12-なにも知らない帽子屋さん
『───オラよッ、と!ハハッ、おい、こんなもんかよ。テメェら魔法少女のやる気、ってのはよォ!!』
『ッ、まだ…まだぁッ!私たちは、負けない!!』
『ナメんじゃないわよッ!!』
『うぉー!!』
先日、初めてビルが魔法少女と激突し、奇しくも奇跡的パワーで押し切られて敗退した。
まさか武器に変形するアクゥームを作って使うとは。
確かに彼の場合、自分から動いた方が理にかなってるし問題はないな。
……ビルとはちょっとした密約を結んでいて、以前から定期的に大人になった魔法少女の捕獲をこなしてもらっている。いつまでも椅子の上でふんぞり返ってるヤツなんてもういらないでしょ。
いい加減目障りだったから、この際退場してもらう。
情報収集はメードにやらせて、武力行使はビルがやる。そして捕らえたクソ女共は悪夢に閉じ込めて、もう二度と表舞台に立てないように細工をする。
ちなみにドッペルゲンガーの魔法で偽物を置いてるから多分バレない。
思い出すなぁ。現役時代、威張り散らされたの。なんで前線退いて社会的立場に労力割いてるヤツにとやかく文句言われなきゃだったのか。
あーだこーだ言ってきたけど、死ぬのが怖くて魔法少女やめたヤツが言うなよな……会ったヤツら全員性格クソでマトモなのがいなかったの、本当どうかしてると思う。
なんでマトモなのが先に死んでいくのか。いやな世界の縮図を見た気分だった。
まぁ、それもこれで終わりだ。やり方はあれだけど……巡り巡って日本の、地球の為になるんだ。かつて真っ当な正義を掲げていたんだろうし、きっと喜ばしいだろう。
自己犠牲は魔法少女の基本だよ?
『テメェらが倒れるまで、俺は倒れねェよ!!』
:強ッ
:がんばれー!!
:武闘派を名乗るだけあるわ……
:拳には拳だ!
:負けないで!
……ビルくんなぁ。彼の経歴を洗ってまず思ったのは、社会ってクソだなってこと。
是非とも過去のことは忘れて、生き生きとしてほしい。
絶賛暴行と誘拐やらせてる身が言うことじゃないけど、彼からやらせてくれって言ったから……ほら、マグロって止まったら死ぬじゃん?多分だけど彼もそうなんだよ。
なにかやってないと死にたくなる。その気持ちは僕でもわかるから。
まぁ、そんな武力に長けたビルでも歳下の女の子3人を仕留めきれないんだから、本当に世の中ってわかんない。
魔法少女の友情パワーってバカにならないよねぇ。
『みんなー!もっと応援をお願いぽふ!みんなの応援で、3人の魔法を強くするんだぽふ!』
『みんなおねがーい!』
:任せろー!
:うぉらー!
:届け、俺の思いー!
:好きだー!
:↑
:↑
雑念混じりと言えど、応援は応援。魔法少女に勝利を、平和な日常をお願いする市民の声は魔力となって彼女達に届けられ、ビルに放つ魔法攻撃を強化する。
魔法少女を本気でやりにいくなら……配信を切断するか市民を皆殺しにするしかない。
その手は取りたくないからやらないけど……昔は普通にあったんだよね。流血沙汰にはさせないけど、今回もまた似たようなのをやって、戦闘のスパイスにでもしようか。
とまぁ、vs魔法少女の戦いはこの応援の力で押し負けて敗北となった。
アリスメアーの敗北は、アクゥームが浄化されたら……そこで戦闘継続は不可能と断じて、撤退するよう3人には命じである。
深追いは禁物。エンターテインメント色が強くなってる対魔法少女戦でその手は避けたい。
そも、僕らの目的はユメエネルギーの収集だ。
魔法少女の撃退、討伐も業務の範囲内だが……そこまで優先する項目でもないからね。
やるときはやるよ?魔法少女一人の時とかは狙い目ではあったけど、今は無理かな。
いい感じにカバーし合って、手の出しようがない。
さて、これで三銃士は全員敗北を経験したわけだが……士気は下がってないから、別にいいかな。
目的が目的なんだ。勝敗は二の次って印象が強い。
魔法少女が負けたら色々と面倒な問題もあるからね……そこら辺のリスクヘッジはちゃんとやっていきたいところなんだ。
「負け試合前提とか楽しくないだろ」
「これで勝っちゃったら政府が強硬手段取ってくるんだ。今のアリスメアーを見てどう思うかは知らないけど、変に徴兵制度とか魔力判定とかし初めて、魔法兵士なんてのを作られて困るのは僕たちだ」
「先を見過ぎだろう……そこまでやれるのか?」
「いや知らん。戦争オタクの魔法少女が熱弁してたから、参考にしてるだけ」
「なんだそいつ」
最高火力においては魔法少女最強格の女子高生ですね。たった一人で大軍隊を率いる魔法の使い手で、周辺の建物諸共アクゥームを穴だらけにしていた。
最後は三銃士以外の幹部怪人と相討ちになった戦死……不死身かってレベルで立ち上がる女傑だったから、まさか死んだとは思いもしなかった。
アクゥームの大群を一方的に蹂躙してたぐらいだしね。
……思い出すと腹立ってきたな。事ある毎に人の眉間に拳銃翳すヤベーやつだったし。
ただ、先輩の語る“想定”は、【悪夢】に追い詰められたやりかねない凄味があった。だからそれに倣って、普通は推奨されない行動を取っているんだ。
魔法少女を勝たせて民衆を安心させないと、両陣営共に不利になってしまう。
そこを調整するのが僕の仕事。調停者気取りである。
「……それで。マジで作ったわけ?
───アリスメアー公式アカウント、とかいうあたおか意味わからんの」
「うむ」
「はい」
バカがよぉ……マジで作るヤツがいるか。
そう、この2人、というかメードのヤツがアリスメアー公式垢というか宣伝垢というか、なんか閃きでアカウント作っちまったのだ。
もう堂々と「アリスメアー@愚痴垢」と。
なんで愚痴なんだよ。バカか?公式宣伝なのに愚痴しか呟かねェ気かこいつ。
もうね、頭抱えたよね。だってもう作られちゃってるんだもん。
「フォロワー数も上々、質問も山いっぱい、アンチコメはこれでもかと……完璧ですね」
「魔法で垢BANはできない……ククッ、成功だな」
「なにが???」
サイバー犯罪班困ってるよ?“虚雫”の魔法悪用するな?
「くふっ、オマエが再現した魔法を魔道書に書かせたのは正解だったな。お陰で私でも好きに使える。革命だな……ありがとうなうるるー」
「魔法少女の魔法、基礎だけとはいえ学べますからね」
「……は?待って……そんなの書いた記憶ないんだけど?なに、魔道書って」
知らん単語でてきた。え、そんなことした、したっけ?覚えてないんだけど……
魔道書なんて作ろうと思ったこともないんだけど。
「「あっ」」
……おい、なんだその目は。オマエら僕になにした。
「ふんっ、うるるー!喰らえ!忘れろビーム!!」
「いや避けるけど……ッ、おいメード!!はなっ、離せ!オマエら何考えてぶち殺ッ、んひっ!?」
「申し訳ございません!」
「許せ!」
やめろー!!
あっ。
꧁:✦✧✦:꧂
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アリスメアー@愚痴垢
最高幹部に止められたけど勝手に作って
始めてみた by女王
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
魔法少女-夢・星・花-【公式】
!!?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
魔法少女応援隊広報部
なんでーー!?じょぉ、女王!?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そこら辺の魔法少女オタク
ファ!?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「なに考えてるぽふ!?」
「うわぁーお。大胆だねぇ〜……あの女王サマってこんな俗世に被れたことするっけ?」
「知らないぽふ。でも、想像できないのは確かぽふ」
明園家のとある一室の押し入れの中、勝手に間借りして妖精たちの秘密基地となっているそこで、クマ型の妖精、ぽふるんとほまるんが額を突き合わせて会議していた。
魔法少女たちが中間テストの勉強に勤しんでいる隙に、2体は急遽緊急会議を開いている。
自分が契約した3人の魔法少女を支える、配信魔法への入り口ともなるアカウントに、突然フォローしてきたその謎めいたアカウント。
怨敵の名を冠すその愚痴垢は、もし本当ならば大変な、とんでもない代物である。
だって宿敵。公にも世界の敵とされている悪夢の女王がインターネットに進出しているのだ。
びっくり以上になにも言えない。
「どっ、どう反応するべきぽふ?」
「んー、無視でいーんじゃない?下手に触れて炎上するのいやじゃん」
そもそも敵同士、馴れ馴れしい手を使う必要もない。
「ていうか、愚痴垢なんだ。なに愚痴るんだろ」
「……情報収集、の点じゃ問題はなかったりするぽふか?うっ、うーん」
困惑するまま、二体はSNSをもう一度見つめた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アリスメアー@愚痴垢
明日18:00に配信するぞ
三銃士が
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「えっ」
「ほ?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
逆夢usagi@バイト戦士
聴いてないんスけど!?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
おやすみねこ@中間テスト有休
いやだ……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
蜥蜴暴威@戦闘アドバイザー
業務範囲外なんだが
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
波乱はまだ終わらない。