表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/235

170-魔法少女グッズはだいたい無許可


「ヒヒヒ、すごい、すごいっ、すごいっ!!こ、こんなに魔法少女を題材にした媒体があるなんて、考えられない!来てよかった!ビバ☆チキュウ!!!」

「……喜んでもらえてなにより」

「すっごい熱量」

「ん、これ欲しい」

「はいはい」


 春葉原で一番の魔法少女グッズ展開店───過去現在、ここ日本で生まれた多くの魔法少女を商品化したグッズが立ち並ぶ店内で、蠍の異星人が咆哮をあげる。

 嬉々としてはしゃぐタレスは、カゴの中にこれでもかと魔法少女のフィギュアやタペストリー、ミニキャラなどを投入していく。

 その横で、リリーライトとチェルシーもなにかしら……主に、自分と縁のある新世代のグッズをカートの中に次々放り込んでいく。カートを運ぶ僕は、カゴの中を占領する妹分と娘の友人に辟易と溜め息を履いて、選んで貰えない後輩のグッズを買ってやることに。可哀想な彗星ちゃん。偏に買ってくれる人がいない君のせいだが。

 カゴへと無造作に積み上がるグッズは、奇跡にも等しいバランスをもって潰れない。既に何周かしている上、他の店舗でも購入しているが……タレスの勢いは留まることを知らない。


 ……おい、なんだこのデカイ人形たち。壁にズラ〜っとお馴染み13魔法の等身大が並んでるんだけど。

 えっ、すごい精巧。怖い。

 僕のまである…


「等身大フィギュア!!?買います!!」

「……こ、こんな邪魔なの、作るヤツも馬鹿だけど、買うヤツも馬鹿だろ…」

「魔法少女博物館作って寄贈しますぞwww」

「やめろっ」


 気前よく購入を選択するタレスを止めようにも、何故かヤル気に満ち溢れた店員たちに妨害されて失敗に終わる。なんでオマエらそっち側なんだよ。将星の回しもんか?

 購入させんなよ。こちら非売品なのですが、お客様には特別に…じゃねぇんだわ。

 乗り気なのやめろ。

 僕を買うな!!


「これ、私たちをイメージした香水」

「買います。買わせていただきますっ!!」

「はァ……あ、これ無断録画に編集された上で知らん間に販売許可だされてた僕の歌ってみた集」

「買ったァ!!」

「ん。これオススメ」

「落札ッ!」


 面白いなこいつ。

 なんでも買うやん。試しに黒歴史を提示してみたけど、爆速でカゴの中にシュートされちゃったや……これ、後でこっそり回収したらどんな反応するんだろ。

 血涙かな。見たいな…

 ……煩悩だらけだけど、気持ちがいいね。こう正面からファンアピされると、戸惑いよりも、その……喜色とかが前面に出ちゃう。

 なんだよ文句あるかよ。僕にだって人一倍の承認欲求はあるんだぞ。


「家宝にします」

「……サイン書こっか?」

「うっ、ぐっ……数が数なんで、この色紙に、二百枚程、書いていただけるとっ……」

「前言撤回。絶対やだわ」

「そんな!?」


 ちょっと慈悲見せたらこれだよ。一瞬引き下がった様に見えて超弩級の欲求ぶつけにきてんじゃねぇーか。マジでぶっ殺すぞ。二百枚もサインなんて書けるわけねぇだろ。

 僕にだって限界はあるんだぞ。

 ……魔法で文字書き書き同時並行やったら、楽々で全部可能だけども。

 やりたかねぇ。

 僕は逃げるぞ。


 購入済みの札が次々貼られていく等身大フィギュアと、それをレジに通していくタレスを眺めながら、過去最大の溜め息を吐く。


「棚補充大変そ…」

「うーちゃん、本当に言いたいことは?」

「魔法少女の情報取られるかも〜、って不安視してた僕がバカみたいじゃないか」

「仕方ないよ…」

「うーねぇ悪くない」

「だよね…」


 正直、想定外ではあった。ここまでオタク心全開のヤツだとは思ってなかった。マジで魔法少女のグッズ買う為に地球に来たんだなってのが、行動の節々でわかる。

 ……これが罠かもしれないだって?

 油断させてくる策かもしれない……いや、そんなずっと疑ってたら疲れるし。仮に嘘つかれてて罠にハメられてもどうとでもなるし。思考盗聴でもして確かめてみる?僕はいやだけど。だってこの人、絶対脳内でも絶叫してるし、魔法少女について熱く語ってるよ?

 聴きたくないよ?僕。


 ……形だけの手錠がいつの間にか外されてるから、それ理由に問い詰めてもいいんだけど、多分この人、そこまで深く考えてないだろうし。

 このまま呑気に買い物させていーんかなぁ、とは思ってたりするけど。


 でも、まぁ……この蠍男の好感度を稼いでおけば、後で楽になるし。


「ヒャッホイ!!」

「……楽しそうだね、あの人」

「子供心を忘れてない証拠だね〜。いやホント、すっごい無邪気だね…」


 我が世の春って言ってたけど……推しができる度にそれ言ってそうだよねぇ。


 その後も、タレスは何件もお店をハシゴして爆買いし、大量の買い物袋をアイテムボックスにしまってはまた袋を増やすという、無限連鎖を四時間ぐらい続けた。いやまだ終わってないけど。まだ買い物する気らしい。

 途中で僕が飽きて、そこら辺のベンチに座ってるけど、叛逆もせずにけたたましく買い物してるよ。

 魔力使う素振りもなかった。まぁ、ほーちゃんがずっと見てたってのもあるけど。アイテムボックスの使用だけはあったけど、僕たちの前でやって無抵抗を証明してたよ。それも自主的に。

 従順な男は嫌いじゃない。

 ……あと、将星の中で僕たち地球についてくれるヤツを増やすことはメリットになる。ライオン丸っていう皇帝に叛意を持つ男の仲間なのも加味して、この案は間違いじゃないと思う。


「ムーンラピス氏最強の月落としを、まさかフィギュア化するとは……流石ですなぁ。この躍動感、そして絶望感、そんじょそこらのフィギュアと比べても高クオリティ……これは買いですねぇ!」

「かっこい〜!やっぱラピちゃん好きの業者ってプロしかいないよねぇ」

「ん!見て!これ私!」

「マジじゃん」

「かわよ」


 ……タレスの独り言に頻りに頷くほーちゃんには、是非拍手を送ってあげてほしい。あと寝子にも。アリエスたち地球居残り組の事前調査だけじゃなくて、多分予め自分で調べた情報で熱く語るタレスと、話を合わせて続きを促す会話術は素晴らしいと思う。

 僕じゃ無理だ。


 ……そろそろ合流するかぁ。なんか3人でおっきなお店入ってたっし、僕も行くか。

 多分最後の店だ。


 ファンサを求めてくるバカどもを適当にいなしてから、店内へ。コスプレ衣装とか、日用品とか、激安価格で色々売ってるあの店だった。

 なんでもあるよね、ここ。

 僕はあんまり入ったことないんだけど……へぇ、こんな面白いのあるんだ。


「ふぅ〜、満足〜」


 ……楽しそうでなによりだよ。

 でも、精算前のカートを女の子に持たせるのはどうかと思うんだけど。タレスも持ってるとはいえ。三台で爆買いすんじゃねぇってば。

 鼻歌スキップするタレスを他所に、レシートの山を見て溜め息を吐く。

 バッカみてぇ…

 普通、こんな買うヤツいないって。いや、これだけ出費ヤバくするだけ作る日本人がおかしいのか……創作意欲に勝るものなし、か。まさかここまでとは。正直、思ってもみなかった。


「これで十分?」

「堪能させて頂きました……いやぁ、チキュウジンの創作パワーには敵いませんなぁ。ここまで形ある推し事を見せつけられて、ぽきも対抗意識が芽生えましたぞ」

「体感してみる?この人たちと違って、実体験に基づいた創作ができるかもよ?」

「遠慮しときます…」


 感涙するタレスだけど、本当に遠慮しなくていいのに。僕とほーちゃんのダブルパンチで、宇宙の彼方に吹き飛ぶ体験ぐらいはさせてあげるよ?

 勿論、ちゃんと回収するオプション付きで。


 さて、買い物もこれで終わり。タレスの目的は十二分に果たせたと言えるだろう。

 そろそろ解散だ。


「お世話になりますた」

「二度と来るなよ。特にふざけた理由で。二番煎じはもういらないから」

「私は別にいいけどなぁ〜。平和的でいーじゃん」

「殺しが足りない」

「物騒」


 今回ばかりは見逃してやるよ。献上品がよかったのと、換金したのがいい代物ばっかで利用価値があったのが結構ポイント高い。

 僕は懐が深いからね。なにもせずに帰してやるよ。


 ……こいつを生きて返せば、ライオン丸との関係性も、そう悪くはならないだろ。まだ会ったことないけど、事前準備で関係性を悪くして敵対するのは、宇宙の勢力図的によろしくない。


「……ライオン丸によろしく。目標が近いなら、協力してあげるのも吝かではないし……近々、そっちにお邪魔して全部ぶっ壊すから、歓迎の準備もよろしく」

「おっとぉ、それぽきに言うのぉ?まあ実際引き返せないとこまで来てますけども……イヒヒ、りょーかいですぞ。是非とも、魔法少女の皆さんとは良好な関係を築きたく。うまい蜜吸わせてくださいな」

「今回攻撃して来たけどね……あれ、殺す?」

「許し亭…許し亭……」

「及腰なのどうにかならんの?」

「性分なんで」


 いつの日か、“星喰い”を下した日に……宇宙の統率者がいなくなるのは、困るからね。代わりを、新たな統率者を作っておくのは当然のこと。

 地球には害が及ばないように。

 僕たちに迷惑が来ないように。

 盾を作るのは至極当然。宙の高みってのを見たがる男に相応しい座を与える、そのお膳立てをしてやるのだ。共に戦う、なんて寒いことは言わないよ。

 同盟組んで、不戦条約結ぶくらいわね。

 もし後ろから刺されても……刺し返せばいいだけ。簡単でしょ?


「悪巧みしてますなぁ……怖い怖い。戸締りしとこ」

「強引に開けて押し入ってあげるから、安心しててね」

「何処が〜?ぽきたちにも人権はあるってこと、ちゃんと理解しておなしゃす」

「ヤダ」


 理想を叶えてあげるだけじゃん。

 僕やさしくね?


 閑話休題、そーゆー感じで、地球人以外どうでもいいと思ってる僕に、タレスはドン引きと理解を示しながら宙に帰っていった。

 何故理解を示す。オマエが僕のなにを知ってるんだ。

 ……でも、まぁ。地球のモノで、特に僕たちのグッズであそこまで喜んでもらえたのなら……うん。地球人冥利に尽きるんじゃないの?

 知らんけど。


「……で、どうするの?これから」

「……そろそろ行こっか、宇宙……早めに決着をつけて、平和を分捕ろう」

「わかった」


 宙に消えていく円盤を見上げて……最後の戦いに向けて動き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ