200-僕と私、ワガママの押し付け合い
記念すべき-200話-
今回は主人公出ます。
いやぁ〜実に有意義なお茶会でしたね。ライオン丸とは良き同盟者になれそうです。
からかいがいもあってヨシ。
なんだけど。
「ラピちゃん、お話があります」
「僕にはないかなぁ、うん。取り敢えず寝るから、ベッド退いてくれない?」
「やだ」
お茶会から帰ってきて、すぐ。謎に鬼気迫る顔で現れた明園穂希に、僕は捕まった。なんだなんだ……どうして、ベッドに寝転ぶ必要があるんでつか?
やめてください。つーかオマエのベッドその隣……そこ僕の寝るとこ…
邪魔だなぁ。
「……聴いちゃったから、ね。問い詰めないわけにはいかないんだよ」
「はぁ?」
なにを。
そう疑問に思っている間に、僕はほーちゃんに、力強く押し倒される。手を握り締められて逃げられそうにない。お腹の上に乗った彼女は、何故か怒ってる顔をしていて、僕を睨みつけている。
理解が追いつかないとはこのことか。
本当によくわからない。
至近距離で暫く見つめ合って、なにかを決心したのか、馬乗りになったほーちゃんは、躊躇いを捨てるように口を開く。
「───私の前から消えようだなんて、ふざけるなよ」
轟々と、音を立てて。その目の奥に、炎が宿っていた。
そんな結末許さない。
許容するわけもない。
無理を通すのならば、こちらも無理を通す───なんて言わんばかりの目つきで、僕を見ている。
……何処で聞いてたんだか。気配なんてなかったのに。微塵も感じなかったぞ。
「なんのことやら」
「あのライオン将星はいいとこ突いてた。他の有象無象を相手にする時、うーちゃんは大概伽藍堂の目付きで適当に貶したり潰したりするけど……私を見る時の目は、それと違ってる。周知の事実だよ?」
「掘り返すなその話……つーか、そんなんじゃない。僕で妄想するな」
「周知の事実だよ?」
「二度も言うな」
そりゃあ、そうだろ。
どうでもいいのと、どうでもよくないのを相手にして、対応の仕方が変わるのは当たり前だ。昔のアリスメアーの連中は、殺意満々で攻撃してたけど……宇宙のヤツらにはそこまでの熱意がないのは、確かだ。
実害がまだ出てないのもある。
あいつらが今の時点で地球人殺害とかやってたら、あの同盟もまず結ばれなかっただろう。それぐらいの線引きはちゃんとしてる。
でも。
「僕の気持ちはね、変わらないよ───暗黒銀河の問題が解決すれば、悪夢は前線から離れるべきだ。魔法少女とも距離を取った方がいい。だって、そうだろう?」
「理屈はわかるよ。納得はできないけど」
「……いつまでも仲良しこよしするわけには……いかないだろうよ」
この問答、前もやったような気がするけど……このまま平行線のままでいいと、僕は思ってる。魔法少女とアリスメアーの対立構造は、今後も必須だとしても。
僕という存在が、これ以上表立つのは、よくない。
だって【悪夢】だから。あの瞬間───レオードにこの銀河で生まれた悪夢を見せた時、軽度だけど、ほんの少し干渉を受けていた。すぐにしまったし、こっそり浄化してバレる前に除去したけど……あのまま見せ続けていたら、それこそ第二のムイアとなっていた筈だ。
今の僕は人の皮を【悪夢】が被っている状態で、体外に露出していないから、視認一つで悪夢堕ちさせることは、ほぼないけれど。
今後どうなるかはわからない。
悪夢は成長する。そして、僕もまた、限界という天井に届くまで、悪夢の大王として成長するだろう。例え限界に到達しても、それを取っ払って覚醒するか、悪夢が膨れて暴走するかの未来が予測されるが。
将来性はあるんだよ、まだ。その未来で、僕という超絶クソやば悪夢凝縮個体が、人類の災厄にならないとも限らない。
人間としての頭打ちがない今、【悪夢】そのものへ成り進めている僕が、将来どうなるのか……未来予知なり占いなりしない限りわからない。
不鮮明だけど、予防はすべきだ。
だから、せめて。この戦いが終わるまでは、魔法少女と呉越同舟するつもりだ。その後は、まぁ、盗み聞きされた通り、僕は表舞台から消えるよ。
それが最善だ。
「いやだ」
「ごめんね」
「謝ればいいって話じゃないの。いやだよ」
「ゆるしてちょ」
「かわいく言ってもダメだからね」
「バイバイ♡」
「ダメだって言ってんだろうが」
「神速」
情緒不安定かオマエ。いや本当、君と関わりたくないの考えで言ってるわけじゃないんだからね?ちゃーんと僕も考えて言ってるんだよ?
そこんとこ理解してる?
理解した上で拒んでくるのやめろ?いい加減幼馴染離れしようぜ。
「大丈夫大丈夫!」
「大丈夫で楽観視しちゃダメなんだよ」
「だってぇ〜!ラピちゃんとの仲の良さを全国に配信する使命が、私にはあるの〜っ!なんだったら、暗黒銀河にも布教するんだい!!」
「理由がくだらなすぎる」
「やーっ!」
まったく……二年前までの戦いで、全盛期リデルの姿が配信魔法に載った瞬間、バタバタ倒れる人が続出したの、忘れたわけじゃないだろうね?
幸い死者は出なかったけども。理由は、何度も言う通り地球人が悪夢と寄り添った時間が長いから。僕が超突貫で悪夢吸収魔法作って、治癒魔法と並行で被害地域に魔法を使いまくったのもあるけど。酷い重労働だった。今までがなんともなかった分、まさかの画面越しの悪影響は想像もできてなかったんだよねぇ。その後には配信越しでも悪夢貫通しないように改良を加えたけど。
あぁ、そうだ。宇宙出身者の連中から話を聞いた限り、夢見る時って【悪夢】の類はまず見ないらしいよ。
羨ましい。落ちる夢とか怖い夢とか飛び起きる夢とか、そーゆーのも見ないらしいぜ。たまに見るけど、そん時は急いで医者にかかりつけて、悪夢の残滓を抜く?っていう特別な医療技術でなんとかするらしい。すごいな医術。
……まぁ、それはそれとして、危険なモノをいつまでも前に置いておくわけにもいかないし。【悪夢】と完全同化する前なら、こんなこと考えなくてもよかったんだけど。
もう【悪夢】だからね、僕。
今のリデル含めたアリスメアー、ゴナー・アクゥームはそこら辺の対応してるから、無差別悪夢災害は起きない。安心して欲しい。
でも僕はわからない。だって僕だし。
なんか無自覚に乗っ取られそう。つーか、微量に精神に変化起きてたのは事実だし。それに気付けたのもつい最近なんだし。わんちゃんどころかつーちゃんありえる。多分いつの間にか悪夢色に意識染まって、無自覚殺戮あーんのラスボスになってそう。
何言ってんだ僕。
「大変なことになったら、私がなんとかするからぁー!!全力でフォローするし、暴走なんかしたら全力で止めて、もういっそのこと人間に戻すからー!!」
「大言壮語、乙!オマエにそんな技術力ないじゃろ」
「奇跡、ナメンナヨ」
「カタコトじゃねぇーか。ったく……仮に君は平気でも、それ以外はどうかわからないでしょうが。例外はない方がいいんだよ」
「やだ」
「だめ」
最大の理由は、こいつに甘えて受け身になるラスボスは嫌だからってのもあるけど、それ言ったら調子乗りそうな気配がすごいのでお口チャック。
わかる?今の僕とオマエの関係性。
お互いの“過去”の関係に甘えきってるだけだからな?
今のこれってさ、昔の仲の良さにかまけた仲良しこよしなんだよ?わかってる?理解して?健全な新しい関係性を構築すべきだと思うんだ。
…違う?
違うか。
そうか…
「あのねぇ、うーちゃんは心配しすぎなの。過剰なのっ。気にしすぎなの!ここはね、みんなのこと信じてるから〜とか、僕ってばすごいんだぞ〜!って感じで、一緒にいてくれていいの。それだけでね私たちはヤル気が満ち溢れて最終兵器魔法少女になれるの。わかった?」
「最後の早口凄いな。君たちの自己肯定感が強いのは僕もわかってるし、僕も自己肯定感高いけど、それとこれとはまた別の話じゃん?もうちょっと頭使えよ」
「うるせーなその頭使えなくしてやろーか?」
「急に殺意に方向転換するじゃん。怖いんだけど。もっと余裕持てよ」
……励ましたいのか貶したいのかようわからん。これが魔法少女クオリティか。リスク管理とかをちゃんとしたい身としては、許容したくない話なんだけど。
ここまで意見が並行線になると、これ以上は無駄なのがわかるよね。
……致し方ない。ここは一旦意思を曲げた振りをして、誤魔化すしかないか。
僕の意思は固いぞ!
「ちなみにここで適当言った場合、私はうーちゃんと強制婚姻関係を結んだ上で“心体”を拘束します。二度と阿呆な自己犠牲思考ができないよう、私にデロデロに依存させていつもオドオドへらへらしちゃうよわよわ女の子に変えてやるので気を付けてください」
「なんだそのアリエスLv100みたいな卑屈さ。絶対ヤダ。あとオマエとそーゆー関係になることは、ない」
「貰い手がいないから、うーちゃんで妥協するしか…」
「今を生きてるヤツが見つける前からないことにするな。死んでて一生独身が確定してる僕への当て付けか?普通にブラックジョークだぞ貴様」
「冥婚とかの枠組みで行けそーじゃない?私となら」
「やめろ」
あたおか妄想癖開花させるのやめろ。真っ当な男の人と恋愛結婚してください。私より強い男の人と結婚するでもなんでもいいから。僕を恋愛対象に見るのだけはやめろ。それで喜ぶのは僕以外の一部の人間だけだ。
……うん、こいつを結婚相手にしたら僕が苦労しそう。
絶対にヤダ。
「……はァ、わーったわーった。今のところは、隠居案は白紙にしてあげる」
「永遠にして。二度と発案させないで」
「状況次第だよ……最悪、命を散らすことも考えたけど、その為には三代目の悪夢の管理者を作らなきゃで、被害を増やすだけ。だから、僕で留めなきゃだし」
「むぅ…」
……昔は、宇宙問題が片付いたら、ちゃーんと成仏する予定だったのになぁ。なんでこうなったんだか。最悪自己封印する案も廃棄してないからな。したくないけど。
ならないように頑張ろう。抗ってみせよう。
それで無理なら、こいつに止めてもらおう。
……関係断ち切ろうって言ってる癖に、結局頼っちゃう自分の弱さには、目を逸らす。
自分を誤魔化すのも難しいね。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。オマエなんか嫌い。はい、自己暗示完了。僕は明園穂希がだいす、だい、だっ……大っ嫌いです!
ダメみたいですね。
もうバカみたいだから寝よう。これ以上は悩んでみても無駄だろうことは、わかっていたことだ。対ほーちゃんも無駄になりそうだし。こっちは散々悩んでの結論なのに、なんなんだこいつ。
無視したらぶっ殺されるんだろうな。そんで奇跡とかで復活させられそう。そんなことできない筈なのに。
……もういい。いいや。
諦めよ。
「寝るからどっか行け」
「一緒のお布団だよ。他には聴かれたくないだろうから、わざわざ防音結界まで張ってあげたんだから、さ……もうちょっと楽しもうよ」
「ぜーったいに嫌だね。それじゃあ僕が君のベッドの方に行くから。退け」
「……ごめん、実を言うと濡らしちゃって」
「なにしてんだオマエ」
「普通にお水零しました…」
「不器用がよ」
だから僕の布団にいましたってか?残念だが用意周到なでまかせにしか聞こえないぞ。絶対故意だろ……違うの?妖精女王の名に誓って?うそだぁ。
信じれるわけねェだろうが。ぶち転がすぞ。
退け。
「残念、私からは逃げられない」
本当に逃げられないのやめてくれない?強行突破で結界ぶっ壊すぞ。
ったく……
……。………?
……うん?
あれ。なんかおかしくね?今まで平然と流してたけど、おかしいよね。つっこむべきだよね、これ。えっ、あれ?そうだよね。おかしいよね。
おかしいはずなんだよ。
「この内容、僕、口に出してないんだけど」
独白なんですがそれは。
口から声に出してない。レオードにそんなこと言っても困らせるだけだから、詳しくも語ってないし。そうだよ、言ってないんだよ。
なん、なんなん?は?
「えっ、普通に心読んだ」
「順当にキモい。マジで」
手ぇ出そう。出た。
堂々巡りなのは気にしちゃダメ




