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141-ナイトメアーズ・ロマン


「力加減が難しいからねぇ。まずは、こっちの出力調整につきあってもらおうかなッ!!」

「いいよ、真っ正面からぶっ潰してあげる!!」


 元魔法少女ムーンラピスと女王リデル・アリスメアーの同化融合。これは2人が共生関係にあったことで、失敗も崩壊もなく、一切の過不足なく成立した。

 豊富なユメエネルギーがその場に満ちていたこと。

 そして、魔法少女の残骸要素が大部分を失っていたのが功を奏した。


 帽子頭に隠れた顔は、肉体の器に収まりきらない悪夢がなんとか形作ろうと未だ蠢いている。お見せするにはまだ醜すぎると、ラピスとリデルは秘匿を選んだが。

 ハット・アクゥームが見る景色と同期接続させ、悪夢の大王は世界を睥睨する。

 眼下には、いつまでも自分に歯向かう魔法少女たち。

 負ける要因は未だなく。現実世界を楽しむ最後の機会を与えんと、形態変化も重ねて、彼女たちに希望を掴ませてやってきた。

 だが、それはもう不要。

 ここからは、真の絶望とはなんなのか、ムーンラピスの力を叩き付ける。


「くっ、重いっ…」

「重圧のことだよね?体重じゃないよね?」

「そそそ、そうだよっ!」

「そう…」


 絶望を孕んでいた蒼き月は、悪夢を呑み込んだ程度では翳ることなく、更なる輝きを増してそこに浮く。犯罪的に美しいその魔光からは、誰も逃れられない。

 特に、相反する二つの力を、より純化させて取り込んだ彼女からは。


 夢貌の災神そのものとなって、悪夢の支配者を超越したムーンラピスからは。

 逃れられない。


「悪夢魔法───<デッドリー・ナイトメア・サン>」


 それは、死を誘引する悪夢の凝縮球体。全てを現実から消失させる破壊の太陽が、常に自分たちに伸し掛る重圧の対処に手間どう魔法少女たち目掛けて、落下する。

 速度はそこまでだが……超質量を伴う悪夢の塊は、その命を狙う。ただの浄化消滅の魔法程度では消滅できない、かのリリーライトの極光ですら無力化してみせた二年前の偉業は、未だ健在。

 試し打ちとばかりに斬撃を放っても、黒陽を斬ることは叶わない。あの決戦の日では、ムーンラピスが月を落とす魔法で対消滅指せたが……今は敵同士。別の手段を模索し打開しなければならない。極光をも呑み込む悪夢の塊は、魔法少女たちから待避の選択を奪う。

 神罰が下る。

 災神に逆らう不届き者に、悪夢の大王が理不尽な制裁を食らわせる。


「斬るのが専門の私じゃなぁ……ごめんだけど、こっちは任せてもいかな?適材適所、私は、ラピちゃんを叩く」

「仕方ないわねッ…、自爆覚悟で行くわ!!」

「任せて!」


 覚悟を決めたブルーコメットが、避けられない絶望へと星槍の矛先を向ける。人一倍負けん気の強いコメットの、その精神の強さに、仲間たちも負けじと呼応する。

 リリーエーテとハニーデイズも、魔力を発露させた。

 飛翔して、逆に近付いて死の太陽に肉薄する。危険など顧みず、真っ向からの踏破を目指す。

 今まで通り、諦めない。


「どれだけキツくても!」

「みんなでやれば、なんとかなるんだ!!」

「行くわよッ!!」


 仲間同士で力を合わせて、落ちてくる悪夢の太陽へと、夢と希望を掻き集めて。


「“蒼天に坐す光よ”!」

「“あまねく希望をその手に束ね”!」

「“世界を照らせ”!」


「「「───夢幻三重奏!<シン・マギアトリコロール・ハイドリーミーライト>っ!!!」」


 満ち足りた希望が、奇跡が、極光となって放たれる。


 夢色の極光は、漆黒の太陽の表面に直撃し……そのまま落下を食い止める。夢想の力で、悪夢の奔流に対抗して、色を塗り潰す。浄化するだけでなく、力で押し返しながら希望で悪夢を無力化していく。

 近付くのも幅かれるドス黒い悪夢を、自分たちの明るい色に染めていく。ただの浄化消滅では抵抗される。なら、消すのではなく染めて受け入れる。

 悪夢の黒陽に、呑まれてなんかやらない。


「いいっ、けぇぇぇぇぇ───っ!!」


 3人の夢の力は、しっかりと【悪夢】に通用して───ゆっくりとではあるが、太陽を押し返すことに成功する。力が直撃した一部分だけが明るい色に変色しているが……まだ悪夢の面積には勝てていない。

 だが、先達よりも早く成果を出してみせた。

 あのリリーライトよりも。


「みんな、すごいぽふ!なら、ぼくも!視聴者のみんな!応援パワーで、魔法少女たちの背中を押してぽふ!ラピスの魔法を止めるのを、手伝って!!」


:あいよー!

:まっかせろーい!!

:届けー!

:ラピ様にお灸を据えるんじゃー!!

:がんばって!

:いけーっ!


 民衆の声援を力に変えて、ぽふるんは魔法少女の奇跡にブーストをかける。真白の光が上乗せされ、三重奏の力が増幅さられると。

 徐々に、悪夢の太陽を押し返していく。

 3人の力が、そして配信を見ている視聴者たちの応援が実を結ぶ。


 もう、こちらとあちらの様子は見えない。

 見えなくたって構わない。太陽が消し飛んだ先で、月が驚く様を見るのだ。


 そう意気込んで、無理だ無理だと言われても、諦めずに頑張って。


「お姉さんの悪夢に、祝福の光を───ッ!!」


 漆黒の太陽が、奇跡の光に貫かれて。徐々にその勢いを殺されていく。

 貫通した通り道、内部からユメが悪夢に浸透していく。黒陽が、夢光の奔流によって洗い流されていく。それでも終わりは来ず、悪夢は胎動する。風船のように膨張して、ゴロゴロと雷鳴を響かせて。

 内部破壊に対抗して、黒陽は悪夢の力を増幅させるが、抵抗虚しく。


 爆音と共に、漆黒の太陽が破裂する。夢の光に負けて、消滅する。爆風と闇を辺りに撒き散らして、余波で残滓を吹き飛ばしながら、姿を消した。

 爆風に少し飛ばされた3人は、完全消滅した黒陽に喜び手を叩き合う。


「やった!」

「ッ、ふぅ……なんとかなったけど、今のでだいぶ魔力を持ってかれたわね」

「仕方ないね…でも、こっからが正念場だよ!」

「うん!」


 その感動を、遥か天上の暗闇からラピスは見下ろす。


「……人の想いは無限大、か。でも、その程度の集合知で僕の悪夢がどうにかなると思ってるなら、舐めてるとしか言えないよねぇ───《夢放閉心》、行け」

【【【アアアクゥームッッッ!!】】】

「ッ、うわ来た!」

「くっ!」


 悪夢との完全同化を受け入れ、新たな存在へと進化した自分の力の程を確かめたかったラピス。かつての自分と、魔法少女だったあの頃何度も目にしてきた光景に、少しの懐かしさと微笑ましさを感じる、が。

 敵役となった今、そんな奇跡を許すわけもなく。

 虚空から大量のアクゥームを出現させ、魔法少女たちに襲い掛からせる。そして、抗う敵対者を潰そうと、新たな魔法を落とそうと、徐ろに手を振り上げれば。

 殺意を感知。


「───舐めてるのは、そっちじゃないかなぁ。ねぇ?」

「!」


 聖剣を振り上げたリリーライトが、またラピスの首へと斬りかかってきた。道中、黒陽の表面に切り込みを入れて援護していたライトが、再びラピスに肉薄した。

 またラピスの感知が反応しきれない速度で、首を狙う。


「二度はない!」

「わかってるよ!それよりも……ラピちゃんの新しい力!いっぱい見せてよ!エーテたちより、私と!私と一緒に、踊ろうぜっ!!」

「ハッ、疲れ果ててる癖に、威勢がいい……いいだろう!ここで墜としてやるよ!」

「やなこった!」


 連戦の途中途中で休憩を挟んでいた新世代と違い、常に戦場にいたライトは、身体が上げる悲鳴を全て無視して、最愛の好敵手に襲いかかる。

 今更休むなど、状況が許すわけがない。

 そも、ラピスの前で休む暇ができるかというと、笑顔で否としか言えないのだが。


 片手間にアクゥームを悪夢で強化しながら、斬りかかるライトを相手する。


「バケモノ退治は好きだろう!?」


───<獄炎大公>+<灼災龍火>

───<黒恒陽滅>+<叛骨頭蓋>

───<侵蝕増大>+<邪霊怪水>


「<紅極龍魔(こうきょくりゅうま)

 <餓赦髑髏(がしゃどくろ)

 <邪水怪妖(じゃすいかいよう)>!!」


 複数の魔法を重ね合わせる魔加合一を、更に重ね合わせ作り上げた魔物たち。地獄の業火そのものであり、生きた炎たる魔龍。黒陽を動力源として胸郭に秘め、ビル一棟を優に越える背丈を持つ黒い骸骨。かつて見たのと似ている目玉のついた毒水の塊。三体の魔物、魔法生物が、ムーンラピスの手によって誕生した。

 自律する魔物たちは、定められた命令に従ってライトを攻撃する。


「極光魔法ッ!<ホーリーカノン>ッッッ!」


 触れれば火傷どころか溶解必須の炎龍、骨手で物理的に掴み掛かると共に精神干渉で悪夢に染めようとする骸骨、接触した物質を液体に変えて増殖するスライムの休みない攻撃を回避しながら、ライトは何度も光の斬撃を放つ。

 余所見厳禁、油断は禁物。少しでも隙を見せれば確実に命を落とす。

 いつも通りに致死が迫る戦場を、もう楽しむしかないとライトは笑う。辛くても、苦しくても、笑っていればまだなんとかなるから。

 轟音を上げて近付く魔物たちを、ライトの極光は次々と切り伏せていく。


「はああああああああああ───ッ!!」


 燃え盛る龍の首を焼かれながら斬り、骸骨はバラバラに分解して動力源に聖剣を突き刺し、増殖する怪水は極光で蒸発させるなど、手慣れた手つきで討伐していく。

 今まで何百体とアクゥームを、怪人を狩ってきた勇者を甘く見てはならない。

 だが。


「そう来なくっちゃねぇ……それじゃあ、悪夢注入」


 倒れ伏した魔物たちに、敗北を許さないムーンラピスが悪夢を注ぎ入れる。親和性がいいのか、すぐに魔法と悪夢は混ざり合い、切断された箇所、消滅された箇所を闇色の悪夢が埋め尽くす。

 そうすれば、破壊された魔物たちは、新たな色を纏って復活する。


オオオオオオオオォォォォォ───…


 重苦しい音が鳴り響き、咆哮と共に、蘇った魔物たちが産声を上げる。


「はぁん!?」

「楽しみは尽きないモノだ。それに……これが現実最後の思い出になるんだ。いいものにしないと。だから、もっと頑張る姿、見せてくれるよね?」

「そんなこと言われたら、頷くしかないじゃん?」

「ククッ……でも、一辺倒じゃ芸がない。ただの魔物討伐なんて飽き飽きだろう?」

「!」


 抗議の声には耳を貸さず、三魔を引き連れたラピスが、ライトと同じ位置まで降りてきて。黒く染まった無手から溢れんばかりの闇を出現させ。

 闇を操り、成形し、極限まで高めた魔力を凝縮させて。

 悪夢結晶を加工した二本の双剣が、その手に宿る。既に手放した銃剣の、代わりとなる武器が。

 魔に堕ちた蒼月が笑う。

 笑って、嗤って、嘲って、咲って、高揚するまま勇者に魔剣を振るう。


「剣んん!?」

「ハッ、そりゃ僕だって使えるとも。さぁ、お望み通り、好きなだけ踊ろうじゃんか!リデル!魔力調整その他諸々任せたかんな!しくじるなよ!」

『───私の扱い荒くないか?や、うるるーらしいか…』

「でっけぇ独り言!」

「うるせぇ!」


 脳に居座る小さな共犯者に魔力操作を一任し、数年前に設計だけして放置していた双剣、ナイトメアブレイカーでライトと切り結ぶ。

 銃剣を使っていた時よりも速い高速戦闘で、皆既日食の空に軌跡を引く。

 より多くの悪夢を取り込んだ影響か、気持ち多めの高いテンションで襲いかかれば、その喜びに共鳴してライトも笑う。


「ラピちゃ───!!」

「ラーイトッ!!」


───極光魔法<グリン・スラッシュ>


───月魄魔法<アビス・キルゾーン>


 剣戟をしているとは思えない轟音が、光源のない世界に響き渡った。


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