205-地球=特異個体の闇鍋会場説
小さな星々の輝きの隙間を通り、岩石を魔法で避けて、夢奏列車は前進する。
その車内で、幾度目かのミーティングが開かれる。
「今回の航路は以下の通り。暗黒銀河最大のマーケットがある、土地全てがお店という商業特化の惑星、“スターリーマーケット”。主に武器工場として稼働する惑星、“ネオ・エネルギープラント”。神が住まうと云われる、宇宙宗教の総本山、“アルタードーム”。湯治にいい惑星型の温泉宿、“プラネット・ラグーン”。僕たちに馴染み深い悪夢を探る悪夢研究所、“コシュマール”。その他諸々。だいたいこの五つは巡りたいよね!って気持ち。あ、あと他にも将星の拠点潰したりもしたいなーってのが、異星革命軍の準備が終わるまでの暇潰し、です。暇潰しで引っ掻き回します」
「旅行客に見せかけたテロリストじゃん。破壊しまくって批判殺到はやだよ?」
「大丈夫大丈夫。壊すのは工場と研究所だけだから」
「……武器は在庫処分しかできなくなって、悪夢の研究はできなくしちゃうと」
「なんなら奪うまであるよね」
「最低だ…」
主に五つの主要な星を巡って、観光と略奪と破壊からの飛んで火に入る夏の虫こと将星討伐を成し遂げる。それがこの旅の目的だ。
極黒恒星、もといニフラクトゥの帝都には、同盟総出で突っ込むから、まだ行かない。
……今更ながらノワの安否が心配だが。
あいつのことだ。きっとうまくやってるだろう。便りがないのは元気な証拠っていうし。ダメージを負ってるなら感知できるけど、なんもないってことは、ノーダメージで無事と判断していい。若しくは、その繋がりすら絶たれているかも、だけど。
そうだったら知らん。もうなんとかなれーっ!の精神で行くしかない。
商業都市、工場、宗教本山、温泉施設、研究所……全部僕が興味を持った場所だ。暗黒銀河っていうか、宇宙でのあれこれを知りたい気持ちもあるからだけど。
宗教とかはモロにそう。実はあんま詳しくない。
でも、行く価値はある。
……流石に宗教の総本山をぶっ壊しはしないけど。それやったら敵増えるだけじゃん。倫理的にもアウトかなって思って。
約一名、天使サマが異端だ!とか言ってぶち壊さないか心配だけど。
「しないよ?」
「信仰心が足りねーなぁおい」
「……やってあげようか?」
「冗談冗談!本気にすんなって!ね!ほら!その重力球はナイナイしようぜ」
「ガチ焦りで草」
「そりゃ顔面に突きつけられたら誰だって怖いよ。対処ができるからって、ねぇ?」
「確かに」
失言でした。おかしいな。口には出してないんだけど。なに、最近は読心が流行りなの?
……顔に出てる?ポーカーフェイスは得意なんだが…
まぁいい。
「アリエス、カリプス。五つの候補地に行ったことある?あるんなら所感を教えてほしい」
「う、うーんと、アルタードーム以外は……その、魔法の関係で研究所に招待されたことが、何度か」
「警戒心もなく、その度に実験台にされかけてるバカ妹を連れ戻す為に、何度か。無宗教だからそこには行って……いや、最初は観光に行こうとしたんだが、呪いの関係上、観光会社のヤツに止められたんだったか」
「他四つはあるんだね」
「有名所だしな」
成程ねぇ……取り敢えずアリエスは危機感を持った方がいいね。ホイホイついてってんじゃないのよ……危なさは当時から変わってないのね。
ちゃんと監督しなきゃ……悪夢のせいで不安定なのも、まだ完治してないんだし。
そこら辺、僕がちゃんとやんないと。
カリプスっていう保護者が増えたとはいえ、不安はまだ残るし。
「何時間ぐらいで付くの?」
「スターリーマーケットまでは三時間」
「遠いねぇ……でも、星の距離を考えると近いのか」
「……そこは“星喰い”様様だね。あいつが星同士の距離を近付けてくれたお陰だよ」
「おぉ〜。ありがたやー」
「冗談でもやめて。吐き気がする……いいのか?あいつの仲間認定して吊し上げるぞ」
「殺意の出力高くない?」
裏切り者やん?
とはいえ三時間。移動距離としては長いが、時間換算で見ればすぐに着く距離だ。獅子宮から三時間だから、あと二時間半ぐらい、かな?
遊んで待ってればすぐだよ。
仮眠も可。
「寝るんですか?寝るんですね?」
「圧が強いなこの枕…」
「……私も寝るから。一緒に寝るからね。独り占めなんてさせないから」
「「邪魔」」
「ねぇ」
段々我の強くなってきたアリエスと、喚くほーちゃんを押さえ付ける。アリエスは兎も角、オマエとは寝たくない気持ち。わかる?わかれよ。
まったく。仮眠ぐらいには丁度いいかもだけど。
……アリエスの髪枕だと、熟睡しそうで怖いんだよな。そん時は起こしてもらえばいいか。
いいよ、寝よう。
「騒ぎは起こすなよ。いいな。僕が動かなきゃいけない〜なんて事態は引き起こすなよ?」
「少しぐらい私たちを信じてくれてもいいんだよ?」
「過去を振り返ってみろ」
「……優秀だなぁ、私たち」
「お姉さんからの理不尽も乗り越えて、ここに立ってるのすごくない?」
「もういい」
自己肯定感爆上げ過ぎだ。否定できないのが悔しいが、これ以上はだいたい僕が悪いで責められるのが確定なので口を塞がせる。
あー言ったらこー言うんだから。
一体誰の影響を受けたわけ?僕とほーちゃん?それなら仕方ないか…
この後寝台列車でめちゃくちゃ寝た。寝心地は変わらずよかった。
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ギュオオオオォォォ───ッ!!!
宙駆ける夢の列車───魔法少女の箱舟が、目的地へと前進する、その宇宙道中を。邪魔するモノがいないのかと聞かれれば、そんなことはなく。
星々の隙間を縫うように、魔力に釣られて飛来する。
「うん?襲撃?」
「えぇ、場所バレたの?めんど……いや、違くね?なんか宇宙船じゃなさそうだよ」
「……野生の宇宙怪獣だぁ〜」
「初遭遇じゃん」
「何気にね」
車窓から覗く怪物の群れ───巨体の飛翔物体四つに、ポーカーやゲームで遊んでいた魔法少女たちは、億劫そうな顔をしてから、誰がやる?と顔を見合わせる。
今、四列目の寝台に主力戦力最強たちが寝ている。
ついでにリデルとチェルシーも寝ている。いつもの。
万が一彼女たちを起こせば、どんな理由であれ大目玉を食らうのは言うまでもない。
故に。
「静かに戦える人」
「うーん、アイドルだから無理」
「ミサイルブッパは騒音どころじゃないぜ」
「重力加圧で、なんとか…?」
「呪いは静かだよ。死に様は煩いけど」
「汽車ポッポはうるさくないのです!」
「うるさいよ」
「うるさいねぇ」
「残念」
「えー」
結果として、エスト・ブランジェ、マレディフルーフ、リリーエーテ、ブルーコメット、ハニーデイズ、三銃士の男たち、そしてカリプスが出陣することに決まった。
自分から率先して参戦を表明したのだ。
過剰戦力にも等しいが、宇宙怪獣という地球人にとって未知が多い敵。あまり音を出さずに戦える戦力は、多いに越したことはない。
……流石に無音戦闘は難しいが、虎の尾を踏みたくないなら頑張るしかない。身内の方が危険度が高いのは、今更言うまでもない。
頭おかしい(褒め言葉)。
「頼りにしてるぜ?プロの狩人さんよォ」
「別に言う程じゃないんだが……折角乗りかかった船だ。ちゃんと貢献するさ」
「おー!頼りになるぅ〜!」
「よせ」
男同士の友情を深める傍ら、選出された魔法少女たちは列車の上に乗る。暗い海を突き進む夢奏列車は、迫り来る脅威など気にしない。代わりに警戒する魔法少女たちは、横合いからこちらへ飛翔する敵を見据える。
その距離は、徐々に徐々に近付いていって。
その全容を捉える。
「……あれって」
見覚えがあった。
戦った経験があった。
記録があった。
今も尚、記憶に新しい魔法少女とアリスメアーの第二次最終決戦……またの名を、人外魔境悪夢決戦。その最中、悪夢を極めた魔王によって顕現し、一時ながら魔法少女の希望を足止めした、悪夢の怪竜。
否、その大元は、【悪夢】でもなんでもなく───この無窮の暗き宙に住まう、とある怪種。悪夢蔓延る地球へと降り立ち、適応し、悪夢の国の“理性ある”怪人となった、生きる災害。
その名を。
「コーカスドムス…!?」
旧・アリスメアー三銃士、“壊夢”の名を冠する、人型のフラミンゴ。災害魔法という局所的な大災害をランダムに引き起こす魔法を有していたかの獣の正体は、宇宙由来のワイバーン。悪夢との同調、地球環境との適応で、何故かフラミンゴの頭部を持つ怪人となった、本当の特異個体。
ニフラクトゥやムーンラピスなどよりも前に生まれた、宇宙のバグの一つ。
またの名を、“怪竜壊夢”コーカスドムス───虫の王と違って、完全に悪夢に染まりながらも、獣としての自我を保っていた、理性ある怪人。
その同種が迫っていた。
「家族さんかな!?」
「お子さんかもしれない」
「うーん、禍々しい…」
「……あん?あー、ありゃディープワイバーンの亜種か。そういやチキュウにもいたんだったか。ったく、知能高い種類だとは聞いてたが、なんで適応してたんだか…」
「種族名あったんだ」
「そりゃあるだろ」
黒色の鱗のワイバーン、ディープの名を冠する怪獣が、四体牙を剥く。
作中で
コーカスドムス
コーカスドムズ
の表記揺れが多々あることに気付きました(8/31時点)
悩みに悩んだ末、初期に合わせて“ス”表記に統一します。漏れがあればお願い致します。




