139-希望の一撃、想いを上乗せて
「極光魔法!」
「夢想魔法ッ!」
「星魔法───ッ!」
「花魔法!」
四つの異なる魔法属性が、月魄と複合魔法を飛び越え、僕目掛けて飛んでくる。その全てを片手で払い、最低限の空間断絶の防壁で余波や残滓を防ぐ。
残念なことに、こちらも無傷では済んでいない。
しっかりとダメージを負っている。まだ部位欠損は……怒りの彗星で土手っ腹を貫かれた以外にはない。ライトとタイマンしてた時のは除くとする。
あの時のダメージはもう回復しきってるし……あっちは違うみたいだけど。
「ッ、はぁ……ふぅ…」
息が荒い。汗を拭うリリーライトに、僕は生者と死者の差を感じてしまう。いや、再生能力があるか否かのところかな。正直、仕方ない面もあると思うけど。
よく頑張ってるよ、君は。
だから、もう沈んでくれ。
「月魄魔法」
今度は後輩たちではなく、疲弊を隠せていないライトを集中的に狙う。ここでまだ倒れるわけがないと、ある種の変わらぬ信頼はあるけど……それはそれ、これはこれ。
別に、全てを出し切ってもらう必要はないのだ。
絶対に勝つ為なら、全力を出せずに負かした方がいいに決まってる。今までは余裕を持たせてたけど、それはもうお互い様だし。
「諦めたら?」
「いやだっ!」
聖剣の一振りを銃剣の刃の部分で防いで、鍔迫り合いを押し付けるライトの攻撃を弾き返す。今の一撃で黒光りの刃が欠けたが、まだ許容の範囲内。
問題視すべきは、刃を修復する隙もないことか。
意識を割くべき相手は、こいつだけじゃあない。ほら、魔法が飛んで来た。
首筋を狙った夢想の一撃を、その場からターンしながら回避する。流れで星槍の突きと振り下ろされた花斧からも距離を取って、お返しに銃剣から弾丸を撃つ。
……あれ、この決戦で普通の鉛玉(魔力生成)撃ったの、何気に初めてじゃね?
銃の面目躍如だ。
「ほらほら、頑張って当てなきゃ───ちゃーんと実力で証明してみせてよ。君たちが、僕が思うよりも、しっかりできる魔法少女だってことを、さぁ!!」
「言われなくてもッ!!」
「嫌でも認めさせてあげるわッ!」
「勝つ!!」
煽ってやれば牙を剥いてくる後輩たち。疲れをものともせずに空を駆け、僕に各々の武器と魔法をぶつけてくる。たった半年の魔法少女生活で、ここまで実力を磨き、連携プレーも申し分ない。
……三銃士と決闘する前よりも、技に磨きがかかってる気がする。短期間でこれ程までの成長か……どうやら敵に塩を送ってしまったらしい。
今更か。
「私はできる魔法少女だよね!?」
突然、心配そうに問い掛けてくるライト……いや、は?こいつは何を言ってるんだ…?
できない魔法少女を相棒にするわけないだろバカか?
よくわかんないから無視した。
泣いた。
ウケる。
「お姉ちゃんを泣かせないで!お姉さん相手だと、本当に意味もなく繊細になるんだから!!」
「エーテ?エーテ?バックスタブやめてね?」
「えっ?」
無自覚刺突ヤバ。これが姉妹か…
ちなみに、バックスタブとは不意討ちとか暗殺とかの、背後からの奇襲を意味する。
可哀想な姉の人を僕も蔑んだ目で見下ろしてから、その素っ首に銃弾を叩き込む。回避不可能、防御不可避の一撃をライトは必死の形相で防御。光の障壁が首を守るが……その程度で止まってやる程、僕の銃弾もヤワじゃない。
こうやって、魔力操作をしてやれば……
「ッ、まっずい!」
障壁にめり込んだ銃弾が、その場で爆散。下手に貫通を命令するのではなく、ここは起爆させて障壁諸共ライトを負傷させる。
「……危ないなぁ。これ、普通に死ねるヤツじゃんか……私じゃなかったら死んでたよ?」
「大丈夫、君を人間と思って攻撃してないから」
「ふざけんな」
正直、人外に片足突っ込んでると思うよ。超至近距離の爆発を浴びても煤がついただけとか、どんだけ頑丈なんだ爆弾は効かないってか?
やっぱ、それなりの強者だと爆発系の攻撃は薄味か…
もっと魔力を込めた、小手先でもなんでもない殺意なら話は変わるか。無駄になるわけじゃないし、あわよくばで撃ちまくればね。
というわけで。
───“爆弾”+“憤怒”+“拡散”
「<狂憤爆怒>」
“驚喜”のトイトイジェスターの爆弾魔法と、“憤怒”のシンコレールの憤怒魔法、そして汎用魔法、魔法補助の役割で設計した拡散魔法を魔加合一した、タチの悪い複合魔法。
大罪シリーズであり威力倍増の促進効果を持つ“憤怒”を組み込んだことで、威力が倍増した爆弾。
さらには拡散機能付き。
見た目は怒り顔のドクロマークが描かれた爆弾だけど、その危険度は言うまでもない。
……精神汚染要素は、こっちも被害被りそうだから今はやめておく。
「爆弾の対処法、その43!消し飛ばせッ!!」
───極光魔法<ラディアント・アークカノン>
アホみたいな規模感の爆弾を放り投げれば、あまりにも脳筋なことを叫んだライトが、空間を埋め尽くす極光を、それこそ今決戦最大規模の爆光を放ちやがった。
あいつ、爆破させる前に消し飛ばしやがった。
相変わらず危機感が鋭いな……確かに、あの魔法爆弾の爆破範囲は決戦フィールド全体、真下の廃城も含んだ全体破壊攻撃だったけど!
自爆勝利もありかな、なんて邪な気持ちを抱いてたのがダメだったのか……
だろうな。
爆弾そのものを消滅させた極光に半身を焼かれた僕は、自動再生を回復魔法で促進、傷を癒しながら更に更に攻撃魔法を連打する。
今の光、頭を掠めてたら危なかったけど……
そこまで運は味方してなかったみたいだね。ほんとさ、実力だけで勝負が決まらないのって、理不尽な摂理ってかバグだよねもう。
……今はライトの相手より、後輩たちの相手したいな。
分身しよ。
「“月”+“影”+“鏡”───<万月影絵>」
自分の影を魔法で引き伸ばして、縦半分を切り離して、そいつを僕の身代わり、分身に仕立て上げる。普段は鏡の魔法で分身を作るのだけど、今回は変えてみた。
鏡魔法の分身を基礎に、月で補強、影魔法で僕を象る。
性能は従来のとそんな変わんないけど……耐久力は数段違う。
「分身というよりも、これはもう複製の域だね……さて、もう一人の僕、そこのアホ面ピカピカ女は任せた」
「あいよー。まかセロリ」
「こんのっ!」
「ハハッ」
分身もとい複製の僕がリリーライトの脳天をかち割りに行ったのを機に、僕は瞬間移動。ライトと複製との戦闘に介入しようとしていた後輩たちの背後を取る。
気配に気付いた時には、もう遅い。
迎撃に出ようとする動きを制して、やさしく、先輩風を吹かせるように笑ってやる。
逃がさない。
「いつの間に!?」
「格の違いってのを教えてあげるよ」
「ッ!」
───星魔法<ブルースター>
───花魔法<マジカル・ホープフラワー>
そして。
───夢想魔法<ドリーミーストライク>
新世代3人の固有魔法。今までこれといった意味もなく使ってなかったけど……最終局面なんだ。普通に使ってもいいだろう。
まさか、使えないなんて思っちゃいないだろう?
安心しなよ。威力も攻撃範囲も、ぜーんぶ底上げしたの使ってあげるからさ!
挑んで来い。
「望むところ!」
「受けて立つわっ!!」
「負けないッ!!」
そうしてかわいい後輩たちは威勢よく吠えて……おっ。僕が使ったのと同じ魔法で対抗してきた。いいね、力技の押し合い。実力勝負は嫌いじゃない。
三つの属性の魔法が、双方向から激突する。
夢の力、星の力、花の力。
こういうのは普通、魔法の持ち主の方が強くなるけど、僕相手じゃ話は変わる。
当たり前だけど。
空中で拮抗する六発の魔法。出力の強さは───勿論、僕の方が上。
「くっ、うぅ…ッ!」
「なんのっ、これしきッ!!」
「おっ、おおおおッ!!」
よく耐える。
「頑張るね───その想い、またへし折ってあげるよ!」
奮闘する後輩たちの心を、彼女たちの魔法で破壊して、へし折って、ぐちゃぐちゃにして、もう二度と立ち上がれないように攻撃する。
威力を上げて、僕から放たれた三魔法を強化する。
今更回避する術は与えてあげない。
そのまま、押し負けた魔法と一緒に、君達を戦闘不能に追い込んでやろう!
沈めッ!
「発展性がないなぁ……耐えて耐えて、耐え抜いた先に、希望なんてないんだよ!!」
「ッ、ただ耐えてるだけじゃ、ないもんっ!」
「あ?」
何を言って……僕の目には、愚直に耐え忍んでる姿しか見えないけど?
疑うけど、瞬時に警戒モードに切り替えて周りを確認。魔力探知と殺意感知も総動員。同系統の魔法も複数起動し要警戒……そう目視と探知の両方で、僕と後輩たち、あとライトの周辺を確認していると。
漸く、脳に警鐘が鳴る。
遥か遠方から、此方に。
僕を狙って、なにかが、飛来する───飛んでくるのを察知して。
「この速度は…」
その方向に振り向いた時には───もう、遅かった。
「魔力、全開ッ!!」
「はあああああああ───ッ!!」
「届けえええええええ!!」
「応援、届けぽふー!!」
飛んできたのは、出力を絞っていた総探知の圏外から。まさか、その手を使うとは思っておらず、気を抜いていた予想外が……後輩の魔法を押し返していた僕を穿つ。
回避できず、咄嗟に防御を張るが、なんと間に合わず。
複数の要因が重なって対応しきれなくなった超高速……僕の側頭部に、音速で“槍”が突き刺さる。
頭蓋が、貫かれた。
「なっ、がッ───!?」
飛散する魔力の粒子。痛みを訴える視界の向こうには、複数の魔力が絡み合って作られた、槍があった。
星槍を軸に、花で殺意を覆い、夢で現実から隠した。
それぞれの特性を活かした合体技が、僕の想定を超えて突き刺さった。
「こんなものッ!」
槍を引き抜こうと手で掴むが、持ち手に絡んだ蔦が逆に僕の手に絡みつく。そして、夢想魔法の夢の力が、悪夢の力を削ぎ、この僕の抵抗を弱めた。
悲鳴を噛み殺して、睨む。
「面白いことをする……ッ!」
睨んだ先では、僕が未だ槍に手間取って緩んだのを機に魔法に打ち勝った後輩たちが、憎々しいぐらいのドヤ顔を此方に向けていた。
ムカつく。
やられた。
「なんとかなった!」
「名前は、後でじっくり考えるわ!」
「やればできるもんだね……お姉さんが、私たちに意識を集中させてくれてたから、事前に作って遠くに離したのが上手く刺さった…本当によかった……」
「……成程ね」
意識の裏を掻かれたわけだ。また、彼女たちの成長を、魔法少女としての強さを見せつけられた。こっちがバカに気を取られてる隙に用意するなんてね……僕の意識外から牙を剥くなんて、普通は無理だけど。
自信をもってそう言えるけど……どうやら、まだ僕には油断があったらしい。
後輩たちが、僕の予想を上回るわけがないと。
慢心があったらしい。いけないね……っ、あぁ、やっと抜けた。
手の中に収まった槍を、素の力でへし折って、破壊。
生憎、頭部の修復は時間がかかる。魔力制御にもムラができる……でも、この子たちを相手することには、一切の不足はない。
「褒めてあげるよ、心からねッ!!」
称賛の想いを込めて、月の魔力をぶつけようと決め。
側頭部から再生の煙を吹き上げながら、やる気に満ちた後輩たちに銃口を向け───…
殺意。
歓喜。
嫉妬。
愛情。
「ッ!?」
気持ちの悪いぐらい、綺麗に混ざった感情の色が、僕の探知をぐちゃぐちゃにしてきて。悪寒がする先へ、バッと頭を動かせば。
光翼を生やしたリリーライトが、僕の首に。
その手には、目が潰れるぐらいの輝きを宿した、悪夢の天敵たる聖剣が。
動けない。
防げない。
避けれない。
止めれない。
無理だ。
「次は、私だね?」
───極光魔法<ルミナス・ディキャピテーション>
自分より先に、僕に一番のダメージを与えた後輩たちに嫉妬して、僕の予想を上回ったことを歓喜して、そのまま殺意と愛情をぶつけてきて。
視界が明滅して。
抵抗も適わず……
首は刎ねられた。
後輩たちの手柄を塗り潰す勢いで、致命傷を与えるのは私であると力強く主張する幼馴染の図。
偽物は最高速度で切り捨てられ、その勢いで首を斬った。
衝動に身を任せて。
後など考えないで。
怖いね。