!」

「そーだそーだ!絶対やらせないよ!わかった!?」

「ミッ……耳元で叫ぶのやめ……がふっ」

「チェルちゃーん!?」

「やんのか?」

「ごめんなさい」

「デイズぅ……」


 全力で抗議する魔法少女と妖精。約一名、どこか親友に似ているねむねむ子猫を揺すって耳もとで叫び沈黙させた罪状でしょっぴかれたが……ビルは3人の抗議を、形だけ受け入れた上で、宣言する。

 ここがハンバーガーチェーン店であることは一先ず横に置いて。


「止めたきゃ止めて見せろ───できるもんなら、な」


 大胆不敵に、禍夢の鉄砲玉は宣戦布告を告げた。


 ……ちなみにこの後、三銃士は普通に会計を終えてから魔法少女の目の前から消えた。

 華麗な逃走劇……この日、戦闘は起こらなかった。


次回 遠征前の繋ぎ回

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