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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
対“星喰い”同盟

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216/294

202-悪夢小事件、スピード解決


「んめぇ…」

「……どうすんの、この子。ぽきが前見た時よりもだいぶおかしくなっちゃってるけど」

「叩けば直るだろ」

「やめたげて!」


 要塞某所、玉座の間。見え重視雰囲気重視で作ったそのだだっ広い部屋で、莫大な費用がかかっていそうな玉座に腰掛けたレオードと、その前の段差に座って機械弄りするタレスは、その更に下の段でメソメソ泣く羊を見やる。

 いつもの光景であるが、今回はいつも以上にアリエスが気弱になっていた。

 何故だろうか。


「……私の枕としての立場が、危うい……!」


 そんなことないと思う。


「ないだろ」

「えぇ……狂ってんなこの子」

「だってぇ!あの人、いつもならこっちの意見ガン無視で連行しに来るのに、昨日は来なかったんですよ!?あの!ラピス様が!不眠症で無気力かイライラしてるのが大半の徹夜万歳魔法少女が!来なかったんですよ!?」

「おっけーわかった。オマエが相当頭おかしくなったのはよーくわかった。その原因の一端に俺がいることも、よくわかった。正気に戻れ」

「不定の狂気だよもう」

「めめめっ…」


 いつの間にか枕としてのプライドができていたらしい。迫真の顔で叫ぶ姿は、余程その立場を気に入っていたことが伺える。獅子と蠍はドン引くしかないが。

 昨夜、明園穂希の拘束から抜け出せなかった宵戸潤空がこれを知れば、どんな顔をするだろうか。

 枕としての自覚に更なる芽生えを見て感心するか。

 普通にドン引きするのか。

 恐らく後者である。普段から周りを振り回しているが、感性は普通なので。


 とかく、余程ショックだったらしい。別に毎日、一緒の布団に入っているわけではないのだが……

 供述曰く。


「新天地に不安やら警戒やらで寝れないから、私のとこに乗り込んでくると予想してたのにっ……」

「カチコミ方式なのね?もう物騒すぎん?」

「手遅れだろこりゃ」


 策士である。だが、長年の付き合いの幼馴染の方が手が早かった。ただそれだけである。

 とばっちりの怨念である。


「これが、NTR…ッ」

「いや〜、BSSを考えるならライト氏の方が先では……?どちらかと言うと、ぽっと出の間女はアリエス氏の方なのでは……?」

「はァ?」

「いやーっ!ライト氏ってば最低ですな〜っ!ぽきは断然アリエス氏を応援しますぞっ!!」

「よろしい」

「強いな?」


 世にも珍しい眼力に負けたタレスが、半泣きで正当性を肯定すれば、どうやら許してもらえたらしい。いつもより過激で、何処か将星らしい圧のかけ方をするアリエスに、レオードはこれが正しい姿なんじゃ?と頭を悩ませた。

 普段からそれぐらいの威圧感があればいいのに。


 ……どうやら、いつの間にか。

 将星アリエス・ブラーエは、ムーンラピスの月の魔性に当てられてしまったようだ。たった一つのことでここまで豹変するのは、ニワカには信じられないが。

 その変わりようは、最早【悪夢】に影響された、としか思えない光景であった。

 そう、悪夢に。


「……おい、アリエス」

「メッ!んんっ、えっ、はい?なんですか?」

「オマエ、【悪夢】取り込まされてる、なんてこたァ……ねェよなァ?」

「ふぎゅ」

「……あーあ」

「……黒だな」

「ひぇ…」


 嫌な予感は的中した。

 目を泳がせるアリエスに、やりやがったこいつらと将星二人は頭を抱える。主に文句を言いたいのは、目の前の羊よりもあの蒼月だが。

 なにしてくれやがってんだあんちくしようと。

 文句を言おうにも封殺される予感しかない。知らんがな通達が出される未来しか見えない。つまりは無視だ。ほぼ確実に自分に都合がいいように動く筈だ。

 そこら辺の信用()がある。

 最悪は両陣営対立の同盟解消危機だが……それをされて困るのはレオードたちだ。

 詰みである。


「でも、この反応……素じゃね?」

「現実逃避ぐらいさせろよ。逃げ道も用意しろ」

「無理でしょこれは…」


 未だに悶々と、宿敵リリライへの恨み節を呟く枕羊に、悪友コンビは項垂れた。


 もう好きにしてくれ。








꧁:✦✧✦:꧂








「───ってなわけでして。困惑するのはわかるけども、責任取ってどうにかしてあげてくだしゃ…」

「んめぇぇぇ!!」

「威嚇しとる…」


 知らんがな。


 そう思いながら、この僕の下半身に縋り付くアリエスを見下ろす。すごい涙目。そしてほーちゃんへの殺意塗れの視線がすごい。そんな深刻だったか……

 疲れた顔のタレスとレオードの哀愁が酷い。

 なんかごめん。


「なんとかしやがれ」

「なんとかって……手遅れだよ、もう」

「テメェが七割悪いだろうが」

「残り三割は」

「寄越した俺」

「自己分析できててよろしい……いやでも、どうしろって言われても、僕じゃどうしようにも……」

「知るかよバカが」

「反論できん」


 本当に重傷だな……腰にしがみつく力が、どんどん強くなってるんだけど。マジで平気か?一回寝なかっただけでこうなるわけ?別に毎日寝てたわけじゃないでしょうに。

 目も血走ってるし。つーか、ずっと唸りながら僕の勇者睨みつけてる。突然の敵対意欲がすごい。

 ふーむ…


「めめめめ…」

「アリエスちゃんからここまでの殺意ぶつけられるの……何気に初めてじゃんね…」

「一切動揺しないオマエも悪い」

「だって弱いじゃん」

「がふっ」


 致命傷やめろ。

 可哀想だろが。


「ヨシヨシ」

「めぇ〜!」

「そうやって甘やかすからダメなんじゃないの?」

「これがうちの方針なんで…」

「ご主人様って呼ばせてください」

「えぇ…」


 マジでどうした?困惑しかないぞ……


 今までの知ってるアリエスとちょっと違くて、なんだか怖くなってきた。


 たすてけ。








꧁:✦✧✦:꧂








───アリエス・ブラーエ暴走事件。

 後に、そう名付けられるこの変わりようは、今後暫くは継続する。つまりは改善されないまま、半ば依存しているムーンラピスに引っ付く生活が続くわけなのだが。

 その原因は、なにもリリーライトのせいではない。

 一因ではあるかもしれないが、それよりもちゃんとした理由がある。


 【悪夢】───地球産の悪夢を取り込んで、身体を常に慣らしていた、その影響、最終段階。

 情緒の不安定化は、ムーンラピスにも見られた症状。

 潜伏の二年間、リデル以外の誰にも気付かれないように裏で安定化を図ったが……死んだ親友、もう会えない仲間たちへの叫び。悪夢と共謀するという不快感。まだ当時は割り切れていなかった為、夜な夜な、人知れず阿鼻叫喚の地獄絵図を作り上げていた。世間様の知らない間に、月の裏側が物理的に平らになっていることは秘密だ。

 今はもう、大丈夫だが。

 ただし、アリスメアー三銃士、幹部補佐、死染め六花はそのような体験をさせるわけにはいかないと独断判断したラピスが、細工を加えた上で怪人化等をさせた為、同様の問題は生じていない。

 

 だが。


 アリエスには、その処置を行っていない───本人は、施したと思っているが。その実、やっていない。つまりは蒼月の彼女と同じ状態にある。

 理由としては、その時はまだ、【悪夢】に思考汚染されている自覚がなかったからなのだが。

 その結果。


 元将星、現アリスメアー新幹部、“夢幻包羊”の異星人は発狂しかけている。その出力が闘争や破壊ではなく、心の拠り所にしているムーンラピスに向いているのは……些かおかしな話だが。

 嫉妬したり憎悪したり、我儘になったり。

 これもまた、【悪夢】の影響の一つ。お察しの通り甘い症状ではあるが。


 アリエスが常日頃“夢渡り”によって悪夢慣れ(苦行)していなければ、被害はもっと大きくなっていただろう。

 そして最後に、この一件の更なる外的要因が、一つ。


「ここには何もないの!ホントだよ!ホントなの!だからやめてっ!家宅捜査だけはやめて!」

「なにもないわけないでしょ。お縄につきなさい」

「いやーっ!!」


 “獅子宮”の発着場に鎮座する、魔法少女を乗せる希望の夢奏列車。<ハイドリーミー・マギアプレス>の最後尾、十両目の車両に、それはあった。

 みんな知っている、旅の新たな仲間。仲間?

 鹵獲された秘密兵器が、カプセルの中にぷかぷか小さく浮かんでいた。


 原因解明の為、無理に強行突破するリリーライト。その視線の先にあるのは。


 暗黒銀河が生み出した【名もない悪夢】───夢の卵。


 漆黒の輝きを宿す、ブラックホールのような虚空の穴。その場にあるのに、球体であるのに、まるで世界の窪みのような存在感。

 あまねく全てを呑み込まんとする絶望は、今。

 周囲に揺蕩う、自分以外の悪夢に干渉することで、己の糧に。新たな悪夢として再創する、その足掛かりへと無断利用していた。

 元凶その二である。

 無意識に、ムーンラピスとリデル・アリスメアーが望む悪夢となる為に。自らの意思で、世界を蝕むのではなく、成長する為に悪夢を隆起させ、吸収した。

 その結果が、アリエスの中途半端な暴走。

 比較的に成り立てであり、生まれたてと形容してもいい悪夢の住人に干渉したのだ。本人?には別に害意はない。そこにあったから使っただけだ。尚のことタチが悪い。


 そう、つまりは───このラピスに一番の原因があると言っていい。


「ほら〜」

「認めないぞ、僕は」

「お縄につこうね」

「ふぎゅ…」


 首を絞められたラピスは必死に弁明するが……この中で誰が一番悪いかなど、推察する時間もいらないぐらいには明白だった。


「対症療法は?」

「あー、僕の場合だと、時間経過でどうにか……今回だと僕と毎晩寝れば落ち着くんじゃないの?多分ね。役得さかないけど。仕方ないもんね」

「釈然としない…」

「だから布団には入るなよ。これは治療なんだから。弱い殺意でも迷惑なんだから。寝れなくなる。わかった?ほらわかったって言え」

「わからない…」

「バカがよ」


 この後めちゃくちゃ一緒に寝た。

 アリエスの機嫌は治った。が、穂希の期限は下がった。反比例である。


アリエスの悪夢についての話でした

こんなんで終わりじゃないけどね?

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