214-vsアルファ艦、第一ラウンド
またまた支援イラストをいただきました。
拙作の応援ありがとうございます!なんと色付き!
今後ともよろしくお願いします!
https://x.com/suijaku01/status/1967929898942730739?t=AevZSd0A85usfUHSliBMmw&s=19
アリスメアーに裏切る前の、颯爽とした蒼月のイメージでデザインしてくださったそうです!
決戦を経験しておらず、仲間がいるからまだ希望を失っていない、自信に満ちたラピちゃんだとか。
素敵ですね。
“魔影”のアクベンス。
大提督カンセール率いるプレセルペ蟹紅艦隊の一番艦、アルファ艦の艦長。宇宙における未解明の一つ、仮設上の物質であるダークマター、暗黒物質。銀河に広く存在する未知の存在に、意志を与えたモノ。
それがアクベンスの正体。
遥か昔、先の大帝の実験によって自我を獲得した彼は、意志あるモノの一つとして、宇宙を流離い……その傍らで時代の支配者が変わろうとも、自分には関係の無いことと旅を続けた。
……その道中で、彼らは出会った。
暗黒銀河を征服せんと大宙を航海していた、キャンサーなる紅い甲殻を背負った異星人と。当時でも破格の技術力をもって建造した戦艦が、暗黒銀河の精鋭を打ち払って、侵略して、突き進む。
果敢にも挑む男の軍勢に、アクベンスは勧誘された。
酒の席での勧誘ではあったが……彼は、その軽いノリを受け入れた。
その日から、カニの男───カンセールの相棒として、アクベンスは銀河を駆け抜ける。
軍勢が負けて、その支配下に置かれようとも。
唯一無二の友と共に、激動の世界を……荒れないことを知らない銀河を、好きなように、自分らしく生きる。その一本の芯だけを大事にして、アクベンスは今日も宙の上で円舞曲を踊る。
「ふっ!」
暗黒銀河暦、606年───ネオ・エネルギープラントの上空にて。
アクベンスは、魔法少女と激突する。
「っ、つぅ!変幻自在ってわけ?」
「その通りだ。質量も重量も自由自在───暗黒物質は、いつだって自由なのだから」
「そ!」
不定形である物質の集合体であるアクベンスは、生まれ持った特性を活かして魔法少女を翻弄する。時には体術、時には魔法、その全てを使って。
宇宙艦隊のナンバー2なだけあって、その実力は将星に匹敵するレベル。
将星クラスとの交戦経験もある新世代さえも翻弄して、自分に優位なフィールドで……アルファ艦のメイン甲板を舞台に、爪を立てる。
リリーエーテの杖術を巧みにいなし、鞭のように右腕の形成物質を振るう。
「コメット!パス!」
「任せなさい───星魔法ッ!<ブルー・シューティングスター>ッ!!」
「むっ」
その腕を穿ったのは、星の輝きを宿す魔法少女。
青い一条の槍撃が、アクベンスの身体から右腕の部位を分断するが……それも、すぐに粒子状に分解して再構築。新たな右腕を作り出して、即座に復帰する。
再構築のスピードは破格の代物であり、敵の攻撃の次の起点を作らせない。
だが、その素早さに適応するのが───魔法少女という生き物である。
「ハァッ!」
「やるな…」
絶え間のない連続の槍突きが、アクベンスの暗黒物質を執拗に削っていく。まぁ、周辺に漂っている不可視状態の暗黒物質を取り込めば、肉体損失の心配はないが……
鬱陶しいことに変わりはなく。
捲れ上がった軍服から覗く、偽りの腹部から……第三の手を生やす。
「んなっ!?」
「こわっ!?」
「物理法則に反するのは得意なんだ」
「見りゃわかるわよっ───ッ、攻撃をすり抜けるのは、卑怯でしょうが!!」
「いや、正攻法さ」
殴打や手掴み、衝撃波や弾丸などの変幻自在な攻撃技が物理的に増えたことで、連撃を繰り出すコメットとエーテは厄介そうに顔を顰める。
ただでさえ止められない連撃が厄介だったのに、魔手の繰り出しが増えるのだ。
嫌でしかない。
「ちょっ、デイズ!チェルシーっ!あなたたち、いつまでイチャついてるのよ!こっち来て戦いに参加しなさいよ!ぶん殴るわよ!?」
「でもサボってないよ?」
「うんうん」
「言い訳ッ!」
「怒だ…」
「ね」
いい加減にしろと、後方でいつまでも魔力を高めていたデイズとチェルシーに怒鳴るが、何処吹く風。
目まぐるしい攻防にどうして混ざりたいと思うのか。
ただ、サボり扱いされるわけにもいかないので。
仲良く手を繋ぎ、お互いの魔力を循環させて、相反する魔力を同調させ続けていた……その真価を、2人の魔力の合わせ技を解き放つ。ゆっくり時間をかけた甲斐あって、その輝きは一入で。
「希望の花よ!」
「夢幻の光よ…」
「「───この世界に、花開け!!<フェアリードリームライト>ッ!!」」
甲板を一直線に突き進む夢と花の極光が、アクベンスの暗黒物質を消滅させんと突き進む。アクベンスにとって、直線状に突き進む攻撃を避けるなど、容易いが……
避けさせてやるかと、エーテとコメットの執拗な攻撃を捌き切れずに、光を浴びてしまう。
瞬間。
「っ、ぐっ……、っ!?」
デイズとチェルシーの思い通り、アクベンスを構築する暗黒物質の四割が、光に耐え切れずに消滅する。
浄化の力は、暗黒物質すらも無力化する。
本来ならば激痛を感じない身体だが……久方ぶりに走る激痛に、アクベンスは自分らしくないと笑いながら、未だ途絶えることを知らない極光から逃げなければならない。
勢いが強すぎて、その場から動けないが……
暗黒物質を操作して、自分の前に生やす。聳え立つ壁が光を受け止めている間に、アクベンスはその場を離脱……光を放つ2人へ、暗黒物質の槍を飛ばす。
が、已の所でコメットの槍が弾き、固定砲台への攻撃を阻止する。
「邪魔だ」
「ッ、あの光の中で動けるなんて…」
「チェルちゃーん!」
「うん、任せて───出力調整。追尾機能、付与」
「なんだと?」
だが、チェルシーもそれは予測済みで……発動している最中の魔法に属性を追加付与するという、普通はできない芸当を披露する。その結果、2人の重ねた手のひらから、真っ直ぐ突き進むだけだった夢の光が……カクンカクンと折れ曲がって、軌道を変更する。
その進む先にいるのは、アクベンス。
まさかのホーミング機能の追加に黒眸を見開きながら、笑って躱す。
「逃がさないよ!」
「すごいじゃないか。だが……もう一度俺に当たるまで、魔力は足りるのかな?」
「大丈夫だよ!だって!」
「ぼくがいるぽふ!それに!」
「「───私たちが、いるからね!」」
「ッ!」
追いかけてくる夢の光から逃げるアクベンスだったが、エーテとコメットの猛撃によって、無限固定砲台となったデイズとチェルシーの魔力切れを狙うしかなくなった。
更にはぽふるんという優秀なサポーターも二人についている為、そう簡単に妨害することはできない。
魔力切れを狙うこと自体は、簡単だが……
それよりも早く、エーテとコメットの猛攻によって万策尽きるだろう。
「魔法少女、か……面白いな!」
予め話に聴いていた魔法少女の脅威性。どんな脅威をも乗り越えて、立ち向かってくる。諦めないその精神性が、貪欲に勝利を掴む。
その真価を見せつけられた気分になる。
まだ本領発揮したわけではないが、手傷を置いながらも抗うその姿には好感を覚える。暗黒物質の嵐に晒されても諦めず、悲鳴を上げず、身体を痛めつけられても、貪欲に勝利を追い求める。
だが。
「生憎だが、お前らの冒険は……ここで終わりだッ!」
好戦的に笑うアクベンスは、そろそろ仕舞いにしようと辺りに漂っていた暗黒物質を掻き集める。それは、宇宙の何処にでも存在する未知の物質、ダークマター。
アクベンスは、“星喰い”以外で唯一このダークマターの支配権を有する存在だ。
故に。
「ッ、これは…」
「うわわ!?こっ、光線が!」
「っ、デイズ!?チェルシー!?」
「だ、大丈夫!多分!」
「本当!?」
「ぽふ!?」
まるで嵐の中のように───黒色の粒子が、暗黒物質が渦巻いて。ドームのように空間を作り……アクベンスを、魔法少女を、チェルシーを、ぽふるんを閉じ込める。
暗黒物質のドームの中では、魔力が上手く練れず。
破壊光線の魔法陣が霧散してしまい、瞬く間に夢の光は途絶えてしまった。
「さて」
アクベンスが宙に浮かぶ。服の下の暗黒物質の粒子が、暴風に乗って散らばって……ドームを形成する暗黒物質と融合する。取り込み、混ざり合って、一つとなって。
顔はそのままに───敵を内側に閉じ込めた異形へと。
ガス状の胴体を浮かせて、渦巻くドームの内側から手を生やして。
その手の一つ一つに───暗黒物質が持つ、なんにでもなれる力を発現させる。
彼の魔法は、その為の力。
───暗黒魔法<ケイオス・ダークマター>
「この空間では俺が絶対のルールだ。わざわざドーム状に形成して、わかりやすいようにしてやったが……ここでは魔力を練れない。暗黒物質に、魔法を使えないようにする粒子っつー属性を持たせたからな。長時間触れ続ければ、お前らは魔法使いとして、死ぬ」
「っ、道理で…」
「……そんなんされても、私たちは負けないよ?まだまだやれることはある」
「そうかい」
なんでもあり。
そう嗤うアクベンスに、エーテは真剣味を帯びた表情で応える。魔法が使えなくなろうと、触れたら一瞬で魔力を喪失させる手があろうと。
二度と、魔法少女としての力を振るえなくなる、そんな暗黒物質に晒され続けたとしても。
諦める理由にはならない。
短期決戦を向こうから申し込まれたのなら───それに応えて、乗り越えるだけだと。
「余裕だよね?」
「暗黒だか何だか知らないけど、あたしたちを足止めする度胸は買うよね!」
「……魔法封じは、厄介だけど」
「ふんっ!この程度、なんてことないわね!」
「みんななら、大丈夫ぽふ!」
「だってさ───お兄さん、私たちに負けるのを、諦めて受け入れてね?」
エーテは杖を、コメットは槍を、デイズは斧を。そしてチェルシーは片手銃を両手に持って。
挑発的に、笑う。
「ハハッ!悪かないな!それじゃあ……死ぬその時まで、俺とのデスマッチに興じてくれ!」
「いいよっ!正面から、打倒してあげる!!」
蠢動する暗黒物質との戦闘は、最終局面へ───世界と隔絶された戦場で。
触れたら即死判定の魔の手が、4人に襲いかかった。
アルファ艦、未だ健在。




