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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
古き憎魔の悪夢災害
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185-大きなその背を追って


「さて、やりますか」

「えぇ、さっさとやりましょ」

「でも……どうやって?」

「無計画です」

「だろうと思った」

「うん」


 数時間前まで激戦のあった農地、その隅。魔法によって整地され、元通りになったその場所に、新世代と括られる魔法少女たちは集合する。

 痕跡は、既に掃除されてしまっているが。

 どうにかあの害虫の居場所を見つけ出して、潰してから気持ちよく宇宙旅行に出かけたい。否、宇宙旅行ではなく反転攻勢であった。気の緩みはよくない。

 とはいえ、どうやって突き止めるかは決まっていない。

 これはエーテの怠慢などではなく、やったことがない為手探り状態で行くしかない、というのが正確なところだ。魔王ほど万能ではない。


「一応、できるかな〜っていう構想はあるんだけど、ね。ちょっとその前に、共有しておきたいことっていうか……考えておくべきことがあるんだ」

「? なにかしら」


 腕を組んで唸り声まで上げるエーテに、なんだなんだとコメットとデイズは顔を突き合わせて続きを促す。

 顔の距離には慣れたモノで、平気な顔をして応える。


「これから、私たちはあの虫の、根源?繋がりみたいのを見つけて、害虫駆除に行くわけで。多分、なんだけど……お姉さんは、もう見つけてると思うんだよ」

「……言いたいことはわかるけど、その根拠は?」

「母体が何処かにあるって聞いて、あのお姉さんが痕跡を辿らないわけないよね」

「うわぁ、想像できる…」

「……それじゃあ、これもまた、大先輩からの試練、ってわけね」


 思いの外早く義姉の思惑を読み取ってみせたエーテは、脳裏に当たり前だろう?とドヤ顔でサムズアップする姿を想起した。


「……お姉さんに頼るのは、確かに手っ取り早いけど……このまま依存しちゃうのはよくない。だから、お姉さんもこんな遠回りなことをしてくれてるんだと思う」

「多分、というか。確実にその通りでしょうね……ずっと頼りっぱなしなのも、おかしな話だもの」

「そうだね……ここで、あたし達もできる子なんだって、アピールしなきゃね!」

「こんなことで失望されたくないし」

「……見捨てるのは早いけど、見直してはくれるのよね、あの人って。そこら辺はやさしいわよね」

「他人には厳しいから…」

「自分にも厳しくあれ」


 士気を上げて、文句も交えながら、3人は考える。

 時間はない。あまりに遅すぎれば置いていくとしっかり明言されている。


「うーん、こんなのでいけるかな?いけそうだな……ね、あなたはどう思う?ぽふるん!」

「……ぽふ!?」


 色々と決まった後、木陰に隠れていた妖精……心配から追いかけてきたぽふるんを呼べば、なんで気付いたの!?と言わんばかりの驚き顔でギョッとされた。

 普通に丸わかりである。

 別に、協力してはいけないなどとは言われていないが、周りに誰かいないか、見られてはいないかキョロキョロしながら近寄る。


「えーっと、あっ、この方陣なら……ここをこうすると、もっといいぽふ」

「うん?あー、あっ、こう?こういうこと?」

「そうぽふ!」


 ぽふるんの助言も得て、地面に描いた魔法陣の下書きを完成させた。

 そのやり方は、至って単純。

 ところで、星占いという術をご存知だろうか。つまりはそういうことだ。


「私任せ、ってこと…!?」


 そんなことはない。


「まぁまぁ。ほら、ここに魔力込めて!私とデイズで補助するから!」

「安心してね!はい、枝!」

「待って棒倒し!?属性混ぜすぎよ!」

「占星術にプラスして、枝が倒れた方向が進むべき場所、っていう迷信。完璧じゃない!?探知魔法とかもコミコミだから、信じてくれていいよっ!」

「あなた姉の影響受けすぎよ!?」

「まーまー」

「まぁまぁ」

「なんであなたもそっち側なのよデイズ!!思考停止して便乗するんじゃないわよ!!」

「だって、ねぇ?」

「ぽふ…」


 ラピス塾で習った占星術を基盤に、探索魔法を組み込みより捜し物が見つかるように魔法陣を作って、更に魔法でちょっと運がよくなるようにした花魔法印の枝を置いて、目的の居場所を探る。

 数刻前に戦闘があった場所の為、触媒などがなくとも、見つけることはできる……筈。エーテはそう結論付けて、魔法で無理矢理道理を通すことにした。

 設計と構築がエーテ、幸運付与がデイズ、助言と補佐がぽふるん、実行がコメットの合作である。

 負担はコメットの方が大きいが。


「仕方ないわね……行くわよ」


 期待に満ちた目に背中を押され、そして、たった一人で全てを背負おうとした、心から尊敬する大先輩の期待に、応える為に。

 魔法陣の外縁に、手を触れて。

 魔力を注ぐ。


「───“縁よ辿れ”・“あまねく星々に、我らは尋ねる”・“探し物は、どこ?”」


 詠唱と共に、魔法陣は青く輝いて───極星の導きが、彼女たちに答えを教える。

 脳裏に、その軌跡が浮かび上がる。

 そして。


「枝が…」


 魔法陣から放たれる、微量の風圧に煽られて……魔法の枝が、彼女たちの探し物を指し示す方向へ倒れる。

 奇しくも、その方向は。

 彼女たちの脳裏に、極星が導き出したのと、同じ方角───南南西。


「つまり?」

「これって?」

「成功ぽふ!」

「……ほ、ほんとに成功した…」

「これが、疑わない心の力…」

「マジなのね…」


 答えがわかったのならば、まう迷う必要はない。3人は我先にと飛び出して───ティーセットまで広げて寛ぐ、ラピスの元へ駆ける。


「おや、できたみたいだね」

「うんっ!あ、みんな、せーので言お!」

「えぇ!」

「うん!」


 待っていましたとカップをソーサーに置いて、ラピスは答えを促す。


「「「せーのっ!南南西!!」」」


 声を揃えて、宣言すれば。


「……ふふっ、正解」


 模範解答に満足した顔のラピスが、3人の頭を順々に、やさしく撫でた。


「っ、やったー!」

「いえーい!流石あたしたち!」

「ふふん、どんなもんよ」

「おめでとうぽふ!」

「よくできました。それじゃ、行こっか。時は金なりって格言もあるしね」

「うんっ!」


 大きな目標の前に、盛大な寄り道を。

 対“星喰い”の肩慣らしに、虫の残骸は選ばれた。明日の平和を守る為に、魔法少女たちは飛び出す。地球に、虫の大群が来ないとも限らないので。暗黒銀河の為でもあり、地球の為でもある。

 どちらにせよ、星々の平穏を守る為に。

 宙を目指す。








꧁:✦✧✦:꧂








 汽笛が鳴る。煙を吹き上げる。

 魔法少女を乗せた夢色の機関車が、宙に向けて引かれた線路を進む。


「いっ、いってきまーす!」


 車窓から手を振って、アリエスが故郷に別れを告げる。これから敵地に乗り込んで、皇帝に叛逆するのだ。もう、この星に帰って来れない覚悟を、彼女は決めていた。

 それを察しているのか、何人かの民は涙目で手を振り、主君を送る。


「アリエス様〜!」

「ひっ、姫様ぁ!どうか、ご無事で!!」

「お帰りをお待ちしています!」

「うわ〜ん!」


 それにしても、すごい数のお見送りだな……星の住人の大半がいるんじゃないの?

 ……アリエス曰く、仮の引き継ぎは済ませたらしい。

 相手はシェラ。長年アリエスの補佐官として働いていた実績と、その延長線上にある業務の引き継ぎは可能だと、暫定的に任せてきたのだとか。

 本人泣きそうだったけど。


 ……政治的権力を捨てて、異星にバカンスに行くようなもんだもんな。そう考えるとアリエスの思いっきり、僕が思ってたよりヤバくない?

 いや、まぁ。あの性格からして、さっさと辞退したい、とか思いそうだし……なに、地球ってニートできる避暑地だと思われてる?訂正せなあかんやん。

 ルイユと同じイロモノ枠扱いして扱き使ってやろ。

 ……あいつら今頃なにやってるんだろ。ちゃんと防衛線張ってるんだろうな?


「バイバーイ!」

「じゃ〜な〜、ガキども〜!」

「お姉ちゃーん、行かないで〜!」

「もっと遊ぼ〜!!」

「やー!」


 ……えっ、なんか年長組がすごい人気なんだけど。一体なにをしたわけ。困惑顔をブランジェ先輩とカドック先輩たちに向ければ、なんてことないように答えられる。

 えっと、なに?子供たちと遊んだだけ?

 それだけなの?本当に?すごい求心力と言うか、子供の心の掴み方が上手いというか……

 あんなギャン泣きされるぐらい懐かれてるの、正直……羨ましいような羨ましくないような。僕自身あんま子供と触れ合わないから、そこら辺よくわかんないんだけど。

 まぁいいや。


 列車の進路は南南西。デジタル化した星間航路……要は暗黒銀河のマップを開いて、そこに映る星々から、虫共が物理的に飛んできたのであろう星を探す。

 多分、すごい直進!ってわけじゃあないだろうけど。

 うーんと、小惑星帯だな。星粒かってぐらいあるな……でも、これよりは大きいサイズの筈。それっぽいサイズの小惑星なら、無限に見つかるんだけど……仕方ない、目視で虱潰しに探すか。


「殺虫剤でも持ってくればよかったね」


 宙に向かって伸びる線路、まるでジェットコースターの登りにいるような感覚に、無意識に身震いする。うーん、よくよく考えてみれば、こういう絶叫系アトラクションに乗ったのも、随分前だね。魔法でならよく飛んでるけど、それを同判定はできないし。

 ……急発進と急加速させて、呑気に座ってる任せきり共びっくりさせてやろうかな

 やるか。


「スピード上げて。驚かせてやろう───強いGってのを教えてやれ」

「わーい!なのです!」


 電車狂いで加速狂いの車掌を唆して、列車のスピードを跳ね上げさせた。

 悲鳴?すごかったよ。ゾクゾクした。

 でも拳骨は酷いと思う。


「解せぬ」

「解して」


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