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134-さよなら天国

夢は覚めるもの

あっさり目です


 文化祭も佳境に入り、徐々に太陽が落ちていく。

 それでも熱狂は収まらず、高校に集まった人々の感情が高まっていく。


「すごいねー!ね、来てよかったでしょ?」


 笑って同意を求める穂花に、ハット・アクゥームも然と頷き、笑顔で肯定する。厳密には違うが、妹のようなモノが楽しそうでなによりだと。

 ここがどんな世界なのか、帽子頭はしっかりと理解しているが……邪魔をするのは無粋だろうと、なにもしない。

 干渉するのは己の役目じゃないともわかっている。

 沈黙を選ぶ帽子頭は、楽しそうにパフォーマンスを見る穂花を見守り続ける。


 意図せず同じ夢の中に入ってしまったが……まぁ、まだなんとかなるだろう。主人同様、最後は楽観視して足元を掬われるのはお馴染みである。

 そう、このように。


「───見つけたッ!!」


 聞き馴染みのある声が、穂花の耳に届いた。反射的に、背後を振り向けば。


 青いフリフリのコスチューム……魔法少女の服を着た、青色の見覚えのない女の子がそこにいた。

 視認した瞬間、誰が誰なのかわからなくなった。


「ど、どちら様…?」

「はァ?何言って……あぁ、認識阻害。成程、自認が夢でおかしくなってるから、わからないのね」

「はぁ?」

「私よ。空梅雨蒼生よ」

「……は?」


 友達の名を名乗る青い不審者……確かに、似てはいる。でも本人だとは思えない。誰か助けてくれないかなと周囲に視線を配るが、誰も見向きもしない。

 ……どうやら、穂花以外、誰も目の前の青い人物を認識できていないらしい。それこそ、頭上で「やっときた」と顔を顰める、奇怪な帽子頭のように。

 点と点が線で繋がる、漠然とした違和感に苛まれながら穂花は疑う。


「ほ、本当に蒼生ちゃん…?」

「えぇ、そうよ。小学生の時、泣いてるあなたのおでこに生きたカエルを押し付けて笑わそうなんてあたおかなこと本気で実行してた蒼生よ」

「本物だぁ!?」


 ちなみにそれが後の親友同士の出会いである。最悪だ。


「って、ハット・アクゥーム!?なんであんたがここに、いやそうよね、一緒にいたものね……穂花のこと、守ってくれてたの?」

【ハット!ハッツ、ハーッツ!】

「成程ね……ありがとう。でも、そこを定位置にするのはどうかと思うわ」

【ハッ!】


 顔見知りなのか、頭の上に座る帽子頭と談笑している。

 意味はわからないが、きっと大事な話。何故か脳みそが聴くのを拒んでいる気がするが……


「まぁ、いっか」


 それ以上は雑念だと、無意識に目を逸らした。

 それよりも。

 一発で目の前の魔法少女モドキを親友と本物認定して、私の帽子とも交流があったんだぁ、と楽観的に眺めていた穂花は、ふと首を傾げる。

 主に、蒼生が纏う、その服装を……かっこよさよりも、可愛らしさのある、それを。

 そのヒラヒラの意味を。


「それ、なに」

「……魔法少女になったのよ。私たち」

「……Why?」

「色々あって。というか、ここ、ぽふるんいないのね……魔法少女関連の異物は全部ないから、悪夢って概念とかもない世界線の夢、ってところかしら」

「厨二病発症したの?」

「はっ倒すわよ」


 赤くなった頬を掻きながら、全ての女の子の夢を叶えたという親友に、穂花は信じられないモノを見る目で見やることしかできない。

 後に続いた独り言は、何故か頭に入って来なかった。

 困惑するしかできていない穂花だが……そこから更に、爆弾はやってくる。


「ごめーん、迷った!あっ、ほのちゃん!」


 黄色い魔法少女が、花の模様が描かれた斧を振りながら駆け寄ってくる。

 危ない。


「……もしかしてだけど、あれってきららだったりする?お願いだから嘘って言って?」

「残念ながら」

「バーッ!!?」

「え?」


 言動から察して、まさかもう一人の親友まで魔法少女になったのかと問えば、真剣な顔付きで肯定された。穂花は絶望から絶叫した。


 自分を取り囲む青色と黄色の魔法少女。なら、定番色の赤色かピンク色は何処にいるのか。


 当て嵌りそうな人物は、生憎と穂花の周りにいない。


 まぁ、全員が知人である、ということは決してない……だろう…が……


「ねぇ」

「なーに?」

「……2人とも、なんでそんな汗かいてるの?なんだか、その、急いで走ってきたみたい……だけど」

「あぁ〜」


 頭を過ぎる違和感、そういえば私の髪色って……などと激しく冷や汗を掻きながら。その様子に、もう少しかしらと蒼生は黙って、きららが経緯を説明してやる。

 一番の功労者である、悪夢探検家となったきららが。


「まず、寝子ちゃんのお陰で悪夢に耐性がついちゃってたあたしは、すぐにそこが夢の世界だって気付いて、色々とどうにかできないか頑張ってね。努力の結果、なんと夢の世界を渡ることができたの!」

「へ、へぇ……よくわかんないけど、すごいね?」

「でしょー!それで、色んな夢の世界を移動して、やっと蒼生ちゃんの夢に辿り着いてね!ここが夢だよーってすぐネタばらしして、目を覚まさせてあげたの」

「好みの映画を途中で切断された気分だったわ」

「いや、最強無敵武人になって世界征服成功させちゃった蒼生ちゃんの暗黒面を唐突に見せられたこっちの気持ちにもなって?」

「本性現したね」

「違うわよ!」


 必死に弁明する蒼生だが……つまりはそういうことだ。ヤンキー成分は、まだ抜けてないらしい。いや、再発したと言った方が正しいか。

 呆れて笑う穂花に、きららは説明を続ける。

 幾つもの夢を渡った、その軌跡を。ここまで辿り着いた努力の道を。


「大変だったんだよ〜、夢の番人なアクゥームにいっぱい追いかけられて、蒼生ちゃんと合流してからは、ちゃんと撃退もして。たくさん夢の世界を移動して、ほのちゃんの魔力を頑張って探して……」

「……ここまで、来れたんだ」

「うん!」


 だいぶ濃い旅をしてきたらしい。愚かにも、自分が夢に浸っている間に。偽りの幸福の中で、なにもかもを忘れて楽になっている間に。

 ポロポロと、綻びが生じる。

 今まで目を逸らしていた違和感が、漸くなんなのか……わかってきてしまう。

 その本音を蓋で隠すのは、もう無理で。

 ……それでも、穂花は答え合わせを求める。自分から、ではなく。


「ね、きらら」

「……なーに、ほのちゃん」

「ここ、ってさ……現実じゃ、ないの?」

「……うん」


 夢の世界とやらを渡ってきたきららに。明園穂花とは、一体何者なのかを。


 問いかける。


「もう、薄々わかってるだろうけど……ここは夢の世界。あなたは、明園穂花は……あたしたちと同じ、魔法少女。リリーエーテ、だよ」

「ッ……」


 ぶわっと、記憶が蘇る。

 違和感がひっくり返る。

 思い出が、全てを肯定する───夢じゃないと、真実を否定したい気持ちは。


「……そっか、そう、だよね……ハハッ」


 自然と、湧いてこなかった。


「穂花…」

「……ごめんね。これを夢だなんて、認めたくないのは、本当だからさ。ずっと、目を逸らして……この幸せは本物なんだって、無意識に言い聞かせてた」

「……それが当たり前よ。だって、ここは……あなたの、理想の夢なんだもの」

「ね」


 目を覚ます。

 曇っていた視界が、漸く晴れる。全てを理解し、現実を思い出したことで……いつの間にか、穂花の姿は私服ではなくなっていた。


 “祝福”のリリーエーテ。その姿になって、夢に立つ。


「違和感は、いっぱいあったんだ……お姉ちゃんたちが、高校生になれてたり、一緒に家で寛げてたり。街並みが、綺麗なままで、復興の工事跡もなくて……次元ごと悪夢に消されたショッピングモールが、ちゃんとあって」

「……他の先輩たちも、生きてる世界みたいね」

「うん。死んじゃった人達が、軒並みいる世界。本当に、夢みたいだった」


 潤空も、穂希も、小学生の時に死んでしまった友達も、ある日突然会えなくなった美大生も、芸術家も、アイドルやってる歌姫も、姉二人の友人も、その同級生たちも。

 みんな生きている世界。きっと探せば、もっといる。

 ……母親と父親がいないのは、多分、物心ついた時からいなかったから。夢の中で出てこなかったのは、かなり、心に来るが……逆に、出てきていたら。自分はこの世界を否定できなかったかもしれない。

 それ程までに、この夢は幸せだった。


 でも。


「ぽふるんがいないのは、落第点かなぁ。そこはちゃんと融通効かせてほしかったな」

「……妖精だから、悪夢とは相性が悪いのかもね」

「かなぁ」


 きっと、今も現実世界で、自分たちを探しているだろう仲間を思い浮かべて。


 立ち上がる。


「───おはよう! お待たせ、2人とも!」


 目覚めを宣言して、エーテは幸せな悪夢に浸かっていた足を引き抜いた。


「おはよっ!」

「ふふ、おはよう!」


 もう、迷わない。


「ハット・アクゥーム……あなたも、ありがとう。私を、見守ってくれてて!」

【ハットス!】


 ずっと見守ってくれていた帽子頭にも礼を告げる。

 ……彼女の主に、こんな、ある意味辛い夢を見せられていることには目を瞑る。というかこの夢、あの人にとって一番ダメージのデカい夢なんじゃなかろうか。

 そんな辛い現実からは目を背けて……夢に縋りたくなる気持ちを理解できた穂花は、それでもと今を願う。そも、夢とは実現するモノ。否定するモノではない。だから……例え、もう手遅れでも。

 現実の幸せを逃してはいけない。

 今ある幸せから、目を逸らさないように。決して、眼を曇らないように。


 体験したからこそ、穂花の決意は深まった。

 逃げる機会は、もう失われた。あとは、今までのように進むのみ。


「それじゃ、みんな揃ったことだし……どうやって現実に帰られるのか、頑張って考えよう!」

「……うん?あれ、待って。きら、いやデイズ?」

「ん?」


 二の足を踏んだ。

 思わず眼をパシパシさせて、衝撃の真実をエーテは知ることとなる。


「わかってないの!?」

「うん!脱出方法、わかりません!取っ掛りもなくって、す〜っごい困ってるんだぁ」

「……笑顔でこれを言う自信、驚愕よね」

「三人寄ればもんじゃの知恵って言うじゃん!」

「文殊ね。食べ物の知恵じゃないよ」

「それはわかってるもん!!」

「どうだか…」


 最初の一歩目は躓いた。早く夢の世界から出て、決戦に復帰しなければならないのに。夢を渡ることはできても、出ることはできない。

 どうしようも頭を悩ませて、3人で固まっていると。


───ズドーンッ!!!


 爆発音が、ステージから鳴り響く。


「なに!?」

「ッ、こっちも来たのね!」

「だからなにが!?」

「夢の番人!そこが夢だと気付いた夢の主を、また悪夢に寝かせるアクゥームだよ!」

「えぇっ!?」


 夢の文化祭を破壊する異形の夢魔が、咆哮を上げながら襲いかかってきた。


悪夢キラーきらら

(^_ _^)zzz< 私が育てた

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