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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
人外魔境悪夢決戦
135/234

122-vs“残夢”のメード


「……あぁ、遂に私の番ですか」


 暗がりの最奥で、ナニカに腰掛けたメードが、そう独り虚空に呟く。空中に浮かぶモニターには、親愛なる上司とその宿敵の激戦模様が流れており、振動が画面にも伝わり常に激しく揺れている。

 そして、もう一枚のモニターには……

 だいぶ懐柔されているハット・アクゥームが、エーテの頭に乗って一息ついているところががっつり映っていた。

 最早飼い慣らされた愛玩帽子である。

 何処か愛嬌のあるその光景を、魔法少女たちが休憩する微笑ましい様子を眺めながら、メードは最終確認に入る。

 立ち位置的には、メードは次鋒。

 もし魔法少女が勝ち進めば、残る中堅と副将格の集団が待ち構えている。既に疲弊している彼女たちが、どれだけ耐え切れるのかは見物だが。

 今は兎も角、目先の勝利を掴むことだけを考える。

 譲渡された兵器を手でなぞり、内部機構の魔力の流れが正常か確かめる。


「ふむふむ…」


 正直よくわからないが、きっと大丈夫だろう。メードは本心でそう思った。この上なく不安だが、責任はこの場を彼女に一任した二代目首領にある。

 そうカチャカチャと機械弄りの真似事をしていると。

 重厚な扉が、音を立てて開く。扉の向こうの暗闇から、魔法少女たちがやってきた。


「…あっ!出たわね!」

「大人しく降伏しろーっ、休めたからって疲労困憊なのに変わりないんだからねーっ!?もう寝たい!チェルちゃとお布団ぬくぬくしたい!!」

「デイズさては限界?頑張って!多分まだ敵はいるから!お姉ちゃんがお姉さん一人にてんてこ舞いの今、他の人ら全部私たちがやることになりそうだから!」

「最っ低!それがアリスメアーのやることかーっ!」

「そうよそうよ!」

「……お疲れですね…」

「当たり前じゃん?」

「んだんだ」


 ちなみに、捕まったハット・アクゥームはエーテの頭に乗っかって呑気に鼾をかいている。一先ず言いたいことを吐くだけ吐けた3人は、一旦冷静になって深呼吸。

 エーテは頭の上の帽子が落ちないように位置調整をしてから、手始めに対話を開始する。

 その隣で、休み足りないデイズが魔力回復ポーションをまだガブ飲みしていて、コメットが星槍をブンブン回して臨戦態勢を取っていることには目を逸らす。

 閑話休題。


「……見覚えのあるアクゥームだなぁ。その後ろのって、つまりそーゆーことですか?」

「肯定、とだけお答えしましょう」

「うへぇ…」


 メードの背後に鎮座する“怪物”に、エーテたちは心から嫌そうな顔をする。

 それでも、魔法少女として倒す選択以外はありえない。


「ご安心を。この機体を───引いては、私を倒せれば、この奥にいる“迷宮憎悪”を無抵抗で差し出しましょう……どう扱うかは、皆様の判断にお任せしますね」

「……なんだか、裏がありそうね」

「ありますからね」

「ド直球ぅ」


 手短に、魔法少女が勝てた際のルートを用意してから、メードは背後の機械に手を添える。すると、粒子のような闇が広がって、メードが同化するように溶け込んでいく。

 瞬間、空間全体に機械が稼働する音が鳴り響く。

 異様な不協和音が耳の奥で反響するのを我慢しながら、3人はそれが動き出すのを見届けた。

 かつて見たそれは、赤い塗料を塗られた機体だった。

 だが、今ここにいる怪物は、紫色に染められ、如何にも上位個体なのがわかる。


【アアアアアアアアア、アクゥーム───ッ!!】


 機械と融合した夢魔が、試作機(プロトタイプ)を優に超越するキメラが稼働する。多脚に多腕の怪物は、一つの手に複数の機構、超大型チェーンソーやハンドプレッサー、掘削用ドリル、ショベル、ハンドミキサー、ミサイルポッド、レーザー砲などが左右両手に搭載された、奇怪な混成存在。

 背中から棘のように生える信号機や道路標識、剣や槍が剣山のように聳え立ち。

 デフォルメされた黒い頭部は、爛々と目を輝かせて敵を見下ろす。


 改造に改造を重ねた重機混成アクゥーム、その究極形。


 メードが搭乗したことにより、人智を手にした怪物が、その猛威を振るう。


 第二の最終関門───“残夢”のメード、戦闘開始。


「気力十分、行くよっ!」

「明日は筋肉痛確定ね!」

「頑張れ明日のあたし!」


 互いに励まし合いながら、魔法少女たちも攻撃に出る。


『───プロトタイプとの違いを、お見せしましょう』


 稼働音を掻き鳴らし、背中のミサイルポッドを発射して床を穴ボコだらけにしながら、メードは新型レーザー砲が搭載された機械の尾を作動させ、尾を揺らしながら辺りに光線を撒き散らす。

 慌てて避ける魔法少女たちの目には、光線によって更に穴ボコになった───否、黒と紫のグラデーションを持つ結晶が生えた床が広がっていた。

 その結晶は、【悪夢】を濃密凝縮した特異現象の一つ。

 現役時代、【悪夢】の研究家であったムーンラピスが、配信外でなんか頑張ったらできた激物である。勿論のこと人間には毒であり、流石のラピスもダウンするぐらいには危険な代物だ。


 ……家主の許可なく、明園家の地下に封印していたのは秘密である。


 その研究成果を流用して、意図的に【悪夢】を結晶化し現世に爪痕を残す兵器を完成させた。それがこの、対宇宙決戦兵器、メアリーレーザー。

 名前は当てつけだ。ちょうどダウンしている時に彼女が近場に現れたので。その時に殺したのだが。

 このレーザー砲に直撃すれば、肉体が結晶化。たちまち精神と肉体が【悪夢】に侵食されて、そのまま魂も一緒に石になって死ぬ、殺意マシマシの攻撃である。

 製作者曰く。

 「この程度避けられないでなにが魔法少女か」だとか。判断基準は勿論相方と自分である。とてつもない戦士への期待をぶち込まれる新世代の未来は如何に。

 顔面蒼白で逃げても許されるだろう。


「なにあれなにあれなにあれ!?」

「ぜーったいお姉さんが出来心で作っちゃったシリーズのヤバいやつじゃん!?いい加減にしろっ!!」

「先輩の悪評は今に始まったことじゃないでしょう!?」

『蒼月様の侮辱は宣戦布告と受け取りますが』

「でも本音は?」

『……こんな威力だなんて聞いてない。やはり魔法少女は危険なイキモノ…』

「風評被害ッ!」


:ラピ様さぁ…

:罪状増えすぎでしょあの人

:人体実験してそう

:大義名分で許される範囲超えてるでしょ

:それが?の一言でシラケるぞ絶対

:想像できるのがヤダ

:がんばれー!

:にげろー!


 蛮行に慣れすぎて最早達観しているコメントたちだが、危機感を抱くだけの危機意識はあるらしく、全力で3人に応援パワーを送っている。

 魔力で瞬間強化して、全力飛行する新世代。

 結晶になって死にたくないと、ここ一番の殺意を必死に回避する。


 無論、危なげなくだとしても、ただただ避けられるのはさしものメードも面白くなく。

 危険とはいえ、相手は魔法少女。

 もっと窮地に追い込んでこそ、輝くというモノ。それで自分が負けても、文句はない。


 何故ならば、主君2人の勝利は揺るがないと、メードは心の底から信じているから。


 故に、無理難題を、あの方の後輩たちに吹っ掛ける。


『逃げてばっかりでは芸がありませんね……宜しいので?この悪夢結晶、話を聞いた限り、近くにあるだけで体調が著しく悪くなるようですが』

「それを早く言ってよねっ!夢想魔法っ───!」

『おや』


 エーテの魔法が通った後、結晶が綺麗に消滅していた。どうやら、【悪夢】の結晶という性質上、夢想の浄化とは相性が悪いらしい。

 これなら、本拠地で生成したまま放置されている結晶の後処理も任せるべきか。ごめん除去できんわと笑っていた月の主を脳内で殴る妄想をしながら、メードは更に機構を展開する。

 発射。


「っ、マーヴ!?」

「軌道逸らすよ!花魔法<フラワーカーペット>!!」

「……ダメっ!効いてない!」

「えぇ!?」


 多弾頭ミサイル───無数の弾頭を内部に装填している雨霰の爆弾を、デイズの花の絨毯で壁や床に誘導するが、炸裂した弾幕の幾つかが絨毯を貫通。

 咄嗟に障壁を張って防御。

 ドカンッドカンッと、複数の衝撃と爆風に苛まれるが、障壁は揺れるだけ。

 まだ耐えられるとエーテが安心した、その時。

 頑張って耐える障壁の向こう側、爆煙が僅かに晴れた、その隙間から……


 超回転するドリルが見えた。


「マズっ!?」


 それは無理だと判断して、障壁をそのままに全力疾走。走り出すのと同時に破砕された障壁が、ガラス片となって掠めるのを余所に、エーテはコメットとバトンタッチ。

 星槍を構えたコメットは、意気揚々と駆け出す。

 迫り来るドリルと、コメットの星槍の先端が激突する。二つの刺突は火花を散らして拮抗して、その衝撃で足元の床板が剥がれて吹き飛ぶ。


「くっ、うぅ……星、魔法ッ!」


───星魔法<スター・ブースト>


 身体強化で筋力を上昇させ、ガリガリと削れる星の槍により大きな力を込める。


 次第に、拮抗状態は崩れ。巨体から差し向けられた力を押し返すことに成功する。

 超大型ドリルは星槍に貫かれ、煙を吐いて沈黙した。


「ヨシっ!」

『これは……驚愕の馬鹿力ですね。では、次です。どうぞお楽しみください』

「いらない、かなっ!」

『ッ』


 次の手を繰り出そうとして、背中の機構を開こうとしたその時。重機混成アクゥームの後ろ側に回ったデイズが、花斧を勢いよく叩きつける。

 展開しかけていたハッチが凹み、中の兵器のお披露目を未然に防ぐ。そのまま、跳ね除けんと背中に回る手の攻撃や振り落としを耐え忍び、斧をハッチに何度も叩き込む。

 その背中に隠された武装を起爆させ、誘爆させ、機体を沈ませる為に。


 必死に抵抗するメードだったが、エーテとコメットから関節部を狙った攻撃を喰らい、たたらを踏んでしまう。

 このままでは、マズい。故に。


『虚無魔法ッ!<ヴォイド・スクロール>!!』


 機構の穴から魔法を飛ばす。

 虚ろな形の言霊が、大きな脈動を伴い、爆発。不味いと経験から回避を選んだ魔法少女たちは、以前のように耳を劈く不協和音に悶絶する。

 3人が苦しんだその隙に、メードはアクゥームを操作。

 デイズを振り落とすことに成功し、すかさず距離を取り攻撃を再開。


「っ……この程度っ!」

『はぁ……全ては無意味。その証明を、今、此処に───虚無魔法<ヴォイド・アグナーヴ>』

「い゛っ!?」

「ぐっ…」


 精神を狂わす波が放たれる。防御不能の波紋に襲われ、魔法少女たちはまたしても悶絶する。

 断続的に放たれるそれを浴びながら、それでも。

 正気を保ったまま、前進。最初はたどたどしく、次第に荒々しく。ガンガンと痛む脳を押さえつけて、3人は敵に駆け寄る。


「負けない!」

『流石の精神力。ならば……ッ?』

「おっ、りゃー!!」


 恐れを知らない魔法少女に追撃の虚無を放とうとして、またしても背中に飛び乗るデイズに目を見開く。あまりの無謀さに呆れが出るが、またかと先に怒りが出る。

 耐えれるというのなら、もっと出力を上げるのみ。

 苛立ち混じりに、メードは魔法を行使。重低音を鳴らす虚無の波に、3人は晒される。

 それでも。


「むっ、だぁ!!」

「悪いけど、効かないわっ!」

「お姉ちゃんの扱きの方が、まだキツい!」

『ッ……面倒な!その自信、主に代わって私が潰します!お覚悟をッ!!』

「望むとこ!」


 悪足掻きに、その不屈の心に、何故か心がイラついて。


 珍しく額に筋を浮かべたメードが、より過激に、殺意をマシンに込めて操作する。


───闇晶光波<メアリーレーザー>

───虚無魔法<ヴォイド・シックハザード>

───危機暴壊<オーバーロード>


 致死の光線が、より爆発的に隆起する狂気が、通常より暴発寸前まで加熱した機体が、【悪夢】の敵を仕留める為その武器を振るう。

 魔法少女の魔法が光に呑まれ結晶化する。狂気の汚染に悲鳴を上げる。暴走する機械群にその身を揉まれる。

 何度も死にかけながら、それでも3人は動く。

 虚無にも負けず、悪夢にも負けず、殺意にも負けず。

 その意地汚さで、アクゥームの背中を爆発させることに成功する。


『がっ───!』


 機体全体が悲鳴を上げる。爆炎を上げ、幾つもの装甲が剥がれ落ちる。万能にも思えた四本の手は、一本は折れ、二本目は砕け散り、三本目は使い物にならないぐらいにはひしゃげてしまった。

 火炎放射器もレーザー砲もミサイルポッドも、全壊。

 頼みの綱は、左手の最後の一本。ハンドプレッサーなる工事道具を巨大化させた、掴める武器のみ。

 ならば。


『自爆ですッ!!』


 死なない肉体を最大限に活かす、最も効率的な殺意。


 動きの鈍い機体を暴れさせ、前進させ、魔法少女たちへ特攻する。


 そんな悲痛な覚悟を、魔法少女は受け入れない。


「“青く輝く彗星よ”!」

「“光に満ちた、天の花園より”!」

「“祝福を届けたまえ”!」


「「「───奇跡重奏!<ウェイクアップ・ミラキュラスハイドリーム>!!」」」


 希望を込めて、未来を祈って、三重奏の夢の光を放つ。


 無謀な突進をする重機混成アクゥームが、光に呑まれて動きを弱らせる。前に進む一歩一歩が、重い足取りとなり進まなくなる。

 光の圧が、【悪夢】をやさしく包んで、浄化する。

 搭乗したままのメードは、悲鳴を噛み殺しても……まだ終わらないと、コントローラーを押し続ける。

 進め。死んでも進め。壊れても進め。

 停滞を選び、今の環境のままでいいと思考を停止して、悪夢の安寧を尊んだ自分。

 蒼月と女王に言われるがまま、召使いという不似合いな役割を与えられ、それをヨシと死んだまま生きてきた。

 言いなりのメイド、メードとして。


『っ、あぁっ!』


 正直に言おう。メードは、楽な道を選んだ。辛いこともやりたくないことも、強要されない世界で、抑圧していた自分自身を解放できて。

 ここでなら、なにもできなくても、怒られないから。

 それが個性だと、仕方ないなと笑って、捨てないで傍に置いて、一緒にいてくれたから。

 手放せなかった。

 恩を返すべきだと、報いるべきだと、あの日死んだ筈のこの手を掴み、怪人としてでも悪夢としてでもなく、人の形のまま彼女たちに仕えた自分に、できることを探した。

 形だけの主従関係。お互いを軽視していて、いつだって軽い気持ちで行動し合っているけど。

 メードは、本気だった。


 故に負けるわけにはいかないと、虚無魔法のオーラで、夢の光を押し返そうとして。


『───申し訳、ございません』


 懺悔の声は、誰にも聞こえず。夢の光に、包まれた。


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連戦連勝の三色魔法と風評は負の蒼月(笑)
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