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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
マギアガールズ銀河紀行 -古の夢啜り-

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222/296

208-わるいヤツらをシャッフルシャッフル!

支援イラストをいただきました。

拙作の応援ありがとうございます!

今後ともよろしくお願いします!


https://x.com/suijaku01/status/1965410305519104213?t=gX3nkw76h_RlojpEoxPfew&s=19


コピペでご覧下さい。イケメンな蒼月のラフを見ることができます。


 妖精らしき存在の亡骸───それは、レオードが異邦、地球の戦士について知って、魔法少女を知り、妖精という導き手を知り、悪夢との戦いを知った後。

 ふと、彼は思い出した。

 交易惑星都市の地下深部に、小さな生き物の死骸───暗黒銀河及びその周辺宙域では観測できていない、未知の生き物をコレクションしている存在がいるとの情報を。

 正体不明。

 眉唾物の噂としか認識していなかったが……それなりに歴史に詳しいと自負しているレオードさえ知らなかった、妖精という存在。もしかすれば、その亡骸というのは……といった結論に至り、その内容を横流しした。

 真偽は不明だ。確信もない。

 だが───ぬいぐるみのような見た目の生き物と聴き、地球の夢の守り人の存在を、かの獅子が、魔法少女たちが想像しないわけがなかった。

 故に。


「暗い臭いジメジメしてる!最悪の三コンボだよ!なんでこんなヤバいとこで生活できるのかなー!?」

「慣れとか適応とか、妥協でしょ。よくあることじゃん」

「よくあってほしくなーい!」

「静かに」

「うっす」


 たった2人、他の仲間には一言も告げずに、その真偽を確かめにやってきた。

 薄暗く、カンテラを片手に歩かなければ道も見えない。そんな地下通路。道の両端にはボロボロな布や柱でできた露店が並び、非合法な売り物、奴隷、その他諸々を濁った声でやり取りしている。

 正面からすれ違う異星人も、追い抜いてくる背中にすら気にも留めない。

 真っ直ぐ、下を目指す。

 人のいない方へ、いない方へ。気配の薄い、より深みの暗闇へ。


「目印ないけど、わかるの?道」

「いや?でもこういうのは、下にあるのが相場だから」

「で〜た〜よ、行き当たりばったり!」

「あぁ、君の専売特許だっけ。奪ってごめん。終わったらちゃんと返すよ」

「不愉快」


 宛もなく、強いて言うなら直感で、地下迷宮をひたすら歩いて、下っていく。探知魔法や地図魔法といった、楽なマッピングが何故かできないのは、地下の魔力がそれらの作用を邪魔しているから。面倒と思いながら、自らの足でその答えを見つけるしかない。

 道中危険な匂いのする異星人とすれ違ったり、如何にもヤバそうな呪物を取り扱う露店を見つけたりしたが、一々ツッコンでいては命が足りない。

 ……まぁ、仮にここの2人が暴れ出した瞬間、塵に帰す程度の脅威度しかないのだが。

 比較対象にはならない。


 地下迷宮と化したブラックマーケットは、道が途切れることはない。全ての道が繋がっていて、道中の出っ張りに小さな袋小路がある程度。そこも大抵ゴミや遺品が小山を形成しているぐらいだ。他に目立つモノとすれば、ナニカ大きな樹木が支えになってでもいるのか、太い根が通路の全体に露出しており、地下通路……迷宮、または地下街と言っても過言では無い空間の全てを繋げている。

 そう、全て繋がっている。

 魔力の流れというモノから、空間マッピングに成功したラピスは、地下迷宮が上も下も綺麗に繋がっていて、足を進めているだけでは堂々巡りであることを知る。

 手から放出した月の魔力、その穂先が自分たちの方へと帰ってきたことで、確信を得る。

 闇雲に探していては、その妖精らしき“商品”を見つけることはできないと。


「……隠し通路か」

「うーん、何処も隠し通路っぽかったけど。梯子とか動く本棚とか傾斜とか、普通に道中あったけど……これもまだ序の口だってこと?」

「だろうね。まったく……余程隠れるのが得意のようだ」

「引きこもりぼっちの可能性は」

「死体コレクターなんて隠れるもんでしょ。それも小さい生き物限定。絶対キモがられてる」

「確かにぃ!」


 偏見はやめよう。

 だが、少女たちはふざけてなどいない。いつもと違い、その瞳は真剣味を帯びていた。もし噂が本当であれば……レオードの推測が正しかったのならば。

 どんな理由であろうと関係なく、強制捜査・家宅捜査・略式死刑のフルコンボである。

 起訴とか猶予とかはない。

 そう事を急かすぐらいには、ラピスはこの件に微々たる怒りを抱いている。妖精という存在を、彼女はそれなりに好いているから。


 故に。


「グッ、ァ…」

「……ハズレか。役に立たん」

「……やってることまんま悪人じゃん。少しは正そ?もう悪役じゃないんだし」

「知らね」


 如何にもな風貌の商人の頭を掴んで、記憶を読み取る。だが、そこにはめぼしい情報はなく……魔法によって自白を促してみれば、件のコレクター、蒐集家の存在ぐらいは知っているが、何処を拠点にしているのかは誰も知らないらしい。

 いつの間にか現れて、いつの間にか消えている。

 ……商人間の噂では、壁や床をすり抜けるように消える後ろ姿を見たことがあるとかないとか、眉唾だが、そんな話があることはわかったが。

 ラピスの求めた、何処にいるのかを正確に知るモノではなかった。


「ふーん……でも、その噂って結構重要じゃない?多分、本当にすり抜けてるんじゃない?」

「……物質透過か、空間か、はたまた、ってとこか」


 泡を吹いて気絶する男の頭から手を離して、防音結界に守られた空間から出る。目覚められても問題はない。既に記憶処理は済ませた。尋問の記憶など覚えてやいない。

 ちなみにこの男、酒に酔っ払って通りすがったライトに一目惚れ。そのまま「セクハラ」に移行しようとしたのをラピスに絞められてこうだ。

 自業自得である。


 誰にも気付かれない、幽霊のような空気感で歩く2人の歩みは淀みなく。


「なら、手段は一つだ───僕らも、手当り次第に空間をめちゃくちゃにするだけのこと」

「そうだね、その通りだ。……うん?めちゃくちゃ?」

「行きます」

「説明ッ!」


 一瞬納得しかけたが、めちゃくちゃにするとは何事かと問い掛ける隙もなく。

 問答無用で、ラピスはそこら辺の壁に手を添えて。


「空間魔法───<スライドパズル・乱>」


 地下通路全体を漂わせていた魔力に信号を放ち、迷宮を勝手に区画分けして。シャッフルするように、その区画を入れ替える。今まで繋がっていた通路がめちゃくちゃの、規則性のない真の迷宮へと組み変わっていく。

 それは、土の中に埋まった部屋も、隠された小部屋も、廃棄された部屋も、忘れ去られた部屋も。

 全てをひっちゃかめっちゃかに、自由自在に。

 ラピスとライトのいる区画を残して、全ての地下通路が混沌と化す。


「うわぁーっ!?」

「ひっ、なっ、なんっ、なんだ!?」

「あぁ!?俺の品がっ!?」

「助けてくれー!!」

「きゃー!?」


 ぐちゃぐちゃに入れ替わる空間に、商人が、客が、裏の住人たちが泣き叫ぶ。商品は地面を転がり、潰れ、割れ、中には人同士で倒れ合う。

 嵐の中のような空間の入れ替えに、傍で見ているだけのライトは冷や汗をかく。流石に目が回る。あっちに立ってなくてよかったと、安心する。

 だが。


「……ラピちゃん、変な気配」


 その騒動に充てられたのか。唯一動いていない、無事な区画を見つけた安心からか。

 ぬるりと音を立てて。


───壁から、手が生えてくる。


 木が生える。

 人が生える。

 大きな樹木が壁から生えて、その木から更に人の右腕が生えてくる。


「な、なんじゃあいきなり……ぐるぐる視界が…うえっ、気持ち悪いのぉ……いやしかし、これで安泰。無事な所を見つけたオレ様は勝ち組なのよヒョッヒョッヒョッ!」

「ごきげんよう、死ね」

「えっ?」


 あまりにも長い白髪に、大量の白髭を蓄えたその老人。枯れ木のような風貌で、白い布を身体に纏っているだけの不潔な異星人に、ラピスが容赦なく引き金を引いた。

 頭が吹き飛んだ。


 だが、飛び散ったのは血肉ではなく、枯れ木の木片。


 首の断面もまた樹木のようになっていて、裂けた木目がよく見える。そんな異様な光景を見ても、魔法少女たちは動揺しやしない。それどころか、ジッと首無しを見つめ、次の動きを待っている始末。

 だが、それほど待たずに済む。

 何故ならば、すぐに弾痕から新たな顔が生え、先と同じ老人が現れたのだから。


「っ、ぐぅ……なん、なんじゃあ!?なんじゃいきなり、なんなんじゃオマエさんらァ!」

「顔を生やすな」


 困惑から怒りへ、自身の頭を撃ち抜いた下手人に、汚く喚き散らすが……

 意を介さないラピスが、魔法を使う。


「無力化魔法」

「へっ、ぇ───…、…」

「あーあ。それズルじゃない?」

「正道だろ」


 無力化魔法───“無冠”のニュートクラウンの魔法。

 灰色に光った右手を、木人に翳せば。男は敵意を失い、逆らう術を失い、力を失い、木と同化する力を失い、その意識を飛ばされた。

 完封である。


「こいつがそうなの?」


 壁からズレ落ちて、床に転がる木製の老人を、ライトは遠巻きに眺める。身体から生えた枝などから、そういった種族であることは明白だが。

 そして、この木人こそが───噂の出処。突然現れては突然消える、妖精死体蒐集家疑惑の老人である。

 あまりにも弱いその男を、ラピスは蔑んだ目で睨む。

 期待外れの木人を足蹴にしながら、その頭部から記憶を読み取ろうとして。


ゴゴゴ───…


 まだ、終わらない。


「……はァ」


 もう空間魔法は解いてある。だが、振動は止まらない。

 ひっちゃかめっちゃかになったまま放置された迷宮に、新たな激震が走る。その振動は、何事もなく賑わっていた地上部にまで届く始末。そんなこと、ラピスたちには関係ないことだが。

 伸ばした手を戻して、溜息を吐いてから。揺れる部屋でバランスを崩さないラピスは、動けない木人を躊躇いなく焼き尽くす。

 パチパチと獄炎に焼かれる音をBGMに、ライトは静かに周囲を睨みつける。何故なら、部屋の亀裂から、隙間からたくさんの木が生えてきているから。

 無数に枝分かれして、部屋を覆っていく。

 葉は生えてこないが……その分、異星由来の木の密度は増えていく。


「───まったく、枝を広げるのに時間がかかったわい。ここまで地下街をぐちゃぐちゃにするとは……怖いのぉ、恐ろしいのぉ、気色悪いのぉ…」

「オレ様の“枝子”を燃やすなんぞ、酷いのぉ」

「心がないのかえ?オマエぇ」

「ククッ、じゃが…美味そうじゃなぁ、そのユメの力……欲しいのぉ!」


 そして───たくさんの声と共に、嗄れた老人が無数に生えてきた。その顔は愉悦に満ちており、異口同音の声が部屋の中を反響する。

 その異様さに、ライトは警戒から聖剣に手を添える。

 対してラピスは───相も変わらずの無表情で、樹海を睥睨する。


「うるさいな…」


 のこのこと自分から現れたくれたことを嘲りながら。


「単刀直入に聞こう。オマエ、こんなぬいぐるみみたいな生き物について、知っているか?」

「……おん?なんじゃなんじゃぁ?」


 取り敢えず情報収集と、ぽふるん……ではなく、過去に他の魔法少女と契約していたうさぎの妖精の写真を木人に見せてやる。

 その写真を、マジマジと眺める木人たちの姿は、何処かシュールだった。

 そして。


「おぉ、おぉ!フェアリーか!かわいいのぉ!おっと……知っとるぞ、勿論!ユメの力が美味しくてのぉ!死体でも啜るのが美味いんじゃよ!」

「へぇ、そうなんだ。殺さない理由がなくなったよ」

「同感だね」

「おん?」


 確定した。

 その瞬間。


 蒼い魔力の輝きが、殺意の奔流が、ムーンラピスの力が空間を支配する。同時に、リリーライトも魔力をオーラに噴き出して、木人たちを威圧する。

 その圧に木々は震え、回答した老人は冷や汗を垂らす。

 目の前にいる2人の女が、どれだけヤバい存在なのか、本能で理解する。


 だが。


「なにがなんだかわからんが……目の前に、久々の馳走を用意されて!食わぬ愚か者がいるわけなかろうて!さぁ、オレ様の糧となれ!ユメの力は、全部オレ様のじゃぁ!」

「“星喰い”とはまた違ったユメ大好き野郎じゃん」

「厄介なのは変わらないし、キモいし……さっさと倒して移動しよう」

「ね」


 逃げることも引くこともせず。

 久々の美味そうな餌を見つけて、地下空間に潜む古樹は大きく嗤う。


「ヒェハハハハ!メシじゃメシじゃあ!なァ、食わせろ!ユメの力ァ!!」


───魔星商店連合・影の支配者

 “夢啜る古樹” マリシャー・ジュピター


 この星に降り立ち、根付き、潜み、商人たちを集めて、やってきた芳醇な魔力の持ち主を密かに攫っては食い物にする、おぞましき千年樹。

 かつて地球に降り立ち、呪いの炎に焼かれた個体よりも遥かに長い歳を生きた怪物が、今。


 魔法少女の制裁を食らう。


あっ察し

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― 新着の感想 ―
あっ、察し(デジャヴ)
完成度が違うせいかもしれませんが、目線から見ると、第46話の「ナハト・セレナーデ」と重い使命を背負った蒼月の姿の「暗い目つき」のように感じます。 推測が間違っているかもしれないが、その自信に満ちた笑…
かっこいいイラスト 完成する瞬間を楽しみにしています
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