161-穢れを知らぬ二重星
二話に分割しました
ファミレスでの遭遇から、一夜経って───星見公園、メインストリート。星の装飾が施された石畳が広がるその場所で、魔法少女と異星人が向かい合う。
片や蘇った6人の魔法少女たち。
そして、地球に潜伏する将星カリプスと、その召使いが二体。両陣営共に、告げれば邪魔してくるだろう“上”には一切の報告をせずに集まった。
どちらも勝算をもって、相手よりも優位に立てるような計略をもって、挑む。
否、正確には───将星の傍付きたちが、古き伝説に、挑戦する。
「やったります!」
「勝利、絶対…」
「いいね、気合い入ってる。それじゃ、うちらも配信魔法つけちゃおっか」
「驚くんだろうなぁ」
「大目玉不可避」
「黙りな」
勝てば全て許される。今までの大半がそれで罷り通って来たのだ。今更だ。そも、止まれと言われて止まるなら、彼女たちに手綱などつけられていない。
配信画面を広げて、かるーく経緯を話して、困惑気味の視聴者を余所に、4人が前へ躍り出る。
後方支援の歌姫と、物騒すぎる呪い師は逆に下がる。
今回、ダビーとナシラと戦ってあげるのは、重力天使と兵器愛好家、暴走機関車、そして、写し鏡の番人。
頼まれたとはいえ、勝負は勝負。勝敗の結果がかなりの痛手を産むが……どうにでもなるだろうと、彼彼女たちは楽観視している。
そもそも既に死んでいる上、捕虜になっても術者の手で魂を強制送還させてしまえばただの肉人形に変わり果てる魔法少女たちと、まだ生きていて、捕まれば例のあの人になにをされるかわからない異星人たちとは、土俵も含めてなにもかもが違う。
余裕をもって、対峙できる。そも、負けるつもりなんて欠片もないが。
「世界の厳しさってのを教えてやる」
「ねぇ知ってる?魔法少女は怖い生き物なんだってさ……酷いよね、みんな」
「ただ轢き殺すだけなのに…酷いのです!」
「最たる例がここにいたわ」
「ねっ」
「?」
今回の戦い、幾つかの条件が交わされている。
ダビーとナシアが両方共に倒れれば、魔法少女の勝ち。彼女たちを含め、カリプスは捕虜として魔法少女の軍門に下る。逆に、魔法少女は一人でも倒れれば、それで敗北。負けた魔法少女は捕虜となって、カリプスたちの監視下で拘束される。
勝てば一切問題ない。人数差も勝敗基準も、どちらにも有利不利があるが、関係はない。
後はもう、力を示すだけ。
「それじゃあ、いざ」
「ぶっころですっ!」
気合い十分、威勢よく吠えて───後に、二つの陣営に大きな影響を残す戦い、その始まりの一戦が、今、ここに幕を開ける。
꧁:✦✧✦:꧂
「いざっ───将星カリプス様の一の子分、“星錬鉄破”のダビー!!魔法少女、勝負!」
「“星狼骸螺”、ナシラ。出撃ッ」
───鉄工魔法<アイアンワークス>
───螺旋魔法<ダブルスパイラル>
真っ先に先陣を切ったのは、カリプスの召使いの2人。かわいらしい鉄色のハンマーを背負ったダビーが、地面を勢いよく叩いて、突進。ナシラは獣の四肢を活かした四足歩行で速度を上げ、魔法少女に急接近する。
同時に、魔法を発動。
ダビーの周りに鉄クズが浮かび、それが一つに溶けて、巨大な槍を作り上げ、射出。
ナシラは両拳に回転する魔力を纏って、撃ち放つ。
「あの魔法、バトルワーカーのと同じ?」
「似て非なるのだろうぜ。名前が一緒のなんざ、この世に五万とあるんだかな」
「ラピピの聖剣兵装の骨組みってことしか知らね〜」
「正面衝突なのです!」
───重力魔法<エンジェル・キッス>
───兵仗魔法<ディストーション・アームズ>
───鏡魔法<ミラードジャマード・プリズム>
───列車魔法<ミュータント・トレイン>
それを真正面から4人は受け止める。重力を叩き付けて鉄槍の速度を緩め、宙に現れた鏡が螺旋の衝撃波を防ぎ、暴走機関車が正面から轢き潰す。
相殺のすぐ後に、次手として放たれた魔銃の弾幕が敵を狙い撃つ。
「無駄です!」
───鉄工魔法<アイアンワークス>
空気中に漂う鉄微粒子、鉄分を増殖させ、思うがままに操作する魔法。瞬時にハンマーを石畳に叩きつけて、鉄の壁を作って銃弾を凌ぐ。
元々ダビーは鉄鋼業を生業とする一族の生まれである。星間戦争で母星が負けて、その余波で一職人の娘であった彼女も敗北の証を背負ってしまったが。
鉄工魔法。その真髄は宙にあり。虚空より、無より鉄を生み出すのが真の在り方。ただその場にある鉄を、自在に作り替える魔法などではない。
……他の魔法と組み合わせて、真髄に近い使い方をする例外はいるが。
そして。
「全速前進、一意専心」
───螺旋魔法<スパイラル・ロア>
疾駆する銀狼は、銃弾の全てをその身一つで躱して……口腔に溜めた魔力を、螺旋状に射出。大きな咆哮となって耳にダメージを与えると共に、空気を捻じ曲げて衝撃波を追従させる。
「覚えたての四字熟語、かわいいね───そんじゃ、次はこれね?」
「ッ」
───重力魔法<エンジェル・ビーツ>
ブランジェの強化された重力槍が、螺旋咆哮を正面から貫き、穿つ。あっさり霧散した己の技に、ナシラは僅かに目を見開いて……好戦的に、笑う。
その重たい技を、直に受けてみたいと───戦士の心が強く疼いた。
「バトル」
「わーお、やる気だね!」
「去ね」
「やよ!」
螺旋を両腕に纏って、連続殴打。鋭く研がれた狼の爪も付け添えて、ブランジェに猛攻を仕掛ける。天守りの盾で爪の斬撃を防ぎ、天砕きの矛で拳を受け止める。そして、反撃とばかりにシールドバニッシュ、槍による重力乱舞をお見舞いしてやる。
本来ならば、それで並大抵の戦士は吹き飛ぶのだが……
ナシラは倒れない。間一髪で攻撃を捌き、螺旋を放ち、牙を剥く。
「勢いは、ダビーも負けないですから!」
攻防一体、鉄骨の武器を無数に生成して、自分の周りに浮かして回すダビー。飛んでくる弾丸を盾で防ぎ、列車を尖突で穿ち、ハンマーを振るって魔法少女に攻撃する。
カドックとピッドは、そんなダビーの猛攻を受け止め、笑って対峙する。
「悪かねェな!」
「いい感じなのです!」
「ご主人様の為に!さぁ!負けてください!魔法少女とかなんとか!!」
「覚えろ!」
戦いが成立している。ただ、一方的にはやられない程の実力を、彼女たちはしっかり持っている。
……それで決定打を作れるとは、言わないが。
ところで。
「これ、ワタシいらんくね?」
視聴者たちとドームライブしながらバフを盛るマーチと違って、ノワールは完全に蚊帳の外。3人と比べて直接的戦闘力が薄いノワールは、時たま乱戦中に鏡を差し込んで邪魔する以外にすることがない。
だが、まぁ。妨害しかしないのは……魔法少女の沽券に関わるので。
「いっちょ魔法少女の厳しさ、教えてやるか〜」
アクゥームの入った───全生命体にとって毒素となる概念を凝縮した怪物を封じ込めた、魔法の鏡を。
戦場に投げ入れる。
ちなみに、これは余談だが。
「呪いは密だ。集めて集めて凝縮して、ぐっちゃぐちゃの濃縮体にするのがセオリーでしょ」
「なにいってんだテメェ。拡散で広くが戦術的にも通だ」
「いいや密だ!」
「ばら撒けや!」
「あぁん?」
「おぉん?」
:ついてけん
:高度な呪論バトル…!
:物騒すぎるんだが
:怖っ
フルーフとカリプスが、呪いの力の用途で激しい討論を繰り広げているのは余談とする。
共通項は殺意の高さだけだ。
閑話休題。
「埒明、破壊」
「おっ?なにするの───ッ、なに、その光…」
「<獣の法>」
「くっ…!」
ナシラとブランジェの苛烈な殴り合い。その勢いには、一切の妥協も余裕もなく。獣の四肢の猛攻、螺旋を伴った攻撃の数々は常軌を逸して、重力攻撃に負けやしない。
だが、千日手。ドリームスタイルは過剰だと制限して、単純な物理と通常の魔法で相手しているのだが々…流石は将星直属の部下。
とはいえ、このまま戦いを続行するのは味気ない───そうして動き出したのが、ナシラ。気高い咆哮を、青空を仰いで天に轟かせる。
すると、ナシラの身体が銀色に輝き、変形する。
<獣の法>───己の内に眠る獣性を解き放ち、一族の真の力を発揮する魔法。その一端が、ここに披露され……銀風が頬を撫でる。
『───アオーン!!』
銀色の光が収まり、現れたのは───御伽噺に出てくるような、巨体を誇る銀の星狼。獰猛であり、孤高であり、神秘的でもある、暗黒銀河の絶滅危惧種。
星にも噛み付く星狼。七メートル越えの幼体が、咆哮を轟かせる。
「すごっ……ラピスちゃんが好きそう……うーん、あれを宇宙怪獣で一括りにするのは、ちょっと無理かな」
『ガルルッ……バウッ!!』
「あはっ、いいねっ!」
『アオーン!!』
いつも以上に楽しげに、ブランジェは笑みを深めて……宇宙最強種にその名を連ねる、星狼の幼子へ、星の重力を叩き付けた。
『ガウッ!!』
「ッ、重い!」
それでも、ナシラは怯まず。爪撃を伴った腕の一振りをお見舞いする。重力にも負けない獣の一撃は、魔力を盾に防御を選んだブランジェを吹き飛ばす。
空中で縦に一回転して、衝撃を殺すも……
加速をつけた星狼は、全身に螺旋を纏った強力な突進を食らわせにくる。
間一髪で避けるも、避けきれず。右腕が掠り、骨折。
『グルル…』
もぎ取る気だったナシラは、不満気に喉を鳴らしながら猛攻を再開。無論、このままブランジェだけを狙うのではなく、ダビーと戦っている3人の元へ。
ダビーの後ろから、躊躇せずに強襲を仕掛ける。
慣れた気配を察知して、いつもの慣れで横に飛べば……バトンタッチ。
「ッ!」
「やっちゃえ!」
『アオーン───ッ!!』
「わわっ!?」
「いっ!?」
星狼の突進に蹴散らされるも、カドックとピッドもまた笑みを深めて、ナシラにやり返しと言わんばかりに怒涛の魔法攻撃を放つ。
戦略兵器の大火力が毛皮を焼く。熱暴走を引き起こした暴走列車が胴をへし折る。魔鏡から現れたアクゥームが、悪夢の毒でその肉体を黒く蝕む。
それでも、止まらない。
復帰したブランジェが、右腕の骨折をそのままに突撃。魔拳で脳震盪を引き起こすも、補佐に回ったダビーが鉄を量産して礫を作り、螺旋を纏わせて牽制を放つ。
その隙に目を覚ましたナシラが、更なる猛威を振るって振るって振るいまくる。
その全てを、魔法少女は対処し切る。
獣のような巨大怪獣の対処など、アクゥームとの戦いで履修済みだ。その経験を活かして首根っこを掴み、強力な魔法を叩き込む。
『ギャウ!?』
「ナシー!?」
「強くて丈夫でも、本体性能がよくっても。こんなんじゃオレたちには勝てねぇぜ?」
「くっ!」
歴戦の古英雄は、煽るように笑って。見込みある次代の将星候補を見下ろして。もっと抗えと命令する。愚かにも魔法少女と対立する宙の敵へ、警告を含めて。
もっと見せてみろと告げれば。
煽られた2人は、額に青筋を浮かべて───強い衝動に身を任せて、牙を剥く。
「一人じゃ足りない!絶対、全員ぶっ倒して、ご主人様に献上してやりますッ!!」
『アオーンっ!!』
その牙が届くのは、果たして。