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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
古き憎魔の悪夢災害

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186-悪巧み、その果てに

虫嫌いなんでパッパっと行きます


───ガーベライトベルト。“星喰い”の引力操作によって生まれた、無数の小惑星が一纏めに寄せられた、大規模化小惑星帯の一つ。

 死んだ惑星の残骸までもが集まるそこは、云わば“暗黒銀河有数のゴミ箱”。そんな、あまりにも酷い言われ様の古い小惑星帯には、一つ。一際目立つ、大きな瓦礫の塊が浮かんでいた。


「ギギっ……“白羊宮”を落としに向かった怨蟲の反応が、途切れた、だと?」

「だからそう言ってるでしょう。完全消滅したって」


 かつて、“蒼蝿宮”と呼ばれていた惑星。粉々に砕かれて見る影もなかった残骸は、重力によって再び一つになり、小さなでこぼこの星となって再構築された。

 そんな、物悲しい栄光の跡地にて。

 複数の異形───虫と人間が掛け合わされたような貌の異星人たちが、一堂に会して言葉を交わしていた。

 議題は、先刻解き放った“死喰いの落星”について。

 忌まわしき新参者の地を滅ぼさんと向かわせたのだが、結果は著しくない。

 

「何故だ。あの星に、不確定要素が存在したのか?いや、ヤツらにそのような伝手は存在し得ない筈」

「噂を元に調査した結果、将星は不在のようでしたが」

「……まさか、寄生もできずに悉く排除されるとは。些か信じられんがな……」

「不味いな、これでは贄が集まらんぞ…」

「最悪、我らの身を投じる他ない。だが、怨蟲が全滅したわけではないのだ。そう焦る必要はなかろう……まずは、状況確認だ」


 柱状の石が並ぶ空間で、かつて将星に仕えた軍人たちが頭を悩ませる。彼らこそが、“死喰いの落星”……正しくは“怨蟲蠱毒”という機構の制御権を握る、大いなる星の虫に魅入られた残党たち。

 銀河各地、将星の管轄地どころか、辺境の星まで、述べ二百年に渡って侵略し、捕食を繰り返させる悲劇の元凶。

 失意の底で己を見失い、その命を絶った、偉大なる主の復活を目指す者たちだ。


 無数の蟲が蔓延るその空間で、怪物たちは議論する。


「どちらにせよ、御大の復活まで残り僅か……寄生されて死んだ魂を掻き集め、いつでも“儀式”に取り掛れるようにせねばな」

「あぁ、ならばすぐに取り掛かろうぞ」

「潜伏させていた妖卵を今すぐにも解き放ち、魂を集めて溶け合わそうぞ」

「異議無し」


 怨蟲を生み出し、食らった獲物を取り込む機構となった彼らの主を、再びこの世に顕現させる為に。王の支配下にある全てを喰らい尽くす為に、彼らは暗躍する。

 主の喪失から二百年余り経った今。もう時期決行すべきであると決断する。

 復讐を。

 復活を。


 今までの二百年、何度も追撃から逃れ、諦めずに抗った激動の復讐譚に、新たな一頁を。

 三度目の殲滅戦が始まるよりも早く、先手を打たんと。

 決意した、その時。


───ゴゴゴゴゴッ


───ボーッ!ボーッ!!


───ズガガガガッッ


「ッ、なんだ!?」


 異音が。岩盤を抉る、速度に身を任せて全てを破壊する汽笛の音色が、星に響く。

 なんだなんだと警戒するも、時既に遅く。


ドンッ!ドッカーーーンンッッ!!


 天盤が、砕け散る。


「突撃ッ!今日の犠牲者様!」

「こーんにーちはー!殺しに来ました」

「ご機嫌よう、淑女でしてよ」

「Hello!」


 飛び込んで来たのは、夢色の鉄の箱。天井を突き破った希望の運び手から、戦乙女たちが降りてくる。

 そのどれもが煌びやかで、華やかな衣装の少女ばかり。

 突然の強襲に驚いている隙に、善意で敵を潰す、異邦の戦士団───魔法少女が、遅れて武器を構える幹部たちに切り込んでいく。


「なっ、なんだオマエたちは!?」

「えー?うーん。通りすがりの正義の味方!って言えば、かっこいいかな?」

「ふざけたことをッ!!」

「へーんだ!」


 人型のカブトムシという異形の幹部が、敵襲を仕掛けた魔法少女の一人、リリーエーテに怒りを向けるが……彼女当人には何処吹く風。

 実を言うと、彼女たち。

 白羊宮から南南西に広がっていた惑星帯から、あっさりこの本拠地を見つけて、迷うことなく中枢まで突撃した。透視魔法で何処にいるのか見抜き、盗聴魔法で会話内容を傍受する。そのお陰で、怨蟲残党の計画は既に筒抜け。

 そんな宇宙全土に混乱を招くような……地球にも被害が来るような計画、成功させるわけにはいかない。ならば、怒鳴り込むしかないと。

 乗り気のラピスと突っ込む気満々のピッドに連れられ、真っ直ぐ突っ込んだ。その結果がこれである。あまりにも急展開であった。


「くっ、そうかっ!こいつらがッ……」

「ふんっ!それがどうした!!我らをナメるなよ!!」

「自ら贄になりに来るとはな、愚かなり…」

「食い潰してやるわ!」

「死ねェ!」


 だが、残党と言えども。彼らもまた、歴戦の大戦士……すぐに体勢を整えて、魔法少女たちの猛攻に食らいつく。カブトムシも、クモも、ムカデも、ハチも、トンボも。

 それぞれの怨蟲の特性を宿した異星人が、各々の特異を魔法少女に振るう。


「甲鉄魔法ッ!」

「操蟲魔法〜っ!!」

「圧壊魔法…」

「百毒魔法!!」

「爆進魔法!」


 隕石にも打ち勝つ装甲による殴打、怨蟲に干渉して操る支配の力、照準を合わせた対象を圧殺する魔眼、あらゆる致死毒を綯い交ぜにした魔毒、ジェット噴射による速度にモノを言わせた魔拳。己の得意技で魔法少女に牙を剥き、接戦を繰り広げる、が。

 魔法少女は、その更に上を行く。


「重力魔法!」

「兵仗魔法ッ!!」

「星魔法!」

「花魔法!」

「光魔法」


 重力を纏った槍撃で拳に打ち勝ち、蟲の群れを銃火器と火炎放射器で迎え撃ち、星の輝きで魔眼を潰し、花が持つ浄化の力で毒を祓い清め、極光が魔拳を斬り砕く。

 他にも同時に攻めてくる怨蟲を、歌声が押し潰し、より強力な呪詛が貪り、列車が引き潰し、武器化した万年筆が無双して、時間の流れを遅くして、夢幻と夢想が重なった奇跡の光が飲み込んでいく。

 本拠地で大量に養殖されていた怨蟲たちが、一瞬で無に溶けていく。


「なんっ…」

「残念だけど、これがあなたたちの限界───それじゃ、負けよっか」

「ッ、舐めるなァ!!」


 反骨心から暴れ回るも、彼女たちが相手してきた怪人と比べれば、天と地の差がある虫。容赦なく、慈悲もなく、実力をもって叩き潰す。

 呪いに満ちた虫なんて、旧世代の面々からすればかなり見慣れた手法。それを堂々と、自信を持って誇るなど……

 最早、笑止千万。


「ならばっ…!」


 だが、それで止まるほど、彼らの意思は弱くなく───過去の襲撃によって植え付けた寄生の卵、各地に潜伏する被害者たちの魂を、蒼蝿宮に喚ぼうと画策する。

 ハチの異星人の毒で“術式”が活性化し、クモの異星人の操りの魔の手が寄生主を襲う。

 その残酷非道の一手で、形勢逆転になる、筈だった。


「……?なん、なんだ?何故、魂が飛んでこない……?」


 本来なら、発動した瞬間、寄生主が死に、魂がこの星に現れる筈なのだが。

 なにも、起きない。

 起きるわけがない。


「き、貴様ら、なにをしたッ!?」

「───なにって、塞いだのさ。寄生だのなんだのだいぶ仰々しいけど、所詮は呪詛。呪いから成る術なら……私の専門分野なんだよねぇ」

「ッ!?」


 失敗の原因は、呪いのスペシャリスト。岩壁に腰掛けるマレディフルーフが、蒼蝿宮から伸びる呪いの繋がりを、一切の説明もなく断ち切っていた。

 彼女は元来、地球由来の呪いしか知らない。

 だが、将星の中で最も呪いに精通する男、カリプスとの交流を経て、宇宙産の呪いにもかなりの精度で対抗できる技能を確立していた。


 そして。


「───ねぇ、この気持ち悪い泥の塊が、成れの果てとか言わないだろうね?」


 戦場となった地下空間の亀裂の、更に下。最深部に無断侵入していたムーンラピスが、リデルとメードを引き連れ浮かび上がる。

 その手には、赤黒い粘性のナニカが流動する、球体状の塊が浮かんでいた。負のエネルギーを押し固めたような、呪いの球が。


「なっ、それは……!?」

「まったく、隠すんならもっとマトモな隠し方しろよ」

「御大から手を離せ、貴様ァ!そも、どうやって!神殿は強力な結界が張ってあるのだぞ!?あの蛇でさえ突破することが敵わない、強固な守りがッッ!!」

「……? 何言ってんだオマエ。それ、あいつが面白そうだから放置しよう、とかいう安直な楽観視で見逃されてただけだろうが」

「なっ…」


 やってそ〜と全員の脳裏に、ドヤ顔でサムズアップするニフラクトゥの顔が浮かび上がった。要は、ラピスの推測通りである。真実を語れば、かの将星は星喰いに絶対的な忠誠を誓う最高峰の忠臣であった。それこそ、器を失い、成れの果てになろうと……ここで終わらせるのは、あまり面白くないと。ツマラナイと、思う程には。

 将星ムイアは、確かに忠臣だった。裏切る素振りなど、欠片もない盲信者だった。

 しかし、理不尽が彼を襲った。

 【悪夢】という対抗不可能のユメに自我を呑まれ、その存在基盤を大きく揺るがされ……【悪夢】に呑まれるまま皇帝に反旗を翻し、その腹に切り傷を加えてしまった。

 様々な理由から、これ以上将星の座に就かせるわけにもいかないと、その座を除名。ただ、自我が汚染されていた将星ムイア・ドゥアーダァドは、王に裏切られたと認識し更に暴走。何が起こったのか把握できていなかった配下を巻き込んだ、大きな反乱を起こした。

 その結果が、ラピスの手に浮かぶ肉の塊だ。

 無論、そんな真実を彼女たちが知る由もないし、そも、知ろうとも思わないだろうが。


 かつて栄華を誇り、狂い、悪夢に堕ちた虫たちの王。


 その成れの果てに───ラピスは、月光の青い魔力を、破壊の力を込める。


「ッ、やめろ───っ!!」


 配下の嘆きにも耳を貸さず。

 暗黒銀河を滅ぼそうとする、悪意の塊を。情け容赦なく破壊する。


 昇天するように、死の瘴気が立ち昇り……霧散した。


「ぁ…」

「そんっ、な…」

「悪いこと考える方が悪い」

「ブーメランブーメラン」

「文句あるなら聞くよー?聞いた上で、物理か魔法か好きなのを選ばせてあげる」

「やだ物騒…」


 残党の企みを阻止して、未曾有の危機を食い止める。

 絶望に膝をつき、悲嘆に沈む残党を、興味が欠片もない青眼で見下ろしながら、ラピスは、身体に張り付く血腥い瘴気を叩き払った。


 魔法少女の完全勝利である。








꧁:✦✧✦:꧂








 ……などと宣言したものの。

 こんな形で終わりを認める程、“大連蠱毒”に付き従った残党たちの生き残りに、余裕などなく。形振り構わないで動くことを、想定しておくべきで。

 打倒して捕縛した残党の処遇をどうすべきか、何処かに引き渡すべきなのかをみんなで駄弁っていた、その横で。

 事は動く。


「うん?」

「…お?」


 真っ先にその予兆に気付いたブランジェが、ライトが、槍と剣でとある男……カブトムシの幹部の首を迷いもなく狙うが、それよりも早く縄抜けされる。

 追撃の為に魔法を放とうとするが、それよりも早く。


「なにを…」

「まだ、まだ!勝機はある!!この空間に満ちる、御大の気配!残滓は、まだここにある!!ならば、ならばっ……ならばァ!!」


 祈りを込めて。

 誓いを捧げて。

 想いを告げて。

 条件は満ちている。空間に満ちた残滓が、ムイアの深い絶望が、慟哭が、怨念が、渦巻くように男の手へと収束、闇を形成していく。


「やらせるわけ───、っ!」

「待って、ライト。見届けようじゃないか」

「……性格悪いよ」

「今更か?」


 笑って邪魔するラピスに、これはどうしようもないなと諦めて。なにが出てきてもいいように、その宿願とやらを見届けてやる。


 その慈悲に応えるように。縛られていた他の残党たちの身体が、黒く明滅する。


「ッ、まさか」

「! 待って!待ってよ!私、まだ死にたくない!まだ、その時なんかじゃ…!」

「───なにを甘いことを言っている。我らが主の復活、その糧になれるのだぞ。誇らしい以外の感情など、端から持ち合わせていないだろうに」

「っ、それは…」


 ハチの女幹部が悲鳴を上げるが、聞く耳を持たず───当初の予定通り、術を発動する。

 それは、“怨蟲蠱毒”に魂を捧げる術法。

 怨蟲に寄生された魂を回収して、機構に捧げ、偉大なる主を復活させる儀式。


 この場にいる幹部を含めた残党たちは、もれなく全員、怨蟲の祝福を授かっている。

 己の魂と蟲を同化させ、一体化していた。

 故に。


「さぁ、さぁ───大いなる我が主よ。我が声に応えよ。今ここに、顕現せよッ!欺瞞に満ち、絶望を孕んだ、この世界に!再び、栄光をッッ!」

「“魔胎解放”!全てを、喰らいたまえ!!」


 詠唱と共に、闇が濃くなり。今まで食らってきた魂を、昇華する。術者は一瞬にして事切れ、血反吐を吐き、その身を瘴気に捧げて灰となる。

 そして。


「ぁ、がっ…」

「ひっ、ゃ、やだ、私、まっ、だ…ぁ……」

「ごひゅ、ぁっ…がはっ」

「ぉ、おぉ…」


 その場にいた全ての残党の口から、黒い煙が上がり……ボロボロと、黒く染まった肉体が崩れていく。瞬く間に、灰となって消えていく。

 咄嗟に助けようとしたエーテたちをラピスは引力魔法で引き剥がし、その末路を眺める。

 助ける気などない。


「ふふっ…」


 あるのは、ただの好奇心。邪念など一切ない、純粋なる興味のみ。例えそれが、彼女自身も【悪夢】に染められた結果であろうとも。

 全て、ムーンラピスの意思に他ならない。


───オオオォォォォ…


 腹に響く重厚音。あまりにも不気味で、耳障りな、遍く全てを蝕む、虫の羽音。

 過去の罪過、その全てを呑み込んだ闇が、形を作る。


 ……現れた、その姿は。かつての威容を知る者ならば、首を傾げてしまうぐらいに変わり果てた、見上げるぐらい肥大化した、異形。

 無数の種の羽を生やし、どの類とも異なる触角を持ち。

 人間味のない複眼を持った、四腕八脚の怪物。全身から瘴気を放つ“怨蟲”の王。顔を青ざめさせた魔法少女たち、特に、かつての悪夢の全盛期を知る者たちは、その異様なオーラに目を見開く。

 見覚えがあった。

 脳みそが悲鳴を上げるような、胃の中身がひっくり返りそうな、目が自らの意思で潰れてしまいそうな、身体中の細胞という細胞が沸騰して、その役目を終えるような。

 形容し難き絶望が、聳え立つ。

 そう、まるで───【悪夢】の支配者、“夢貌の災神”と対峙した時のような。


「……ダメだな、これは。話にならん」


 同じにするなと拗ねる女王を他所に、目覚めた怪物が、声を上げる。


【オォォォ───落ちよ、堕ちよ、墜ちよ。我らが星よ、偉大なる我が星よ…】

【最早、その治世に意味はなく】

【依然、その支配に意義はなく】

【故に、喰らおう。全てを、貴方の、全てを。終わりなき絶望に閉じ込められた、この常世に……良き終焉を】

【終わりを貪り、世界を救う。星の海に、希望を。そう、そうだ。我こそが───…】


【即ち、神である】


 “邪神群蟲” 顕現


尚、我らがラピちゃんは終始笑顔の模様。


……あっ、次回は投稿200話目記念で、登場人物紹介でも載っけたいと思います。

本編の続きは明後日にでも。

では。

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