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165-異星人と裸の付き合い


「こんばんは!」

「仲良くしようじゃないか、エェ?勿論、逃げようなんざ考えないよねェ?」

「圧が怖ぇよ。チッ、わーったわーった。大人しくする」

「えぇ、別に反抗してくれてもよかったのに。あ、そだ。今回はノワの顔を見に来ただけだから、そこまで肩張って警戒しなくてもいいよ」

「安心要素皆無だぞテメェ」

「なんでや」


 セオリー通りに喧嘩を売り合って、取り敢えずの和平を結んでから、魔法少女と異星人は男女で別れた。ちなみにカリプスは男湯一人である。

 部下二人と捕虜を人質に取られたようなものだが、別にそんなことはない。どちらの湯も一般客はたくさんおり、人質を取ろうと思えばいくらでも取れるのだ。

 行動に移す気はないが、万が一召使いが傷つけられたらやるつもりで、カリプスは扉の位置や通路を確認しながら男湯の暖簾を潜った。そも、逆らったらどんな目に遭うかわからない為、約束通りに大人しくするつもりだが。

 ……普通、魔法少女が敵を警戒する場面なのに、互いの力量差が正反対で逆のことが起きていた。

 不憫である。


「……はァ〜。まぁ、宿命として受け入れるか……やっぱ世界のバクだろアイツら……っと、これに服入れるのか。こんな柔い金属で平気なのか…?」

「なんだい兄ちゃん、銭湯は初めてかい?」

「あっ?あ、あぁ。そうだが…」


 タオル一枚の巨人に、突然話しかけられた。


「なら、俺らが教えてやるよ!知っとくだけでこれからの風呂が楽しくなるぜ!」

「温泉はいいぞぉぅ!」

「なんなんだよお前ら…」

「俺たちか?俺たちは“温泉布教ボーイズ”だ!ヨロシクな兄弟ッ!!」

「???」


 脱衣所で変な男衆に囲まれた。筋肉質から脂肪塗れに、老い先短いのから若いのまで、大小様々な男がカリプスを取り囲んでいた。

 逃げられそうにはない。

 南無。


「ひろーい!」

「視界不良…」

「湯気すごいね」

「初めて来たけど、すごいなここ」

「広すぎね?」


 一方その頃。女湯では───世話好きの月と太陽により爆速で綺麗になったダビーとナシラが、ノワこと鏡音晶に連れられて浴槽に浸かっていた。

 ちなみに、召使いたちからの警戒値はまだ高い。

 カリプスが口酸っぱく危険度を説いた為、早々絆されることはない。


 髪の毛は洗ってもらったが。乾かせばふわふわもこもこ天然モノが復活するだろう。

 魔法少女の目的がそれ?

 気の所為である。


「潜らない、飲まない、おしっこしない、騒がない、この四つは大前提です。守らなかったら、そこのツギハギ顔がコメカミに銃口グリグリしてきます」

「ノワ…、じゃなくて。アキラもツギハギですよ?」

「ワタシは別。あっちは自前。別にいらないのにつけてるパッションだから」

「違うんだけど」


 程よい温かさの湯船に、5人で浸かる。温もりの前では警戒など無意味。ダビーとナシラは、想像以上の温かさにほっと息を吐いた。

 顔を和ませている子供たちを横目に、潤空は晶に近付き言葉を交わす。


「で?」

「鏡で伝えた通りだよ。あと、宇宙船あるってさ。流石に場所は知らないけど」

「……潜伏先は」

「どっかの廃墟」

「おっけー」


 密談は必要最低限に、その後は普通にお喋りを始める。


 それは、近況報告から始まった。やれリデルとメードが謎の結託をして、別口で来ていた工作部隊を悪夢に落とすという後始末が面倒な大惨事を引き起こしてくれたり。

 チェルシーが作ったAIが暴走して人類根絶を掲げたり、

ペローが引っ掛けた女がテロリストだったり、ビルが今更古巣に忍び込んでみたら、だいぶ腐敗していて信頼できる元同僚と奔走して立て直しに手を貸したり。オリヴァーが家族と旅行に出掛けたら財政が傾きかける大事件に遭ってブチ切れたり、ルイユの占い水晶が割れたり、初代女王のメアリーが十三代目を教育する為だけに正気に戻ったり。

 蒼生が槍術の世界大会で優勝をもぎ取ったり、きららが実家を継ぐ為の勉強を自主的に初めて、割とガチで親友の親権を狙いに来てたり、穂花が穂希と殺し合ったり。

 ギャンブルにハマった六花-1が金貸し業者(月属性)に頭を下げたり。


 ゾンビなのに生理痛が来て絶句した潤空が、肉体改造を施しに施して子宮を摘出しようとするのをみんなで止めて介抱したり。


 色んなことがあった。


「……太った?」

「なんでそうなるん?は?ゾンビに肥満の概念があるわけないでしょ?」

「いや、でも……ほーちゃん」

「うん?うん……うん?」

「えっ」


 メードという前例がある通り、ゾンビは太ら、ない……筈なのだが。無遠慮に伸ばされた二つの手は、晶のお腹をぷにぷにと揉んだり触ったり突いたりしている。

 魔法少女の神秘である。死体だから太らないという理は亡きモノにされてしまったようだ。

 これには潤空も戦慄した。

 明日は我が身なので。


 そこいらのトレーニングジムにでも入会しようか3人で頭を悩ませていると、なにか興味を持ったのか、ダビーとナシラが晶の肩を叩いた。

 興味の矛先へ目を向ければ、熱気が立ち込める部屋が。

 潤空が心做しか嫌そうな顔をする横で、晶がその疑問に応えてやる。


「あれはサウナだよ。熱いのを耐久レースして、心地よいナニカを求める苦行だね。正直、ワタシはなにがいいのかわかんないんだけど」

「僕あれ苦手。つーか暑いの嫌いなんだよ。あんな密室に居られるかっての」

「私は平気だけどなぁ〜」

「あつい?」

「んー?」


 サウナのヘイトスピーチを聴いても、子供たちの興味は無くならず。入りたいという熱視線を浴びて、いやいやと駄々を捏ねる潤空を連れてサウナに入る。

 木製の空間で、タオルの上にクッションを置いて座る。

 全身に浴びる熱波に、潤空と晶は顔を顰めるが、子供がいる手前下手に騒ぐことはプライドが許さず……先導する穂希に付き従う。

 ……運がいいのか、サウナの中は彼女たちだけ。会話を迷惑に思う者はいない。


「お、お〜!?」

「無理になったら無理って言ってね。ここ、我慢比べして苦しむとこじゃないから」

「無理」

「うーちゃんは短針が一周するまで出ちゃダメね」

「!?」


 色濃く残る禍根(勉強漬け+浮気デート)が未だに後を引いているのか、矛盾した強制を課す。最早嫌がらせである。ゾンビが逆上せるかはわからないが、潤空が茹でダコになって死ぬ未来がここで確定した。

 入り口に穂希が陣取っている為、逃げれない。

 ここで転移魔法で逃亡するのは……そんなことで魔力を無駄消費するのは、潤空的には許容できない。薄っぺらなプライドがそれを許さない。

 故に、諦めて腰を落ち着けた。

 もう出たい。


「あっづ…」

「こっ、これ意外とキツいっ……!?」

「灼熱!焦熱!」

「出よっか〜」

「うーちゃんはダメだよ」

「!?」


 事前に教わった通りに、ダビーたちはあまりにも冷たい冷水で汗を洗い流して、浴槽の中で身体を冷やして。劈く悲鳴を上げてから露天風呂にあるリクライニングベッドに寝そべり、ゆっくりと深呼吸。

 俗に言う整う、というのを全身で体感する。


「……」

「……」

「……どう?」

「よくわかんないです」

「心地よさ、○」

「だよねぇ」


 ちなみに、潤空は三十分で漸く退出を許可された。今は冷水風呂に沈んでいる。

 息はしていない。


 その後も一通り、炭酸風呂や壺湯、滝湯、寝転び湯やらジェットバスなどをたくさん楽しんだ。あまりにも豊富なバリエーションに子供たちは心からはしゃいだ。

 宇宙のお風呂事情はそこまで発展していないらしい。

 そんな微笑ましい光景に穂希と晶はニコニコ微笑んで、意識を飛ばした水死体を引き上げた。戦闘時は必要以上の耐久力と持久力を見せるが、本来の彼女は、ちょっとだけ我慢強いだけの女の子である。

 捕獲された宇宙人のように運ばれている潤空は、完全に逆上せてしまったようだ。


「ふぅ〜……ヨシ、上がろっか!」

「ちゃんと身体拭いてから出るんだよー」

「はーい!」

「ごしごし」

「……で、この水死体どうする?重いんだけど。よわよわすぎじゃない?」

「仕方ないなぁ……えいっ」

「ごふっ」

「あ」


 子供たちが音にびっくりして振り向いた先には、まるで何事も無かったかのように口笛を吹く晶と、潤空をお姫様抱っこする穂希がいた。

 決して、手を離した瞬間頭からタイルに突っ込んで事故起こしかけたとかそんなのではない。

 目は覚めたが。


「殺す…」

「ごめんって。コーヒー牛乳奢るから」

「あれ、飲めるの?」

「うーちゃん、ミルクコーヒーなら飲めるんだよ。カフェオレとかカフェモカとかカフェラテとかは、まだちょっと苦味あって苦手らしいけど」

「子供舌だぁ」


 身体を拭いて髪を乾かして、着替え終わった後。潤空をベンチに寝転がせて、4人で牛乳を飲む。

 勿論穂希の奢りである。


「んっく、んっく……ぷはー!美味しいです!なんですかこれ!牛乳?牛乳ってなんですか?」

「えーっと、動物さんのお乳から取れたミルク?かな?」

「何を飲まされてるんですかダビーは」

「……宇宙怪獣食ってるヤツらが、今更母乳ぐらいで絶望すんなよ…」

「確かに!」


 納得は早かった。








꧁:✦✧✦:꧂








 それから暫くして、脱衣所から少しだけ歩いた先にあるコワーキングスペースにて。

 気楽に寛いでいると、長風呂をしていたカリプスが漸くやってきた。風呂上がりでさぞ気持が良い筈、なのだが。どうにも顔色が優れない。

 具体的に言うと土色。


「つ、疲れた……なん、なんだアイツら……見境無しとか強引過ぎだろうが……これが、この星の普通なのか……?善意の押し付けとかやめろよマジで…」

「……なにかあったの?」

「あ?あぁ、あんたか……温泉布教ボーイズとかいう変な集団に囲まれて、な…」

「なにそれ怖っ」


 のぼせた気持ち悪さから復活した潤空に労われて、余計俺はなにやってるんだろう感が強まったカリプスだが……ふと声の出先に視線を向けて、硬直する。

 何故ならば。


「おっ、おまっ…」

「? あぁ、ごめんね。君のかわいい召使い……僕の物になっちゃった」

「キュルル〜」

「クゥ〜ン」


 潤空の右足にダビー、左足にナシラと、太腿を枕にして喉を鳴らしている部下がいたから。

 魔法少女の撫でテクをナメてはならない。

 ちなみに、潤空は遊びをせがむ幼児の頭をそっと撫でて

寝落ちさせる天才である。現役時代、怪人から逃げてきた幼児を魔法無しで寝かして最寄りの避難所まで転移させて好感度を掻っ攫ってきた女である。

 2人は尚のことチョロかった。


「もっと撫でて〜」

「そこ、いい」

「それはそれとして、この子達の警戒心どうにかならん?戦闘ばっかの宇宙じゃ危ないでしょ」

「呪い塗れの俺に懐いてる時点で終わりだろ」

「そっ、か……っておい、その呪い、温泉に溶かしてないだろうな?」

「んなバイオテロやんねェよ。民間人巻き込むようなクズなんかと一緒にすんな」

「あっそう」


 この後、名残惜しそうにしがみつく子供たちと置いて、目的を果たした魔法少女たちは帰った。

 ノワールは捨てられた。


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ちゃっかり捨てられるノワールwwwwwww
気になる近況報告の束 テロリスト、人工知能の暴走、教育のために正気を取り戻し、姉妹は一人の女性のためにお互いを殺し合う... 蒼月の体について 頭以外の体の部分は作り直したでしょう。だから生理的な反応…
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