表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
人外魔境悪夢決戦
138/234

125-死せる夢染めの六花


「オラオラオラァッ!!」


 悪夢の尖兵となった魔法少女───先達たちの初動で、まず開戦の火蓋を切ったのはカドックバンカー。肩に担ぐ魔法製の対物ライフルを後輩たちへ元気にぶちかます。

 爆炎を撒き散らす殺意を、3人は咄嗟に避ける。

 追撃も躱すが、“戦車”の由縁たる魔法版現代兵器は一切止まらずに炸裂する。

 着弾すれば腕が吹っ飛ぶこと間違いなし。殺意の高さは人一倍のカドックに、かわいい後輩たちへの情け容赦などあるわけもない。


 集合場所だった大部屋を突き破って、暗い空の下へ。


「おかわり行くぜェ!兵仗魔法ッ!<ディストーション・アームズ>ッ!!」


 空中展開された魔銃で、回避を選択する魔法少女を面で銃撃する。連射された弾丸は精密に魔法少女を追いかけ、その背中に張られた障壁を何度も叩く。

 魔法防御で、貫かれてはいないが……先輩の精密射撃に感嘆としながら、エーテたちは逃げる。

 迎撃よりも逃走を、防御を選ぶ理由は、単純明快。


「ひぃ!」

「あれ絶対当たっちゃダメなやつ!!」

「容赦ないわね……ッ!」


 その弾丸の一つ一つに、目に強烈な紅い色素の呪詛……マレディフルーフの魔法が付与されていることが、一目でわかっているから。


───歪魔法<テムカセ>


「よく避ける」

「透明にすればいーのに。できないの?」

「できるけど、可哀想じゃないか。それは、あの子たちに使うもんじゃないだろう?」

「さいでつか」


 ミロロノワールの冷やかしを笑って跳ね除けながらも、その手に込めた呪力の濃さは変わらず。カドックの魔銃に歪魔法をかけ続ける。

 それこそ、魔銃が変色してしまうぐらい。


「おいフルーフ!重ねすぎだバカッ!オレ様のスーパーな魔法兵装をぐちゃぐちゃにする気かァ!?」

「そんなチンケな鉄クズじゃタメにならないだろ」

「あぁんッ!?テメェのことぶち抜いてやろうか?えェ?謝んなら今の内だぜ」

「黙れバカック」

「殺すッ!」


 垂直なご意見で相方を怒らせたフルーフは何処吹く風。短気というよりは、ご自慢の武器がそんなもん扱いされてカドックは超絶大激怒。

 相手すべきなのは誰なのか忘れて、衝動的にミニガンを額に突きつけた。


「あーあ、始まったよ」

「焚き付けたのノワちゃんだよね」

「気の所為気の所為〜っ☆」


 その真隣で、実は怖い先輩であるエスト・ブランジェにジト目で睨まれるノワールがいたとかいないとか。

 鉄拳制裁はセットである。


 さて、そんないつも以上に喧しく協調性のない先輩を、実質後輩の車掌が追い抜く。


「追いかけっこなら負けないのです!」


───列車魔法<グラリエイト・ロコモーティブ>


 軍旗を振るったゴーゴーピッドは、安定の暴走機関車を召喚して、緊急発進。空中に引いた線路の上を、自主的に轢いてくる列車が突き進む。


「デイズ!」

「頑張るよーっ!はぁっ!!」

「……おお?やるのです!」

「うぶぶッ!!」


 正面から花斧を叩きつけたデイズは、魔法でブーストをかけて列車の破壊を試みるが……やはり、暴走と名のつく破壊の塊を止めるまではいかず。

 勢いに押されかけたところで、横へと回ったコメットが星槍を刺突。列車の連結部を見事に撃ち抜き、くの字型にへし折った。


「あわわ」

「どんなもんよッ……ひっ!?」

「ドヤ顔は、勝った時まで取っとくべきだよ〜?」

「ノワール先輩ッ…」

「あはっ♪」


 増長した心をへし折る、ノワールの鏡魔法。ぷかぷかと黒空に浮かぶ姿見に写るのは、今までこれでもかと、毎日見てきたと言っても過言ではない……アクゥームの顔面。

 それも、ゼロ距離。流石に、目と鼻の先にアクゥームの顔があれば、驚いてしまうのも無理はなく。後輩に驚きをプレゼントしたノワールは、笑いながら鏡を開き。

 封印されていたアクゥーム……ピカピカ・アクゥームを解き放つ。


「うわ眩しっ!」

「アッハ!いい光源になるでしょー?そぉれ、相性最悪の鏡の魔法、とくとご覧あれ」

「ッ、まずいっ…!」

【アクゥーム!!】

【アクゥーム!!】


───鏡魔法<ミラードジャマード・プリズム>


 無数の鏡に囲まれて、光源体のアクゥームはその存在を乱反射。幾つにも分裂して……否、同位体を鏡の力で複数形成させた。

 口から光線を放って攻撃してくる、丸い球体に手足だけ生えた姿のアクゥームの集団。魔法鏡に反射した数だけ、どころか、時間経過で増殖するピカピカ・アクゥームから逃れながら、エーテは反撃の魔法を行使。

 急旋回と共に、夢想魔法の弾幕を周囲にばら撒く。


「はぁーっ!」


───夢想魔法<ハイドリーム・バラージ>


 一つ一つの夢が、アクゥーム程度なら簡単に浄化できる必殺の弾幕。あまりにも速いピンク色のグラデーションにアクゥームは回避しきれず、その悉くが被弾。

 同時に、その巨体をユメに包んで浄化させていく。


【オハヨウダー…】

「うっわマジ?へぇ〜、思ったよりラトトの妹らしいとこあんじゃん!」

「えへへ」

「あれ、どっちかと言うと化け物なの褒められてと思うのだけど……私の気の所為?」

「えぇっ!?」

「バレた?」

「ぐすん」


 急降下する気分に項垂れるエーテを他所に、コメットも増殖し続けるピカピカ・アクゥームを数体討伐。そのまま突き進んで、封印されていた最初の一体を囲む鏡に、槍の一撃を突き刺す。

 当然妨害されるが、コメットはお構い無し。

 鏡の内の一枚に突き刺した槍を、魔法でもなんでもない魔力爆発で破壊。


「今っ!」


 飛び散る鏡の破片に向けて、魔法を行使。


───星魔法<ブルー・シューティングスター>


 鏡に写った星の輝きが、破片を通して世界に現出して。無数に飛び出た星槍が、更に乱反射して、魔鏡に囲われた最初のアクゥームを串刺しにする。

 同時に、展開されていた魔法の鏡を全て貫き、破片から更に分裂して、残りのアクゥームを突き刺し。

 たった二手で、ノワールが適当に作り出した鏡の分身を殲滅した。


「わぉ!マジマジのマジー?後輩ちゃん強すぎじゃんね。ワタシじゃ勝てっこないよぉ〜、ってことで、Hey先輩!バトンタ〜ッチ!」

「面倒いからって押し付ける癖、そろそろ治したら?」

「無理寄りの無理☆」

「まったくもう…」


 あっさり引いてノワールと交換したのは、ブランジェ。守護騎士、聖騎士とも名高い彼女の両手には、大きな槍と盾が握られていた。

 荘厳な装飾と十字架が施された、神聖さを感じる大盾。

 細長い円錐の形に、大きな笠状の鍔がついた、神々しい騎槍は、どちらも彼女の代名詞。

 その名も、“天砕きの槍”と“天守りの盾”。

 聖騎士にして守護天使、そして万物を破壊する力天使が猛威を振るう。


「頑張れ?」

「ッ、重いッ…!」

「同性同士だからってそれはよくないよね〜。重いとか、ウソでも言っちゃダメだよ?」

「事実は事実だろ。体重計悲鳴上げてたじゃねェか」

「それ翼!てか仕方じゃん!?うちら魔法少女の姿で固定なんだから!」

「うわぁ…」


 ランスを正面から受け止めたコメットは、自分のよりも遥かに大きい槍に押し負ける。力勝負ならば、どうしてもブランジェに軍配が上がる。

 幾度か槍と盾の攻防を重ねてから、ブランジェは徐ろに槍を手放して、その手をコメットに伸ばす。変身してない素の腕力で鉄パイプをひしゃげられるパワーを知っているコメットは、咄嗟に回避を選択。

 捕まれば握り潰されると、押し負けたコメットもまた、潔くバトンタッチを選ぶ。

 逃げるのは当然だ。

 そして、力自慢ならばと。魔法少女になってから筋力を鍛え上げたデイズが飛び込む。


「やぁー!」

「おっと───重力魔法<エンジェル・ビーツ>」

「わわっ!? ッ、負けない!」

「いいね!」


 重力を乗せた盾に押し潰されそうになるのを、デイズは必死に斧で抑えて抵抗する。勿論、拮抗するだけで終わりにするデイズではなく。

 魔力放出で花斧に勢いを上乗せして、下から腕を力強く振り上げる。


「うおおー!!」

「……あはっ☆いい、ねぇ!」

「ぐっ、ぐぬぬ…」


 お互いに高揚して、同じタイミングで魔法を撃ち合う。


───花魔法<ブロッサム・ピクスカノン>


───重力魔法<エンジェル・キッス>


 花の輝きと天使の圧が正面から激突して、衝撃波で空を歪ませる程の威力が霧散する。

 凶悪な笑みを見せあって、2人はまた衝突する。

 嬉々として殴り合いを始めた聖騎士と花使い。静止する声はここにない。


 そして。


「エーテちゃーん♪ファンサだよー♪」

「わーい!!あっ、嬉しいけど後でもいいですか!?」

「売れ切れちゃうかな」

「ふぐぅ…」


 スピーカーより聴こえる重低音。鳴り止まない、彼女を心から讃えるファンファーレ。照射されるのは色彩豊かで目に悪いレーザーライト。

 一気にその場をライブ会場に塗り替えた魔法少女、歌姫マーチプリズが、愛用の特設ステージ、ウタユメドームを乗り回してエーテを追いかけていた。

 エーテは満更でも無い顔である。

 しかもこの歌姫、爆音と共に歌魔法で仲間に攻撃支援と防御支援などを並行して行っている。13魔法の仲間内ではバフ掛けと広報係を自称するマーチは、予め録音していた歌を垂れ流す。


───歌魔法<サイケデリック・パレード>


 そこから更に、その追いかけっこに参入する暴走気味な魔法少女。


「あはっ!逃げてばっかじゃ、勝負にならないのです!」


 嗜虐心を刺激されたのか、高笑いと共にピッドが列車を進行させる。その幼い見た目に油断していてはならない。なにせ、自ら刺激を求めて、自分から戦場諸々に突っ込む好戦的な魔法少女……それが彼女なのだから。

 煙突から激しく黒煙を撒き散らし、暴走機関車で相手を轢きに行く。


「ちょ、ピッちゃんぶつかるって!!」

「えぇ〜?そこはセンパイとして頑張ってほしいのです!ファイトー、一発!なのです!」

「扱いが雑!」


 緊急停止も回避も知らない暴走機関車にぶつかりかけたウタユメドームから、マーチが必死にそう抗議するも届くわけがなく。

 本心でそう応えたピッドに、真横で聞いていたエーテはなんとも言えない、すごいなこの人といった顔を向ける。

 自分本位というか、自由というか。

 何処かの誰かさんを慕っているだけはある、自由奔放な魔法少女である。


「っ、ぐぅ…!」

「おいおい、こんなんじゃ死んじまうぜ?彗星の魔法少女サマよォ!!」

「ナメんじゃないわよッ!!」

「威勢やヨシ、ライトに育てられてるだけはあるね」

「褒めてんじゃねェーよ!」

「普通でしょうに」

「私を挟んで喧嘩しないでちょうだい!!」

「「ごめん」」


 カドックとフルーフの連携に、コメットは独りで戦う。得意な単独戦闘で、歴戦の戦争屋と呪い師に挑み、勝気に満ち溢れた笑みで殺し合う。

 呪いも、銃弾も、確かに彗星の如き魔法少女を蝕むが。

 それでも、進むことは止めず。得意の槍捌きで、強者の首を狙う。


「硬いね!」

「伊達に鍛えられて、ないもんね!」

「あははっ!」


 ブランジェの重力技は他に飛び火しないようにデイズが抑えている。身体が何度も悲鳴を上げているが、それでもそれでもと唱えて、デイズは立ち上がる。

 花斧を振り上げて、走って、力天使の槍捌きをいなして勝利を求める。


 ……その三つの戦いを、アクゥームが倒されてから少し観戦ムードに移っていたノワールが眺める。鏡に乗って、空をぷかぷか。

 ジト目で、同僚と後輩たちを見る。


:サボりでつか?

:やーい、ラピ様に言いつけてやる

:なにしてんのノワちゃん

:怒られるよ


「うるさいよキミたちぃ……考えてみなよ。ワタシたち、全員で相手してあげるって言っときながら、さぁ。見なよこれ。結局別れて殴り合ってるじゃん?趣旨忘れんの早くなーい?どいつもこいつも痴呆かよっての。やーい」

「───聞こえてるからねッ!!」

「あの天使地獄耳すぎね?ワタシの人権ないなったじゃんヤバーw」


 軌道修正まで、後三秒。








꧁:✦✧✦:꧂








 死せる夢染めの六花ネクロス・マギア・ゼクスヘリアル───ネットの匿名掲示板で誰かが名付けたのを、たまたま見つけたラピスが「かっこいい」の一言で採用したその諱を冠する6人と、新世代の3人の熾烈な戦い。

 後輩を鍛えんと、半ば命令を無視する形で大暴れ。

 勝敗云々よりも、短期間で急成長するエーテたちをより強くする為に技を叩き込む。


 だが。


「物足りないなぁ〜。ねぇ、そう思わない?」

「あぁ、思うぜ。なんか、こう……もっとやりたいよな。やりたりないよなァ」


 小首を傾げるブランジェを、カドックが仁王立ちで然と肯定する。


 なにせ、彼女たちはまだ───13の魔法に名を連ねる、その由縁を、蘇ってから一度も披露していない。

 力の真価を魅せず、発揮せず、素の力で戦っている。


 年季の違い、素の出力で押し負けている後進とは違い、夢の覚者、ドリームスタイルという魔法少女の第二形態を使っていない状態での無双っぷり。

 勿論、このまま使わずとも、目的は達成できる。

 花を持たせて、負けたことにして、結果的に後輩たちの力を底上げできれば、それでいい。

 荒治療、突貫工事で成長を促す形になるが……

 なんだか物足りない。

 納得できない。味気ない。もう少し、楽しく、ド派手に暴れたい。


 六花で顔を見合せて、その思惑を一致させる。


「……なぁ、後輩」

「なん、ですか……げほっ、全然いーですよ。私たちも、ちゃんと勝ちたいですから」

「そうね。それに、満身創痍でもなんでもないもの」

「あれぇ?キツいのあたしだけ?んまぁ、別にいーけど。だって、負けたくないし!」

「全力で、やり合いましょう!先輩たち!」

「へぇ…」


 やる気に満ちた後輩たちに、勝利以外の結果を求めないその姿勢に、好感を覚えて。

 声高らかに、かわいい後輩たちの期待に応えんと。


「ハハッ、いいねェ!それでこそだ───テメェらッ!!久しぶりにヤろうぜェ!!」

「面倒だからパース、とは言えない空気だよねぇ〜」

「そりゃそうだろ。腹括りな。なに、こういうのは、先に楽しんだ方が勝ちなんだよ」

「わーい、本気の殴り合い!なのです!」

「うんうん、そうこなくっちゃ!」

「そんじゃあみんな、足並み揃えて。元気な声で、楽しく唱えよっか!」


 一様にマジカルステッキを天に掲げて、言霊を紡ぐ。


「“Kyrie eleison”───救済、執行」

「我らの覇道に迷いはなく。全ての答えは、戦場にあり」

「黒き彼岸に咲う。あまねく穢れは、虚ろに落ちゆ」

「歌えっ!踊れ!みんなで、笑えっ!そう、ここが───みんなの王国、マーチ・オン・ステージ!」

「警笛を鳴らすのです!終着点より、旅の始まりを!」

「鏡よ鏡。アナタが映すのは、魔性の子。世界で一番の、かわいい子っ!」


 希望の光、悪夢の光、二つの光に貫かれ、六花の美しい世界は反転する。

 光輪は輝き。

 火種は燃え。

 呪禁は解かれ。

 歌声は響き。

 踏切を越え。

 鏡面が映す。


 高揚する精神を、戦意に満ち溢れた心は、そのままに。


 夢染めの悪は花散らし───希望の13魔法グレート・マギア・サーティーン、その由縁を突き付ける。


『『『ドリームアップ!!

───マジカルチェンジッ!!』』』


 夢が、花開く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ