195-どったんばったん大暴れ
「オレらウルグラ隊!ズーマーの掟に従い、異邦の戦士に決闘を挑む!オマエたちが強者であることは、その立ち姿から見てわかるが……体験せねばわからぬモノもある!」
「強さ見せやがれやこんちくしょー!」
「……ご覧の通りの血の気の荒らさでな。まぁ、殺さない程度に痛めつけてやってくれ」
「物理的に血を失わさせるの、流石だよね」
「よく言われる」
そんなわけで、ウルグラ隊っていう百獣の軍団と僕たち地球陣営は戦うことになった。
うん、楽しもうか。つまらなくないといいな。
「みんな大丈夫?」
「うん!いつでも行けるよ!」
「びっくりしたけどね!」
「力試しなら大歓迎よ!」
「こっちもやる気満々だってさ」
「なら良かった」
こっちも戦意十分。そんじゃ、さっさと始めようか。
敵の数はざっと80……多いな?なに、戦士のほとんどがここに来てるわけ?あっ、もっといるの?全員伸されたら防衛面が心配だもんね。そりゃそうか。
こっちは魔法少女10人、悪夢の住人4人…
リデルとアリエスを除いた14人で、屈強な獣戦士たちと乱闘だ。あ、メードも抜いとこ。実質13人。ぽふるんは、最初から除外で。
皇帝サマに逆らおうとしている男が、どれだけの部下を揃えているのか。
確かめさせてもらおうか。
「それではッ!地球の戦士vsウルグラ隊!!
───決闘、開始ッ!!」
ちょうど二つの陣営が向かい合う境界線に、ウルグラの戦士の一人が立ち……開戦の合図を告げ。待ってましたと言わんばかりに、血気盛んな獣人共が、こっちに突っ込んでくる!
「オラァ!」
「行くぞガキ共!!」
「死ねやゴラァ!」
いや本当に、血の気が多い……確かにこれは、物理的に抜いた方がいいと思うわ。
でも、まぁ……雑魚に用はない。
みんな頑張れ。
「行くよ!」
「他の宇宙人とどれぐらい強いのかしら?」
「殴り合いだー!!」
「だね!」
こちらの陣営でいの一番に飛び出たのは、エーテ筆頭の新規精鋭。
エーテは突進してきた虎男の前で跳躍。肩に手をついて乗り越え、背中にキック。コメットは槍使いの犀と激突。デイズは斧をブンブン振り回して、チーターの高速機動に対処する。
「くくっ、軽いぜ!」
「速い刺突だ!だが、まだまだ!」
「遅いぜガキィ!!」
ふむ。意外とやるけど……僕の後輩たちを、あまり舐めないでほしい。なんて僕の期待に応えるように、華麗に、苛烈に、空を舞うように、彼女たちは戦場は駆ける。
魔力を巡らせ、より加速をつけて。武器を振り下ろす。
「まだまだ!」
「そんなに速いのが好きなのね!」
「んじゃ、遠慮なく!」
「ッ、なに!?」
身体強化でより速く、より強く、より硬く───僕たちアリスメアーとの戦闘で鍛えれれた魔法力は、そこら辺のチンピラ風情など軽く上回る。
飛んで跳ねて、後頭部に蹴りを入れ、横腹を薙ぎ払い、斧の塚の部分で腹を打つ。
うん、いい打撃。
「ぐおっ……くっ、やるじゃねェか!」
「こいつ!成程な!ならばこちらも、魔力強化だ!」
「ナメてたのはオレの方か!こりゃ参った!参ったから、全力で行くぜェ!!」
おっ……こいつらも思ったより根性あるな?さっきまで痛みに悶絶してたのに、すぐに立ち上がって痛みを忘れたかのように激しく動き出した。
素のパワーが高いのは、動物の特徴のお陰か。
僕の期待を裏切るように、虎はより獰猛に、その脚力でエーテを追い抜き、強靭な爪を振るって斬撃を飛ばし……なんとエーテの魔力防御を貫通。僅かとは言え、その肌に傷痕をつける。犀の男もまた、槍を持った状態での突進でコメットを一度突き飛ばし、その図体には見合わぬ速度で接近し、刺突を放つ。チーターはより速く、より力強く、デイズが斧で防ぐよりも速く攻撃を食らわせて、その爪に返り血を塗りたくっていく。
意外と強い。でも、うちの子たちも全然怯まない。逆に勢いをつけて攻撃して、傷を与える。そして、相手もまた興奮して、より過激な攻撃を加えていく……
いたちごっこかな?
「見てるだけでいいのかァ?おい!!」
そんなふうに観戦していた僕に向かって、また別の虎が斬撃を振るってきた。
うん、大丈夫。
「全部見えてるからね」
「あん?ッ、なっ───!?」
「愚直に真っ直ぐは、愚策だったね」
「ガッ」
普通に斬撃を避けて、その無防備な額に掌底を放つ。
「まずは一人」
白目を剥いて意識を飛ばした虎男を場外へ放り投げて、最初の脱落者を作る。
呆気ないが、仕方ない。
僕が相手だもの。
「相手は乱戦がお望みだ。全員でぶちのめしてやれ───あぁ、最低条件として。手を貸すな。自分一人の力だけでぶちのめせ」
「うーん、これは理不尽!」
「ククッ、いいじゃねェか!行くぜ、獣共!!」
「もう!まーたすーぐ勝手に決めるんだからっ!」
「ぶっ殺なのです!!」
「歌魔法解禁、いっすか」
「皆殺しはダメだからダメだよ。私だって呪い縛るんだ。我慢しな」
僕の命令に従って、魔法少女たちは散開。続々と此方に駆けてくるズーマー星人たちに、乱闘を申し込む。
魔法も武器もなんでもあり。殺しは禁止の大乱闘。
「お前ウサギか!奇遇だな!僕もだ!」
「ちょいちょいッ!!ここ、肉食のしかいないって話じゃなかったッスか!?」
「男にゃ容赦しねぇーのにゃ!」
「ハッ、同感だな」
「よ、よろしくお願いします!!」
「ん」
三銃士は三銃士で濃いメンツと戦いを開始。なん、なにあのうさぎ。血を被った頭って、あーゆーことを言うの?なんでうさぎ?あっ、殺人ウサギ族?怖っ。
あとチェルシーの相手は猫じゃないのね……
穴熊かぁ。オドオドしてるけど、ここにいるってことはそういうことだろう。
油断は禁物だ。
メードはリデルの護衛だ。結界張って守らせてるから、気にしないでいい。
破られたら?半殺しで両成敗するから問題無し。
「行け行けェ!」
「オレらの底力、見せつけてやれ!!」
「ぶちのめせぇ〜!!」
「破ァ!!」
威勢よく吠える彼らは、もう一対一の構図なんて気にしない。数の暴力で、魔法少女の勢いを削ろうとするが……まぁ無理だわな。
ライトは聖剣を鞘に収めたまま峰打ち。カドック先輩は魔法弾による非貫通弾幕。ブランジェ先輩は重力を使ったガチの殴り合い。フルール先輩は呪力制限して鎖を使った近距離格闘戦。マーチ先輩も頑張って、歌って自分にバフ掛けしながら大立ち回り。ピッドは言うまでもないけど、いつもの列車衝突で人身事故を多発させている。
エーテ、コメット、デイズも、最初戦っていたヤツらを漸く下して、より激しい乱闘に身を投じている。
武器も多種多様、魔法もたくさん。うん、見てるだけで満足しそう。
「……航空部隊もあるのか」
驚いたのは、6人ぽっちではあるものの空を飛べる鳥の戦闘員がいること。乱戦してる魔法少女たちを飛び越え、果敢にも僕に挑んでくるのが2人。他の4人は、巻き添え上等で空から攻撃を加えて援護している。
ふむ。つーかこっちに2人。警戒されてんな?
「油断はしない」
「全力で潰す!」
「「───全ては、我らが王!レオード様の為に!!」」
深い忠誠心をもって、僕に向けて弓を射る。込められた魔力は油断できないぐらい鋭利で、当たれば痛いではまず済まないだろう。
流石に貫通されても面倒なので、避ける……おっ。
ホーミングタイプね。なら撃ち落とすまで。飛んできた弓矢を払い除け、続け様に放たれた弓矢を仕込み杖で全て斬り落とす。
「魔力で作った矢か。弾数無制限は、ちょっと厄介だな」
絶えず撃ち込まれる弓矢は、魔力が続く限り僕目掛けて放たれるだろう。それはそれで億劫だが……相手もそんな戦い方で決まるとは思ってないようで。
牽制の意味合いを持っていた弓の滅多打ちから、力強く弓を引き絞った、強力な一撃をお見舞いしてくれた。
ふむ、単純に強い射撃だ。
「<遠衛暴銃>ッ!!」
んで、次いで二発目は……おお、速い。
射られた瞬間、矢の先端、鏃が僕の眼前にあった。まあ目で追えてたので、普通にキャッチ。あっ、でも加速ついてるから普通に押し込まれる。慣性に身を任せてそのまま後退すれば、二十メートルぐらい下がった。
意外とやるなぁ。でも、この程度の射撃じゃ、ライトは普通に斬るし、カドック先輩なら早撃ちで勝つし、ここにいないノワなら反射神経で鏡を取り出せる。
なんだ、魔法少女が異常なだけか。
「なっ、止めた、だと?」
「何故掴めるのだ貴様!」
「気合いと根性と経験則と耐久力に身を任せただけだよ。逆にできないの?」
「ッ、言わせておけば!」
「なんの!」
止められてびっくりしてる大鷲にはごめんだけど、まぁできないこともないんだ。
今の強撃で並の魔法少女は潰せても、13魔法は無理だ。
……いや、イリスミリエとマーチ先輩には通用するか。あの二人別に反射神経いいわけじゃないし。多分食らって悶絶すると思う。
兎に角。
「それじゃあ、次は僕のターンね───と言っても。もう終わってるようなもんなんだけど、さ」
「、なにを……!?」
空を飛べるのは、なにもオマエ達だけじゃない。
そして……いつまでも飛んできたその空が、果たして、オマエ達が知る空なのか。
是非確かめてみるといい。
「空魔法───<スカイフォール>」
空にある全ての物体を地に落とす、強制落下の魔法。
無論、それは鳥人だけではない。雲も、飛行機も、空に浮かんでいるモノは全て落ちる対象となる。そんでもってこの魔法の嫌なところは……
魔法が届く最高高度が、設定されてないこと。
魔力がある限り、何処までも。自分の真上の空を落とす対象にできる。
「うわっ!?」
「ッ、制御が効かん……!」
「ほら、落ちておいで」
「このっ!」
せめてもの抵抗で放たれた弓矢に、額を穿たれたが……無論無傷。悪いね。
あぁ、それと。この空魔法っていう魔力食いは、魔力がある限り空に干渉するっていうトンデモ能力でね……僕の魔力量じゃ、空どころか“宙”に干渉して、隕石まで落とす可能性があるんだよ。届いちゃうんだ。
で、今回ばかりはそれは不味いので。
勝手ながら、空を飛んでた鳥六匹分の魔力を強奪して、空魔法を発動させてもらった。
現に、僕と戦っていたのを含め、全員が地面と仲良しになってしまった。
「ぐっ、うぅっ…!」
……こんなもんか。無力化しちゃおう。
試合だからって別系統の落下魔法を使わなかったこと、感謝することだ。
落下の衝撃と魔力欠乏症による痛みに呻く鳥人たちに、万が一を考えて、意識を奪おうとすると。
急接近した戦士から、強力な蹴りをお見舞された。
「おや」
「強ェんだな、あんた───なぁ、今度は俺と手合わせしてくれ」
道案内をしてくれた狼の青年、リュカリオンだった。
鋭い眼差しで僕を睨み、仲間を庇いながらも自分の欲を解放する……ただの真面目くんだと思ってたけど、やっぱ見かけ通りの戦闘狂。その金の瞳に、隠しきれない期待と戦意が滾ってて、僕を離さない。
今の一瞬で僕のとこまで来た脚力といい、速度といい、蹴りの威力といい……
悪くないかも。
「いいよ、おいで」
「押忍ッ!」
もう一度放たれた蹴撃を、腕を組む形で防いで。思わぬ挑戦者を前に、僕は笑みを深める。
うん、満足とまではいかないが───楽しめそうだ。
最高の歓迎会だよ。




