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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
人外魔境悪夢決戦
150/234

137-モード・ヘブンズ


 目が覚めてから、数分後。

 エーテ、コメット、デイズ、ぽふるんは、廃城の上層へ飛んで向かう。激戦の音が鳴り止まない、太陽を隠された空へ。破壊も轟音も、殺意と共に飛び交う最後の戦場に、魔法少女は目指す。

 遥か下層で、主導権を奪い取った先輩たちが幹部怪人を相手している音を聴きながら。

 遠くなっていく戦場から、近くなっていく決戦場へ。

 魔力は回復した。やる力も十分。乗り込んでも、容易く負けない自信だってある。

 不安はあれど、突き進むのみ。

 そうして思うのは、2人の姉。若しくは、世界を救った英雄たち。


「お姉ちゃん…」


 視界の端から端まで、一筋の極光が世界を横断する。


「お姉さんっ…」


 蒼白く光る魔光が、幾つもの軌跡を描いて複数飛来し、攻撃の余波で世界を震撼させる。

 二色の光が、皆既日食の下で絶えず交わり続ける。

 一度でも飛び込めば、致命傷は不可避の戦場に、3人は飛び込んで。


 希望に満ちた夢の躍動を、絶望を孕んだ悪夢の胎動を、その目に映す。


「───あまねく奇跡に、祈りと輝きを。希望に満ちた、尊き明日を夢見て。私の光が、悪夢を照らす」

「───絶望を仰ぎ見よ。滅びの夜天に、蒼月は坐す」


 高まる魔力が、詠唱と共に更に跳ね上がって……最早、収まることを知らず。

 赤色の夢光と青色の夢光が、天を貫いた。


「ドリームアップ」

「マジカルチェンジ───っ!!」


 声を揃えて、覚醒の力をもって、更なる力を引き出す。


 漸く、ドリームスタイルに変身した両陣営の最強格……リリーライトとムーンラピスが、より豪奢になった衣装を着こなして、より殺意の増した武器を振り回す。

 そこに、余人の立ち入る隙はない。

 後輩たちの目覚めを合図に、伝説の魔法少女たちがまた力を引き出した。


「行っくよぉ、ラピちゃん!」

「いい加減に沈め、ライト!」

 

───極光魔法<リヒト・エクスカリバー>


───月魄魔法<ケイオス・ムーンハザード>


 今までと比べ、どちらも尋常ではない程の魔力を込めた斬光と魔光が、拮抗することもなく爆散。結果的に互いを対消滅させる程度で終わった初撃は、勿論ただの序章。

 2人の猛攻は、より過激に、殺意に満ちたモノとなる。

 既存の魔法だとしても、最早、過去の魔法と同じものと思うことなかれ。


 殺意の奔流は、収まらない。


───極光魔法<ホーリーカノン>


───月魄魔法<ムーンフォール・キャンサー>


───極光魔法<ブレイブ・ライトクロス>


───月魄魔法<ネオ・サテライトレーザー>


───極光魔法<ソーラー・キル>


 怒涛の魔法合戦。

 水飛沫のように、対消滅し合った魔法の残り香、弾けた魔力粒子が霧散する。空間は歪み、常人ならば魔力酔いで戦線離脱してしまうような、地獄が生み出される。

 手軽に構築された地獄は拡がっていく。

 世界を震撼させ、廃城を次々と崩しているのに、両者は止まらない。


「そうだよ、これこれ!この全能感!これが最高なんだ!ねっ、そうでしょ!ラピちゃん!!」

「はいはいそうだね、テンション上げすぎなんだよ」


 高揚する精神をそのままに。口ではそういいながらも、ラピスも頬を赤く染めて。

 戦闘は激化する。


「アハッ、楽しいねぇ!!」

「わかるけど、さぁッ!!」


───極光魔法<キュアリー・フラッシュ>


───月魄魔法<マジック・デスペラード>


 世界を震撼させる威力の大魔法の数々を、2人は一切の躊躇いなくぶちまける。そう次々と連続して発動すれば、対消滅が追いつかず、双方の肉体に被弾する。

 直撃した攻撃は、例え余波であろうと威力は絶大で。

 2人は激しく欠損をしながらも、攻撃の手を緩めることなく攻防を重ねる。

 加えて。


「<セイクリッド・サークル>!!」


 一度発動すれば数分はもつ、リジェネを施す破壊不可の魔法陣を展開すれば、ライトの身体は常に最盛期のまま、永遠と戦いに躍り出ることができるようになり。

 怪我を浴びては治して、衣装の千切れも修復して、常に最前線を駆け抜ける。治癒一つでより効率的に、最高最大の戦果を出せるように、ライトは殺意を磨く。

 立ち止まることは、ない。

 そして、勿論のこと。


「魔力を消費しての再生と違って……んっ。僕の躯体は、ユメエネルギーを還元して肉体を再構築する。悪夢由来の完全オーパーツ、とでも言おうか」

「ゾンビに再生機能なんてありませんことよ!?」

「キャラ崩壊してまで言う?」

「ズルいッ!!」

「それが本音か」


 ボコボコと肉が迫り上がって、欠けた右腕が再生する。あまりにグロテスクな光景は、決戦が始まってからは既に何回も流れていた。

 再生する不死の謎機能を持つラピスは、一応回復魔法も併用しながら万全の状態を維持する。例え手足が千切れて吹き飛ぼうが、心臓部に極光が突き刺さろうが、無意味。

 純粋な物理攻撃では、最早ラピスには通じない。

 実は再生に時間がかかる頭部と首の接合部だけは密かに守って、余裕綽々、快活に笑って黒天を舞う。

 魔力が飛沫となって頬を染める。


「堕ちろッ!!」

「いやだーっ!」


───月魄魔法<ルナエクリプス・ラズワード>


───極光魔法<セレスティアル・ソーサリー>


 夢覚醒によってより脅威度が跳ね上がった月の魔光と、それすらも呑み込まんと膨れ上がる聖なる極光が、同時に飛距離の中間地点で衝突し…

 拮抗することもなく、互いを撃ち抜く。

 そう、対消滅するわけでもなく。どちらか一方が相手に打ち勝つわけでもなく。


 貫通し合った魔法が、予想外に驚く相手に炸裂する。


「うっそぉ!?」

「よくやるっ…」


 破滅的な光に、両者揃って視界を埋め尽くされて───防御態勢に入ろうと、少し遅れて覚悟した、その時。

 第三者の横槍で、下方向からの光で、魔法が霧散する。


「ッ!?」


 溢れんばかりの夢の光が、“祝福”に満ちた想いの力が、殺意に満ちた攻撃を下から包み込んで、ゆっくり、そしてやさしく消滅させていく。

 死が遠ざかる。


「今のは…」


 霧散した光を見て、驚きと共にライトは視線を巡らす。自分でも後から反省するぐらいは威力を乗せて解き放った極光も、こちらを殺すつもりで放たれた魔光も、あっさり消滅してみせた夢の光。

 覚えのある、全てを夢に消し去るその魔法の持ち主を、彼女たちは既に知っている。


 己の真下、廃城の屋根に視線を送れば。


 膨れっ面の───あまりに危険すぎるじゃれ合いをする姉二人に、密かにブチ切れているリリーエーテが、仲間を引き連れてそこにいた。


「ッ、エーテ!みんなぁ!!おかえりっ!!」

「チッ……お早いお目覚めだね。本当に……僕らの後輩を名乗るだけはある」


 心配だったのか、泣きそうな笑顔で手を振るライトとは対照的に、ラピスは忌々しげに新世代を睨む。尽く自分の計画を阻む、もう一組の障害。

 単独行動ばかりのライトと違って、協力型の脅威。

 下手すれば、かつての友よりも注意しなければならない相手になると確信している。

 かつての自分たちのように、度重なる試練を乗り越え、急激に成長した後輩を。

 その意地を、力を、頑張りを。

 ラピスは認めざるを得ない。


「お姉ちゃんッ!余波で私たちが死んじゃうとこだったんだけど!?何回私が夢想して消したと思ってるの!?これ地上に落ちてたらどうなってたと思ってるわけ!?」

「いやー、そこはさ、ほら。防御結界張ってるっぽいし、なんとかなるでしょ?」

「貫通してたけどッ!?」

「マジ?」


:穴空いてますね

:なんなら空けてましたね…

:おっ、コメント欄機能してる!やっとだ!

:でも接続悪いな…

:妨害電波やろなぁ

:ラピ様節だ


 同じ土俵にいるとはいえ、遥かに格上の2人の魔法を、たった一手で無力化して見せた腕前。こっそり機能不全に陥らせていたコメント欄の復活と、攻撃しか脳のない姉に説教する妹を見つめながら、ラピスは考える。

 何故、彼女は、彼女たちはここまで己に抗うのか。

 自分たち悪夢に従わない心は、かつての自分を思えば、わからなくもないが。

 気に食わない。

 邪魔をしないでほしい。

 あまりにも不都合で、不理解を示す4人と一匹が揃ったことに、やはりというか苛立ちが生じる。

 その本音を押し殺して、ラピスは言葉を投げる。

 合流した後輩たちが、首領となった己と殺し合う、その覚悟を決めた彼女たちを、しっかりと敵と見据える前に。甘えを捨てる前に。

 問い掛ける。


「それで。ここまで来れたことは、褒めてあげるけど……僕に殺される覚悟が、命を捨てる準備ができたって認識でいいのかな?」

「んーん。そんなんじゃないよ。私たちは勝ちに来たの。ここにいるみんなで、お姉さんを止めに来たの」

「結構遠回りになったけど、ちゃんと辿り着いたわよ」

「悪夢なんかで惑わしたって、もう無駄だもん!絶対に、負けてあげないから!」

「終わりにしよう、ラピス!」


 参入した後輩たちと元契約妖精の決意を、これでもかとその身に浴びる。非道を行っている自覚はある。それを、真正面から受け止められた上で、しっかり向き合うことを選択された。

 息苦しさに胸を抑えたい衝動に駆られるが、それもまた敵対者としての宿命。

 自分で選んだ道。短慮ではなく、熟慮した上でラピスはこのユメ計画を仕組んだのだ。今更修正することも、後輩たちに感化されて取り止めるのもありえない。

 初志貫徹、楽園への道程を、運命を阻む魔法少女には、殺意をぶつけるのみ。


「いいねぇ〜、やる気いっぱいだ。こりゃ、私ももーっとやる気出さなきゃだね」

「お姉ちゃんは十分出してるでしょ…」

「まだまだ……知ってるかい我が妹よ。手札が多い方が、戦いでは勝つんだよ?」

「……それ、お姉さんの持論だよね。パクった?」

「ギクッ」


 つい数分前にも聞いた幼馴染の言い分を真似れば、妹に即座に看破された。かっこよさそうな雰囲気を醸し出して突然語り出した幼馴染に、ジト目を向けてから、ラピスはまったく仕様がないなと頭を振る。

 場を和ませようとでもしたのか、責められている阿呆に笑みを向けて。

 牙を剥く。


「───いいだろう。君たちとの決闘を、僕は歓迎する」


 リリーエーテは守るべき存在。

 ブルーコメットは見ていて安心できる存在。

 ハニーデイズは小動物的な存在。

 ぽふるんは、手を離せないおっちょこちょいな存在。

 そして、リリーライトは。時に競い合い、時には背中を預けられる、信頼していた存在。

 全て、そういう存在だった。


 彼女たちに抱いていたイメージを、価値観を、本音を、もういらないと切り捨てる。

 ラピスにとって、彼女たちは敵。消すべき灯火だ。


「期待させると悪いからね……先に告げておくよ。僕にはあと二つ……形態変化が、ある。そこんとこ、ちゃーんと理解した上で、挑んでね」

「自重してよねっ!」

「ラスボスに形態変化は必須でしょ?マッドハッターも、ムーンラピスの変身も、このドリームスタイルも……僕の衣装変更多いな?」

「バリエーション豊かね」

「まぁいい。それじゃあ───今からその一つ目を、皆に見せてあげるよ」


 水面下の腹の探り合いも、魔力回復と意思確認を兼ねたアイスブレイクのおしゃべりもそこそこに。

 ムーンラピスが、魔法を発動させる。


 魔法陣が浮かぶ。

 不穏な魔力の胎動が、空間を、廃城の空を、皆既日食の闇に彩られた地球を、震撼させる。

 夢は覚めず。

 現は在らず。

 いつしか、太陽も闇に翳り。

 月のみが世界を睥睨する。

 悪夢が踊る。


───夜闇の中、太陽を食らった月の、その輪郭が、青く輝いている。


 雲一つない漆黒の空に、異色の蒼が差して、その存在を力強く主張する。この星の、夢見る星の支配者が、一体、誰なのか。それを証明するかのように、悪夢の力を秘めた蒼が空を侵蝕する。

 フィールドが書き換えられる。

 テクスチャが塗り変えられる。

 彼女に相応しい“蒼”に。彼女を祝福し、喝采し、見守る月の色が、世界を支配する。

 より自分に有利な戦場に。

 満月の下、一番力を引き出せる、本領発揮が適う世界をそこに創り出す。


 変化は一瞬だった。


 いつの間にか、魔法少女たちの住む世界は、月の魔力に支配された。


「ッ…」

「たった今、地球を僕の支配下に置いた───二年前の、あの運命の決戦と同じように。ムーンラピスの魔法威力が最も上昇する、夜を。この空に置き換えた」

「相変わらず、出鱈目なッ…」

「できることをした、ただそれだけだろう?」

「その“それだけ”が、どれだけ異常なのか……いい加減に理解して欲しいかなー?」

「ふんっ」


 衛星移動、月を掌握できるからこそ可能とする芸当を、彼女は会話の片手間に、詠唱も儀式も、本来必要な過程の全てを端折った、超が付くほどの略式発動。

 満月の下、ムーンラピスの戦闘能力は通常時と比べて、否、比較するのもバカらしくなる程向上する。

 それこそ、魔法の基礎の基礎である魔力弾一つで隕石を吹き飛ばせるぐらいには。


 可視化できる程の、濃密な青い魔力をその身に纏って、ムーンラピスは滔々と紡ぐ。

 

 魔法少女ムーンラピスが、ドリームスタイルに覚醒し、強化された上でお出しされる、彼女の全盛期───悪夢に染まる前の彼女における、最終形態。

 月を背負って、闇を我がモノとする、月下の大魔王。


「夢現超越、“モード・ヘブンズ”───さぁ、始めよう。僕たちの、最後の戦いを」


 決戦が幕を上げる。


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(゜∀゜)
五つの形態の変化 今は第四段階です ドリームスタイルは最強の形態だと思ったが、まさか3位になるとは思わなかった 地球さんは持ちこたえられますか?
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