149-あなたと対等でありたくて
:!?
:うおおおおおお───ッ!!
:復ッ活ッ!リリーライト、復活ッッ!
:夢の国の女王ぅぅ!?
:おかえりー!!
:なにこれ夢?夢なの?もう夢の中にいるの?
:いや、現実だ
:奇跡起きた…
:勝ったな
「ほーちゃん…」
「わぁ、現実を掴み切れてない顔……あっ、この聖剣は、返してもらうね?」
「ぁ…」
月魔法行使の為に手放して、宙に浮かせていた聖剣が、リリーライトの手に渡る。奪い取られ……いや、正確には取り戻された、か…
現実味がない。
わからない。理解が追いつかない。なにもわからなくて困惑することしかできない。
なん、なんて?女王?なに言ってんのこいつ。
全員が共通している疑問に酷く頭を悩ませている間に、ライトの手が離れる。
っ、あぅ……ん、なに今の。なに今の声。は?なになに自害していい???
───うるるー、オマエ…かわいいな
「黙って…」
内面にいるリデルに見られて、一人悶絶していると……下降したライトが、涙目のまま震える妹、エーテを力強く抱き締めた。
「エーテ」
「っ、お姉ちゃん……お姉ちゃん!お姉ちゃんっ!ほっ、本当に、本当にっ、生きて…」
「ごめんね、また心配かけさせちゃって」
「本当だよっ!!」
……感動の抱擁だな。泣けてくるよ。まぁ、エーテこと穂花ちゃんの精神的支柱であることをちゃんと自覚持った方がいいと思うよ、うん。
そう黄昏ながら眺めていると、コメットが、デイズが、ぽふるんが、あとその他諸々のゾンビ共が抱き着いてって団子になった。
……なんか祝勝ムードになってない?
まだ負けてないが?まだ終わっとらんが?まだこれからなんだが???
「ねぇ、女王って…」
「あー、実はね。あの世とこの世の狭間みたいなとこで、妖精女王様に会ってさ……」
「はぁ?」
??? ───妖精女王って妖精女王?なんで?
こっちもあっちも困惑。つーか、すんなりあの世行ってなかったんかい。行けよな。極光に当てられ悲鳴を上げる身体の痛みを回復しながら、耳を傾ける。
情報収集のターンだ。仕方ない。仕方ない……
「死んじゃった状態で、ずーっと見てたんだって。私たち魔法少女の戦いを、一人で。それで、まぁ……あっちで、色々とおしゃべりして……最後の力を振り絞って、願いを叶えてあげるって言われちゃってさ〜」
「蘇生してって言ったの?」
「ううん。そんな生温いのじゃないよ。
───女王様の全部、私にくれませんか?女王の座も、祝福の力も、全部、って言ったの」
「???」
「???」
暴論ってか傲慢っていうか、なんだこの欲深い女は……地位簒奪を狙う悪い奴だって、もっとマシな言い方すると思うんだけど。
……でも、そうか。
なんでライトの身体に、見覚えのない魔力が……妖精の祝福が捧げられているのか、理解できてなかったけど……それが理由か。
前例はあった。そう、僕とリデルの、力の簒奪と復活、公平じゃない再誕の前例は、確かにあった。まぁ、アレも奇跡と偶然が綱渡りして、無意識にできただけだけど。
今回、それを手繰り寄せたのは……他でもないライト。
妖精女王と出会い、交遊して、力を授かり、女王として復活した。
……なにが言いたいのか、だいたいわかってきた。
「つまり、おそろいだね!ねっ!」
「バカの発想」
「そんな照れんなって」
「お姉ちゃん…」
「……つーか、僕はアリスメアーの二代目首領であって、悪夢の国の女王じゃないから、お揃いでもなんでもないと思うんだけど」
「……ぁ」
正論ブッパしたら固まっちゃった……
だってそうじゃん。もうどっちも、国としては機能してないけど、悪夢の国の女王は、リデルのままだよ。だからその考えは間違ってる。
うん、期待させてごめんだけど。
……これボディブロー入ったか?精神ダメージで特大の入ったんじゃない?
「で、でも!実質統括してるのラピちゃんじゃん!あいつふんぞり返ってお世話されてるだけじゃん!ラピちゃんが女王代行してるようなもんじゃん!!」
『───喧嘩売ってるのか。おい、うるるー。目にものを見せてやれ』
「確かに、リデルはぐーたら無能チビロリだけど、そんな言うことないだろ!!」
「言ったね?今。もっと酷いこと」
『───うるるー?』
「あやべっ」
ごほんごほん。言葉の綾ってやつだよ。本気でんなこと思ってないって……六割ぐらいは。嫌なら改善しろ。僕に日常的に甘えんな元ラスボス。
……それにしても、お揃い、ねぇ…
随分とまぁおかわいいことを。そんな夢物語、真向から拒絶するけど。
「……でも、対等にはなれたよね?」
「……対等?なんで」
「肩書きだけでも、立場は実質一緒じゃん。昔は、一緒に魔法少女やってて対等だったけど……最近は、悪夢の王だ二代目首領だ、格差がすごかったからねさ……それ、私は気に食わなかったんだよね」
「子どもみたいなことを」
「子供だよ。私も、あなたも。子供だから、何夢見たっていいんだよ?」
「……そう」
……まぁ、穂希理論で行くなら、確かにこれで対等にはなったか。肩書きも、実力も、色々と総括して……一応は納得できるだけの話ではあった。
認めたかないけど。
そんな強く固執することかね……まぁ、君らしいっちゃ君らしいけど。
「……取り敢えず、おめでとう。もっかい死んでくれ」
対等、かぁ。ふぅん……確かに、一回死んで、僕と同じ土俵に上がってきた感はあるっちゃある。その点は、まあ認めてやらんこともない。
主人公補正って言うのかな。そーゆーのを味方につけて復活するのも、まぁらしいっちゃらしい。
……でも、そんなのの小さな積み重ねで、僕を倒せると思わないでほしい。
完全復活?それがどうした───僕の障害には、もう、オマエは絶対になり得ない。
仕切り直しだ。
「おっ、やる気だね……エーテ、コメット、デイズ。まだ動けるよね?」
「もちっ!」
「えぇ、勿論!」
「うん!」
「よーし、それじゃあ───ラストバトル!アリスメアー二代目首領、ムーンラピスの討伐!行くよーっ!!絶対に負かして泣かせてやろう!!」
「「「おーっ!」」」
「オレらも混ぜてくれよ!」
「楽しそうだね!」
「やるやるー!」
底無しの戦意が、勝利への渇望が……僕を止めるという使命心が、熱く強く伝わってくる。その事実が、思いの外気持ち悪くて、顔を顰める。
あぁ、いいよ。真っ正面から、潰してあげるよ。
手早く臨戦態勢を整えて、こっちに飛び込んでくる新旧魔法少女たち。自信に満ち溢れたその顔を、踏み躙って、負けましたって言わせてやりたくなる。
……こっちは、やる気も気合いも削がれてくばっかだというのに。
:がんばれー!
:ラピ様を止めろー!!
:いけー!
:おー!
仕方ない───ここが正念場なんだ。全部掻き集めて、希望をへし折らなきゃ。
目を瞑って、深呼吸……正直、やりたくなかったが。
まだ、僕に魔法少女の機能が残っているのなら、これも手段として選べる。どうやら、悪夢の器に作り直しても、魔法少女の力はなくならない……魂に由来するから、そう易々と排除できないらしい。
ならば好都合。正体を明かしてから、こっそり集めてたアレを使う。
端末を操作して───“蒼月のお茶会ch”を、久しぶりに叩き起こす。
「なにを…」
「今更やったって、応援してくれる同士は、集まらないと思うけど?」
「……そうだね。事前に集めてなきゃ、ね」
「は?」
初めて、この星に宇宙人共が攻め込んできて……蒼月の魔法少女の復活を宣言して、ユメ計画の全貌を喧伝した、あの日から。空に張り巡らした対宇宙音響兵器、正式名称希望重奏兵器フォルテシモ。あのスピーカーを媒体とし、世界中から、心のどこかで『悪夢を望む人間』を探知して把握していた。
そしてヒットした人間のアカウントをハッキングして、個別にメールを送った。
……内容は、まぁ。賛同者になってくれたら、優先的に幸せな悪夢の中で眠らせてあげるよー、だから署名して、僕の賛同者になってね、ってのだけど。
案外、前からのファンが多くてさ。やれ僕の邪魔したくないだの、あなたのご意志ならだの……狂ったように肯定するバカばっかだったけど。
でも。
;勝利を
;あなたの勝利を見たい
;家族に会いたい
;お願いします
;勝って
こういう時に、ちゃんと応えてくれるんだから……僕はやり遂げよう。期待を胸に背負うのも、祈りに応え、夢を叶えるのが、魔法少女なんだ。
僕にだって、その権利は……まだ、ある。
だから使う。彼ら彼女ら、悪夢の中に希望を見い出した被害者を、利用する。
打ち込まれた応援を、魔力に変える。
身体に巡らせる。
「クラウドファンディングみたいなもんだよ───さぁ、秘蔵の下準備は、これでおしまい。幸せな悪夢を望む人がこんなにもいるんだ。無視はいけないよ?」
「ッ、成程ね。用意周到だよ、本当……でも、ごめんね。私がそれを望まないから……ぶっ壊すッ!!」
「乗り越えるよ!お姉さんの絶望も、悪夢もッ!!」
「夢の中でずっと幸せなんて……そんな停滞、私は嫌よ!順風満帆すぎる人生とか、真っ平御免だわ!!」
「未来は自分の手で掴んでこそ、だもん!」
「……いいだろう、好きなだけ言え。何遍でも、その心をへし折ってやる」
「なら、何回でも再起するよ。意地でもね」
「ふんっ」
威勢のいい、誓いの声。悪夢を望む声にも耳を傾けて、それでも自分がいい方を……自分たちならば、もっといい未来を作り出せると、豪語する傲慢さ。
嫌いじゃないよ、そういうの。
認めるよ。僕が間違ってた。理解した気になってた……理解したと決めつけるのは、ただの押し付けに過ぎない。刃向かってくる彼女たちのことは、数値上は理解を越えた把握を済ませている。だから、どこまでやれば潰せるか、戦意喪失できるのかもわかっていた。
でも、結果は散々。何遍叩き潰しても、不屈の心で僕に立ち向かってくる。
舐めていた。
軽んじていた……かつての僕にもあった、心の強さを。諦めない精神を、わかっていたのに無視していた。それが僕の今世紀最大の失態。
今更だ。今更だけど……今からでも、挽回はできる。
勝つのは難しくない。何度でも、何度でも……この星が悪夢に包まれるまで、幾ら挑まれようとも、僕は休まずに戦える。
たった一人を除いては。
「やり直しだ───僕はムーンラピスだ。不可能を可能にする、いや、してきた女だ。オマエたちの諦めない心も、何度でも立ち上がってくる想いも……全て叩き潰す!!」
「なら、その隣で有言実行してきた私のことも、忘れちゃダメだぜ!?」
忘れるものか。忘れてなるものか。
何度オマエに苦渋を飲まされてきたと思ってるんだ……忘れたくても忘れられないよ。忘れるなんてさ、出来っ子ないんだから。
「僕の勝利は、絶対だ!」
「いーや!私たちが、勝つんだよ!」
正真正銘、最後の戦いが幕を上げ───リリーライトとまた、激突した。