203-旅は道連れ世は情け
「航路はどこがいいん」
「恒星のある北の方に直進すれば、自ずと辿り着くが……寄り道するんなら、東の方から回ってくといい。そこなら他の将星の統括地にもぶち当たるし、普通の星にも行ける観光ルートに入る。高確率で襲撃されるだろうがな」
「それは仕方ないよ。受け入れる。でも、そうか……なら東の航路で、遠回りに行こう」
「このご時世に宇宙旅行たァ、洒落てんじゃねェか」
「せっかくなんだ。楽しまなきゃね……そんじゃ、僕らは注目浴びとくから」
「頼んだぜ」
悪夢由来───八割程度僕が原因の問題が起きてから、何夜か経って。
今日は出発日だ。
いつまでもここ獅子宮でダラダラしていてもよかったんだけど、他のみんなが宇宙旅行に前向きで、他のところに行きたいって思念がすごいから移動することにした。
戦略的な理由もあるけど。
ほら、一箇所に全戦力が集まってたら、攻撃された時に大変じゃん?この星は僕たち夢星同盟の本拠地だからね。敵からすれば潰しておいて損はない。
だから戦力を分散させる。
僕たち魔法少女、アリスメアー連合は暗黒銀河を楽しくぶらり旅しながら帝都まで向かう。レオードたち革命軍はここで準備してから、二週間後くらいに出発するらしい。
つまり、戦争をするのは二週間後。
それまで自由に、好き勝手やる。彼らとの再会は敵地の手前でだ。
……宇宙旅なんて滅多にないから、早期決着を放棄して遊び呆けてる、わけじゃないからね?
将星組は、今遠征している戦力とか、獅子宮の植民地の戦力とかを掻き集めてる最中なんだって。もっと増えるの面倒だな。普通に内通者混ざるじゃん。織り込み済みだの笑ってたけど。
……あ、それと。タレスはなんか帰った。あっちもまた戦力掻き集めるんだってさ。
ブラーエ兄妹は待機組。理由は言うまでもない。
その片割れ、今も僕の膝を占領して、めぇめぇ鳴いてる置物になってるんだけど。
「よすよす」
「んめぇ〜」
勿論アリエスも連れていく。悪夢のせいでいつも以上に情緒不安定になってるし、なんか依存してるし、あんまり放置すると泣き出すし……困った困った。
カプセルに入ってる状態で干渉できると思ってなかった僕の落ち度だよねぇ。
許して欲しい。
再発防止には取り組むよ。まぁ、早々干渉できるヤツはいないんだけど。
兎に角、レオードたちとは一旦お別れだ。
連絡は何時でも取れるし、こっちになにがあってもすぐ駆けつけられるようにしてあるし……転移妨害とか無駄に小細工があっても、それを強行できるのが僕なんだし。
僕たちは夢奏列車で星と星とを駆け回って、敵の目から獅子宮を離す。まぁ注目させて、こっちに戦力集中させる囮になるってこと。
仮にこの星を強襲しても、この戦力ならどうとでもなるだろうけど。
「ヘマすんなよ」
「そっちこそ。失望させないでね?」
「ハッ、誰にモノ言ってやがる」
「ならいい」
お互いを煽り合って、レオードと別れる。彼はこれから自分家の民に革命を宣言したり、植民地の反発するだろう連中を叩きのめしたりと、やることがいっぱいだからね。
是非間に合わせて欲しいところ。
激励の言葉も軽く送ってやって、まだくっつく羊を肩で担いで移動する。密着してれば満足なんでしょ。どっかの幼馴染みたいにさ。
特に抵抗はない。
もう慣れてるし。
「体調に問題はない?」
「んめっ……大丈夫、です。その、お恥ずかしいところをお見せして、大変申し訳なく…」
「そんな変わってないから大丈夫だよ」
「ぐふっ…それはそれで傷付く…」
「諦めな」
今更になって羞恥心を取り戻してるけど、枕であるのを肯定してる時点で手遅れだったよ?
いや本当、適職?だったんだろうね……
精神がされるがままでのんびりしたいのを全肯定してる赤ちゃんだからかな。
かわいいな?
「……見たくなかった光景、って言ったら、俺怒られると思うか?アレ」
「いやー、流石にコンプラにも引っかからないと思うよ?逆に言わなきゃダメなやつだと思うし……なんか、うちのうーちゃんがごめんね?」
「責めてもどうしようもないだろ……昔から、アリエスは怠惰なところがあったわけだし、な」
「可愛らしい暴走、だねぇ」
「……見なかったことにしよう」
「現実を受け止めなよ」
柱の陰で項垂れてるお兄さんには申し訳ないけど、早く立ち直ってくれない?悪かったけど。謝罪もしたけれど。いい加減受け入れてくれ。
……これ僕が言うのもおかしなことだな?
取り敢えずほーちゃんに慰め役してもらって、僕は枕を運ぶのだった。
꧁:✦✧✦:꧂
「またなー!」
「戦場で会おうぜ〜っ!」
「武運を祈るッ!」
「俺の手でぶっ殺すんだ!勝手に死ぬんじゃねぇ〜ぞ〜!冗談じゃねェからな!!」
───なんてことがあってから、出発当日。
希望と絶望を増やした夢奏列車が、宙を目指して車輪を動かす。前方に無限に生える線路の上を、正確に。脱輪も脱線もせずに、獅子宮から発車する。
車窓から、見送りに来てくれたウルグラ隊、その他諸々からの手振りに応えて手を振ってやる。
意外と悪くない数日だった。
……なんか激励の中に殺意混じってなかった?誰だよ、あそこまで向けられるようになったの……えっコメット?コメットなの?
「おい」
困惑で後輩を見ていると、車窓から声が飛んできた。
この高さで?と思いながら見ると、まさかのレオードが窓枠に頬杖をついてそこにいた。浮いてる?いや、窓枠に寄りかかってる?
「なにしてんの」
「忘れ物だ。持ってけ」
「は?」
そうして放り込まれたのは───縄でぐるぐる巻きの、カリプス本人。ダビーとナシラが縄にしがみつき、必死の形相でそこにいた。
反射で縄を掴み、車内に転がす。
びっくりした。
「うわぁ!?」
「きゃふ!?」
「───ゲホッ、オエッ……レオード、テメェ…」
「精々楽しむこった。あと、保護者は多い方がいいだろ?上手く使え」
「ちょっ」
こちらの返答を待つことなく、傲慢不遜な獅子は窓から手を離して、空中に身を投げ出した。大丈夫かと心配して下を覗き込めば、ニヤリ顔で落ちる獅子の姿が。
……垂直落下でも無傷の自信がお有りで?
せめて魔力を纏うなりしろよ……まぁ、ド派手なことが好きな男らしい。
それで?
「大丈夫?」
「か、カリ兄さん!」
「あんにゃろう、こっちの了承もなく……っ、はァ〜……普通に死ぬかと思った」
「こっ、怖かったぁ〜!」
「無理、無理」
「ありゃりゃ…」
縄を解いてもらったカリプス曰く、日課の筋トレをしていたら、いきなりトレーニングルームに現れたレオードに凄まじい刺激臭のする薬液(無害)をかけられ、あまりにも強い匂いに悶絶していたところを拘束。そのまま担がれて空を飛ばれ、こうして放り込まれたらしい。
ダビーとナシラは主の危機に気付いて、慌てて追い掛け乗り込んだとのこと。
なにその急展開。
大変だなマジで。本当この人よく振り回さてるよね……可哀想。
「……悪いが世話になる」
「ダビーはご飯作りができます!」
「威嚇、可能」
「わかったわかった。アピールしなくても捨てないから。連れてってあげる」
「わーい!」
ここまで来たらどうしようもないもんねぇ……んまぁ、旅は道連れ世は情けって言うし。賑やかになるのは、別に悪いことじゃない。
歓迎しよう。
「男が増えたな」
「肩身狭いのは変わりないッスけどね〜」
「あ〜、よろしくな、野郎ども」
「よろしく」
男女比凄まじいね。どうでもいいけど。
そんじゃ、宇宙旅行のついでに、暗黒銀河の邪魔そうなヤツらをぶちのめす旅、初めて行こうか。レオードたちの準備が終わるまでの暇潰しだ。
別に、その道中で敵将星を潰しても構わんのだろう?
方角的に誰と激突するかはわかってるから、確実にその息の根を止めてやろう。
計画的に。
犯罪的に。
魔法的に。
……最悪、無力化に留めて、戦えないようにするのが、この子達が望む平和的解決かな。まぁ、負けたし。それに倣うとするか。
「ところで君の宇宙船は?」
「ポケットの中にあるぞ」
「ポケットの中にあるぞ??? ───えっ、宇宙船って折り畳み式なの?」
「おう」
「マ?」
冗談だった。殴った。純情な僕を騙すなんて、こいつはなんてけしからん男なんだ。
ちなみに、この後自動追尾機能でついてきた宇宙船が、列車の八両目の屋根にくっついた。円盤がついたわけだ。見た目大丈夫か?
捨てるか?
新章に入ります




