176-開通、夢幻鉄道───暗黒銀河行き
「こうなのです?」
「そうそう。何処までも行けるってイメージを強くして」
「それはいつもやってるのです」
「……いつも以上に」
「はいなのです!」
人払いを済ませた庭園で、坐禅を組むゴーゴーピッドの頭に手を添える。今、この子の脳みそに描かれた魔法陣、イメージの具現に少し手を加えて、ちょっとした小細工を作っているところだ。
別に隠す必要も無いから、普通に言うけど……ピッドの列車魔法で、夢の世界を突っ切るからだ。
“夢渡り”を徒歩で行くのも面倒いからね。
こいつの列車で安心安全で夢を突っ切る。この工程は、万全を期す為の寄り道。列車魔法も魔法なんだ。持ち主のイメージ次第でその強度は左右される。夢という不確かで不安定な世界を駆け抜ける為に、どんな障害も乗り越える最強の列車を作りたい。だから作る。作らせる。
おら、もっと集中しろ。イメージイメージ、もっと!
うーうー唸ってるピッドを押さえつけて、がんばれーと心からのエールを送る。
ほらほら。
「鬼畜なのです〜!」
「みんなの為だからね。ほら、もっと意識研ぎ澄ませて。ちょっとも休むな。納期は今日の朝だよ。なんなら後……五時間ぐらい?ヤバいな時間ないな?」
「激ムズなのですっ!もっと早く言えです!」
「? 僕に文句?」
「ないのです」
「よろしい」
別に威圧はしてないよ?ただ、ここでハッパかけないと話にならないだけで……大丈夫大丈夫、僕信じてるから。君ならできるって。なにせ、二年前の後輩たちの中じゃ、一番の有望株だったんだ。次点で傀儡師と芸術家。
本当に、よくできた後輩だと思うよ……特にこの子は、こんな僕を慕うっていう意味わからん具合だし。
嫌いじゃないよ。
嫌いじゃないからこーやって頑張らせるんだ。信頼には嘘をつかない。
「月お姉様〜!こんなっ、感じ…なのです!?」
そんな僕の、押し付けがましい熱意にこの子は応えて、理想通りの魔法陣を築き上げた。
おぉ、これは……流石だね。
手直しの必要を感じない。“汽笛”の名に恥じない術式。贔屓目に見ても、この魔法は完璧と言っていい。ピッドがこよなく愛する列車。その想いを形にした、列車魔法……あぁ、やっぱり。
本物が作った方が、格段にいいな。
「すごい、すごいよピッド。完璧だ」
「! やったのです!えへへ。もっと撫でて!」
「それじゃあ今からこれを顕現させます」
「うぇーん!!」
「頑張れ頑張れ」
褒めて欲しそうなピッドに申し訳なく思いながら、夢の世界でも稼働できるように魔法を構築させる。夢幻を走る列車なんて、何処かロマンチックでかっこいいでしょう?
そう後輩を焚き付けて、魔法を作らせる。
魔力圧で、庭園の一角が更地になったが……問題ない。その上に広がった魔法陣が、それ以上に意味あるものだとわかっているから。
「うぐぐっ…」
いつもにない唸り声。そっか、それだけ高等難易度……不安定な夢の世界を進むには、それ相応の負荷は必須か。僕だって、夢なんだからなんでもできるっていう大前提があってもそうなるだろう。
イメージが追いつかないわけじゃない。
イメージを形成するのに時間がかかるのだ。それぐらい集中して、やっとできる代物。簡単そうだけど、簡単ではない。魔法の難易度なんてそんなもんだ。
使い所は、その一瞬にしかないけど。
僕の要望通りに……否、完璧以上のモノを仕上げようと頑張ってくれている。
「列車魔法…!」
魔力が形を象る。夢を突き進み、夢を乗せて、あらゆる悪夢を乗り越える魔法の列車……並んだ箱は数えて十両、可愛らしい桃色柄の運び手が、形成されていく。
SL、好きだね。燃料は魔法石か……浪漫有り、と。
ゴーゴーピッド、笛吹未来の理想と夢がつまった───夢奏列車。
「───<ハイドリーミー・マギアプレス>!!」
魔法少女を乗せ、希望を乗せて、宙を目指す列車魔法。夢の世界を突き進んで、終わりのない【悪夢】の世界をも踏破する、列車の形をした方舟。
“星喰い”を、暗黒王域を、全てを蹴散らす最高傑作。
完成だ。
「できたのです!」
「すごい!流石ピッド!僕の後輩!偉い!強い!」
「ふぅ〜↑↑↑なのです!!」
「かっこいい!かわいい!───それじゃ、こいつを僕の精神世界に格納して、と」
「あれ、ヨイショタイム終わりなのです?」
「終わりです」
「そんなぁ」
ふふっ……でも、これで盤面は整った。“星喰い”の元にこれでひとっ飛びできる。まぁ、流石にすぐとは言えないけどね。だってそうでしょ。先にアリエスの星とか、あのライオン丸とお話とかしなきゃいけないし。
あーあ。やることが多い。
取り敢えず夢奏列車はないないする。“夢渡り”は、僕の夢を始発点にする予定だから、ここでいい。
……僕の夢の世界って、変な夢、じゃないよね。
アリエスと水女と牛をぶちのめした時、初めて夢の中を認識したけど……多分、大丈夫な筈。綺麗な月が見下ろす素敵な夢な筈。
今のうちに確認しとくか。なにかしら反応される前に。
「うーちゃー!終わった!?」
「はぁ、うるさいのが来た……なにー?」
「ごめん城爆発する!!」
「は?」
悲鳴が聴こえた。
爆音が鳴り響いた。
爆風が届く。
……なんであの城、定期的に爆散するの?あれ、結構な時間かけて修復・強化してるんですけど。聖剣兵装なんて代物にも耐えられるような耐久試験、してるんですけど。
おかしいなぁ。おかしいよなぁ……
僕、ガンバって補修しまくってるんだけどなぁ。なんか追いつかないレベルで壊されてるよね?画面外で何回突然爆破されてるの僕の城。
怒っていいかな。
仏の顔も三度まで。それを破って、十度ぐらいやれやれ呆れたムーブで沈黙してやってるんだけど。
もういいかな?
いいよね?
「ピッド───殺れ」
「あっ、あいあいさー!なのですっ!!」
「逃がすなよ」
「はいっ!」
ひと仕事終えたばかりで申し訳ないが、追加で魔法少女討伐の手伝いをしてもらおう。魔城までの通り道を解放、開通させてから暫く経つが……
ここまで僕をコケにする女は一人しかいない。
妖精女王になってからの威力の変化を試したいだとかで聖剣をぶっぱなした。安眠を貪る僕に、寝過ぎだと魔法を叩き込み、余波で倒壊させた。理性を取り戻した魔法少女狩りとの鍛錬で、魔城の一角が吹き飛び、そこで止まらず暴れまくって爆散させた。とんでも兵器を作ろうぜだの、火力重視と呪詛ラブ女と結託して本当にとんでもないのを作り上げて爆発させた。魔法少女と三銃士を鍛えるからと聖剣ブンブンして、この魔城を壊すのが最低条件だよとか宣って唆して後始末の仕事を増やしやがった。
そう、全部こいつだ。全部穂希が渦中にいる。
悪いのは誰だ?言うまでもない。言うまでもないから、ここで潰す。
残り時間は少ないけど……出発したら、そう殴ることもできないんだ。
「いい加減にしろよテメェ!!」
「ごめんなさいごめんなさいっ!!」
「許さねェよバカッ!!」
「オワーっ!?」
列車に轢かれて目を回しているバカを、しこたま殴って魔法の的にした。キャラ崩壊?なんのことだ。こんぐらい怒ったって許されるだろマジで。裏で頑張ってんだぞ。
勿論、他のヤツらも。
「すびばせんでした」
「申し訳ございませんでした…」
「んっ、ん…」
「ゆるちて……」
「ふんっ」
ちなみに、顛末は魔法少女全員の大技が正面衝突して、訓練場を大破させるどころか上層の魔城を貫いてその場の全てを灰燼に帰した、だ。
出発前の準備運動じゃねぇよ。
ちゃんと全員シバいたよ。功労者のピッドには贔屓していっぱいご褒美した。
当たり前だよなぁ???
……補足すると、説教が終わった後、アリエスを脅してひと足早く人の精神世界に侵入したバカ共が、夢奏列車に武装を足したのは言うまでもない。
余計なことすんな。
オマエのこと言ってんだぞ、銃火器と彼岸花と重力女。マジで学習しないな???
「ごめんなしゃい…」
「なんか怒ってばっかだな。短気は損気だぜ?……あっ、これマジで怒ってる。すいませんでした。謝るんでどうかその大砲を突き付けるのはやめてもらって…」
「心許ないかなぁ、なんて。うん。よくなかったよね…」
「正直悪ノリした。ごめん」
「バカがよ」
……便乗して列車に自爆装置取り付けたの、みんなには内緒ね?
本当に怒ってばっかだなこの主人公…
てか、そんなことよりもストックがまずーい!!
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