17-『13+1』のスタートライン
ドリームスタイル───それは、全ての魔法少女共通で目指すべき一つの区切り。心の成長により、新たな領域へ踏み入らんとする魔法少女の想いに、何者にも染まらない純粋な色のユメエネルギーが呼応して、魔法少女を更なる高みへと導いた姿。
魔法少女になったからと言っても、必ず変身できるとは限らない。
それを明園穂花は、魔法少女リリーエーテは獲得した。
「夢想魔法<ドリーミーストライク>!!」
精錬された魔法はより強く、より速く───魔法少女の心の成長に伴って、彼女たちの魔法も成長する。
放たれたピンク色の光弾は、一見すればか弱いモノ。
だが、その実態は。
【ガッ───アグゥームゥ!?】
「なっ、身体が分解、だと……おいおい、魔法の殺意高くねェか?」
防御の為に振るった、アクゥームの剣になった右腕が、着弾と同時に光に包まれ、あっという間に夢の粒子となり消滅した。両断による魔法の破壊を試みた結果、主武装の大剣をアクゥームは失ってしまった。
その殺意の高さに、ビルは「これこれ」と先達の火力を思い出しながらも驚愕する。
心やさしい少女が持つには、あまりに強力な力。
【夢】に由来する力であれば、問答無用で浄化消滅する進化した夢魔法。
「えっ」
「……おい、どうした」
「……あの、私、そんな強いの撃つつもりじゃ……えっ、怖い。すごく怖い」
「慣れろ」
「無理だよぉ!!」
「さっきまでの威勢はどうした!?なんとか制御しろよ、人殺しになっちまうぜ?」
「やだー!」
それが、本人の意図する火力でなければ、話は変わるのだが。
元来、言葉で人を傷つけるのさえ嫌がる気質の少女が、悪夢の怪物であるアクゥームや怪人限定とはいえ、簡単に接触箇所を浄化消滅できる魔法を、突然会得したとして。
果たして、使おうと思えるのか否か。
あまりに強大な力に、ビクビクと震えてしまうのも……まぁ無理はない話。
このままでは、アクゥーム諸共、素体になった市民まで巻き込まれて消滅する未来も確定である。
そして、それが嫌ならば───魔法の威力を調整して、自分に合った出力を見つけなければならない。
今のリリーエーテの魔法には限度となる制限がない。
普通の魔法であれば、そんなこと起こらないのだが……彼女が潜在的悪夢適合者という極めて稀有な存在であり、夢魔法という根幹を司る魔法を持っているからこそ起きた悲劇。
謂わば、蛇口を全開にして勢いが止まらない状態。
ブルーコメットとハニーデイズが麻痺の余韻で動けない現状、エーテの心に翳りが生じる。なにせ、進化した魔法を制御できなければ、その反動で自分が死ぬと……直感でわかってしまったから。
なんとなくでもそう感じ取れた時点で、魔法少女としてかなり成長しているのだが。
怯えながらもエーテは魔法の出力を絞って、本当に己が望む形の魔法へ作り替えていく。
「ふぅ……ごめんだけど、慣らしに付き合って?」
「……ケッ、んなことしてる間に捕まっちまっても、文句言うなよ?」
そう挑発するビルに、エーテは覚悟を決めた、勇ましい笑顔で立ち向かう。
「できるもんならやってみなよ!」
───私はリリーエーテ。リリーライトの妹だから!
思い描く最強を自分と重ね合わせて、あぁなりたいと、強くなってみんなを守りたいという想いを強くして。
祝福を司る魔法少女は、悪夢なんかに負けないのだ。
自分の弱さを自覚している少女は、諦めない心をもって突き進む。
いつの日か、希望に満ちた夢物語を現実にする為に。
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───魔法をどう調整してるのかって?聞く必要あるん?いや別にいいけど……理論派の僕としても、まだあんまりわかってない領域だから、明言はしないからね?
うん、それじゃあ。
潤空ちゃんの即興講座、始めるよ。
───はぁーい!
───お願いしますぽふ!
───いやオマエら呼んでないが。あとぽふるん。オマエ有識者枠だろ。
「ダメだー!ノイズ入って集中できない!」
いつの日か、もう一人の姉のような人に教えてもらった魔法の基礎。ふとしたことで魔法少女だと知ったあの時、興味本意で質問した過去を振り返る。
魔法も使えない自分にも、わかりやすく、伝わりやすい説明をしてくれたことを。
いつの間にか姉とぽふるんが混ざっていたが……
闖入者の茶々も無視して、蒼月の名を冠する魔法少女は少女に知恵を授けた。
記憶に色濃く残るその思い出を、エーテは糧とする。
「イメージ、イメージ……かっこよくて、かわいくて……なんか強い魔法少女の姿!」
「ふわふわしてんな」
「うる、んんっ……ムーンラピス先輩から学んだやつの、自己解釈ってやつだよ!」
「ハハッ、そいつァ学び甲斐があるなァ、っと!!」
「ふぐっ……うぐぐ、えいっ!!」
「チッ!」
ちょっと小学生には難解すぎて、かなり曲解して曖昧な考え方に改変してしまったが。
勿論、教えた側はそれもまたヨシと許している。
エーテは体内を巡る魔力の流れを掴んで、思うがままに制御する……なんて理想論をなんとか形にしながら、未だ増幅しつつある清純な魔力の出力を絞り、人を殺さない、悪夢だけを綺麗に浄化できる、やさしい力に変えていく。
無論それはビルの攻撃を避けながらの話。
大剣を失ったアクゥームも巨体を活かした突進や飛んで押し潰すプレス攻撃などで応戦するが……やはり、一番の脅威はビルの無双魔法。
万年筆を薙刀のように振るい、刺突や薙ぎ払い、様々な武術でエーテを追い立ててくる。
経験の浅いエーテでは防戦を強いられるが……これでもまだ抗える。
「もう一回!夢想魔法<ドリーミーストライク>!」
土壇場だが形になるまで調整を終え……再びピンク色の光弾を魔杖から放つ。
夢の一撃は、踏鞴を踏むアクゥームの肩を射抜く。
「あれぇ!?」
やり直し。
……その後、三度目の正直でリリーエーテは殺意高々の魔法をなんとか緩和して、光弾が当たった瞬間光に包まれ浄化される、という見た目にも優しい仕様に変更された。
被害者は無事助け出して、ハニーデイズが浄化の魔法で介抱している。
「ふぅ……あっ、お付き合いありがとうございました」
「ご丁寧にどーも」
「ふんっ!」
「やめろ」
律儀に礼をするエーテに、アクゥームを浄化討伐されて敗北を悟ったビルは、無双魔法を解きながら踵を返す。
途中、麻痺から復帰して戦闘に混じっていたコメットが鬱憤混じりに小石を投げる暴挙に出たが、首をカクンッと傾けて簡単に回避。
結果として魔法少女の成長に貢献してしまったビルは、ボスのボスからお叱りを受ける未来に辟易とする。
なにせドリームスタイル。
そして倒すべき敵が捕獲すべき優先事項。重ね合わせて厄介者。
「手土産はできたしそれでなんとか……はァ、傀儡の癖にうるせェんだよあのアマ」
……最後に見た、同じ技でありながらアクゥームだけを見事浄化してみせた、夢想魔法の力。
潜在的悪夢適合者由来の威力なのか、本人の気質か。
それとも、話に出ていたかの伝説───蒼月の奇術師がやらかした結果なのか。
功罪共に有名なあの魔法少女と関わりがある……最早、その時点で疑うしかない。死亡確認されていない数少ない魔法少女の中でも、トップクラスに危険視すべき存在。
それと関わりのある時点で、疑わないといけない。
なにせ、死体にトラップを仕掛けてアクゥームと怪人を諸共爆殺浄化した実績持ち。
己の死後、リリーエーテが魔法少女になるのを見越してなにかしらの罠を用意していてもおかしくない。
魔法少女研究を通して、ビルはそう邪推している。
その勝つ為ならば手段を問わない、ゾンビになる前から倫理観がなかったとまで思われている本人がビルの内心を知れば、絶叫のち泣いて否定することだろう。
まぁ……やっていることは事実である為、完全な否定はできないのがミソだ。
「……鍛え直すか」
今はまだ、負けてやるのが正しいとしても。




