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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
古き憎魔の悪夢災害

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206/295

192-号外、魔法少女の躍動を知れ


───号外!号外!号外!!


 その日、暗黒銀河中に新聞が舞った。

 著者の名はロキュー。ミルキータイムズの新聞記者が、二つの特大情報を暗黒銀河にぶち込んだ。

 それは、元将星ムイアの完全討伐。そして、その偉業を成し遂げた異邦の戦乙女───魔法少女たちへの独占取材というモノ。


 魔法少女を知る将星は、こいつマジかとドン引きして、犬耳の記者の名前を記憶した。

 ある意味の要注意人物として。


「マージで?絶対ラピス氏があんなことやこんなことして強行解決したでしょ…」

「……確か、将星の……ご冥福をお祈りしましょう」

「鎮魂の祝砲でもあげるカニか?ダメ?そーんな硬いこと言わんでカニよぉ〜」

「おやすみ、戦友」

「誰だっけ?知らない人だな」

「前任の将星ですお兄様」

「……あー、あん時の。そうか、やっとか。つか、こいつヤバくね?あの集団に堂々踏み込んで記事書いたってことだろ?絶対異常者だろこれ」


 新聞を受け取った将星たちが、口々に過去を思い返し、同時に魔法少女の脅威を再認識しながら、各々の統括地で好きに騒いでいる。

 蠍は苦笑い、天女は鎮魂を、蟹は真面目な顔でふざけ、馬は宙を射抜き、双子はほーんと頷き、黒山羊はひっつく子分たちを宥めながら宙を仰いだ。

 そして。


 “獅子宮”のとある一室。かの虫王に、最も苦痛()を与えた不遜な男、レオードは笑う。

 声高々に、ある男の最期を祝する。


「ククッ、ハハハッ!とうとう死にやがったか。ククッ、ざまぁねェなァ、虫公さんよぉ!!」

「ちょっ、レオードさん!?不謹慎ですよ!?」

「ハハハッ!」


 お付きの世話人の言葉もぞんざいに払って、レオードは高笑いを隠さない。前々から目をつけていた魔法少女が、まさかの大戦果を上げたのだ。

 目の上のたんこぶ、暗黒銀河の汚点、過去の残骸。

 ただ破壊を撒き散らす存在となり、恐怖の象徴となった元同格の上司を打ち破り、終わらすことに成功したのだ。怨蟲の脅威も、もう存在しない。

 元より、暗黒銀河の何処かに怨蟲たちの本体があるのはわかっていたが、討伐隊の尽くが悪夢の干渉で自死を選ぶ大惨事を引き起こした為、怨蟲が現れ次第対処する以外、なにもできていなかったのが。

 その均衡が、今日崩された。


「いけすかねぇ野郎だったが、開放されたようで何より。精々あの世で裁かれてるこった」

「あぁ〜確か、夜襲かける度に邪魔されたんでしたっけ?昔のレオードさんはやんちゃでしたよねぇ。今はちょっとマトモな方針に転向してるんで、こっちも安心です」

「安心の意味履き違えてんだろテメェ。御所望ならすぐに散歩行ってくるぜ?」

「やめなさい」

「ククッ」


 レオードにとって、ムイアという男はニフラクトゥへの叛逆を拒む最大の障壁だった。昼も夜も、配下の虫たちの知らせですぐに急行してくる邪魔な男。

 蛇の朋友である天魚は、獅子の叛逆も楽しそうじゃなと微笑ましそうに笑うだけなので、一先ず横に置いておく。

 兎に角、あの虫が一番の強敵だったのだ。いずれ、己の手で倒そうと決めていた。だというのに、敵は己の預かり知らぬところで【悪夢】に堕ちた。帰らぬ人となり、もう二度と相見えることもなくなってしまった。

 ……故に、残る障害は極僅か。

 無事魔法少女と協力を結べれば、なんてことのない障害ではあるが。


「おい、歓迎会の準備は?」

「ちゃーんと準備できてますよ。最高級のお肉からお魚、不本意ですが野菜も用意しております。長時間の仕込みが必要なのは既に調理済み。魔法で保存もしてありますよ」

「そいつァ重畳。他のヤツらはどうだ」

「鍛え抜かれた肉体美を披露しあってますよ。正直汗臭い地獄になってたんで、全員シャワー室にぶち込んで消臭もやっときました」

「いいことだ」


 いずれここにやってくるであろう魔法少女を迎え入れる準備は、着々と進んでいる。好物などもアリエスを通して把握している為、好き嫌いも織り込み済み。

 更には地球人が食べても毒にはならない、安全な食材を選んで各地から掻き集めた。

 無論、その中でも自分が食べたいのを多く集めたが。

 幼少期から自分の傍にいる山猫の従者に雑事を任せて、レオードもまた準備を進める。


 執務室に広げられた地図、資料、魔法陣。それら全てが獅子の王を銀河の王にする為の、云わば下準備。

 来たるその日に向けて、着々と計画を進めていく。


「ククッ、端から思い通りになるとは思っちゃいねェが、対話ぐらいはさせてくれよ?

 魔法少女サマよォ」


 金色の獅子は、そう笑って。


 新聞紙をぐしゃりと握り締めて、未来への展望を脳裏に思い浮かべるのだった。








꧁:✦✧✦:꧂








「起きとるか?───ニフ」


 “極黒恒星”、皇帝の住まう城のバルコニーに、その男はいた。煌々と輝く宙を眺め、黄昏ていた彼は、頭の上からかかってきた声に反応する。

 ちらりと目線をやれば、予想通り、古くからの付き合いである友がいた。


「こんな時間帯に、なんのようだ。アル」


 黄昏ていた男、ニフラクトゥは、屋根伝いに跳んできた親友アルフェルを、柵に手をかけたまま迎え入れる。

 使わなくなった久しい愛称で呼ばれ、ならばこちらもと愛称で呼んでやれば、満足した様子でアルフェルは降りてくる。


 そのまま柵の上に腰掛けたアルフェルは、頬杖をついて会話を続ける。


「号外は見たか?」

「……あぁ。どうやら、解放されたらしいな」


 話題のキーワードは、かつての忠臣。アルフェルと共にニフラクトゥを支え、暗黒銀河の基礎を築いた、数少ない立役者の一人。

 【悪夢】という、ニフラクトゥにとっては不味いナニカ程度の認識でしかない概念によって、全てを狂わされた、愛すべき同胞。

 その訃報は、二百年も前に聴いたことだが。

 この日、またその名を聴くとは思ってもいなかった……それが彼の本音である。


「怨蟲の機構に成り果てたことは知っていた。だが、その魔術式にヤツの魂はなかった。故に、もう昇天していたと思っていたのだが……我の目は、節穴だったようだな」

「仕方あるまいよ。悪夢に食い散らかされれば、必然的にああなるものよ。見えんのも無理はない」

「……そうか」


 暗黒銀河の脅威である怨蟲の存在を見逃したのは、偏にかつての忠臣の存在を、汚名という形であれど残したいと思考に過ぎったからである。

 愉快犯気質故に、オモシロイと思ったのも事実である。【悪夢】に侵された存在が、どれだけ領土を冒せるのか、見てみたい気持ちもあった。

 だが、それ以上に。無の世界から共に作り上げた世界に遺したい気持ちが、大きかった。

 ……その中に、残滓と言えど魂が残っていたのならば、主として、友としての慈悲をもって、その灯火に終わりを齎していたのに。


「先を越されたな」

「お礼を言わねばならんのぉ……菓子折りでも渡すかの?いいのがあるぞ」

「懐柔せねば食わぬと思うぞ」

「そうかぁ?」


 ケラケラと笑う親友を見、ほんの少しだけあった鬱憤を霧散させる。これ以上考えても、全て遅い。今は、ただ。同胞の新たな門出を、これからの希望を祈るのみ。

 どちらからともなくグラスを取り出して、お互いの杯にワインを注ぐ。

 勿論、三杯目も取り出して。


「献杯」

「献杯」


 グイッと一気に飲み干して、話はそれで終わり。

 己たちが理不尽の枠にあることを自覚している2人は、自分たちが置いていかれる側であることも理解している。戦争ばかりのこの世は、出会いよりも別れを経験することが多い。故に、別れを惜しむ儀式は手慣れたモノ。

 その程度でも、あの虫は満足して逝くだろうから。

 劇なら兎も角現実で湿っぽいのは嫌いなアルフェルと、そこまで情緒が育っていないニフラクトゥに、あの世での活躍を期待されてムイアも喜んでいることだろう。

 そう勝手に結論付けた2人は、適当に談笑して井戸端をお開きにする。

 が。


───トントントン


 扉をノックする音が響く。


「誰だ」

「私です。リブラです」

「む…入れ」

「はっ」


 王の寝室に、仕事着を着たままの将星、リブラがあまり音を立てずに入ってくる。何の用かと2人で振り向けば、リブラは一瞬肩を跳ねさせ、あなたもいたのですか……とアルフェルに胡乱気な視線を送る。

 しかしすぐに切り替えて、夜遅くに、寝室にまで訪れて渡したかった資料の存在を思い出す。

 ……その背後に、招かれざる客を一人連れながら。


「夜分遅くに失礼致します。至急、陛下にはこちらの調査資料をお渡ししたく。内容は、今回の魔法少女の同行……元将星、ムイア・ドゥアーダァドの成れの果て、邪神討伐まての観測データを纏めたモノです」

「今必要なのか?」

「……その、ずっと……鬱陶しいのがいるので。どうにか陛下に押し付けれたりしないかな〜、なんて……思ったり思わなかったり。色々憂慮した結果参りました」

「正直でなにより」

「お主も意外と図々しいよの〜」

「心外極まりないです」


 王から当たり前のようにそう指摘されて、リブラは一旦目を泳がせてから、チラリと背後を見る。

 背後にいた、モノクロツインテールも後ろを見た。


「……ひゅー、ひゅーるるひゅー♪」


 全員の視線が集まり、気まずさから下手な口笛を吹いて誤魔化そうとするが、別に逃れられるわけもなく。

 ドナドナされるのは言うまでもない。


 もう言わずともわかるだろうが、この魔法少女。普通に帝国暮らしを満喫していた。皇帝の大事な仕事を真横から無言で眺めたり、謁見に来た将星を皇帝(鏡写しの偽物)と対面させて驚かせたりと、何処ぞの月と太陽の同期である確かな証拠をお出しするような奇行を繰り返した。

 単純に暇だったのもあるが。

 挙句の果てには、寄りにもよって皇帝と一緒に城下町に繰り出して、屋台を練り歩く始末。

 なに仲良くなっている。


 ……ちなみに、ノワールの腕には魔法封じの腕輪というオーパーツが嵌められているのだが、鏡を持つと無条件で自分のモノにできるというデタラメな特殊能力をこっそり隠し持って、グリッチを突いた実績が彼女にはある。

 結局、鏡通信前にニフラクトゥにバレたが。

 その際、ムーンラピス他地球陣営と通話をしない限り、破壊はしないでやると顔面に拳を突き付けられるという、遠回しの殺害宣言をされていた為、警戒や恐怖から余程のことはできない筈なのだが。

 今やこれである。

 この女、図太い。


「アキラ、今度は尾行ごっこか?」

「リブリんが何処まで我慢できるか耐久ゲーム」

「私で遊ぶのやめてください」

「楽しそうじゃな。ヨシ、儂もやろう!前に教えてくれたチューチュートレインでもするか?」

「やろうぜー」

「ふむ、良かろう」

「よくないッッ」


 なんでこのお二人方は乗り気なの!?そう叫ぶリブラを余所に、一通りふざけたノワールは机の上に置かれていた新聞紙を掻っ攫う。

 無論、既に読んではあるが。


「はーあ。いいなぁ。ワタシもひと冬の大冒険みたいなのやってみたーい」

「……おっ?暗黒銀河危険地帯百選(儂調べ)、今から儂がガイドしようか?ちなみに、宇宙最強の筈のニフが溶ける火山地帯が50位くらいじゃ」

「遠慮しとくね」

「懸命な判断かと」

「そんな言うか?」

「自覚しろ」

「えぇ〜?」


 残当である。

 ちなみに残念ながら、この場に常識人は一人といない。

 “星喰い”は当然の如く、“廻廊”は悪辣悪女、“天魚雷神”はナチュラル老害思考。“天秤崩壊”は何気に古書マニアで、古書の為なら皇帝の犠牲も厭わない狂人である。

 急募常識人。


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