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124-古戦場より、英雄の洗礼を


 一方その頃、地上にて。


「うわ、うわわ……あ、あんなの勝てるわけないよぉ……無理寄りの無理ぃ……エーテちゃんたちが最低基準とか、この星やっぱおかしいよ…」


 無人の高層ビルの屋上で、天上より響く破壊音に怯え、耳を塞いで陰に隠れる一匹の羊がいた。

 金糸の羊毛をふるふる震わせ、縮こまる。

 宇宙全体で数えても上位の強さを持つ、十三の将星……その一角でありながら、彼女、アリエス・ブラーエは独り寂しく怯えていた。


 蒼月の采配で、自由行動の権利を与えられた、彼女。


 たった一人では地球に降り立たなかった羊の異星人は、見張りの誰もいない、それでいて、気になる決戦の情景をこの目に収める為、震える身体に鞭を打って外に出た。

 生で見たいと、思ったのがいけなかったのか。

 二心はない。偶には一人で行動しようと、思い立ったが吉で動いただけ。

 その結果がこのザマか。


 皆既日食で辺り一面が暗い世界の下、アリエスは空での戦いを観戦する。


 いつ余波が飛んでこないか、流れ弾で殺せやしないか、勝手に出歩いてるのなんで?逃げるの?など勘違いされて殺しに来やしないか。

 ありもしない未来を勝手に妄想して、自家発電で震えるアリエス。


 蒼い閃光が空を引き裂き、殺意で世界を削いでいく。


 紅い極光が空を駆け抜け、慈愛で世界を伸していく。


 もう、星のことなんて全部後回しな、自分の主義主張をぶつける為だけの死闘。互いを本気で殺す気の、今までの仲良しこよしなんて言葉が見えない、絶死の光景。

 魔法と魔法の激突、銃剣と聖剣の鍔迫り合い。

 互いに先手を譲らない、オマエを殺すと本気で吼える、慈悲なき殺し合い。

 見ているだけで身体が恐怖に震えてしまう。

 衝撃波だけで体勢を崩して、そのまま屋上を隔つ柵まで転がる始末。


 こんなのと対峙しようとした、過去の己を恨む。


 腐れ縁の獅子が、どうか心変わりして、共闘路線とかに繋いでくれやしないか。


 そう祈りながら、プルプル震えていると。


「───アリエス!」

「ヒェッ、おぶっ、ぎゃあああああ!!メェ〜!食べても美味しくないよーっ!!」

「食べんわバカッ」

「め?」


 突然背後から飛んできた呼びかけに、跳ねて転んで頭を抱えて絶叫して。なんとか、それが聞き覚えのある声だと識別できて。

 恐る恐る振り向けば、柵を攀じ登る黒山羊がいて。

 義兄、カリプス・ブラーエが、素手で妹の元まで登ってやってきた。


「カリ兄さん!なんで!?」

「あー、野暮用でな。安心しろ、あのやべーのと敵対するつもりはねぇから……いや、ホントマジで。あんなの普通やり合おうとも思わねぇ」

「よかった、マトモな感性だった!」

「アリエス?」


 敵情視察、というよりは……魔法少女同士の決戦、星の命運を決める戦いとやらを、レオード経由で聞いた彼は、単身地球に降り立ち、観戦しに来たのだ。

 方法は、至って単純。

 かつて彼が歩いた箇所……浄化された死の森があった、そこの路地に転移してやってきたのだ。一度呪いに汚染し領地にできた場所に、カリプスは無条件でワープできる。今回はその特性を活かして、はるばる地球にやってきた、わけなのだが。

 ……想定していたよりも、最強格2人の、あの星喰いを喜ばせた2人の激闘が、凄まじく。

 冷や汗しか出てこなかった。


「……この場でお前を回収して、何食わぬ顔で帰ろうとも思ってたんだが……あれの標的になって死ぬのは、流石の俺も本意じゃねェし……悪い、まだ捕虜しててくれ」

「そ、それは別に大丈夫……だよ?全然息苦しくないし、ちゃんと自由な時間くれるし…」

「……絆されすぎだぞ」

「えぇ…?」


 完全に絆されている妹の救出を泣く泣く断念して、また暗い空を見上げる。

 戦いが終わる気配は、一向に見えやしない。


「……暫く、この星に残る予定だ」

「だ、大丈夫なの?その、絶対見つかると思う…」

「だよな?そう思うよな?でも、まぁ……最悪、その時はその時の精神でやったるさ……個人的に気になることも、いっぱいあるんでな」

「確かに、兄さんの潜伏能力なら、一回補足されてても、なんとかなる、かな…?うーん…」

「そこは俺を信じて断言しろよ」

「無理かも…」

「そっか…」


 哀愁漂う義兄妹は、天を仰いで溜息を吐く。その視線の遥か先で、永遠と鳴り響く破壊音と、盛大に鳴る人体から鳴ってはいけない音を聴きながら、暫くぶりの家族団欒を済ませる。

 その再会は、穏やかなモノではなかったが。

 この目で、直に無事なところを見れただけ、カリプスは満足することにした。


 ……決して、血で血を洗う2人の仁義なき戦いを見て、日和ったわけではない。

 戦略的判断である。

 ここで目立つヤツは余程自慢があって、死ぬ未来なんざ見えやしない雑魚である。自分はそうはならないと、極力魔力を発さないように注意しながら、その場を離れる。

 長居は禁物。

 油断も厳禁。


 渋々、妹を囮にして、レオードとの新たな密約、先発の尻拭いで彼は潜む。


 全ては、五体満足で生き残る為に───…


 そう祈っていると、2人の頭上で、魔法と魔法が激突、拮抗する間もなく……その場で霧散せず、何故か、地上に垂直に落ちてきた。

 ちょうど、義兄妹の頭の上に。


「「えっ」」


 ……幸い、地上全域に張られていた見えない防護結界で無事だった……が。


 当然の如く、2人は生きた心地がしなかった。








꧁:✦✧✦:꧂








「悪ぃな、待たせた」

「本当にごめんね。ルーズなのばっかで」

「プロマイドで許してちょ…」

「賄賂なのです…?」

「やめなさい」

「ウケる」


 大広間で対峙する、蒼月の魔法少女によって蘇らされた伝説の6人、希望の13魔法の屍兵たち。漸く準備を終えて並び立つ。

 待たされたエーテたちだが、これ幸いと休憩ができた為文句はない。


「さて、こっから戦うわけだが……連戦で疲れてんだろ?オレたちは、まとめて相手してやんよ」

「助かるような、逆にキツいような……」

「それは頑張れ」

「うぐっ…」


 容赦のなさは相変わらず。6対3の構図での戦いを制する必要性を、その意味を、“戦車”の魔法少女は説く。

 今までにも何度かあった、数的不利の戦い。

 その苦境をいつでも乗り越えられてこそ、魔法少女なのであると。


 事実、上位ランカーは多対一の戦いを難度も制して生還できている実績がある。

 戦死したとは言え、成し遂げられた過去がある。

 故に、これから死地に飛び込む後輩たちに、先達として試練を与える。


 死なないように、生きて帰れるように。

 そして───4人と一匹で力を合わせて、あの最強様に勝てるように。


 ある種の戦闘指南。

 先達から後進へ送る、形なき激励。自分たちを蘇らせた蒼月の意に反する行いだが、後でどうこう言われようと、自我を奪われようと、知ったことではない。

 再び現世で活動を再開してから、自分たちはやりたいと思ったことを自由にやらせてもらっていた。

 ならば、これもその一環。

 文句があるなら、自由を与えたことを悔いて、そして、強くなった後輩と戦えばいい。

 6人の総意で、屍兵となった彼女たちは立ちはだかる。

 これで、もし後輩たちが死んでも。

 その程度の存在だったと侮蔑するぐらいには、倫理観が終わっているが。そうはならないでくれよ?と彼女たちは笑って問いかける。


 その想いをエーテたちは受け止めて、感謝を胸に抱いて武器を構える。


「胸をお借りします!」

「先輩だからって、容赦しないもんね!」

「みんな、行くよっ!」


 挑戦者は、就任して半年経った、新世代の魔法少女。


“祝福”のリリーエーテ

“彗星”のブルーコメット

“花園”のハニーデイズ


 陽だまりの妖精に連れられて、新たに人類を、この青い世界を守る、たった3人の戦乙女。

 不屈の闘志で悪夢に挑む。


 そして───新世代に応戦する、天まで聳え立つ試練。悪夢によって再び生を謳歌する、理から外れた、外された不撓不屈の怪物たち。


「主に祈りを。希望の導きを、この手に」


 不信を。絶望に手を差し伸ばさぬ絶対的な存在を疑い、その神格を問いて尚、答えは見つからず。

 いつしか御使いとなって、死んだ、彼女は戦乙女。


───“力天使”のエスト・ブランジェ


「戦争の流儀ってのを、そのちっけな脳ミソに叩き込んでやんよッ!この、カドックバンカー大・大・大・先・輩!が、なぁッ!!」


 喝采を。何処の誰よりも長く、そして多くの戦場を一人駆け抜けた古英雄は、戦いを肯定する。

 数多くの後進を育て、失った、彼女は孤独の大戦士。


───“戦車”のカドックバンカー


「どこまで揉めばいいのやら……手っ取り早く、呪い耐性でもつけさせようかね」


 退廃を。魔法によって昇華された、生命を蝕む詛呪は、やがて大地を育む祝福となる。

 終わりなき憎悪の果てで、彼女は孤独に嗤う呪い師。


───“虚雫”のマレディフルーフ


「行っくよーっ!!あたしの歌を、聞けーっ!!」


 声援を。声高らかに、死ぬその時まで歌って、踊って、世界に気持ちを届け続ける。

 この世に知らぬ者はいない、彼女は最高の歌姫。


───“王国”のマーチプリズ


「月お姉様に勝とうだなんて、百年早いのです!でも……ワタシたちが、精一杯、みんなの背を押して!その夢を、応援してあげるのです!!

 さぁ、出発進行ー!なのですっ!!」


 激励を。延々と止まらない環状線。彼女の思いと共に、列車は爆煙を吹き上げる。

 尊敬の念を一心に捧げる車掌、彼女は純心の女旗手。


───“汽笛”のゴーゴーピッド


「めんどくさいなぁ……でも、頑張るよ、ワタシ。だってラピピが一人で苦しむのは、もう見たくないし……少しは貢献してよ?後輩たち」


 嘲笑を。心の底から信じられない世界を、少しぐらいは信じれるようになった、そのお礼を。

 笑みを絶やさぬそんな彼女は、鏡の中のお友達。


───“廻廊”のミロロノワール


 総勢6名、月下の屍兵が、行く手を阻む。


 しかし。

 希望の13魔法グレート・マギア・サーティーンの称え名は、地に堕ちたかつての栄光。悪夢に染まった戦士に、その名は相応しくなく。しかし、仮に、今の彼女たちを指し示す記号があるのならば。

 こう名付けよう。


───“死せる夢染めの六花ネクロス・マギア・ゼクスヘリアル”、と。


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