197-同盟結成はディナーのあとで
ウルグラ隊を叩きのめした僕たちは、しっかりと実力を示したことで彼らに歓迎された。なんか、ズーマー星人、特に肉食系の戦士たちにとって、強い女は好みらしい。
さっきから、すごい話しかけたそうにする目が多いが、お引き取り願おう。
用はない。
「熱烈歓迎だね」
「嫌になる程ね」
城内を案内する山猫たちの背後で、なんだか嬉しそうな幼馴染の声に辟易と返す。そうだねぇ、オマエは自分の、それと仲間たちの実力が認められたのが嬉しいんだろう。その気持ちは僕だってわかる。
でも求婚しようとしてる花束持ちもいるのは頂けない。
即刻視界から消えろ。僕は独身貴族で悪夢の国の頂点に立つ女だぞ。
「ぶん殴ってくるか?」
「血の気多いね君。別にいいよ。大した害はないし」
「そうか?それでもなにかあったら言ってくれ。俺が溶岩顔面に叩き込んで、雁首揃えて連れてきてやるから。それ制裁して勘弁してくれ」
「君の中の僕像がどんなものか聞きたくなってきたよ」
「だいぶ正しいと思うけど」
「オマエは黙ってろ」
「無理〜」
何故かリュカくんが積極的というか協力的。なんなの、なんでそんな尻尾ぶんぶん振ってんの。なに……強いのに憧れた?尊敬する?君すごい気持ちのいい男だな?
眩しい。闇たる僕が浄化されそう…
あんま近付かないでもろて。勿論オマエもだ。俗に言うソーシャルディスタンスを守りたまえ。無理?じゃあ僕も無理。
あっ、ちなみに今は客室に案内されてて、荷物置いた後食事メインの歓迎、つまりパーティ会場まで連れてかれるんだってさ。
肉いっぱいだとさ。
野菜も食べろ。
「部屋はここです。好きに使ってくださいね。汚しても、うちのハイエナくんが綺麗にするんで」
「本職のお掃除屋さんじゃん。気を付けなきゃね」
……これ、なにか荷物残したら即売会されそう。そんなわけないか?これ偏見?男所帯、それも筋肉ダルマばっか群生してるとこじゃ、そーゆーことしてそうじゃん?
実際どうなの?僕知らないけど。知る由もないけど。
案内された部屋は結構広くて、まるで豪華ホテル……
いや、ここって王城だから、貴族感すごいのは今更なんだけどさ。
「ソワソワする…」
「すっごい広いです」
「わーお」
先輩たちも言葉失ってら。オリヴァーよりも財力ある、そんな感じがするよね。
あいつが用意した部屋よりも高そう。
……この惑星で何泊する予定かは決めてないけど、暫く世話になるんだ。存分に利用して、日本人精神ヨロシクの掃除精神で綺麗にして帰ろう。
びっくりさせてやろ。
「私あのベッドね」
「……僕は寝なくても大丈夫だから、お好きにどうぞ」
「残念ながら同衾は決定事項です」
「お姉さん、おいで」
「引く手数多だな…」
残念だけど嫌です。今日はアリエス枕がないので……
ちなみに今、うちの羊枕はライオン丸に連行されたまま帰ってきてません。
早く返して。
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それから暫くして。
歓迎パーティという名の、晩餐会。城の大広間に大きく広げられた料理の数々に、僕を除く地球人たちはその目を輝かせていた。
「クソデカ肉!」
「クソデカロブスター!」
「クソデカカレー!」
そう、全部デカい。丸い皿の上にドカンと乗っけられた料理の数々は、未だ美味しそうな湯気を立てている。
……下品なのに、なんなんだろうね、このワクワクは。
男飯っていう、あのガサツさが定評のある料理とはまた違う、これが食いたいんだろう?っていう食べ盛りを刺激する料理たち。
……残念なことに、ここのメンバーは食事制限とか何も考えてないヤツらばっかだから、普通にペロリと食べそうなんだよね。少食なのは僕とフルーフ先輩ぐらいだ。
あとはみんな健啖家。よく食べるよ。
そんなフルーフ先輩も頭サイズのバカでかい葡萄に目を奪われてるし。確かに気になるけど。種無しなの?種無し以外は食べないよ僕。
心配無用?そう。
取り敢えず逸るみんなを落ち着けて、一先ず座らせる。パーティ形式はビュッフェスタイルだけど、これはすごい取り合いになりそうな予感。
問題事は起きませんように。
多分無理か。
そう若干諦めていると、ザワザワとした獣人たちの声が徐々に静まっていく。
よく見れば、壇上に一人の男が上がっていた。
レオードだ。
「御機嫌よう、諸君。今回は客人もいる為、いつも以上に手短に済ませるが……今日は、俺たちの新たな門出、その始まりの日でもある!好きに食え!好きに飲め!ただし、問題だけは起こしてくれるなよ?」
「───最悪の場合、ムーンラピスの実験体としてバカを差し出す予定なんでな」
「マジ?」
いいの?
「うわぁ、すっごいキラキラ…」
「これアカンやつだ。みんな大人しくしよう」
「私、いい子っ!」
「関わっちゃいけねェ笑顔だ…」
「なんっ、なんかスゲェ背筋がゾワゾワする……これが、恐怖…?」
魔法少女も異星人も好き勝手言いやがって。なんだよ、誉なことだろうが。僕の魔法研究、その礎になれるんだぞ光栄に思え。
好きに騒いでくれていいぞよ。
連帯責任で友人と家族も実験室に来てくれてヨキ。僕は大歓迎だ。
「ククッ、冗談だ───ガチで残念がるんじゃねェよ」
当たり前なんだよなぁ?
不貞腐れて頬杖をついて、もういいからと続きを促す。相手もそれをわかっているのか、半笑いを浮かべてから、祝杯を持つ。
僕らもそれに合わせて、着席と同時に注がれたノンアルスパークリングワインを掲げる。
それじゃあ。
「程々に騒いで、好きに楽しめ。それじゃあ……俺たちの王国にやってきた、異邦の旅人たちを祝して。
乾杯」
「「「───乾杯!」」」
いただきます。
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そして。
晩餐会が始まった数刻後───獅子宮の遥か高空より、二つの宇宙船が同時に降りてくる。
片方は、黒い山羊の角が生えた円盤。
もう片方は、蠍の尾が一周するような絵柄が刻まれた、美しい青色の円盤。
ヤケに特徴的な二つの宇宙船は、案内に従って発着場に着陸する。
「───あん?飯には遅れたのか」
「───えー、参加するつもりだったの?クソ度胸すな。ぽきには無理だわ」
「ひ弱ですねーっ!」
「雑魚雑魚」
「このメスガキ共っ……、っ!そうか!これがメスガキ!チキュウすごい!全部網羅してる!!ぽきに新たな見地を教授してくれてありがとう!ありがとう!!」
「マスター、大変恥ずかしいです」
「変な影響受けやがって…」
「?」
「?」
繁栄を築く荒野に降り立ったのは、紆余曲折を経てかの獅子王と同盟を組むに至った、暗黒銀河を脅かす最果ての呪いの一つ、“死の森”を見に宿す黒山羊の将星。
“亡羊黒堊” カリプス・ブラーエ
その従僕である召使いたちは、背筋をしっかり伸ばして主の一歩後ろを歩く。
“星錬鉄破” ダビー
“星狼骸螺” ナシラ
「帰りてぇ…」
「ダメですよ」
そして、己の統括地から急ぎで飛んできた、もう一人のサソリの将星。いつもの緩いジャージではなく、しっかり重厚感のある式典服を身に纏い、彼は悪夢に挑む。
“魔蠍狠妖” タレス・スコルピオーネ
卑屈な天才に付き従うは、彼が作り上げた人工の叡智。電脳の世界から機械仕掛けの肉体に乗り移って、帰ろうと画策する主を引き止める。
“機子母神” シャウラ
そして、そんな5人の同胞を迎えるのが───獅子王の優秀な側仕えと戦士たち。
「お待ちしておりました。早速ですが、ご案内しますね。俺らの王サマ───ズーマキングの元へ」
「押忍ッ!こちらになります!」
「どうぞ…」
「うむ」
“秋陽” フェリス
“赤銅” リュカリオン
“吊喰” コルボー
“深碧” ムゴク
山猫を筆頭とする、赤狼の青年、黒鴉の女射手、深緑の大柄な熊重戦士たちこそ、ウルグラ隊が誇る筆頭戦士。
“獅子の四魔牙”───叛逆者が有する、最強の獣たち。
魔法少女たちとの決闘で実力を示したのは、若手であるリュカリオンの一人だけだが……他の面々の実力は、今更言うまでもなく。
獅子宮の国王が太鼓判を押す戦士たちに迎え入れられ、親友兼共犯兼便利アイテム製作者は震えるが、背中を押す機械人形に従ってその足を動かす。
呪いの王のは我関せずと歩みを止めず、石造りの要塞へ踏み込んだ。
その様子を窓枠からこっそり覗く、一人の羊がいた。
「ヒェッ……やっ、やっぱり本当に叛逆するんだ……あのカリ兄さんまで……うぷっ、吐きそう。緊張と恐怖で胃がひっくり返っちゃう…」
「せっかく晩餐会は逃げれたのに、会議は逃げれない……最悪だぁぁぁ…」
めそめそ泣く彼女は、時の皇帝との叛逆を選んだ将星と地球の戦士たちを繋げた影の立役者。
本人にその自覚は無くとも、その事実に嘘偽りなく。
悪夢の大王の手によって、人知れず【悪夢】の力をその身に宿した、夢繋ぐ星。
“夢幻包羊” アリエス・ブラーエ
そして───この叛逆の盤面を、コツコツ時間をかけて築き上げた、獅子の男。続々と集まる賛同者たちの姿を、直接見ることはせず。
椅子に腰掛けたまま、獰猛に笑う。
「ククッ、やっとここまで来たんだ───逃がさねェぜ。もう、俺は王手に手を掛けている」
「そうだろう?」
“金色獅子” レオード・ズーマキング
暗黒銀河を統べる4人の最強、そんな悪の星に付き従う不撓不屈の戦士たちが、一堂に会する。
逃げやしない。
背きもしない。
一つの意志の元───“星喰い”に対抗する盟主たちが、星に集う。




