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162-大戦犯は誰だ!探せ!お前だ!


 戦闘は佳境に入る。ダビーの鉄工魔法、ナシラの螺旋と獣化による猛攻は、手馴れた手付きで戦う魔法少女たちに正面から食い止められしまっている。有効火力を出せないわけではないが、彼女たちの経験値がモノを言う。

 カドックバンカーの火力重視の大砲火。

 エスト・ブランジェの攻防一体の重力槍術。

 ゴーゴーピッドの鋼鉄高速の正面衝突。

 ミロロノワールの魔鏡と、アクゥームを悪用した撹乱、攻撃の封印と増幅射出。

 そして、マーチプリズの歌がただでさえ強い魔法少女にバフを上乗せする。


「威力も操作性も悪かねェが、まだまだだな」

「後輩ちゃんたちといい勝負?うん、あの子たちの成長の糧にはなるかな?」

「さっさと負けを宣言するのです!」

「アクゥームの毒、本当に辛いんだね〜。顔色、すっごい悪いよ?」


 対峙する4人は、未だ健在。傷はあれど汗はかかずに、魔法少女は並び立つ。

 見下ろすのは、疲労困憊、息も絶え絶えの召使いたち。


「はぁ、はぁ、はぁ…」

『グル、グルルっ、ゥルル…』

「負けま、せん……ご主人様の顔に、泥を塗るわけには、いきませんから…!」

『バウッ!!』


 将星カリプスの為にも。自分たち召使いが、まだ使える存在であることを示す為に。期待されているのに、ここで失望されたくなくて。

 だから、まだ諦めない。

 彼女たちもまた、不屈の心をもって立ち上がる。

 奇しくもそれは、六花の後輩である魔法少女と同じで。場所が違くても、想う力は変わらない───その事実を、マジマジと見せつけられる。微笑ましくもあるが、それが敵陣営にもあるとなると、少々厄介味を感じてしまう。

 ……まぁ、あってもなくても、素敵だね、じゃあ死んで負けようかで終わるのだが。


「やる気だなぁ」

「……そろそろ仕舞いと行くか」

「りょかい。んじゃ、マーチちゃん!バイブス上げてっ!全開で行くよ!」

「───おっけー!そんじゃ、一気にやっちゃおう!」

「おー!」


 ならば、その不撓不屈に敬意を表して。魔法少女たちの大技で、戦いに終止符を打つ。

 殺さない程度に、殺す。

 そんな矛盾を孕んだ、攻撃を。魔法少女の強さを知り、二度とナメてかかって来れないように。勝とうなどと一切思えないように。

 魔力を滾らせる。

 声を張る。


「“福音の聖女”」

「“烈火の暴徒”」

「“偶像の花嫁”」

「“運命の旅人”」

「“写鏡の貴方”」


「「「「「───夢幻光<クインテット・ヘブンズフル・ソウルマギア>!!」」」」」


 一欠けの六花が、地上を平行に走る殺傷力高めの魔光を掻き鳴らす。


「ッ…」


 敗色濃厚、ダビーの額に汗が流れる。ナシラは、久々の不味い状況に低く唸る。彼女たちには、今まで宇宙怪獣を単独で狩ってきた自負がある。己の魔法で、己の身体で、勝利を収めてきた。

 その全てが、カリプスの監視下の元であろうと。

 なにか問題があれば、彼に助けてもらえる───そんなやさしさに包まれた中で、戦っていた。

 だが。


 今回は違う。


───先に言っておくが。今回、俺はお前らを助けねェ。自分たちの力だけで、勝って、生き残れ。

───チキュウの奴らに、目に物見せてやれ。


 視線を向けた先。こちらを見定めるように、カリプスが2人を見ている。自分の今後を……下手すれば死ぬよりも酷い目に遭う未来を、召使いに委ねた黒山羊を、見る。

 果たして。彼の期待を裏切れるものか。

 ダビーもナシラも、カリプスに救われなければここにはいなかった。


 この耳朶に残る、不良品を見る目で呟かれた、嘘のない暴言の数々。危うく食肉加工場に送られて、貧民街の更に底辺で誰かのご馳走になるところだった、過去。

 もう、怒れる金獅子が率いる軍団が、彼女たちを蝕んだ全てを更地にしたけれど。

 あの終わりを、鮮明に覚えている。


───わっ、わからないのか!?この彗星の存在意義を!この場所に集まる“資源”を求める者の声を、あなた様が、わからないとは申すまいなッ!?

───わーってるよ。だが、わかった上で言わせて貰う。


───俺には、必要ねェ。


 全てを黄金に塗り替えて、破壊し尽くした獅子の咆哮。最底辺を生きていた有象無象を、誰彼構わず呪った、死の森の厄災。夢の中に誘い、悪夢に自ら飛び込ませていった魅了の殺意。

 見て見ぬふりをやめた将星たちの力の一端を、あの日、まじまじと見せつけられた。

 その背中に憧れた。

 憧れたから、真っ先に自分に手を差し伸べてくれた男についてきた。


 ダビーとナシラには、恩を返すべき相手が多すぎる。


「勝つのは、ダビーたちなのです!」

『グルラァッッッ!!』


 声高らかに、勝利を求めて。培ってきた魔法を、全てを吐き出す。


「鉄工魔法!」

『〜〜っ!!』


───鉄工魔法<アイアンメーカー>

───螺旋魔法<デッド・スワール>


 星狼の背に乗って、その体表面に、掻き集めた鉄を鎧に作り替えて装着させる。無数の棘が生え、衝撃を和らげるシステムも添えて、突進させる。

 鉄鎧と星狼に挟まれたダビーは、常に魔力を発露させ、強化に強化を重ねて作り上げる。その工程を、幾度となく繰り返していけば。ただの突進は、凄まじい速度で空気を貫通する、一本の鉄の杭と化す。

 ナシラの防御貫通を付与した大螺旋も加えて、その身を大魔法に食い込ませる。

 

「捨て身か!」

「わーお、やるじゃん!」

「ぶち抜くのです!」

「すっご!」

「ふーん」


 その威勢の良さに、魔法少女は驚嘆すると共に……その意思を、力技で押し潰してやろうと、より魔力を込める。

 星狼を飲み込む鉄杭は、確かに大魔法に食い込むが。

 死んでも尚、現役である新世代を大きく上回る実力者が上位列を占める六花には、未だ適わず。

 鉄が砕かれる。


「きゃぁ───!?」

『ッ!?』


 空を舞う。魔光に呑み込まれて、鉄塊と共に、ダビーは大きく吹き飛んで。ナシラも、それ以上の顕現を維持することができずに、獣化を解いてしまう。

 砕けた鉄と魔力に押し流されて、2人は石畳は転がる。

 全身が痛みで悲鳴を上げる。悪夢を殺す光に、異星人は手も足も出なかった。

 敗北である。


「勝負あったね」

「ちっ……やるじゃねェか。流石は伝説と言ったとこか。 多少は手加減しろよ」

「いや、した上であれだよ?」

「クソがよ」


 戦いを見届けたカリプスは、ちゃっかり拘束をしてくるフルーフの手を甘んじて受け入れる。カリプスとしては、正直勝っても負けてもよかった。勝てば魔法少女の情報を直に仕入れることができるし、ある程度の牽制が作れる。負けてしまっても、懐に潜り込むことができる。最悪あの最強様にぶち殺される未来があるが……それはそれとして考えていることは複数あった。

 召使いの敗北は甘んじて受け入れる。上に立つ者として肯定する。


「うっ、ぐぅ…ご、ごめんなさい、ご主人様……」

「…主、ごめ…」

「……そう泣くんじゃねェよ。お前らは十分頑張ってた。俺はちゃんと見てたぜ」

「ひぐっ、ひぐっ…」

「〜!」


 泣き喚く子供二人をカリプスが宥める様子を、勝利した魔法少女たちは何処か珍しげに見る。部下想いなのはもうわかっていたが、あの時戦った敵の一面に感嘆する。

 手加減はしたが、子供をガチ泣きさせたのは……絵面がよくない。早く泣き止ませてくれないかな、と魔法少女は思っていた。

 その時。


「んま、勝ったんだからいーよね〜。ラピピに自慢して、ご褒美貰っちゃおっかな〜♪」


 魔法少女ミロロノワールの頭上に、砕け散った鉄の棘が降ってきた。


「いっ!?」


 突き刺さった。


 倒れた。


「……え?」

「……は?」

「うん?」

「───???」

「な、はっ?」

「えぇ…?」

「?」


 ……ここで思い出して欲しい。魔法少女が負ける条件、その内容を。

 一人でも落ちれば、魔法少女の敗北である、と。

 今ここに、魔法少女が一人、頭に鉄が刺さって流血し、ぶっ倒れて気絶した。

 もう一度言う。

 気絶した。


「は?えっ、これ…」

「……負けは負けだなぁ。ここで終わり!って閉幕とかも言ってないし」

「油断してるのが悪いよな、うんうん」

「マヌケなのです…」

「あーあ」


 困惑する異星人を真横に、魔法少女たちは気絶した鏡を好きなだけ蹴る。

 そして、気付く。


キュピーン!


───これ、怒られるヤツじゃね?


 彼女たちの脳裏に、怒髪衝天の蒼月と、指をさして笑う極光と、その後方で「先輩失望しました」の目で見てくる新世代の光景が浮かび上がった。

 あかん死ぬ。


「腑に落ちねェが……勝ちは勝ちだよな?」

「わ、わーい?わーいでいいのかな?いいですよね?ね?わーいっ!!」

「喝采…喝采?」

「なんでもいいだろ」

「喝采!」


 棚から牡丹餅。刺突の出処がダビーの最後の魔法である事実は変わらない。ニヤニヤと、何処か悪役地味た笑顔で笑うカリプスに、フルーフは呆れた顔で拘束を解く。

 もう知ったこっちゃねぇと、自暴自棄になって。

 ……元々、負けてもいいように策は用意してあったが。負けは負け。


「持ってけ泥棒」

「おー、悪ぃな。悪いことはしねェ、約束する」

「死にはしないから安心しな」

「そうかい」


 かくして。

 将星カリプスの召使いたちとの戦いは。魔法少女たちの油断と慢心による、敗北によって閉幕した。


「色々ありがとな!あばよッ!ラスボスさんにはよろしく伝えといてくれ!」

「あぶぶっ、ご主人様、これ辛っ」

「呼吸困難ッ」

「我慢しろ!」


 気絶から起きないノワールをカリプスは担いで、倒れるダビーとナシラを二人揃って小脇に抱えて、魔法少女から逃げた。徐々に揺れる空間の振動、発動を妨害されていた転移魔法が無理矢理空間をこじ開ける予兆から、全力で。

 カリプスたちが戦場を離脱した、その瞬間。


 星見公園に、魔法で造られた月の擬い物が、落ちた。


 結果、更地になった丘の上で、正座説教される大戦犯が五人いたとかいないとか。


ミロロノワール、捕虜になる

の巻

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“困惑する異星人を真横に、魔法少女たちは気絶した鏡を好きなだけ蹴る。” 困惑した敵は彼女たちが鏡を迫害するのを見て(笑 喜劇的な気絶の理由と仲間の中での地位(日常的に迫害される)...
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