212-工場破壊は気持ちいいZOY!!
ズドーン…
腹に響く重低音が、辺り一帯を震撼させる。その倒壊は工場の一角に大きな破壊を齎し、再建不可避の連鎖崩壊をお披露目する。無数の煙突がドミノ倒しのように倒れて、また土煙を上げていく。
度重なる破壊音、武器と武器の鍔迫り合い、悲鳴怒号、魔法が飛び交う戦場の軌跡。
煙を上げる鉄の星───ネオ・エネルギープラント。
暗黒王域が運用する兵器、武器などの製造を行う施設、惑星規模の工場は、今。
魔法少女を中心とした、夢星同盟の尖兵による、襲撃を受けていた。
「こんなもんか」
「うーん、やりすぎた感が否めないかも…」
「別にいいんだよ。許可得てるし」
「それはそうなんだけどね?」
「何を心配してるんだか」
モクモクと排煙を吹き上げて、瓦礫の山となった兵器の製造プラント。大破壊を成し遂げたのは、何を隠そうこの2人。リリーライトとムーンラピスが、たった今、工場を守ろうと立ち向かってきたロボット兵団を壊滅させた。
今のところ、敵味方共に人的被害はない。
どうやらこの工場、全て機械工学、つまりはロボットで運営さらていたらしく、工場長などの異星人は一人としておらず、死傷者はゼロである。
……この工場を造らされた青蠍曰く、人件費を限りなくゼロに抑えた最新鋭の兵器工場で、自動修復機能がある為壊されても問題ないらしい。
流石にここまで破壊されては無理だが。
ちなみに、この工場を同盟先の革命軍は利用しないのか否かだが、ぶっちゃけ必要ないらしい。彼らとしてはまず供給源を断つのが最優先らしく、自前の武器は将星たちが既に用意済みらしい。
だからこその大破壊。
最終的には惑星そのものを無くしてもいいと、製造主の御墨付きを得ている為、彼女たちが躊躇う理由はここにはない。
「壊していいんならさぁ、月落としとかで滅茶苦茶にしてやってもいいんだよね?」
「それなら初手で聖剣兵装×100やれば勝ちじゃん」
「それだとストレス発散できないじゃん。みんなの息抜き管理大変なんだよ?」
「育成ゲームじゃないんだからさぁ…」
「似たようなもんだろ」
宇宙怪獣を模した機械獣───タレス曰く、旧式の品質最低保証を足蹴にして、歩みを再開する。まだ工場を守る警備兵の全てを破壊し尽くしたわけではない。
そも規模が星全てなのだ。ちまちまやっていては時間がかかる。かといって一纏めに吹き飛ばしても、他の仲間の出番が減って、戦闘意欲の発散ができない。
仲間の手網を握るラピスは、もどかしさを感じながらもその手を握る。
「ハハハハハハッ!ハハハハハハハハハハ───ッ!!」
……遠くから聴こえる破壊音と、喝采を込めた大先輩の高笑いからは目を逸らす。
余程破壊工作が、兵器ブッパが楽しいらしい。
「現時点での破壊率は42%…」
「意外と進んでない感じ?もっと頑張んなきゃかぁ」
「……みんなが満足するまで待って、トドメに惑星衝突でロッシュ限界させるか」
「何語?」
一体何処の星のリングにするつもりなのだろうか。
「───侵入者を発見。直ちに排除します」
駄弁りながら鉄の道を練り歩く2人の前に、たくさんのロボット兵が徒党を組んで現れる。その手には鋼鉄すらも融解させる光線銃が握られており、並大抵の強者では脅威に感じるべき武装である。
しかし、ここにいるのは地球人類の上澄みたち。
あらゆる光を内包する極光を、万物を平伏させる満月の破壊を、心のないロボット如きが、食い止められるわけもなく。
───光魔法<リヒトライト・カタスター>
───月魔法<クレセント・エッジ>
二種類の斬撃が、立ち向かってくる警備兵をガラクタの残骸へと変えた。
似たような光景は、星のあちこちで起きている。
「工場作った人が壊していいって言ったんだから!もう、好きなだけ!ぶっ壊しちゃおう!!」
「何時になくテンション高いわねッ!」
「気持ちはわかるけどねー!」
「みんなー!怪我にだけは注意するぽふよー!あっ、そこ罠あるぽふ」
「「「うわーっ!?」」」
「バカばっか…」
「いっけぇ!マーダーラビット!!」
「破壊は楽しいねぇ!」
「この調子で銀河系爆破しようぜ!!」
「やらせないよ?」
「マーチちゃんの歌を聴いてくれる人がいない!これじゃ商売上がったりだよッ!」
「……そんなこと言いながら、ステージぶっけて工場さん破壊するの、怖いのです」
「あのピッドに引かれるとか相当だぞオマエ」
「うぇっ!?」
「ハハッ、悪かねェなァ……エェ?おい」
「鉄工魔法!きゃあ〜!鉄がいっぱい!素材がいっぱい!これ全部ダビーのにします!!」
「アオーンッ!!」
「……何故、私のマップは機能してないんですか?」
「おい枕、私を置いていくなよ」
「な、なんで私についてくるんですかぁ〜!ラピ様たちに引っ付いててくださいよぉ……か、カリ兄さん!助けて!この傍若無人ロリから!!」
「だからって引き摺ってやるなよ……あー、女王サマも、髪掴むのはやめてやってくれ」
「……仕方ないな」
「んめぇ…」
和気藹々と、時には怒鳴り合いながら、好きなように、楽しみながら工場破壊に洒落込む少女たち。三銃士男組も破壊に混ざって、惑星規模の解体という、生きている間に二度とない稀有な機会を満喫する。
尚、カリプスは非戦闘員の警護中だ。
夢奏列車はラピスに格納されてしまった為、お留守番基籠城させることはできない。
それと……
約一名またしても迷子になっているが……誰一人として探そうとしていない為、件のダメな方の青色は駄メイドの称号を引っ提げたまま暫く練り歩くことだろう。
多分そろそろ思考矯正アップデートがある筈だ。
仲間たちの楽しげな声を魔法で集め、耳に届けながら、ラピスは微笑みを浮かべる。
昔のような賑やかさにご満悦のようだ。
……ここに、もう一人の顔馴染みがいないのは、ほんの少しだけ口惜しいが。
「ノワちゃん、元気にしてるかなー?」
「……死んだ通知は出てないから、平気でしょ。あいつ、あんなんでも逞しいし。皇帝サマも悪いことはしないって確信があるしね」
「だといーけどっ!」
「っと、今度は破壊兵器か……工場の癖に防衛システムの殺意高くね?」
「ね」
友の安否を案じながら放たれた光が、照準を定めてきた魔導兵器を撃ち抜いた。大爆発を背に、彼女たちは何事もなかったかのように歩みを再開する。
大破確定となった鉄の星には、最早興味もない。
「このまま順当に行けば、すぐに終わるから……今日には宗教施設んとこ、行けるんじゃない?」
「行ってどうするの?カミサマすごーいで終わり?」
「暗黒銀河の神様って何処まで許してくれるのか、物理で試そうかなって」
「罰当たりすぎるよ…」
「でもやるでしょ?」
「やるけど」
空から降ってくる瓦礫の山を手で跳ね除け、更に建物を破壊するという悪循環を展開しながら……遂には、惑星の内部破壊に踏み切ろうと、足元に目を向けた、その時。
不意に、足が止まる。
「……ん?」
ラピスは、不思議な魔力反応を検知した。
宙を仰ぎ見る。無窮に浮かぶ星々の輝きが、今日はより忌々しい。
だが。
「……星雲?」
宙を埋め尽くすように───青と紫が混ざったような、不気味な色合いの星雲が広がってきていて。星そのものを覆い隠すように、集まってくる。
その星雲からは、何も検知できず。
ただ、この工場に集まっているとしか認識できない……その異変にラピスは堪らず眉を顰める。面倒事が自分からやってきたと。今は呼んでないと言わんばかりの顔で。
積乱雲の如き星雲からは、ほんの僅かながら───艦の音が聞こえた。
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「───艦長!ネオ・エネルギープラントを視認ッ!既に破壊工作は始まっている模様!」
「損傷率84%!このままでは王域に多大な損失がッ!」
同時刻。
鉄の星を見下ろすように、彼らは飛来する。自分たちを遥かに超える実力者を潰す為に、宇宙の藻屑にする為に、大きな船を引き下げてやってきた。
既に惑星は射程圏内。いつでも星に巣食う侵略者を……叛逆者たちを狙える距離。早く撃たねば、自陣の戦闘力が落ちてしまう。そう危惧する船員たちの声を浴び、彼らの艦長は何を思うのか。
答えは一つ。
「カニカニカニ……ここにはバカしかいないのかにかぁ?あんな鉄クズ、もういらんのかによ。陛下からのお言葉はたった一つ。“全てを破壊せよ”───タレスの創造物に、もう用はないかに」
「っ、では…」
「全壊。モニターに映る全ての機械惑星を、魔法少女諸共葬るんだかにッ!!」
「ハッ!」
生え変わって、より強固な鋏となった拳をコンソールに叩きつけるその男は、宇宙艦隊の提督。暗黒銀河の“宙”を征する彼は、宇宙最大規模の艦隊を連れて星を睨む。
破壊、略奪、侵略、戦争───思い付くことの全てを、軍人として積み重ねてきた。
暗黒王域の傘下に加わり、銀河の王の手先となっても。
彼の信条───真の弱肉強食。格上の大物喰らいによる勝利を求める気持ちに、変わりはなく。
この戦争に求む意義は、たった一つ。
王への忠誠?あの日コテンパンにしてきた魔法少女への復讐?はたまた仕事だから?
否。全て否。
「さァ、リベンジかに───全身全霊をもって、カニは!オマエたちに勝つッッッ!!」
星雲ごと移動するかの艦隊は、暗黒銀河に二度の侵略と破壊を齎した実績を持つ。鉄の星程度簡単に呑み込むその星雲には、たくさんの戦艦が内包されている。
その規模は銀河一。
地球大陸に影を落とせるサイズの母艦を主軸に、11隻の大型宇宙戦艦が追従し、44の中型宇宙戦艦が隊列を組み、更に577の小型宇宙戦艦が散開する。
一隻の欠けなく、征服者が従える全ての艦が鉄の星へと飛来する。
「全艦砲撃用意ッ!!カーッカッカッカッ!!」
暗黒王域の十二将星
プレセルペ蟹紅艦隊・提督
───“烈征蟹虚” カンセール・サレタ
出陣。




