168-魔法少女ファンボーイ(宙属性)
「───破られたか」
「? なにが……ッ、何今の衝撃!!」
「襲撃か」
空間接続で映像を繋げて、異常が起きた箇所───丁度夢ヶ丘の真上の空に張り巡らせた対宇宙兵器の魔法陣が、青色の雷に貫かれているのを観測する。
……雷の槍か。ずっとそこにあるってことは、魔法的な結界破壊と見ていいな。
ガラスのように割れた空から降りてくる、青い円盤。
ジッと睨みつけるそれは、ゆっくりと回転していて……円盤の下部に開いた複数の穴から、宇宙怪獣を投下した。合計四体の怪物が、街に降りる。
面倒な。
「ロボットかな?」
「メカメカしい……全壊させてやる」
「わざわざ私たちが行かなくてもいーんじゃない?ほら、もうみんな出撃してる」
「早いな?」
四足歩行の超巨大ロボット……キリン、サイ、ゴリラ、カラスの四体が跋扈するのを、即座に察知した魔法少女が討伐に向かう。
リリーエーテ、ブルーコメット、ハニーデイズの3人は勿論のこと、エスト・ブランジェにカドックバンカー……あと何故かチェルシーが戦場に飛び込んだ。
待って、何故そこにいる。
……そういえば、今日遊ぶって言ってたような。
……まぁ、いっか。いいかな。あの子も実質魔法少女のようなもんだし。
観戦するかぁ。
「ポップコーンある?」
「コーラ」
「映画館じゃないんだけどここ……メードー!映画セット三つオーダー入りましたァー!」
「居酒屋なの?」
「ポテトですか?」
「ポップなコーン」
「御意」
部屋を整えて、魔法少女の戦いを見守る体勢に入って、自分の分の映画セットも持ってきたメードを交えて戦いを観戦することになった。
うむ、キャラメル味。ヨシヨシ。
何故か僕の右に座ったメードをキッと睨んでから、壁に投影した映像たちを見る。魔法少女の配信画面も開いて、観戦体勢の準備完了。
楽しむぞい。
「エーテとコメットがキリンロボ、ブランジェがゴリラ、カドックパイセンがカラス、デイズとチェルシーがサイと戦う感じなのかな?」
「あはっ、ゴリラ対決じゃん」
「録音したか?」
「勿論でございます」
「やめて?」
ハハッ、最ッ高の脅しネタ完璧じゃんか。殴られるとこ撮らなきゃ(使命感)。
そんじゃ、実況解説とでも行きましょうか。
先ずはエーテとコメットから。首の長い黄色の機械獣、ゴテゴテしたキリンとの戦いは、あの子たちの方がかなり善戦しているみたいだね。電熱光線撃つタイプのつよつよキリンかぁ。なんかやだなぁ。
でも、夢想魔法の貫通で破壊されないのは純粋にすごいかな。
『はぁ───っ!!』
『星魔法ッ!!墜ちなさいッ!!』
『ギャォォォォ───!!』
『くっ!』
『へぇ…』
硬くて困ってるみたいだけど、ちゃんと翻弄できてるし問題ないでしょ。心配する必要は、もうないのかもね……いやでも、心配だよなぁ。
僕に勝てたから、=“星喰い”の夢を貪る権能、とやらに絶対対抗できる、ってわけじゃないし。
悩みどこだなぁ。
……ちゃんとリカバリーすればいっか。それをやるのが僕の仕事なんだから。負けたんだから、大人しくみんなの考え、『全員協力END』を履行しますとも。
やればできるさ。
『征けッ、バンカー君!ぶっ飛ばせェ!!』
『おっ!いいパンチ!殴り合いは嫌いじゃないよ!!』
『カァーッ!カァーッ!!』
『グオオオオ!!』
先輩二人の戦いは、まぁ見慣れたモノ。
カドックバンカーは愛機である戦闘機バンカー君で空を飛び回り、カラスの機械獣を追いかけながら弾幕ブッパで空中戦を繰り広げていて。エスト・ブランジェはゴリラと殴り合い。すごい見覚えのある某有名なクソデカゴリラを機械化させた敵は、単純な物理だけではなく、魔法阻害のエネルギー波を放電してるみたいだけど……先輩の敵ではないよね。ちな、カラスは腹から爆弾落としまくってる。ウ○コ爆撃機かな?
下品な敵だ。はよ墜ちろ。
『チェルちゃん!』
『ん。そのまま抑えてて』
『うんっ!……あっ』
『おバカっ』
デイズとチェルシーは……なんか、サイの機械獣の角に花斧を叩き込んで突進を止めてたのに、空中で足滑らせて吹き飛ばされてた。なんで?
でもちゃんと戦えてる。連携もできてる…
成長したなぁ。しみじみ思う。やっぱ尊い友情が世界を救うんだよ。
『夢幻魔法───<ガット・ヴィジオーネ>』
そして、全てを夢幻に消す魔法で機械獣を現実から夢にサヨナラする。夢系統の魔法って強いな……消えた質量は一体何処に消えてるんだか。
取り敢えず、サイの機械獣は消滅した。
チェルシー様様。あの子はわしが鍛えた。あっさり目に聴こえるかもだけど、実際は結構時間かかってる。だいぶ苦戦は強いられたね。
『そろそろ仕舞いにするかァ、なァ…
───兵仗魔法、<ファイナル・ディストーション>!』
『終わりはあなたのすぐそこに、さぁ、祈って?』
戦闘機の下部から現れた、バンカー先輩の荷電粒子砲が逃げるのをやめて立ち向かってきていた怪鳥を撃ち抜き、なにもさせずに粉砕爆発。ブランジェ先輩は重力を纏った拳を振り上げて、ゴリラの鳩尾を貫き、空へと飛び立ってゴリラを打ち上げて粉砕破壊した。
火花を散らして爆散した機械獣たち……あーあ、ありゃ鹵獲は無理だわ。
残骸もねぇ。
『こ、れ、でっ!』
『終わりっ、よ───っ!!』
『ギョォォォ〜っ!?』
そして遂に、エーテとコメットの双撃がキリンの太首を撃ち抜く。電熱光線が撃ち出される寸前だった首の中で、派手に魔力が暴発してキリンは爆散した。
かれこれ六分の戦闘。結構時間取られたね。
……くるくる回ってる青い円盤は、まだマーチの歌網の下にある。結界自体はもう修復が終わっちゃってるから、実質閉じ込められたね。多分、出られちゃうだろうけど、別にそれはいい。
機械獣が全滅した今、相手はどう動くか。
現地の魔法少女も空を見上げて、宇宙船がどんな反応を示すのか警戒している。
さぁ、どう出る?
『───あの、すいませ〜ん』
『えっ?』
……地上にいるエーテの後ろに、銀髪褐色のサソリ男が立っていた。いつの間に。そうみんなが戦慄しているのを他所に、サソリの男───地球にやってきた将星が、大変申し訳なさそうな顔で手を合わせる。
よく見れば、その手には謎の紙バックが握られていた。
何入ってんのだろ、あれ。
『チキュウの観光に来たんですけどぉ……換金場所、ってあったりしませんかね?』
『はい???』
???
なんだこいつ───そう全員で困惑するのは、仕方ない結末だった。
꧁:✦✧✦:꧂
突然現れた異星人、タレスを名乗る青い蠍に、警戒する魔法少女たちは一様に顔を見合わせる。地球観光に来たと豪語する彼は、挙動不審に目を彷徨わせているが……
そこに敵意がないのは、確かだった。
「えっと、観光?」
「……そう言うわりには、侵略して来たじゃない」
「いやぁ〜、だって。ぽきだって将星ですし……やることやんないと怒られるのは、軍人としての務めと言いますかなんと言いますか……死にたくないじゃん?なら、仕事は建前でもやんなきゃいけないじゃん?ね?」
「言ってることはマトモね」
「職務放棄前提だけどね」
どうにか恩情を貰おうと必死なタレスに、どう対処するべきなのか6人は悩む。慈悲を乞うその姿勢には、どうも敵意が湧いてこない。そもそも、本人が武装を解いた上で地面に武器を並べているのもあるが。
おもちゃにしか見えない銃も、既に電源が切ってあって完全無力化を自主的に行っていた。
そして、その目的も。
「地球観光…」
「えーっとですね、ぽき、君たち魔法少女に大っ変興味がありまして。ご存知、あの兄妹からの情報でグッズとか、そういうモノがたくさんあると聴いて……欲しいなぁ〜とオタク心が刺激されましてね?」
「買いに来たと」
「そうですそうです。ちな、一通り買って満足したらすぐ帰るんで……どっすか!?」
「うーん」
目的は地球観光。というよりは、魔法少女関連グッズの買い漁り。自他ともに認めるオタクのタレスは、好き好むジャンルを一つに絞らず、幅広い分野から好きを見つけてその手を伸ばす宇宙人である。
機械工学も、考古学も、占星術も、文学も、二次元も、あらゆる分野を網羅しているのだ。
魔法少女はその一つ。
否、今一番熱があるのが魔法少女なのである。他よりも上にある。
「ファンなの?」
「事前調査いっぱい調べました。サインください。ここに色紙あるんで……」
「わ〜、私サイン書いたことないや」
「エーテはなんで乗り気なのよ…」
「? え、だって万が一があっても、お姉さんがパワーで救出してくれるだろうし」
「すっごい期待」
「曇りなき眼だな…」
「ウケる」
迷いなく色紙に名前とハートマークを描くエーテには、危機感はない。完全に偉大なるもう一人の姉、あとオマケ実姉の存在が大きかった。
その純朴さにタレスは感銘を受け、あぁ素晴らしきかな魔法少女と感涙していた。
周りはドン引いた。
とはいえ、タレスの望みを叶えるか否か……生憎、その決定権を彼女たちは持ち合わせていない。
その事実は、タレスも把握している通り。
「私の一存じゃ決められないなぁ…」
「それと、換金場所?だっけ。ぶっちゃけ、宇宙の代物が市井に流れるのは、どう考えても問題でしかないし、正直無理なんじゃ…」
「ですよね〜」
かつて同じことを考えたカリプスが、持ち込んだ物品の換金を断念したのも同じ理由だ。下手に市井を揺るがして混乱を招くのは、現段階では時期尚早。加えて魔法少女の代表面している蒼月に勘づかれてジ・エンドであった。
だが、タレスとしては自白してでも強行したいところ。
今すぐに金銭を得て、欲しいモノを買って殺される前に帰りたい。
わざわざ危険を冒してまで宇宙船を降りて、交渉という不得意な行為を選んだ理由である。
最低限の仕事をしたのは、お目溢しして欲しい。
そうオドオドしながら、なんとか目を合わせて“彼女”の到着を待っていると。
「ん、来た」
「わぁ、久々に見たあれ」
「お姉さん」
漸く、というか渋々、空間の裂け目からムーンラピスが顔を出した。
「……出番?」
「めちゃくちゃ出番。穏便にお願いね」
「オレらそーゆー対処無理だわ」
「一番二番の先輩がなんか言ってら……はァ〜、本当に、面倒臭い…」
使えない先輩二人を押し退けて、エーテの隣に立って、遂にムーンラピスはタレスと対面する。
その手に、いつでもオマエを殺せるぞという意思表示の塊である仕込み杖を持ったまま。睨まれたタレスは全力でピルピル震えながら頭を垂れる。
こちらに敵意はないと、全身全霊で表現しながら。
菓子折りを手渡す。
「初めましてタレス・スコルピオーネです……こ、これ、お近付きの印に……あっ、嫌ならアリエス氏にでも渡してくだしや…」
「ふーん……なにこれ。チョコクッキー?」
「チョコンボ星産出のカカオ豆と、イリュルー星の超天然生クリームとか、結構大手の素材で造られた高級品です。お口に合うかはわかんないです、はい」
「甘口?」
「はい」
「ん」
紙袋こと懐にしまった。賄賂はちゃんと受け取った。
「で、魔法少女のオタグッズの購入許可と、換金所までの案内だっけ?」
「はいそうです」
「……いいよ、僕が窓口になってあげる。まずは品物から見せてもらうけど」
「勿論です」
いつも以上に畏まったタレスは、ラピスの言葉に従ってアイテムボックスを開き、持ち込んできた珍しいモノ……ムーンラピスが換金してくれることに一縷の望みを賭けて選んだ珍品を見せびらかす。
あまり、周りに見られてはいけないモノばかりなので、少しだけラピスに近付いて視線を遮りながら。
手始めに、宝石類から。
その手に乗せられた青色の宝石……金色の意匠が内部に仕込まれた石に、ラピスの視線は吸い込まれる。鑑識する魔眼の魔法で、ジッと見る。
そして。
「ようこそ地球へ!」
満面の笑みで、将星の地球入りを歓迎した。
「あざーっ!!」
「お姉さん!?」
余程お気に召したらしい。ラピスが地球案内のガイドになった瞬間である。
碧の秘宝:
───終焉を迎えた銀河系が滅びの際に一個に凝縮された純度100%の魔宝石。内部に秘められたユメエネルギーは世界最大で、タレスがブラックマーケットで自費購入した数多い家宝の一つ。お値段は国家予算が圧迫される程で、到底ラピスが払えるモノではない伝説の代物。
つまりこっちが本当のお近付きの印。