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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
人外魔境悪夢決戦
136/235

123-ダンジョン脱出、その先で


「こっちでいいんですか?」

「えぇ、はい。というか目の前です」

【ハット!】

「開けるわよ」

「はーい」


 激戦を終えた魔法少女たちは、残骸の下で気絶していたメードを掘り起こし、グロ注意な身体を修復させ、ずっとエーテの頭の上で寝ていたハット・アクゥームにも治療を手伝わせた。

 目覚めたメードは渋々と、ダンジョンを形成した核へと道案内をする。


 目指すは最奥。このダンジョンの始まりであり、全てが終わりとなる根源の地。

 大部屋を抜けて、扉を開けた先に。

 それはあった。


 暗闇にひっそりと浮かぶ、青色の輝きを放つ水晶球体、不吉なパワーオーブ。人間の頭ぐらいの大きさで、どうも見るだけで悪寒の走る水晶から、【悪夢】のエネルギーがドロドロと溢れて溶けている。

 液体が滴るパワーオーブからは、侵入者を拒絶する強い意志が感じ取れた。


「これが…」

「“迷宮憎悪”の正体、モックスープのコアです」

「……意思、あるの?」

「ありますよ。【悪夢】に呑まれて帰らぬ人となった……たくさんの子どもたちの思念が」

「ッ!?」


 そして、理解する。下手にこれを壊せば、どうなるか。


 助けを求める手は届かなかった。

 祈る声も、悲鳴も聞こえなかった。

 嘆きは沈み、恨みは栄え、滅びへの意思に、殺意に魂を蝕まれ。


 魔法少女もいない時代から、助からないことへの悲鳴、助けてくれない大人たちへの憎悪、どうしようもならない現実への絶望が、【悪夢】を育てた。

 子どもたちの終わらない死を哀れんだ、謎かけが得意なウミガメまでもを取り込んで、その身を変成させた。

 最早、原形は溶けてなくなかった。

 それでも、憎悪が、悲鳴が、絶望が、終わらない怨嗟の嵐の中で木霊する。


 先代の魔法少女の浄化でも消えずに、世界の底でずっと蠢いていた、不滅の意識集合群。

 それを見つけた蒼い月に、再利用された迷宮の素材。


 この水晶を壊せば、瞬く間に迷宮は消失するだろう。

 だが、その代償として───結晶に包まれた【悪夢】が解き放たれ、日本は【悪夢】に沈むだろう。今まで何度も積み重ねてきた魔法少女の努力が水泡に帰し、時間を経て世界に伝染するだろう。

 つまり、生半可な方法では対処できない。

 殺意を込めて叩けば、それ相応の殺意が世界を包む。

 壊れてくれと祈れば、お前を壊すと意志の力に呑まれて死ぬだろう。


 では、どうすればいいのか。


 魔法少女は選択を迫られる。


「……ねぇ、メードさん」

「なんでしょうか」

「これって、お姉さんの……ムーンラピスが、試練だって用意したんだよね?」

「はい」


 リリーエーテが、確証を抱いたまま、メードに問う。


「あの人なら……多分、なにもできませんで終わらず程、性格は悪くない。絶対に私たちができると確信した上で、遠回りな試練を与えてくる。そういう人」

「……よくおわかりで。えぇ、あなたの思うまま、それがきっと答えになります」

「そっ、か」


 できないことは求めない───信じているからこその、迷宮最後の壁。


 魔法少女は確信する。

 この迷宮をどうにかする鍵は……リリーエーテの、夢を司る魔法なのだと。


「いいわよ、エーテ。あなたの決定に、私は従うから……それに、求められてるのはあなたの様だし。私じゃ絶対に壊しちゃうもの」

「お花でどうにかなる領域じゃないもんね。うん、すごい不甲斐ないけど……任せるね、エーテ!」

「大丈夫ぽふ!エーテ、自分を、ぼくたちを信じて!」

「……うんっ!」


 仲間の想いを背負って、自分ならばできると、エーテは決意を深めて。


 希望を夢見る魔法を、発動する。


「夢想魔法───…」


 悪夢に塗れた意識の集合体が、どうか、安らかな眠りにつけるように。


 祈りを込めて、夢に包む。


───夢想魔法<スイート・ドリーマー>


 絶望は、明るい夢の中に。

 失意は、穏やかな夢の中に。

 嫉妬は、悪意なき夢の中に。

 悲鳴は、苦しみのない夢の中に。

 憎悪は、希望の夢の中に。


 やさしく包んで、消えないように守って、受け止めて、救いを願って。


 決して、手放さない。


「おやすみなさい」


 青い水晶体は、光と共に溶けていく。

 ユメの力に浄化され、黒ずんだ思念を解かれ、希望へと還っていく。


 いつの日か、また生を受けて。

 明るい世界を生きれるように。


 悪夢は晴れて、希望に満ちる。


───…

───…

───…

───…


───ありがとう


「!」


 音にならない言葉を最後に、“迷宮憎悪”は希望の光へとその意志を溶かしていく。浄化された悪夢が、光の粒子となって天に昇る。

 あるべき場所に、帰るべき場所に。

 子どもたちの魂は、救われた。


「ヨシっ!」

「ナイス!流石エーテね!」

「よかった…」


:えがった…

:おやすみなさい

:子供が辛い目に遭うの地雷です

:エーテすげぇ

:拍手

:拍手


 完全浄化できた迷宮の核、一切の後始末なく浄化できた事実に、みんなで喜ぶ。さしものメードも、これには素直に拍手を返す。

 正直、放置して裏にあるダンジョンの出口を通る以外にないと思っていたのだが。

 改めて、魔法少女への認識を上書きする。

 如何に自分が甘い考えを抱いていたのか、最後の最後で思い知らされた。


「……あぁ、だからですか」


 何故、ムーンラピスが、このタイミングで迷宮なんざを用意したのか。きっと、彼女は。この負債を、自分達ではできなかった救いを、後輩たちに欲したのだと。

 負かしてからではできないことを、今、この時に。

 自分でなんでも解決したがるのが彼女なのに。どうやら相当悩んで、この決断をしたようだ。

 メードは、月の主の苦悩を読み取り、それを成し遂げた魔法少女たちに敬意を表する。

 それぐらいは、【悪夢】側であるメードでも、許されるだろう。


 そう一人頷いていると、突然世界が……否、核を失った迷宮が揺れ始める。壁が倒れ、床が沈み、天井が落ちて、空間がひしゃげていく。

 崩落するダンジョンが、魔法少女を窮地に追い込む。


「うわわ!?」

「そりゃ、そうよね!心臓がなくなったんですものっ……出口は何処!?」

「この奥でございます!」

「早く!」


 メードの先導で、迷宮の最奥を駆け抜けて。光の漏れる出口への門を、通り抜ける。


 4人と二匹が、迷宮の外、夢空廃城に戻った、その時。


 背後に生成されていたダンジョンが、魔力の渦を伴って消失した。


「ふぅ…」

「危うく、私たちも消えるとこだったわ…」

「うーん危機一髪…」

「私まで潰れるところでした」

「怖かったぽふ」

【ハット】


 全員で脱出できた喜びを噛み締めて、一息ついてから。


 メードが踵を返す。


「あ、メードさん」

「───ここで、私は撤退とさせていただきます。あまりお役に立てそうにありませんし、主の邪魔になるわけにはいきませんから」

「そう、ですか…」


 足早に敗者は去る。役目は終えた。後は観戦者として、我らが【悪夢】の最後を見届けるのみ。

 そうして去るメードに、魔法少女は声をかける。


「メードさん!」

「……はい、なんでしょうか」

「戦いが終わったら、一緒にお茶しませんかっ!その……私の知らない二年間の、お姉さんの話。あなたから、少し聞きたくって…」


 またいつかを求めるその声に、メードは苦笑する。


 どこまで行っても、やさしさに満ち溢れた───素敵な子どもだと。


「えぇ、是非」


 死ななければ結ばれなかった縁に、出会いに、感謝を。


 いつもの無表情を崩して、笑顔を返して……今度こそ。アリスメアーの幹部補佐、“残夢”のメードは、夢の城から姿を消す。


 その背を見送った魔法少女たちは、移動を再開する。


 この戦いを終わらせる為に───次々と立ちはだかる、試練を乗り越える為に。


「あっ」

「? どうしたの?」

「……えっと、ハット・アクゥーム?あなたは、いつまでそこにいるの…?」

「あ」

【?】


 どうやら、エーテの頭は、ハット・アクゥームの臨時の定位置になってしまったようだ。一向にどく気配はなく、安心した顔で被さっている。

 頑張れ。








꧁:✦✧✦:꧂








 迷宮跡地、天廊を駆け抜ける。魔法で一切の天体変動を封じられた太陽の下、月に隠された皆既日食に閉ざされた暗闇の空で、光と闇が何度も交差し、火花を散らす。

 衝撃波が何度も城を震撼させ、最早立つのも困難な程。

 破滅を齎す軌跡、余波で何度も吹き飛ばされる。

 それでも、2人の元に近付こうと。魔法少女たちが行くその道を。


 彼女たちもまた、阻む。


「おーっす。待ってたぜ」


 空がよく見える大広間。開け放たれた吹き抜けの下で、魔法少女歴最長の戦争好きが、エーテたちの前に、笑顔で現れた。


「カドックバンカー、先輩…」

「呼びづらきゃ先輩つけなくていーぜ。そもそも、オレらあんま話したことねーしな」

「それはまぁ…」

「ククッ、まぁ、あれだ。ここにいるのは言うまでもねェだろうが……オレ様たちを倒せもしねェで、あの間合いに入ろうなんざ、無理に決まってんだよ?」

「……わかりました。胸を借ります」

「それでいい」


 対物ライフルを肩に担いだカドックと話す。

 確かに、こうして対面するのは初めてのこと。復活からそう時間が経っていないのにも関わらず、だ。それだけ、彼女たちを取り囲む環境が、宙からの脅威の対処に全員で追われていたのだが。


「……でも…」


 ……ただ。エーテたちが徐に、カドックの後ろへと目をやれば。


「ちょーっと待っててね〜」

「ヤっバい、全っ然準備できてないよ!?マイクどこ!?見つかんないんだけどっ!!」

「ゾンビだからって気ぃ緩めすぎなんだよねぇ。なーんで不真面目枠のワタシじゃなくて、センパイ2人がなんにもできてないのー?」

「怠惰なのです!」

「呪うぞ後輩s……あ、ピッド。帽子忘れてるよ」

「あれ?」


 ワタワタと慌てて準備をする先輩たちの姿に、どう反応すべきか困るのだった。


 最後の試練、“先代”を乗り越える戦いを、強いられる。


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