182-クエスト受注、異星交流
朝方。長老たちのご厚意で、星の中枢である屋敷に一晩泊めて貰えた僕たち。お風呂もご飯も寝る場所も用意してくれたから、普通にお礼言ったよ。
……アリエスを枕にしてることには、苦情が来たけど。
あいつもあいつだ。ナチュラルに布団にいるのが悪いと僕は思うんだ。責任転嫁?50:50どころか僕に全ての非がある?枕扱いの諸悪の根源は僕?
……うるせぇ!!
取り敢えずよく寝れなかったことだけは追記しておく。ダメだな本当。
「依存よくない」
「あぁ……うーちゃんって警戒してるようで甘いもんね。そこら辺ガバガバだよね」
「語弊産む発言やめてくれない?」
更なるご厚意で毒のない朝食まで頂いた後、絶対に僕の隣を陣取る幼馴染にいつも通り苦言を呈していると。
バタバタと、慌ただしい足音が聞こえてきた。
なんだなんだと廊下に顔を出せば、慌てたキリンさんがいた。すごいキリンだ……でも首ちょっと長いだけか……もっとこう、長いんじゃないんだ。首長族的なのか…
ちょっとした失望を横に置いて、廊下の先にいた長老になにかを報告する彼。彼らの会話を盗み聞きしよう。別に他意はない。
「長老!大変です!」
「どうしたんじゃ」
「西の外れに怪獣が!既に農地が被害に遭って…!」
「なんじゃと?またか!今週で何回目じゃ!」
「十四回目です!」
「多い!!」
……なんか大変そうだな。薮蛇になる前に聞かなかったことにするか。
回れ右と。
「その話、ちょっと詳しく!!」
そう厄介事に巻き込まれる前に、そっ…と半開きの扉を閉めようとしたら。馴染みのある妹分の声、勿論その他の声と手が、僕を押し退けて登場。
困惑顔のズーマー星人たちの前に、堂々とした佇まいで現れるのだった。
おいバカやめろ。ヤツらの巧妙な罠かもしれないだろ。本当に困ってそうだけど。そんな善行積んでる暇あったら休んでなさいよ。
……無理か。
「お、御客人?あっ、聞かれちゃいましたか…」
「まぁまぁまぁ。その怪獣って、ここの人たちでも余裕で倒せるんですか?」
「いやぁ、重傷は確定かなぁ。あ、安心してくれ御客人。アリエス様の御友人であるあなた方様に、危害なんてのは加えさせないからな」
御友人っていうか捕虜っていうか、枕っていうか。
「あの……そいつら、私たちが倒してもいいですか!?」
言いやがったよエーテちゃん。便乗するように頷くなよそれ以外。頭殴るぞ。なんでそんなやる気満々なんだ……ライトだって苦笑い……いややる気だな?
なんで?ねぇぽふるんなんで?
……なに、一飯の恩?ご厚意には厚意で返すべき?まぁわからなくもないけどさぁ。
善人共が…
「しかしですな」
「大丈夫です!それに、私たちの目的、わかっています?怪獣程度やっつけられないで、世界の王様を倒そうなんて有り得ないでしょ!」
「……確かに、その意気は素晴らしいものです。ですが、あなた方の目的とは違う。ここで下手に消耗するのは……よくないことなのでは?」
「そん時はそん時よ。私たち、行き当たりばったりで今を生きてるのよ」
「それに、もしもの時があっても、あたしたちの大先輩がなんとかしてくれるもん。ね!!」
「最終兵器らぴすやめろ」
期待値大の目で僕を見るんじゃない。異星人もあなたが保護者なんだ…みたいな目で見るな。なに、僕のことどう思ってるわけ?
信用ならないから、悪いけど読心使うよ?
……は?おい誰がアルティメットラスボスマンだ。僕はガールだぞ。いやそこじゃなくて、なんだそのイメージ。ふざけてんのか?ドラゴンもおかしいだろ。誰が邪竜じゃぶっ殺すぞ。
……キリンの青年は、ぴゅあぴゅあなタイプか。邪念が欠片もない。マジでアリエス様のお友達すげーって感情で思考が埋め尽くされてる。ある意味ヤバい。
問題は長老。この人も敵意はないんだけど……
これを機に試そうと思ってるな。自分の目で確認したいタイプと見た。怪獣被害が日に日に増えてることに辟易してるのは本当だけど、それを利用して将星を倒せると噂の実力を確かめたいとも思ってる。
油断ならない大人だ。突然のアクシデントも自分たちの利になるように考えてる。
老獪ってやつ?
でも、まぁ。敵意も害意もない……どちらかと言えば、親心かな。そりゃあ心配だろう。アリエスのことが。彼女結構若手っぽいし。
……若手で将星で入ったばかりだけど結果は残してた、将来有望な戦士を手放したくはないわな。
そんな若手を僕は潰したわけですが。
なんかごめんね。
彼女の将来的な所属はアリスメアーです、なんてことを言えるわけもなく、話はトントン拍子に進んでいく。
……仕方ない。善行大好きっ子たちにここは任せよう。
「はぁ……好きにしな」
「うぅむ……気乗りはしませんが、その熱意にあやかってお願いすると致しましょう。どうか、この白羊宮を救ってくださいませ」
「お任せ下さいっ!みんな、行こ!」
「キリンさん場所は何処!?」
「ナティーです!既に自警団も動いていますが、此方へ!ご案内致しますっ!」
「はい!」
僕と長老の許しを得て、エーテちゃんを筆頭にドタバタ駆けていく。残ったのはメードとペロー、ビル、リデル、ライト、ブランジェ、カドック、フルーフ。他の面子……チェルシーとマーチとピッド、ぽふるんは新世代の背中を追いかけて行った。
残りすぎじゃね?
……騒がしいのがいなくなったと思えば、許容範囲か。元気でなにより。
「……長老さん。事前に伝えた通り、僕たちは昼過ぎには次の星に出発するから。それまでの間、他にもあるだろう面倒事とか、困り事、自分家の民にはやらせたくないの、こいつらにやらせていいよ」
「おや、それは助かりますな……ですが、一体どのようなお考えで」
うーん、そう警戒しないでもいいんだけど。こいつって暇にしとくと何しでかすかわかんないし。特に先輩たちと駄メイドのことなんだけど。
疲労なんかは魔法でどうにかなるしね。
ってなわけで。
「迷惑かけたお詫び。慈善事業だと思ってよ。そもそも、魔法少女ってのは悪を浄化して、滅ぼすんじゃなくて……困った人を助けるのが、本懐なんだから」
「……滅ぼしまくってる人がなんか言ってる……」
「黙らっしゃい」
正論やめろ。いいから、イメージアップも兼ねて働いて好感度上げてこい。
僕は次の星に行く準備をしてるから。
何処かは決めてないけど。
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白羊宮の西の外れ───荒れ果てた農地に、宇宙怪獣が数匹降り立つ。その見た目は醜悪の一言に尽き、対峙する者によっては発狂、即ち憤死してしまうであろう姿。
徒党を組み、群集して、星の全てを喰い尽くす。
銀河一の嫌われ者。存在をも忌み嫌われ、絶滅寸前まで酷く追い詰められても尚、並外れた生命力で生き永らえ、強大な繁殖力で飛翔を再開するバケモノの群れ。
その一端が、白羊宮に降り立つ。
作物だけではなく、星の全て。そこに住まう民までもを捕食する、暗黒銀河の瑕疵。
若しくは、罪業の権化。
「うわーっ!!」
「キモいキモいキモい!!」
「気圧されるな!絶対に突破されるなよ!!」
「おおおおあおっ!!」
「ひぃ!」
悲鳴を上げる自警団が、刺股や槍、弓などを手に必死に立ち向かうも、戦況は動かず。あまりにも大きく耳障りな羽音と、牙を擦り合わせた不快な音。それが、異形たちの到来を指し示す不吉のサイン。
複数の属性が混ざり合う、人工の災厄。
それは、かつて十二将星に名を連ねたモノ。失意の底、絶望の最中に生まれた、偉大なる王への反骨心。この世の全てを貪り尽くすまで止まらない、酩酊する悪夢。
主なき今、存在するのは終わりを知らない生きた術式。
“亡羊黒堊”の台頭により、その地位を追われた敗北者の成れの果て。
蟻が跋扈する。
蝿が飛び回る。
蛾は夜を舞い。
蛆が這いずる。
異形の怪物と言ってもいい程、大きく、歪み、恐ろしい奇形となった、蟲の群れ。
「“死喰いの落星”だぁ〜!」
───元・暗黒王域の十二将星
“大連蠱毒” ムイア・ドゥアーダァド
死して尚、その怨みに果てはなく───機構となった、終わりなき成れの果てが牙を剥く。
全ては、己を裏切った王を弑する為に。
魔蟲、侵蝕。