177-いざ、宙の果てへ
さて、今日は宇宙へ行く日である。
ブチ切れMAXの超絶説教×2セットを終わらせて、少し休憩を挟んでから。顔の腫れを元通りにして、見れる顔に戻してきたクソガキ集団を庭園に集める。
魔城?もう面倒だから時間魔法で元に戻しといた。
本当は嫌だったけど。時間が無いから、手を抜いて補修するに留めた。
チッ。
「機嫌直して〜、お願い…」
「お姉ちゃんがなんでもするから…お姉さん……」
「え?穂花?なんで?裏切らないで…?」
「自業自得だよ」
「反省するぽふ」
「なんでぇ」
今なんでもっていいました?まぁ、たかが知れてるからいらないんですけど。取り敢えず反省してるのはわかっ、本当に反省してるんだろうな?兎に角、なんでもかんでも派手にやればいいってもんじゃないんだよ。
まったく。兎に角、いつまでも怒ってちゃいられない。
いい加減話を進めよう……
ちょうど、時間なことだし。
「荷物は?」
「全部持ったよ!これ持って夢に入るの?」
「つーか、物持ち込めんのか」
「今更なのです」
遠出っていうか、長旅だからね。暫くは地球に帰っ……転移魔法でわんちゃんあるかないかの距離だから、多分、帰って来れるのは当分先だ。
あの時は、「星の回廊」とかいう皇帝専用技を利用して行き来できたけど。結局、あの綺麗な亜空間ロードは再現できなかったし。
負けた気分。
「はい集合集合〜…ん?」
ワーワーうるさいヤツらが運んできた荷物、を……おい持ってきすぎ。そんな持ってく?あのさぁ、引っ越しじゃないんだからさぁ……おバカさんしかいないわけ?
取り敢えず荷物検査しまーす。全員並んでください。
「えーっ」
「なにも悪いものは入ってないわ!」
「チェックするようなのは特に!」
「んっ、ない」
「はい問答無用ッ」
「やーっ!」
渋るのを無視して荷物を取り上げる。ボストンバッグにキャリーバック、バックパック、そこら辺の大荷物入れは別にいいんだよ。そこは個人の自由だし。
でもね。
「冷蔵庫ごと持ってこーとするな!!」
それも業務用サイズ!なに、買っ……きららちゃんのか成程、それじゃあ仕方ない……ってなるか!バカ!なんでバカでかい冷蔵庫ごと持ってくるんだよ!
この大富豪が!際限ないのやめろってこのおバカ!
って、他のヤツらのもぞろぞろと!
「本棚!」
「ソファ…?」
「滑り台…滑り台!?」
「カーテン!?なんで!?」
「コスプレグッズ……?」
「パソコンは別にいいか……いやデスクトップ!!」
「甲子園の土どっから持ってきた!!」
「女神像!いらない!」
「等身大フィギュア、捨てろ!」
「サンドバッグ……はいいか」
「掛け時計はもっといらん」
「電波式はもっとだ。圏外だばーか」
「クソデカクマ持ってくんな…」
「ちょ、多い!多いっ!」
「大喜利やめろ!!」
「あ゛ーッ!!」
出発前に発狂させる気か!?お荷物ってレベルの話じゃないんだけど!?いらないだろこんなの!置いてけ!重量制限かけてやろうか!?
大喜利に命かけんなバカ共が!!
特に13魔法!いらん家具の押し付けをついでにやるな!
はぁ……本当にもう……便乗しちゃって……後輩たちに悪影響出しまくってる……もう、純粋無垢なかわいこ達はいないんだね…
断捨離しよ。
「全部リサイクルだ」
「……やー、その。異空間に収納して持ってく、ってのはできないのか後輩」
「僕をアイテムボックスにする気か貴様」
「悪かったって」
こんな粗大ゴミ持っくかバカ。僕は容量無制限の超無法収納箱じゃないんだぞ。武器と殺意と食料etcでいっぱいなんだわ。絶対持ってかんぞ。つーかネタでしょそれ。
ネタって言って?
……えっ、マジで持ってく気だったの?え、冗談抜きで言ってる?
こいつらヤバ…
「みんなー、配信で行ってきますって言わなきゃだから、早く集まって〜?」
「オマエが主導権握んなや…これ、置いてくから」
「いや、うん。すごいな。まぁ、地球は任せたまえ。最悪財閥連合全ての財力をもって解決しよう」
「身バレ駄目、絶対」
「ハハハ」
一瞬で人の輪が僕からあっちに移った。なんか悲し。
オーガスタスに全てを預け、呼んでくるリリーライトについて行く。なんでも、地球を出る前に配信するんだと。平和を望む民衆に行ってきますを言うんだとか。
……月に行く宇宙飛行士の記者会見の簡易版かな。
まぁ何も言わずに飛んでくのも忍びないから、大人しく従うとしよう。
もう配信魔法はつけてるのか、騒がしい声が絶え間なく響いている。
「やっほー!今から私たち、夢を亘って宇宙に行きます!前人未到の暗黒銀河!制覇してくよ!」
「“星喰い”さんを倒すだけでいいんじゃないの?」
「刃向かってくるヤツは全員敵よ」
「みんな物騒だねぇ」
「今更すぎる…」
:もう!?
:行ってらっしゃい!
:頑張ってな〜。応援しとるわ。
:虐殺だけはやめよう?
:帰りを待ってます
:がんばって!
文字の声援。好き勝手言いやがって。虐殺する心配までされてんのなんかヤダな。そんなに僕やりそう?そこまでやらかしそうに見える?僕が?そっか…
否定できないかも。
……宇宙に行くのは、“星喰い”にリデルを食われて星が終わるのを防ぐ為だ。平和交渉は、多分無理そうだし……魔法少女との殺し合いを、相手は望むらしい。その果てが滅びでも、あの蛇はいいと思っている。銀河をかけた生存競争なんて、正気じゃない。
殺すか殺されるか、それだけだ。
そのリデルを連れてくのは、正直危ないかもだけど……手元に置いておかない方が不安だ。地球に置いていって、気付かない間に掻っ攫われる可能性を考えれば、目の前で奪われた方がいい。
今後のことも考えれば、リデルの体内に埋め込んである発信機、ちょっと強化しとくか。四六時中位置情報わかる仕組みにしてたけど、圏外に行っても通じるようにはまだできてなかった。移動中に強化しとくか。
……埋め込み方?
魔法で、こう。
ちなむと無断だ。
「ラピちゃー!おいで!」
「……はいはい」
なんか懐かしさを感じたのは、きっと気の所為だ。
声に釣られて近寄る。どうやら、代わり代わりでみんな決意表明してた様子。
やれってか?
:ラピ様ー!
:お久しぶり
:もっと配信して
:きゃー!
:きゃー!
渋々顔を出せば、配信画面に映る僕の顔。一斉に賑わうコメント欄。
「お待たせ。それで?」
「決意表明、どうぞ。もうみんなしたからね」
「……参考に聞くけど、何言った?」
「勝って帰ってきますって言った」
「宇宙征服はロマンだけど自重するって言ったぜ」
「来週スタートの新作アニメ、元マネージャーに録画とか頼んだよ」
それ決意表明違くね?えぇ……そういうのもありなの?それなら僕もやっちゃうよ?
ダメすか。差別だ。
「ごほん……えぇー視聴者のボケども。取り敢えず、宙のお星様の数でも数えて、僕らの帰りを待っててください。フルスコア、欠員無しで帰ってくるからね……安心して。僕が全部キャリーするから。任せろ」
「私たち、そこまで子供じゃないよ……」
「後始末僕に押し付けるじゃん」
「「「お世話になります」」」
「こいつら…」
:やっぱママじゃん
:可哀想…偏にテメェが優秀なせいで…
:いつもの調子でなにより
:息合ってて草
:自覚あるのね…
:可哀想
:今更
うるさいやい。
いつものようにコメント欄と、あと魔法少女とも言葉のプロレスをしてから、話題を移す。
「地球の防衛面は、オーガスタスとルイユ・ピラー、あとクイーンズメアリー……魔法少女狩りに頑張ってもらう。高確率で別働隊が地球に来るだろうから、頑張ってね」
「アクゥームは全ブッパでいいんよな?」
「いいよ。人命優先、避難優先で動け……あぁ、敵さんに塩を送るヤツに、情けはいらないから」
「見捨てていいと?」
「餌にしろ」
「Kill…」
「御意」
:死刑宣言されちった
:ナチュラルに言うよね
:気持ちはわかるけど
:自分以外の裏切り者には容赦ないラピスさん
:殺意たかぁい
自分のことを棚に上げるのは当たり前だろ。置いていく幹部たちの心配はあるが、ここは彼らを信じて地球の安全を任せたいと思う。帰ってきたら地球がありませんでしたなんて未来は、【悪夢】でも見たくはない。
一応他にも策は講じてあるけど……どうなることやら。
なんとかなるか。なんとかできるヤツを残してくんだ。平気だろ。
不安視することは無い。なにがあっても───…
「勝つのは、僕たちだから」
:知ってる
:応援してるぜ
:信じてます
:がんば!
僕が視聴者諸君に望むことは……そうだね。毎日、宙を見上げて、僕たちの帰りを待つこと。待って、祈って……応援してくれさえいれば、それでいい。
簡単だろう。今までしてきたことだろう。
なんの心配もいらないさ。それに、配信魔法は高頻度でつけるんだ。それ見て応援して、コメントに文字打ちでもしてればいい。
ただ信じて待て。たったそれだけを、僕は望む。
「さぁて───準備はできた?」
「問題ありません」
「いつでも行けるッスよー!」
「あとは夢と繋げるだけだ」
「おっけぃ」
今日の為に作ってきた兵器群……僕とほーちゃんの家の地下から運ばせたブツを背負った彼らに礼を告げて、遂に宇宙出発への音頭をとる。
わいわい談笑する魔法少女たちに声をかけて、その他も含めた、宇宙へ行く全員で円を作る。
アリエスを囲んで。
シュールだな…
「万全を期す為に、“夢渡り”は僕の夢から入る。万が一、あっちにも同じ技の使い手がいて、出待ちされてたら……面倒だしね」
「うるるーの夢空間は、悪夢色だから問題ないな」
「……えっ、でも、私たちが侵入したところは……あっ、魔法少女の浄化パワー。成程」
「自己完結早いな」
僕の「夢の世界」は、二つの要素が入り交じっている。魔法少女“蒼月”としての夢と、悪夢の大王“蒼月”としての悪夢の二つだ。前者はアリエスたちに踏み入られたけど、後者は踏み入れない。だって、普通の【悪夢】よりも……死の気配が濃厚だろうから。
そんな危険地帯へ、“夢渡り”をさせる。
……自分の領域を危険地帯呼ばわりするの、正直すごい嫌だけど。
「心の準備は?」
「大丈夫!」
「ばっちこーい!」
「いけるよ!」
「おっけー……それじゃあ、アリエス。初めて」
「はいっ!」
みんなで一緒に、夢の世界に行けるように、アリエスの魔力の波長と、僕たちが合わせてやる。
目を閉じたアリエスが、息を吸って、吐いて……
魔力の循環を速めて、夢色の力で僕たちを包んでいく。暖かな光が、少しこそばゆい。
あぁ、実際体験するのは初めて、だけど。
案外悪くないね。
「───“あなたの夢と、わたしの夢・終わりの果てまで・泡沫の夢を、あなたと共に”」
「夢繋ぎの魔法!私たちを、あの宙の向こうへ!」
発動は一瞬。
視界が明るく染まって、意識が一瞬飛んだ感覚がして。ゆっくりと、目を開けば……
「おぉ…」
「わぁ…」
蒼い満月が見下ろす、星空と水面が広がる夢の世界が、僕たちを出迎えた。
……どっちも同じ景色なのは、良いのか悪いのか。
「あれぇー!?ワタシの夢奏列車、なんかゴテゴテに……なんでぇ!?」
「あっ…なんでだろうなぁ」
「不思議だなぁ」
「うんうん」
そして、星空が反射する水面に立つ、桃色の夢奏列車。何故か武装が増えてるけど、きっと気の所為だろう。全然大丈夫だと思う。
似合ってるし。
造形師ピッドの癇癪を抑えながら、荷物を持って車両に乗り込んでいく。僕は全部異空間にしまってるけど、皆は手荷物だから、そのお手伝い。
ほら、浮かせて運ぶよ。
「全員乗った?」
「点呼───…不要!全員確認!」
「よろしい」
それじゃあ、行こっか。
一両目に集まって、車掌室を背にしたゴーゴーピッドに合図を送る。
「車掌さん、出番だよ」
「はいなのです!それでは夢幻鉄道、暗黒銀河行き───出発、進行っ!なのです!!」
いざ、宙の果てへ。
夢奏列車、出発。




