193-悪夢の大王、討伐!
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「重大発表します」
邪神モドキから将星を解放して、先輩が連れてきた謎の新聞記者から取材を受けて、なんか一瞬で号外が銀河中にばら撒かれたのを見て驚愕して、なんやかんやあって。
もう一度列車に乗って、星の海を突き進んでいる、今。
新要素についての説明をする為に、座席の先頭に立ってみんなを集める。
「なになにー?」
「呼ばれて来ーたよ」
「重大?」
「発表?」
首を傾げる面々に向かって、一度こほんと息を整えて。
左手に持ってた【悪夢】の球を───未だ尚、超強力な還元濃縮でもしたんかってレベルで“濃い”、宇宙の悪夢の根源の一つを見せびらかす。
おっ、三銃士が咄嗟に距離を取った。
「なんっ、なんスかそれェ!!」
「うえっ……き、気持ち悪い……」
「……ボス、拾ったとこに戻してこい」
「余程の反応はされると思ったけど、そこまで拒絶反応を示されるとは思わなんだ」
想定はしていたけど、多分、地球産の悪夢から生まれた怪人たち複数の因子を取り込ませた、元は純人間であった彼らにとっては気持ちの悪いモノとして映るのだろう。
あれだ、地球と宇宙で、悪夢の根本は一緒だけど性質が違うとかそんなん。
知らんけど。
ちなみにメードは無反応だ。だってゾンビだし、そも、こいつ鈍感だし。
バカだし。
「お姉さん、それは?」
「さっきの邪神が、邪神になるまでに至った元凶。多分、このまま成長すれば第二のリデルが生まれる。暗黒銀河産悪夢の幼体ですね」
「んなっ!?」
「捨てましょう。いや、壊しましょう」
「よくないと思います!!」
「……やめてくれないか?それじゃあまるで、私も病原体みたいな扱いになるだろう」
「えっ?」
「えっ?」
ショックを受けてるリデルを余所に、僕の統制下に置き掌握を終えた悪夢を見やる。
確かに、こいつが危険物なのに変わりはない。
正直、成長が遅いと思うけど。ムイアを依代に選んで、暗黒銀河を【悪夢】に染めようとしたけど、完全掌握する前に討伐されちゃった影響と、怨蟲っていう機構になったムイアの精神の残滓に邪魔されて、思ったように【悪夢】
として成長はできなかったっぽいね。
つまり、こいつはまだ赤ちゃんなわけ。
リデルのリの字くらいしかない。
今更貶されたのを察して殴りかかってきたメードを軽く伸して、続きを話す。
「こいつを育てます」
「何故」
「やめんか」
「どうして災害を増やそうとするの?」
「おまんが災厄」
「外道がよぉ」
「……好き勝手に言うんじゃない。気持ちはわかるけど。話聞こうぜ」
「やだ」
心のない酷いヤツらから一通り罵声を浴びせられた後、可哀想な僕をアリエスによしよしと慰めてもらう……おいなんで撫でる?惨めになるからやめろ?
こほん。で、なんでこの悪夢を育てるか、だけど。
「僕、全部諦めて“悪夢の大王”ちゃんと襲名したからさ。この際、地球外の悪夢も全部掌握して、最強無敵の悪夢のカミサマになってやろうかと」
「みんな、こいつを討伐するよ」
「気が早い気が早い」
「もう目の前に第二のリデルがいるから、ここで討伐して世界を救わないと……」
「やめんか」
全員構えるの早くね?殺意高いよ。僕が言えたことじゃないけど。“悪夢の大王”。前々から自称はしてたけど、僕個人の認識としては“女王”であるリデルの代行者としての意味合いの方が大きかった。
でも、これからは違う。
正式に僕が悪夢の国の王様となり、アリスメアー二代目首領の肩書きだけではできなかったことをできるように、属性を付け足していく。
悪夢王の権能───それは、この世全ての悪夢の掌握、支配する力。
「これは確定事項だけど……リデルがこの宇宙において、最も育った悪夢だった。“夢貌の災神”という名は、なにも誇張とか自称でもなんでもない。全ての【悪夢】の頂点と成った自覚が芽生えて、漸く名乗る権利がある」
「そんなゲームのシステムみたいな……魔法少女いるから今更だったね」
「そんで、ここにリデルの全てを奪って成った“僕”がいるわけなんですが」
「やっぱ討伐しない?」
「やめろ」
そう考えると、地球って魔境だったんだねぇ……宇宙の辺境に太陽系が位置してたお陰か、【悪夢】も育ちやすい環境だったみたいだし。
あと、夢の中で生きる妖精っていう生き物を取り込んだせいでより活性化した疑惑がある。
いやホント、よく倒せたな二年前の僕ら…
褒めてくれていいよ。
「……! おそろいだねっ!!」
やっべ気付かれた。
夢の国の女王、十三代目の妖精女王(人間)が、当社比で目をキラキラさせてるけど、別にそんな意図とかないから気ぶるんじゃない。
違うから。気の所為だよ、やめて。
二代目悪夢の大王と十三代目夢の国の女王じゃ張り合いできないけど。
「んんっ、話を戻して」
「や。戻さないよ、続けるよ。これから私とうーちゃんの劇場版甘い蜜月が始まるんだよ」
「興行収入2000円で終わるからやめろ」
「見てはくれるんだ?」
「羞恥心を魔力に変える魔法ってのがあってだな」
「ごめんなさい」
そも、肩書きだけの話じゃん。ほーちゃんは今、妖精の女王としての特別な力が使えるようになってるけど、別に役職はないようなもんじゃん。
僕だってそうだ。悪夢の国と言っても、住人はこいつらアリスメアーだけだし。
……あれ、そう考えると夢の国ってぽふるんしかいない弱小国家やん。なにお揃いとか気ぶってんだ。格下同士で争ってる暇ねぇな。
さて。
「この悪夢を育てる理由だけど……純粋に、やってみたいからです!」
「討伐」
「うん」
だから決断が早いんだって!!ちょっ、本当に来る奴がいるかァ!!
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───こぽこぽ
───くうくう
───ねむねむ
空っぽのカプセルの中に浮かぶ、悪夢を濃縮した小さな球体。人格を持つそれは、胎内にいるような微睡みの中、音にならない声を零す。
その音をモニターに文字起こしして、何を考えているか視認する。
「なに、お腹でも減ったの?」
……僕の悪夢でもくれてやるか。ハット・アクゥームと似通った存在にして、いつでも制御下における眷属にするのが按配かな。
逆転される可能性とか、殺害数が多すぎて逆に呑まれる可能性は考慮していない。
僕を誰だと思ってる。
列車の最後尾、最悪切り離せる環境に拵えた研究室で、微弱な波動を放つ悪夢を眺める。
うん、拒絶意思はない。
……あの時、僕の悪夢に当てられた影響で、徐々にだが僕を主として認めてくれてはいるみたい。まあまだ幼体。精神年齢が幼いから影響されるのも早くて、すぐにこっちのモノになるだろう。
焦る必要はない。
「ほーら、美味しい悪夢だぞ〜。月味だぜ」
具現化した僕の悪夢、蒼色に染まったスライム質の闇を少し摘んで、カプセルの上部を開けて中に入れてやる。
ふわりと羽のように落ちた蒼に、悪夢はぴょいっと少し飛び跳ねて食いついた。うぉ、解けるように飲み込んだ。成程、これが悪夢の捕食行為……
意外とかわいいな。
【ハットスッ!】
「あー、はいはい。君も食べたいわけ?」
【ハッツ!】
静かに帽子に擬態していたハット・アクゥームが、我慢ならないと頭の上で暴れだしたので、仕方なくそっちにも千切ってくれてやる。
実を言うと、最近になって……あの決戦を経て、悪夢を餌にするっていう強化パーツの抽出を可能にしたんだ。
お陰で、このハット・アクゥームはもっと強くなった。
今なら惑星侵略も夢じゃない。なんならムイアごっこもできるんじゃない?やらせないけど。うちの帽子にそんな非道なことはさせません。
やるなら僕がやるよ。
───あおあお
───もちもち
───んまんま
ッ、こいつ……とうとう思念で直に伝えてきやがった。僕の悪夢食って学習した?いや、同調か。どんどん近しい存在になってきている、ってこと?
依代を僕にした瞬間の成長が早いな……
適性かな。
おおきくなれよー。やっぱ嘘。おっきくなるな。二度とデカくなるな。
そんなふうに戦利品と戯れて、たまーに見に来る誰かを追い出したり話したりして、時間を潰していれば。
車内放送が、全車両に鳴り響く。
『───まもなく、目的地〜、“獅子宮”に到着致します、なのですっ!』
アナウンスに従って車窓を覗けば。
獅子の頭が星を食らう、そんな石像が目立つ惑星───お馴染みズーマー星人の総本山が見えた。そう、あそこが今回の旅の第二目標。アリエスの里帰りを第一目標とし、虫退治を幕間にするからば。
将星レオードとの会合。彼、彼らと正式に同盟を結ぶ、第二目標。
やっと会えるね、ライオン丸!
いざ!




