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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
マギアガールズ銀河紀行 -古の夢啜り-

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209-ある一つのルーツ、夢の残骸

めっちゃ喋ります


 エルダー星人。生きた樹木であり、千年以上の遥か昔に全盛期を過ぎ去った森の賢人。かつては二十四の銀河系を支配下に置き、広大な密林惑星を大量に従えていたが……暗黒宇宙の王であり、“星喰い”の父である怪物によって、瞬く間に崩壊してしまった。

 その栄光は過去のモノ。全て業火に消えてしまった。

 だが。元からいた数は馬鹿にできず。生き残りはいた。皇帝の麾下に入った者、そのまま反発した者、宙の果てへ逃げた者、虎視眈々と潜む者。中には魔物化して、自我を捨て去った者さえいた。

 で、あるならば。

 魔星商店連合こと商業組合、その影の支配者であるこの枯れ木、マリシャーはどんな男だったのか。

 答えは単純明快。

 全ての放棄だ。


「オレ様はなァ、貴族だったんじゃ……こんなんでもの、程よい地位で、美味いユメを啜れる毎日じゃった…」

「じゃがッ!オレ様のユメは、あの日……終わったッ!」

「服従ぅ?」

「叛逆ぅ?」

「抵抗ぉ?」

「イヤじゃイヤじゃ!」

「全部イヤじゃ!そんな苦行できっこない!無理じゃあ!だからオレ様は逃げた!追討部隊から逃げて、かつて共に居た同族からも逃げて、自由を選んだ!」

「その隠れ蓑がこの星!元々商人の才はあったんじゃよ!連中を上手いこと唆して、大きな商業組合を作り上げた!それも、千年続く大組織として!」

「そこから更に、オレ様は隠れたんじゃよぉ。表に立って目立っちゃあ、いかんじゃろう?」

「快適じゃったよ。なにせ、オレ様はなんの責任もなく、この星の底でユメを食らってるだけでよかったんじゃ!れ王制が変わっても、その生活は変わらんかった!」

「いや、逆に豊かになったの!なにせ、星々の距離が近くなったんじゃ。遠路はるばる、自分から餌が来てくれる。それも、数が増えたんじゃ。最高じゃろう!」

「……フェアリーと出会ったのは、その安定を手に入れてからじゃった」


 壁から、天井から、床から。至る所から生えた老人が、滔々と、自分を褒め称えるように、昇華するように、己の武勇伝を、その栄光を語る。

 その瞳に理性はなく。

 皆一様に、蒼い魔性の光に釣られて、浸され、奪われ、自白する。


「馴染みの商人がな。宇宙に漂う廃船を見つけたんじゃ。そこに乗っ取ったんが、ぬいぐるみのような、小さく愛い生き物じゃった……もうその時には、死んどったがのぉ。死んどったが、死後数年経った後でも原形を保ち、そして我が養分になれる、稀有な存在じゃった」

「ユメの力。今ではユメエネルギーと呼ぶんじゃったか。数ある養分の中でも、アレが一番好きじゃったんじゃ……あの喉越し、あの美味さ。他の養分と比較しようにも比較できんほど、アレは美味かった!」

「……そんな美味を宿した死骸が、フェアリーじゃった。正式な名前は知らんがのぉ。そう定義し、宇宙の何処かにいるであろう同族を探し求めた……普段は使わぬ権力を、フルに使ってのぉ。まったく、欲に手を出したわい」

「なにせ、啜るだけで幸せな気持ちになれるんじゃぁ……あの感動は忘れられん。他のモノに代替できん!」

「観賞用にもいいのぉ!死体も腐らんのは不思議じゃが」

「……同型の難破船を二つ見つけての、うち一隻には同種であろうフェアリーたちがいてのぉ。残念ながら、そこも死んどったんじゃが……まぁ、美味かった。結局何処から来た生き物なのか、わからずじまいじゃったが……それは本当に残念じゃった」

「なにせ、それ以降はずーっと、ずーっと!ここ三百年は逢えもせんかった!あのユメを啜りたいのに、啜れない。この絶望が、オマエさんらにわかるか!?」

「我慢したんじゃよ?我慢して、この星に来た有象無象の美味そうなヤツを見つけては、こっそりオレ様の樹の中に取り込んで、搾って……ユメの魔力を啜っとったんじゃ」

「それはそれで美味いからの。妥協したんじゃ」

「不本意じゃがの」


 惑星の養分、つまりはユメエネルギーを美食とする木。それがマリシャーだった。かつては星の数程あったのに、今や食べるのも七面倒臭いユメ。異星人の魔力からそれを啜り、舐め取り、養分にすることで喉を湿してきた。

 フェアリーなる生き物は、その最高峰。

 絶賛して、探し求めるぐらいには美味かった。そうして見つけられたのは、廃棄された無人の船と、亡骸を乗せた難破船だけだったが。

 彼らが何故、宇宙を漂流していたのか……いや、宇宙へ飛び出しのかはわからない。その疑問を解決することは、この男ではできないと、ラピスは無言で思う。

 そして、もう必要な情報はないなと結論付けて。

 魔力を指に宿した、その時。


「───じゃから、今日表層に迷い込んだフェアリーは、久しぶりの馳走で喜んだんじゃがのぉ。まんまと逃げられてしもうたわい」

「!」


 ニチャリと歪んだ笑みを浮かべて、心の底から、残念に思いながら。早く捕まえて、そのユメを幹に閉じ込めて、枝で突き刺して啜りたい。

 そう訴えるマリシャーは、もう我慢ならないとその身を震わせる。早く、早く、目の前の邪魔するユメを喰らい、もっと美味い馳走を得ねばならないと。

 だが。


「早く!早く!寄越せ!寄越せぇ!あのユメは、オレ様のなんじゃぁ〜っ!!」

「……バカだなぁ。ここまで来ると、いっそ哀れだよ」

「ね」


 動けない。

 動かない。

 その違和感に気付けぬまま、自らの首を、その枝で強く絞めていく。


「……あ゛?」


 ブチリッ。


 無数にあった木の分身、否、無数に別れた本体は、今。操られたまま、その頭脳体を木樹から落として。部屋中に枯れ木の頭が転がった。

 なにが起きているのかわからない。

 そんな表情で目を見開くマリシャーに、ライトは笑みを消して近付く。


「もう勝負は決まってるんだよ?おバカさん……ベラベラ喋らされてるの、違和感持てなかったのかな?」

「……? なにを、言っておる…オレ様は、オレ、様は」


 茫然と呟く老頭は、現実に気付いていないのか、胡乱に言葉を呟くのみ。

 その異常な光景には、最早溜息しか出てこない。


「弱くない?」

「洗脳で一発自白だからね。魔法耐性低かったんでしょ。木の癖に。雑魚のまま成り上がって、あぐらかいてたから楽で済んだよ」


 そう、お察しの通り───マリシャー・ジュピターは、既に負けていた。否、勝負が始まるよりも早く、彼が姿を見せた時点で、勝負は決まっていた。

 本体である古樹から伸ばした枝子を通して。そして地下通路全体に行き渡っていた魔力が、支えとなっていた木に染み込んで。

 あっさりとムーンラピスの支配下に落ちた古樹は、その意識を月に呑まれた。


 その結果が、先程の自白風景である。脳を読み取るのを気持ち悪がったラピスが、読み取った内容を話すのも面倒だと精神を操り、自分語りをさせたのだ。

 お陰で、ライトもこの老人の気味悪さを理解できた。

 ……最後、自分たちの相棒を狙っていたことには怒りが湧いたが。


「ぽふるん生きてる?」

「あいつの運の良さ、忘れた?多分言ってた通り、すごい偶然と豪運の連続で木の吸収から逃れてる。ていうか今は迷子になってる」

「なーんで迷子なのよ……エーテたちは?」

「多分君と一緒にいると思って、普通に買い物し……うわ宝くじ当ててやがる」

「なにやってんの?」


 もう動かない古樹を無視して、千里眼で身内観察を一度挟んでから、ラピスはマジカルステッキを変化させた銃剣を足元に向ける。

 その銃口に、蒼い光を灯して。


「地震に注意、なんてね」


───月魔法<サテライトビーム>


 一条の魔光が、地面を貫いて───この星の中心近く、古樹が根付く最下層までの穴を作る。土と木だけを器用に消し去って、他のモノには一切の傷をつけず。

 マリシャーを完全に殺す為に、2人は下へ降りる。


「うぉ〜!スリリング〜!」


 直立のまま、垂直落下の風に煽られる髪や帽子を抑え、縦穴を降りていく。抉れて焼け爛れた木の根や焼き焦げた黒い土の断面には目もくれず、真下の空洞を目指す。

 ……三分ほど、自由落下に身を任せて。

 ふわりと一度飛んで、2人は穴の底、マリシャーの社に辿り着く。


「……これは」

「うわぁ……」


 そこは、古い木の根が張り巡らされた地下空間。地面が生暖かいのは、マントルに近いからか、それとも……土を紅く染める液体が、まだ生暖かさを保っているからか。

 中央に聳える木の洞から生える意識のない顔の老人は、最早眼中にない。

 ただ。


───天井からぶら下がる、枝に串刺しにされて浮かぶ、無数の妖精たちの亡骸に、目を奪われる。

 今も尚、腐らず、吊り下げられた妖精たちを見やる。


「酷い…」

「……おかしいな」

「え?」


 死んでも尚尊厳を奪われ尽くされる、魔法少女の隣人に怒りを見せるライトだが。

 その真逆、ラピスは訝しむ目で亡骸を見上げる。


「妖精は死体を残さない。魔力の粒子になって消える……それが、地球の“夢の国”で生まれ育った妖精の、末路だ。末路の筈なんだけど……これは、一体」

「……確かに。なんで、残ってるんだろ?消えてないの、おかしい、ね?」


 正確には、星に還る───地球のユメエネルギーに器を溶かして、形を亡くし、魂ごと星の循環に飲まれて存在を消す。それが妖精の死だ。

 だが、この場の妖精たちは、眠るようにそこにいる。

 消えて無くならず、形を保ったまま、腐ることもなく、彼女たちの目に映っている。その異様な光景に、ラピスは数秒考え込む。


「地球の妖精じゃない?」

「……いいや。こいつらは間違いなく地球生まれだ」

「……疑うわけじゃないけど、その根拠は?」

「見ればわかる。そもそも、地球でも偶に死体は残った。時間が経ったら星に還ったけど……時間差はある。それも個体差。高位な妖精であればあるほど、亡骸が星の表層に残る時間が増える」

「ぽふるんは中位だっけ。普通だね」

「普通なんだよ」


 運良く……いや、運悪く死体が残った妖精を解剖して、調べ終わったら綺麗にして、星へ還していたラピスだからこそわかる、地球産の妖精である、その証明。

 それは魔力の痕。残滓。地球由来の妖精たちと同じ……地球のユメエネルギー由来の魔力を、その身に宿していたから。


 かといって、この場にいる妖精たちが、高位であるかと聞かれれば、そうではない。

 大半が下位中位の、普通の妖精たちばかりだ。

 だと言うのに原形を保って、木の養分となったことには違和感しかない。


 暫く2人で頭を捻って、悩んで……ライトが閃く。


「……ここが地球の外だから、還れなくて、残った?」


 その可能性に思い当たった瞬間、ゾッとした。なにせ、帰れてないのだ。マリシャーの語りを信じるなら、三百年以上宇宙を彷徨っていることになる。

 かつて、ぽふるんは語っていた。

 妖精にとって、“死”とは───地球という揺籃の一部に成ることだと。


 地球のユメと共に生きる彼らは、地球と共に生き、その愛すべき故郷に還らなければならない。

 それが妖精の理だ。妖精たちの当たり前なのだ。

 故に。


 妖精は、地球の外で命を落とせば───星に還ることができず、死体を残してしまう。

 普通の死体のように、その痕跡を残してしまうのだ。


「……恐らく、彼らは【悪夢】から逃れる為に、宇宙へと飛び立った……夢の国からの渡航者だったんだと、思う。本格的な悪夢の躍動は、十年ちょっと前。人間界に攻撃を始めたのが、七年ぐらい前……それまでの数百年以上も、悪夢の脅威には晒されてたんだと思う」

「危機感を持った一部が、宇宙に逃げて……でも、なんで死んじゃったの?外傷は枝以外にないっぽいけど…」

「さぁ?」


 夢の国が二つに分かたれ、悪夢の国が生まれ、国の中で悪夢が熟成され。国と国の境界線、異界同士を隔てる壁を浸透して、夢の国へと流れ込む悪夢を防ぐこと数千年。

 ゆっくりと時間をかけて、悪夢は妖精たちを蝕み。

 リデル・アリスメアーという女王の完成と、組織立った悪夢の完成によって、遂に猛威を振ることとなったが……

 それまでの間に、宇宙へと逃げた妖精たちがいたのだ。

 最早、それを証明する手段はない。文献は燃え、伝聞も途絶えて、後世に宇宙渡航があった事実を伝えることは、できなくなった。

 だが……かつて、妖精たちの一部が、真の安寧を求めて地球を飛び出たのは……事実だ。

 その末路を、垣間見る。


「……私が見た夢って、もしかして」

「多分、そういう電波を受信したんじゃないの?だって、君は妖精女王なんだ。そういう力があっても、おかしくはない」


 獅子宮を出る前に夢で見た、あの景色と歌声。

 そのルーツは、ここ。最早妖精たちに意思はない。夢を見せる力もない……だが、リリーライトは新たな妖精女王である。妖精たちの統率者に、妖精の思念を受け取る力があると推測すれば、なんとなくでも理解できなくもない。

 ずっと助けを待たれていた。

 その事実に、ライトはほんの少し顔を伏せて……決意を深める。


「……連れて帰らないとね」

「……いや、その必要はない」

「えっ?」


 徐ろに、ラピスは前を歩いて。項垂れるマリシャーへと魔力を飛ばす。


「空間を繋げる───先に還そう。地球に直接、残骸でもいいなら、送ってやる」

「……魔力、貸すね。必要でしょ」

「……後始末のことを考えれば、まぁ。そうだね。有難く貰っておくよ」

「返してね?」

「嫌だが?」


 マリシャーを操って、妖精の亡骸から枝を引き抜く。


 するりと抜けた妖精たちが、地面に落下するが……紅い地面に落ちる前に、ラピスの魔力で宙に浮かぶ。ぷかぷかゆらゆら、亡くなった妖精たちをやさしく浮かべながら、ラピスは門を開く。

 中心の古樹を抉るように、空間に亀裂を開いて。

 現れた穴を覗く。


 星と星とを繋げる大偉業───以前見た「星の回廊」をモチーフに作り上げた空間接続によって、死が積み重なる瓦礫の山、地球の異界と繋げる。

 そこは彼らの故郷。

 彼らが還るべき国。


「……夢の国の跡地と繋げた。後は、あっちに送れば…」

「……還れるんだね」

「うん。そういうこと……ぽふるんには、教えなくても、いいよね?」


 その問い掛けに、ラピスは暫く考えて。かつての相棒が傷付く姿を想像して。

 僅かに息を飲む。


「……あいつは、今を、未来だけを見ていればいい。過去なんざを顧みる必要はない」

「……それもそっか」


 悲しみを込めて。

 ラピスの指揮の元、妖精たちの亡骸が穴を潜っていき。星と星との境界線を超えた瞬間、その存在を、光の粒子へ変えていく。


 その光景に、ライトは見蕩れて。

 ラピスは、珍しくも。彼らの最期を悼むように、ジッと見つめて。


────!


 その時。声が聴こえた。


「!」

「……今のって」


 光の粒子に乗って、ふわふわとした温かい声が、耳朶にやさしく響く。


───ありがとう。

───ありがとう!

───ただいま!

───ただいま!

───〜!!

───!

───!


 それは、音にならない妖精の声。帰りを喜び、故郷への帰還を祝する声。守るべき星、捨ててしまった星、いつか帰るべきだとわかっていながら、少しでも生き残りを後世に残す為に、星から星へ、安住の地を求めて旅立った。

 ……結局、その果ては破滅だったけれど。

 最後まで希望を夢見て、彼らは宙を旅し……長い年月をかけて、帰ってきた。

 還ってこれた。


 やがて、光は収まり。

 星と星とを繋ぐ、穴は閉じていき───夢の国へと皆が還ったのを、その目で見届けた。


 そこで、力が抜けたのか。ラピスが片膝をつく。


「っ…」

「! ラピちゃん!」

「大丈夫。流石に、星と星とを繋げるのは……疲れるね。結構持ってかれたよ」


 魔力量自体に問題はないな、一気に抜け出たのがかなり効いたらしい。ライトに肩を借りて、深呼吸を挟み、すぐに復帰する。


「ありがと……さて、それじゃあ……ド派手に、後片付けでもしようか」

「そうだねぇ。新しい女王として、片付けなきゃね」

「星ごと滅ぼしちゃう?」

「それはダメ」


 もう動けない木人を見下ろして、最強の魔法少女たちが裁きを下す。


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