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128-月魄来禍

久しぶりの主人公視点


───夢空廃城、審判の間。


 なにも言わず、虚空に伸ばしていた左手を引っ込める。これで一安心だと納得させ、所有物たちの不始末を数手で終わらせられた。

 予定にはなかった。それでも想定はしてあった。

 あのお人好し共のことだから、なにかしらの援助ぐらいやりそうだな、と。その懸念を見逃したのがあのザマだ。まったく、なーに先輩風吹かせてんだか。いい加減にしろバカゾンビ共め。

 ……お陰で、勝てたと油断してたエーテたちを捕まえて無力化できたけど。


 ぽふるん?知りません。激戦の裏で拘束されてたことに気付いてもらえなかった影薄妖精のことは忘れようね。

 うん、正確にいうと城の罠に引っかかってたんだけど。

 よく引っかかったな……発動検知して思い出したぐらい存在薄かったぜ?


 さて。


「……あの子たち、どこにやったの」

「さぁ?足りない脳みそで考えてみなよ……まぁ、無意味だろうけどね」

「チッ」


 裁きを下すという逸話を持つ巨石像に囲まれた部屋で、我が愛しの好敵手、リリーライトと対峙する。といってもさっきからずっと殴り合ってるんだけど。

 魔法ブッパして、聖剣と銃剣で鍔迫り合いと興じて。

 かれこれ二時間近く、ぶっ続けで頑張ってます。

 ……エーテちゃんたちが迷宮探索してボスラッシュして先輩からの暴力を浴びている間に、こんなに経ったのか。いや、そこまでか。意外と短い。

 取り出した懐中時計でどれだけ戦っていたのか確認し、ついでにペローから学習した時間魔法を使って時を止めて思考時間を作成。


 うん、考えよう。


 現時点でお互いの戦力損耗率は同等。

 こっちは三銃士、メード、ゾンビマギア……じゃなくて六花の連中。あとライトに辻斬りされた3人も含めれば、殆どの戦力を狩られている。

 で、あっちはエーテにコメットにデイズが昏睡中。

 実質わんぶいわんか。勝ったわ。つーか六花の人形共はまだ使えるし、オーガスタスたちも別に戦線離脱したわけでもないし。


 お互いに奥の手は切ってない状態。つまり、継戦しても楽しいだけ。

 問題ないね。


 あんま面白くないっていう理由で勝手に自己封印してるペローの時間魔法だけど、こういう思考時間確保には便利だよね。動かないライトの頬を勝手にぷにぷに堪能して、そう思考を回す。

 ……うーん。ペローは七秒でも、僕なら最大で七時間は止められるけど……つまんない。つまんないな。

 やっぱ時間停止は悪戯以外に用途ないわ。

 確殺できちゃうもん。


「……ヨシ」


 そろそろ解くか。同魔法の関係上ペローなら止まってる違和感に気付きかねないし、目の前のこいつも気合いとかパワーで時止めを突破しそうで怖い。

 思考を纏め、魔法を解除。

 灰色に染まっていた世界が、一瞬にして色付いて。僕の立ち位置が違うことに気付いたライトが、なにがあったか察知したようで。


「ん、変態…」

「誤解生む表現やめない?」

「でも」


 でもじゃねーよ。言いたいことはわかるけど。黙れ。


「はァ……さて、再開と行こうか」

「……まぁ、勝てばいいもんね。最後に勝った方が、正義なんだから」


 そう、勝者が絶対。勝てば全てが許されるのだから。


 聖剣を構え直したライトに向けて、剣が主体の銃剣……変形可能の得物を突き付ける。銃剣というカテゴライズの範疇なら、どんな形にもなるこのマジカルステッキで。

 僕は今日、リリーライトを倒す。


 さぁ、踊ろっか。


 ……ところでなんだけど。僕のハット・アクゥームが、エーテと一緒に鏡の中にいるって話はしたっけ。

 意味わかんないよね☆


 もう知らん。








꧁:✦✧✦:꧂








 勝手知ったる間柄、ライトとラピスは息のあった攻防を廃城の中で繰り広げる。

 どちらも殺意を緩めない、手抜き無しの殺し合い。


───月魔法<クレセント・エッジ>


 三日月の斬撃が空間全体を飛び回り、部屋全体を刻んで標的を付け狙う。勿論、狙われたライトは跳んで避けるが意味はなく。

 可視化された斬撃の合間に潜んでいた、不可視の斬撃で身体を斬られる。今回は運良く切り傷で済んだが、場所が悪ければまた腕が飛んでいた。

 既に、何回も手足は吹き飛んでいて、その度に治しては傷つけてを繰り返しているが……そのような深い傷など、彼女たちにとっては日常茶飯事の慣れたモノ。

 綺麗に斬られた程度では、最早悲鳴一つ上げず、淡々と攻撃を激突させる。


「小手先の技術、だね!」

「それで敵が殺せるんなら、喜んで使うさ───ほうら、大好きな光だよ」

「ッ!」


───月魔法<サテライトビーム>


 青い月の破壊光線がライトの耳スレスレを過ぎ去る。


 遥か後方で着弾し爆発するが……その爆風に煽られて、背中が少し浮き。バランスを崩しかけた、その時。追撃の破壊光線が炸裂する。


「こんなにいらない、よっ!」


───光魔法<リヒトライト・カタスター>


 イラつき混じりの斬撃をもって、破壊光線を切り裂き、同時にラピスの腹部に一筋の切り傷を入れる。相変わらず流血しない不思議体質だが、ダメージはダメージ。

 体外に魔力を漏出させたラピスは、余裕の消えない顔で魔法を再展開。


───月魔法<モント・イル>

───月魔法<ルナティック・ドーン>

───月魔法<ムーン・スコイル>


 同属性の多重展開。歪魔法の応用性から滅多に使わない月の呪いから、広範囲を巻き込んだ魔力爆発、乱回転する月の光をもってライトを強襲。

 一撃一撃が呪いで強化されているが、相手はその程度で怯む女ではなく。

 聖剣を輝かせる。


「切り開け!」


───光魔法<ソレイユブレイカー>


 爆発的な極光で、攻撃を薙ぎ払う。


「今日の私はテンションMAX!コンディションも完璧……ラピちゃん、この程度じゃ話にならないよ?」

「好きに言うといいさ」


 好戦的な笑顔は、慣れたような手付きで跳ね除けて。


 ラピスは駆け出して、魔法の弾幕を張りながらライトに斬りかかる。


「斬魔一刀流───虚蝶嵐(こちょうらん)


 尊敬と同時にやべぇーやつだなと思っている侍の剣術、斬魔の技で一気に斬り込む。たった数手で何百もの斬撃を生み出す技を、ライトは聖剣を駆使して防御。

 何度も金属音が鳴り響き、防ぎ切れなかった斬撃により血飛沫が飛ぶ。手足といった重要な箇所が傷つかないよう最低限に回避して、ライトも接近。

 聖剣と銃剣が激突、鍔迫り合いを演じて、同時に魔法で傷つけ合う。


 この2人とリリーエーテたちの戦いの違いは、一つ。


 努力と気合いで乗り越え、想いの力で相手を上回るのが新世代の3人。対して、技巧や殺意といった純粋な暴の力で相手を上回るのが旧世代の13人である。 

 当時の戦いの環境などが強く影響しているのもあるが、根性論の比重が大きい新世代と比べて、ライトとラピスは「相手を殺す」という意思を原動力に戦う。

 運命に抗う気持ちが弱いわけではない。

 ただ、エーテたちのような純粋な想いの力での勝敗は、ほぼないと言っていい。


 故に始まるのが、殺伐とした殺し合い。一切の甘さも、情けもない、純然たる命の獲り合い。

 それを成立させる、混濁とした殺意の濃厚さ。


 攻防は止まらない。


「なまってた身体、漸くマシになったわけ!?」

「待たせてごめんねっ!でも、これで楽しくやりあえる、でしょう!?」

「否定はしないッ、けど、ねッ!」

「素直になりなって!」

「お黙り!」


 それでも、2人の顔は生き生きとしていて。


 いつも仏頂面か顰めっ面の、無に近い表情ばかりでいたラピスまでも。親友との決闘が楽しいのだと、心の底から喜んでいるのがわかってしまう。

 頼れるお姉さん枠のガワは、今は外して。

 最後かもしれない戦いに熱を上げる。もう動かない筈の心臓が、鼓動を跳ね上げている気さえある。それぐらい、彼女は高揚していた。


 邪魔するモノは、もういない。最大の懸念材料は今し方排除した。


 故に、後は、気兼ねなく───リリーライトとの雌雄を決するのみ。


「絶対的勝利を、ここに!」

「ッ、ここで切るか……月魔法ッ!<ムーンクリスタル・ウォール>!」


 絶対勝利を掲げて束ねられる光に、ラピスは懐かしさを抱きながら防御を選択。何故なら、下手に回避しようものなら、命はないとわかっているから。

 それに───初手は、あの輝きをまた直視したいから。

 月の結晶による障壁をもって、天より撃ち込まれる光を目に焼き付ける。


「極光魔法───<ホーリーカノン>ッ!!」


 万物を焼き焦がす浄化の極光が、剣閃となって、ラピス目掛けて放たれる。


「っ、ぐっ…」


 月の障壁は、世界を断絶する極光を受け止め、軋む音を奏でながら、それでも耐える。割れるなんてありえない。ヒビが入ることもない。強固な障壁は、主を守る。

 魔力で守りを強化しながら、ラピスは目を逸らさない。

 光の奔流を、自分を殺さんと迫る力を、その濁った青に焼き付ける。


 そして。


「満足した───<シャドウムーン・クラッシュ>」


 障壁越しに、浸透する破壊の力を極光に流し込んで……奔流を内から爆散させる。霧散した剣閃から、パラパラと粒子化した光が舞う。

 その幻想的な光景を余所に、好敵手たちは見つめ合う。

 本領発揮をしてきた幼馴染が、あなたはやらないの?と目で訴えてくる。


 手札を切るのはまだ早いと、ラピスは渋るが……それを上手く思うわけがなく。


「怖いの?使って負けるのが」

「カッチーン。オマエは僕を怒らせた……まぁその手には乗らないんだけど」

「ちぇっ」


 使う時は選びたいラピスは、ライト相手だからこそ今は切り札を出し渋る。いざという時に、これから盛り上がる場面で使いたがる……エンタメ気質が抜けないが、それはそれでいいと思っている。

 油断はない。

 慢心もない。

 今をただ、楽しみたい。その利害は、彼女たちの間では常に一致している。


 だが。


「使うには早いでしょ……ッ、あ?」


 ……またしても起こる、予期せぬ事態を報せる反応に、ラピスは顔を顰める。


「なに?」

「? どうしたの?」

「……意思を奪ったアイツらとの接続が切れた。や、は?支配権まで?なんで……いや、まさか。アイツら、自力で意識取り戻して、経路(パス)を断ち切りやがった!?」

「わぉ、マジか……すご」

「面倒な!」


 城外に待機させていた人形……死せる夢染めの六花ネクロス・マギア・ゼクスヘリアルが、ムーンラピスの支配下から逃れ、自立行動を開始した。

 本来ならばありえない、支配からの脱却。

 契約者に反逆しないよう、雁字搦めの制御が魂を縛っているというのに。絶対に逃げれないように、あらゆる術が掛けられてあったのに。

 その全てが、無に帰した。

 無かったことになった。


 そんな芸当ができるのは、この世に一人だけ。ラピスの脳裏で、紅い死装束の女が嗤う。


「フルーフめ…ッ!」


 呪いに精通した彼女より、ラピスの技術は一歩劣る。

 アリスメアーの管轄から逃れ、自立した先輩後輩たち。蘇った彼女たちが、操り人形であることをやめたのなら、もう自分についてくるとは思えず。

 最悪参戦してくることも可能性に入れ、早急に排除する方針に舵を切ろうとするが。


「大丈夫、あの人たちのことだから。そんな無粋なこと、やろうだなんて思わない」

「ッ、嫌な信頼だな。だが、今はそれに期待しよう!」


 ライトの言葉を信じて、仕方なく、今は見て見ぬふりを選んでやる。


 だが、悠長にはしていられないと───決断を下す。


「仕方ないな……使うのを渋ってる場合じゃなくなった。お望み通り、魔法解禁と行こうか」

「っ、待ってました!」


 それは、ライトの極光魔法、エーテの夢想魔法と同じ、進化した魔法の力。それらと同等、若しくはそれ以上へと昇華された力は、勿論ラピスだって持っている。

 月を司る、蒼き魔法の強化版。

 月魔法の第二形態、夢覚醒によって芽生えた力を、今。二年ぶりに、解禁する。


 その手に握った銃剣に、ゆっくりと、銃剣全体に魔力が染み渡るように、力を注ぐ。

 抵抗はない。

 主の意向を汲み取って、潤沢な、悪夢に染まった魔力を際限なく受け入れる。マジカルステッキの名残である青い水晶体が、煌々と光り輝き。

 月に捧ぐ。


「断言しよう───勝つのは、僕だ」


 祈りと共に込められた蒼月の魔力が、銃剣の中で大きく脈動を打つ。銃身は悲鳴を上げ、青白い光が金属を通して漏れ出る始末。銃口から迸る月の光は、今にも外の世界に飛び出しそうで。

 魂を込める。

 魄を込める。

 狂いそうになるぐらい身体が熱くなって。すぐに冷めて虚無を抱く。


 己の代名詞、月が持つ神秘を、自分色に染め上げて。


 廃城が軋む。


 世界が歪む。


 悪夢が騒ぐ。


 月が漣めき。


 青に満ちる。


「───月魄(げっぱく)魔法<ルナエクリプス・ラズワード>」


 銃身があわや溶解するぐらいの熱量を伴い、蒼き極光が世界に放たれる。小さな銃口が出処だとは思えない、視界いっぱいの青光をライトは見つめ返す。

 魔王が齎す、蒼き災禍を。


「…綺麗」


 悪夢に満ちた、夢見の星に───歪んだ正義を滲ませた極光、否、魔光が落ちる。


 皆既日食の空が、蒼く染まった。


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