167-弱点が多い方のバグキュア
……魔法少女になって、早4年。空白の二年間と悪役の半年を加えた数。誤差はあるだろうけど、だいたいはこの年数を戦いに費やしている。
見方を変えれば、たったの4年だけど……
最初の一年半でアリスメアーを壊滅に追い込めてるのは異常だよね。よく指摘されるけど。それだけ魔法の才能があったわけですよ、僕には。
それは自慢っぽく認めるしかない。魔法複数行使できる僕が自慢しないで、誰が自慢するんだっつーの。んまぁ、それはリリーライトにも言えることなんだけども。
二人はバグキュアとかふざけてんのか。ちねマジで。
そんな晴らせない鬱憤を、魔法少女まとめ動画なる物を見ながら沸騰させる。
「クソがよぉ……なーにがバグだよ」
「? 嘘ではないだろう。この私をコテンパンにしたのは他でもないオマエたちだろうに」
「派手にやりすぎたか…」
「えー、でもあれぐらいはやんなきゃ。負けたら元も子もないんだしさ」
「はァ〜」
一緒に動画を見ていたリデル(膝占拠中)と、ほーちゃん(左肩埋没中)のさも当然と言わんばかりの言葉は、確かに納得するしかないけど……
もうちょっと、こう。常識の範疇の魔法少女だったら、ここまで悪名高い魔法少女扱い、されなかったんじゃないかなぁ……時すでに遅しだ。海外産の魔法少女が誰かしら生き残ってくれてれば、もっと話は変わったんだけど……全滅だからなぁ。アメコミヒーロー風味もっと頑張れよ。
普通に負けてんじゃねぇーよ。
……変身解かないと核爆弾発動させますとか、めっちゃ卑怯な手ぇ使う怪人とか、次元斬とか、最強だろうと絶対ぶっ殺しますっていう意思が透けて見えてたから、正直、仕方の無い敗北だったのかもしれないけど。
その幹部怪人はどうなったのかって?僕が成る前に無事討伐されてたよ。
「正直覚えとらん」
「自分の部下の名前と顔ぐらい把握しとけ〜?」
「どーでもいいけどねぇ。叶華先輩、エスト・ブランジェ大天使先輩に正面からぶっ殺されたってのだけ知ってればいいでしょ」
「同意ではある」
「うむ」
重力圧縮であっさり死んでたよねぇ……まぁ、自分より前の世代の魔法少女を、軒並みぶち殺してた凶悪な怪人にブチ切れて、ぐっちゃぐちゃにしてたもんなぁ。
僕も、そーゆー卑怯なのはちねってする。柔い表現…?なに言ってるんだ。死ねの上位互換だぞちねは。
ちねちねちねちねちね。
はいオマエちんだ。
「うわ〜死んだぁ」
「この当たり棒が墓でいいか?」
「えっ、勿体ないよ。こいつの髪の毛を土に立てて波平にすりゃいーでしょ」
「ねぇ」
ノリに乗ればこーなる。当たり前だよなぁ?
……さて。いい加減、このくっつき虫どもを引き剥がす頃合いだな……かれこれ三十分は同じ体勢だけど?なんで飽きないんだよ。身体痛めるだろ。
……あぁ、そうだ。これ、サボりとかじゃないから。
ノワの報告待ちして、暫く動いてなくって……これじゃ身体なまっちゃう。もういい加減、こっちから動くよ。
もう我慢ならん。
潤空、行きます。
「ダメでーす」
「行くなバカ」
「なんで?なん、なに邪魔してくれてんの?」
「うーちゃんから動いたら大惨事だもん!もしかしたら、なんかこう、和解フェーズとかあるかもしんないじゃん!星喰い仲良しルートあるかもじゃん!?希望的観測なのはわかってるけど……うーちゃんから動いたら、そういうの絶対無くなるもん!TheEND殺戮コースしかないもん!」
「うるるーダメだぞ。私としてはあの蛇は殺してほしい事この上ないが、オマエから動いたらダメな気がする。多分地球vs宇宙全域になるってオリヴァーが言ってた」
「憶測で物事語るなバカ共がッ!そーゆーのがあるかもで地球を悪夢に閉じ込める算段だったのに、オマエらが尽く邪魔してくるから…!」
「いやそれはそれでよくないじゃん!?」
「そうだけども!」
酷い言い様じゃない?僕そんな言われる云われある?
悲しすぎて泣いちゃいそう……宇宙戦争になっても僕が複製と一緒に頑張る予定だったから、別に大丈夫だし……今だって、魔法少女が休んでる間に僕が出張って守れば、なんとかなるやろって思ってるし……
最悪、魔法少女もゴナー・アクゥームみたいに再現して出兵させるし。
対策はバッチし!何時でも行けるぜ!対宇宙戦争!ほら問題ないだろ!?
「やめんか」
「悪巧みばっか」
「みんなを思っての行動だろうが」
「出力がバグってるんだよ」
「苛烈すぎって視聴者に諌められたばっかだろうが。またオマエドン引きされるぞ」
「ぐぬぬ…」
確かに、ドン引きされたくないのにやる行動じゃない、かもしれないけど。やらないで負けるよりは遥かにマシな行動力だと思うんだ。
そう力説しても聞く耳なし。どんだけ僕がやらかす前提なんだよ。
心が傷ついたから、アクゥーム吸いでもして落ち着く。呑気にクッキー食べてたハット・アクゥームを引き寄せて後頭部に顔に押し付ける。
【ハッツ?】
「すぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜…」
「吸いすぎだって。呼吸しよ呼吸……どんな匂いなの?」
「〜〜〜……洗いたてのお日様の匂い」
(洗ったんだ…)
(洗えたのか…)
悪夢の匂いなんて言っても、伝わんないでしょうが。
決戦で頑張ったご褒美でね、泡まみれにして丸洗いして綺麗にしてやったんだ。喜んでたよ。何故か僕じゃなくて穂花ちゃんの頭に飛び乗ってたけど……
別に、羨ましく思ったりはしてない。
疑問符浮かびまくったけど。ほーちゃんと顔見合わせて首傾げたわ。
……っと、鏡から定期連絡来た。
なになに……宇宙船に入れましたぁ?もっとマシな情報寄越せや。
「はむっ」
「うっひゃぁ!?なっ、なにして…」
「アキちゃんも頑張ってるんだから、そーゆー酷い扱いはダメだと思うの。だから、これはその罰。次はもっと深く挿入れます」
「バッカッッッ」
突然耳舐められた。言い分も意味わからん。あんなのの扱いなんてこんなもんでいいだろ!?ちょ、まだ舐めっ、やめろって言ってんだろうがぁッ……
なんなんだよこの突然のセクハラタイムは!さっきまでその空気無かっただろ!?くっそ、ヤバい抱き締められている上に、膝の上のリデルが邪魔で逃げれないッ。無理に暴れても拘束が強くなるだけ…
どうす…
ッ!?
「ふむ…」
「ばっ…」
「ちょ、それ私のっ!」
「? 今まで散々枕にしてたんだ。今更だろう。というか何故オマエが所有権を主張するんだ。それならこれは私のモノだろう」
「あん?」
「おう?」
人の胸で争うなッ!!くそがッ、人が動けないのをいいことにっ…!リデルのヤツ、今まで正面を向いてたのに、突然こっち向いて、興味深げに揉んできやがった。
なんでこう、セクハラに躊躇いのないヤツが多いんだ。
つか、こいつ……意外と揉むのが……くっ、耳の水音と相まって不快だ!
不快だからやめろって言ってんの!だれも、続けろとか言ってないだろ!?
「っ、くっ……殺す!!」
魔力放出、最大出力ッッッ!!
相手は死ぬ!
……この後、何故か僕が無防備なことを叱られた上に、ブラジャーをつけていない理由を説かれ、家を出ない時もちゃんとするように怒られた。リデルに硬くて邪魔だって言われて付けてなかったのが仇になった。
でも、一つだけ反論させて欲しい。
うるせぇ。
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一方その頃、宙の上。
青い惑星の天上に、大きな円盤が飛来する。青い光沢の宇宙船は、不規則な機械音を奏でながらゆっくりと惑星へ降下していく。
だが、すぐに降下は停止。
惑星上の表面にうっすらと広がる、音を奏でる魔法陣を警戒して。
「成程ぉ〜、あれが星の防御網ですな……うーん、これは最強の鉄壁www触れた瞬間即感知でゲームオーバーとか、下手な潜入ゲームより鬼難易度で草ァwww」
『───マスター、早急な対応が必要です。ご命令を』
「はいはい」
船内に響く人工音声を適当にいなして、男は大きく目を見開いてその魔法を見つめる。あまりに精巧で、最低限の術式で形成された、宙への警戒心の現れ……
否、形となった濃厚な殺意に、最早笑いが止まらない。
宙から飛来するモノを絶対に殺すという最強の殺意……わざと隙間を作って、降りてくる場所を限定している辺りよりいやらしい。
たった一人とAIだけで地球にやってきた、蠍の男───タレス・スコルピオーネは、止まらない笑いをそのままにコンソールを操作する。
落下地点を操作されるのはいただけない。
芸術的なまでに完成された歌の魔法を、正面から、否、真上から突破する。最初はこっそり侵入する予定だったのだが、冒険心が刺激されて、それ以外の手を取りたくなくなった。
『マスター、それは』
「うるさいよシャウラ。どーせバレるんだ。派手に貫いて笑ってやろうず。それに……ぽきの目的は侵略じゃない。侵略じゃあないけど、やることはやんなきゃ」
『……左様で』
自身の補佐役としてゼロから作り上げた電脳の召使い、シャウラの忠言を右から左へと聞き流しながら、タレスは円盤下部の砲門を開く。
絶対、星には直撃しないように出力を絞って。
空に張り巡らされた防壁を貫いて、降り立つ場所を己の手で切り拓く。
「取り敢えず侵略者ムーブしてから……いや、ここは予定変えないで怪獣投下で終わらせて、何食わぬ顔で会敵して交流()しゅるかぁ…」
『即攻撃されるのに一票』
「それな」
ツッコミを笑って受け流しながら、蠍の将星はポチッとボタンを押した。
蒼き天雷が、魔法を貫いた。