204-夢往く誰か、星の微睡み
別名、星巡り編
船が往く。
宙を翔ぶ。
星を唄う。
天を仰ぐ。
夢を見る。
───さぁ、前を向いて!
───みんなと一緒に、旅に出よう!
───ようこそ、新天地へ!
星々の大海原を掻き分けて、希望を夢見て、尊き明日を目指して、船は往く。
たった三隻の夢見鳥。夢の守り人を乗せた箱舟。
その希望が行く先は、天国か地獄か。宙の果てを目指す彼らは、怯える心に蓋をして、楽しく歌を歌いながら宙を進む。
───歌を歌おう!
───幸せな夢を見よう!明日を目指そう!
───怖い夢なんて、もうへっちゃら!
───でも、忘れちゃダメ。
───いつか必ず、ぼく達は帰ってくる。
───その日まで。
───その日まで。
───その日まで。
それは、いつの日かの記憶。故郷を見捨てて、少しでも可能性のある未来を手に取る為に。宙を仰ぎ、その果てへ舵を進める誰かの歌。
いつの日か、必ず帰ってくると。星に還ると誓った……小さな彼らの物語。
怖くて、寂しくて、苦しくて───どうしようもない、そんな【悪夢】から逃げるように。
安寧を求めて故郷を飛び出した、彼らの結末は。
誰にもわからない。
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「天の川?なんですかそれ」
「うーん、そうだなぁ……地上から観測できる、雲の形の光の帯だよ。夜空がある星で見たことない?」
「えーと……あっ!アルボス樹海林で見た、おっきい河!多分見たことあります!ほら、ナシラ!キャンプする時に見たでしょ!?」
「肯定。絶景秘所!」
「うんうん」
やぁ、僕だよ。
暗黒銀河を移動中、同行することになった少女2人が、地球という星についての更なる知見を求めた為、こうして教えている。2人とも飲み込みが早いから、今は僕たちの故郷の銀河形態について説明中だ。
ダビーもナシラも、知りたいことがいっぱいでいいね。
天の川って、昔はただ星がいっぱい密集してるとこって認識しかなかったけど、月魔法を発現して、月についての調べ事をしていくウチに、あれが銀河系の渦のとこだって知ってびっくりしたんだよね。
懐かしい。天の川銀河って呼称を知ったのもそこでだ。
……太陽系について調べるよりも先に、暗黒銀河なんて遠くまで来ちゃったのか。随分と、遠くまで来たもんだ。一人じゃなくてよかった。
「太陽系……形、綺麗!」
「本当にそうですね!暗黒銀河は整頓されてるようで大分混沌としてるので……主要な惑星だけでも、ここまで円になってないです。ちょっと羨ましい?」
「そっちは人工だしなぁ。まぁ、こっちも神の御業で円になってるだけかもだけどね」
「! カミサマ!」
「お?」
思わぬところに食いついたな。んー、神話体系はあんま得意じゃないんだけど……宗教系だったらブランジェ先輩に任せるべきか?いやでもあの人、信仰とかメインか。
……あー、懐かしいな。巨神兵型アクゥームみたいな、神話由来の敵と戦った過去が思い出される。
月落としてぶっ壊したけど。
あっ、流石にあの時のは本物じゃないよ?魔法で作った月に決まってるじゃん?
またやりてー。
「いっぱいいますね!」
「んー、こんな、に、いらない?」
「国とか地方全部含めたら、もう学者さんとか物好き以外わかんないぐらいいるからね〜。日本なんかでも八百万、たーっくさんの神様がいるってぐらいだし」
「はっぴゃくまん!?」
「多い。いらない!」
「ハハハ」
わかる。
否定するつもりはないけど、もうちょい自嘲しろって。別に八百万の数だけいるってわけじゃなくて、これぐらいたくさんいるよって意味だけど。
多すぎだよねぇ。日本って魔改造精神が異常だってよく言われるけど、それ以外にもおかしいところいっぱいな国だからなぁ。
「───で、ここに。八百万一番目のカミサマになろうと画策してる悪いお月様がいるわけでして」
「あっ、オーロラモドキ太陽さん!」
「何しに来やがった。ここはオマエの来ていいところじゃないぞ」
勉強机に邪魔者がやってきた。なにをしにきた。そんですごい言われようだな。うん……あんまりな呼び名に顎を外してるけど、多分、そう思われても仕方ないよ?
極光の意味知ってる?広義的にはオーロラなんだけど。
魔法少女的な意味では、この世の全ての光を解放する、極めた光って意味合いの異名だけど、初見じゃなんで太陽なんだこいつってなるよね。
んまぁ、僕と対になる魔法少女ってことで、太陽呼びが定着しちゃったしね。
今更だよね。
「泣いちゃった…」
「勝手に泣いてろ。それで?一体誰が悪いお月様だって?僕以上に人類のことを考えてた人間はいないだろ。なにを言ってるんだオマエは」
「その出力結果が悪夢移住なの、普通にヤバいからね?」
「なんでだよ。いいだろディストピア。かっこいい響きで好きだよ」
「響きで決めないで?盛大な人類の危機、てか地球放棄の計画だったじゃん」
「ユメ、あるでしょ?」
「ないよ」
全否定やめろください。
それより、神様になるって言ったけど、あれ大王様より強い存在になるっていう意味合いの方が大きいし……まぁ二代目“夢貌の災神”になる夢は叶えたいけど。
取り敢えずリデルを完全無力化して、マジのマスコットキャラクターにしたいし。
今も弱体化してるけど、普通に警戒してるからね?
万が一あいつが全盛期に戻って、調子に乗ってこっちに牙剥いてきたら面倒でしょ?味方になってるけど、一応は注視してるんだよ、こっちも。信用してるし、ある意味の信頼もしてるけどさ。それはそれ、これはこれで、二度とラスボスできないように細工はしていく予定だ。
だから僕が災神になるわけ。
……前にこいつと言い争った時みたいに、悪夢に意識を呑まれないようにしなきゃなのも、並行して対策していく所存である。
「あっ、そうだ。ラピちゃんに用があってきたんだよね。ちょっとお時間貰える?」
「えぇー、いいよ。場所変える?」
「ん〜、できれば?」
「ハッキリ言えや…」
悩んでる?
決めあぐねている?まぁなんでもいい。そう言うんなら場所を移そう。ダビーとナシラにはカリプスたちの方へと行ってもらい、僕らは反対車両……八両目の物置き車両へ移動する。
ここなら内緒話に持ってこいだ。盗聴器の類いもない。
というか置けない。だって物の配置を僕が全部記憶してるから。魔法で隠そうにも気付けちゃうし。万が一ここに潜まれても、すぐに見つけ出せる自信がある。
なんて妄想は置いといて。
「それで?」
「実はさぁ、夢見っちゃって」
「夢ぇ?そんなん誰だって見るだろ」
「それがさぁ、結構不思議で……起きても鮮明に覚えてる夢って、おかしくない?」
「……確かに」
魔法云々があれば別だけど、反応的にそれを使ったわけでもない。つまり、自然体の状態で見た夢を、今、鮮明に覚えているというわけで。
すぐに思い出せるの?と聞いてみれば。
「歌ってる夢?」
「うん。多分……なんか、こう……星空を、かわいい声の子たちが、わいわい歌ってる、ような…?」
「いや疑問符浮かべられても…」
「ごめんね」
随分とまぁ、抽象的と言うか、ワケワカメというか……子供が歌ってる夢なんざ見てどうするってんだ。んまぁ、夢なんてそういうもんだから、なんとも言えないけど。
あやふやで、適当で、突然で、謎が謎を呼ぶ。
それが夢だ。睡眠してる時に見る夢は、記憶の整理とか感情の処理に関わるとされる。空想地味た夢幻。寝ている脳が作り出す、まるで現実のように感じる映像や感覚……感情、思考の体験。科学的に語るのであれば、それが夢。
更なる説明をするなら……夢の大元は地球全体に揺蕩うユメエネルギーだ。それが人の脳に干渉して、夢を見せ、循環させる。魔法的なモノでもあったのだ。そも、夢とは摩訶不思議なモノ。深層意識のあやふやなあれこれが夢となって脳に出力されるんだってさ。
うん。夢って不思議だね。
……で、なんでそんな夢見たんだこいつ。覚えてても、普通なんとも思わない筈だけど……こうしてわざわざ僕に伝えてきたってことは、引っかかる点があるんだろうし。
うーん。情報が少ない。
「なんか、悪夢から逃げた?後の歌みたいな……そういう雰囲気だったんだよなぁ」
「……へぇ」
成程、ねぇ……これは合致するか?するのか?レオードから聴いたタレコミ、その推測が当たってるなら、これはある種のSOS?
うむむ…
「ほーちゃん」
「なぁに?なにかわかったの?」
「いや、まだ。でも、一つだけ可能性がある……この後、行きたいところが幾つかあってさ。最初の星に、ちょっと寄り道したいんだ」
「……2人っきりで?」
「そう」
まったく。ニフラクトゥ討伐だけで済まないの、本当に面倒臭いなぁ……
これも旅の醍醐味かな。
クソがよ。




