表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/136

119-死人舞踏会


 夢空廃城、玉座の間───舞台に上がった人形たちが、悪夢の支配下で猛威を振るう。標的、一方的に決められたダンスのパートナーは、舞台袖から這い上がった勇者。

 新時代の幕開けを経て、復帰を果たした元同胞。

 中身のない空っぽの複製たちは、造物主の力に操られて魔法を輝かせる。


───氷魔法<キル・アイスニードル>


 大理石の床が一瞬で氷漬けにされ、鋭い氷の棘が無数に生えて全てを串刺しにする。飛んで逃げるリリーライトを追いかけて、絶対零度の凍波がその命を狙う。

 術者は、“正義”のキルシュナイダー。

 三つ編みにした白銀のルーズサイドテールが特徴的で、眼鏡と凛々しい顔付きは知的なイメージを与える……が、その実態は、悪を許さない完全正義の私刑執行者。

 生真面目な委員長でもあった彼女を模した操り人形は、広がる凍波を引き連れ、得物である分割したハサミの刃を振り回す。


「ッ、自分が凍るのもお構いなし!?そーゆーとこまで、再現しなくていいんだけど!!」

「───<獅威し・岩戸>」

「うおッ!?」


 急接近からの刃を交差させた斬撃を避けた途端、前方、進行方向の床がせり上がり、ライトは岩の壁に進路を妨害された。

 咄嗟に聖剣をぶつけて岩の壁を破片に変えれば。

 瓦解する岩礫の向こう側から、透明な殺意が、日本刀の形をして現れる。


「モロハ先p───あかん死ぬぅ!!」


 侍の出で立ちで日本刀を振るい、ライトの首に赤い線を走らせたのは、破天荒な道場破りにして、辻斬りの武者、“斬魔”のモロハ。

 魔法少女ではない疑惑のある辻斬りだが、それは間違いである。ちゃんと妖精と契約して、余計タチの悪い女侍になった辻斬りである。

 ライトを遥かに上回る素早い剣術をもって、血に濡れた勇者を生成する。


「チッ、挟まれたッ…」


 前門のモロハ、後門のキルシュナイダー。

 ただでさえ苦戦を強いる先輩たちな上、両方を相手する必要性に歯噛みする。


 この乱戦に、他の模造品が乱入することも加味すれば、余計に。


 その警戒は、空気を劈く雷鳴によって、現実となる。


───雷魔法<サンダーバード・ストライク>


 鳥を象った青雷が、刃に囲まれたライト目掛けて空より襲撃する。これの緊急回避は無理だと諦めて、渋々生身で受け止める。

 身体を雷に貫かれるが、まだ動ける。

 痺れと痛みに悲鳴を上げる身体を無視して、下手人たる鬼を睨む。


「ッ、つゥ……ドンナ…!」


 中空に浮かぶ、雷太鼓を背負った狂戦士───“雷精”のオルドドンナ。迅雷の動きで接近し、青雷を纏った蹴りを食らわしてくるのを、聖剣で咄嗟にガードする。

 猪突猛進の性格の彼女は、どんな強敵であろうと雷速で急接近し、ヒットアンドアウェイかタコ殴りのどちらかで勢いよく責め立てる。その向こう見ずな行動力が禍して、儚い命を散らしたのだが。

 その自慢の速度をもって、ライトを空より追い詰める。

 前後と上を取られたライトだが、そこは歴戦の勇士。

 自身を中心に光の魔法を炸裂させ、近付く全てを力強く吹き飛ばす。


「油断も隙もない…ほら来た」


 糸がピンッと張る。ただの糸ではなく、触れれば切創の鋼線に束ねられた魔法の糸が、いつの間にかライトの周りに張り巡らされていた。

 慎重に動かなければ即座にバラバラ死体。

 リリーライトの行動を制限するのは、魔法少女最年少、“傀儡”のマペットプリマーレ。本物の人形のように、常に無表情だった幼子は、本当の傀儡となって全てを切り刻む糸を操る。


 その糸に聖剣を叩きつけるが、斬れない。そして。


「……ちょっ、モロハ先輩とキル先輩でも斬れない糸とか冗談じゃないんだけど?てか、この状況で斬り掛かるの?連携とか知らないのかな?」

「あぁ、原作リスペクト。個人主義だぞそいつら」

「納得しちゃったや…」


 グラスに注いだブドウジュースを嗜むムーンラピスが、玉座に座ったままそう答えるのを、否定よりも先に納得が出てくる辺り、人形たちの素体の印象がよくわかる。

 強靭な糸がギチギチと音を立て、三本の刃を防刃する。

 その硬さにライトは溜息を吐いて、仕方ないなと魔法を炸裂させる。


「───光魔法<リヒトライト・カタスター>!」


  邪魔を許さぬ光の斬撃が、身体に巻き付かんとする糸を一刀両断、そのまま光が連鎖して周辺の糸を断ち切って、ついでに急接近を仕掛けた三体の人形も切り伏せる。

 破壊はできなかったが、関節は外した。

 その隙を狙って、未だに糸魔法を吐き出すプリマーレに斬り掛かる。


「ごめんねプリマーレ!」

「……ダメじゃないか。もう一人をお忘れかい?」

「ッ!」


 何気のない指摘に、一瞬身体が硬直して───死角からナニカに襲いかかられる。身を翻して回避を選べば、先程まで自分がいた場所に、深々と爪が突き刺さっていた。

 思わず、ゆっくりとそれを見上げれば。

 ファンシーではあるが、凶悪な笑みを浮かべるクマが、そこにいた。


───色魔法<アゾット・カリカチュア>


 それは、キャンパスに描いた絵を実物に、実体化できる絵描きの魔法。どんな獲物でも絶対に逃がさない御伽噺のクマ、などという曖昧なイメージで描かれた絵の怪物は、絵筆で描かれたことが一目でわかる色彩を持っている。

 無論、現れたのはクマだけではなく。

 首が曲がりくねったキリン、手足の生えたリンゴ、顔が真っ黒に塗り潰されたニンゲン、ケタケタと笑う道化風のコスプレをしたオンナ…


 後方でイーゼルに置いたキャンパスに絵を描く芸術家、“色彩”のイリスミリエの絵の魔法が、更なる脅威となってライトを襲う。


「んー圧倒的画力!なんでこう、不気味なのかなぁ!?」


 ちなみに、戦闘用の絵が雑なだけで、コンテストなどに出展する作品はどれも高額で取引されるぐらい素晴らしい出来である。最初はどんな絵だろうと綺麗に描いていたのだが、本人なりの手抜きをしても魔法としての完成度……つまり力は変わっていなかった為、こうなった。

 ちょっと不気味なのは、ミリエの試行錯誤が実を結んだ結果である。


 迫り来る絵の怪物たちを切り捨て、無限に湧き出るその特異点をライトは狙う。後方で悠々自適に絵を描く人形、イリスミリエの元へ駆ける。

 だが、その程度の危機で実体化をやめるわけもなく。

 事前に張り巡らせていた魔法の罠、戦意を緩ませる花やゲームが元ネタの麻痺罠、近付く程遠退いてしまう奇妙な市松人形など、多彩な効果が設定された絵の具現物を床に転がらせ、その進路を妨害する。

 そして。


───氷魔法<フリーズ・ノック>

───土魔法<獅威し・逆鉾>

───雷魔法<ボルテックス・サンダー>

───糸魔法<マーダー・スレッド>


「くっ…」


 キルシュナイダーの瞬間凍結する斬撃、モロハの岩槍、オルドドンナの雷雲、マペットプリマーレの生命を脅かす殺人糸が、一斉にライトを襲う。

 その対処に手間取っている間に、イリスミリエは移動。

 てってってっと画材片手に駆ける画家の、次の絵を描く場所は……


「え、ここ?」

「……すれ違い様に斬られそうだな」

「すごい邪魔…」


 玉座の後ろだった。能天気な所まで再現された人形には苦笑いどころかドン引きである。

 確かに安全圏であるかもしれないが。


 とはいえ、邪魔なのは確か。仕方ないと、ラピスは絵に夢中な傀儡を操作する。

 化け物を生み出す物量戦は、ここまで。


「ッ、動きが変わった…」


 空想の化け物たちの身体に、マペットプリマーレの糸が突き刺さる。その糸は、対象を操る傀儡化の糸。刺されば最後、どんな強者であろうと逃れることは敵わない。

 操られた絵たちは、密になって姿を重ね、魔法を束ね。

 一つになった巨大な怪物───絵の具の集合体となってライトに襲いかかる。


───色魔法<サイコ・スプラッシュ>


 同時に、前線に現れたイリスミリエが、絵筆をライトに突き付けて、絵の具を飛び散らせる。

 思うがままに存在を描き換える、魔法の絵の具を。


 不定形の怪物と回避必須の絵の具、そして多彩な魔法の連続攻撃。攻撃の一つ一つが、歴戦の魔法少女であろうと致命傷に至る代物で。

 その全てを、ライトは逃げて躱して避ける。


「……やっぱり強いなぁ。本当、ここまで為す術ないの、久しぶりだよ」


 斬撃を振るう暇もない。極光を放つだけの余裕もない。


 それでも、リリーライトは涼しい顔。何故なら、そんな熾烈な戦いを、彼女は幾度も経験してきたいる。ライトが不利すぎる戦いなど、何度も強制されてきた。

 何度も死の窮地に立たされて。それでも、一度たりとも勝機を逃したことはない。

 敗北はありえない。

 魔法の物量、絶え間ない斬撃、一発即死も、全て既視のモノならば、特に。


「我慢我慢…」


 受けていい攻撃は受けて。浴びていい攻撃は避けず。


 身体が凍った。凍結は砕いて対処。糸で切られた。腕に絡まる糸を斬って逃げる。雷に貫かれた。急所は外して、命からがら生き延びる。抜刀された。多少の髪を犠牲に、必死に避けた。色を塗られた。存在が別のモノになる前に光で蒸発させる。

 リリーライトは耐え忍んだ。明鏡止水の心持ちで、その瞬間を待ち…


「───今っ!」


 攻撃と攻撃の一瞬を突いて、極光の魔法が世界に轟く。


───光魔法<ソレイユブレイカー>


 手始めに、こちらに猛攻を仕掛けてくる絵の化け物を。太陽光を爆発させた斬撃で、絵の具の集合体の綻びとなる部分を狙って、破壊する。

 飛び散る絵の具を全部避けきり、次は一番危険度の高いイリスミリエを狙う。

 勿論抵抗されるが、もう遅く。

 スイッチの入ったライトを止めることは、誰であろうと不可能で。


───絵のモデルになってほしい?

───はい!勇者と噂のライト先輩で、是非!

───え〜やだ〜恥ず〜、いいよ。

───乗り気!


 光の速度で、絵描き人形の両腕を切断───木端微塵に斬り砕いて、万が一の再生を防ぐ。

 ついでに薄い胴体に蹴りを入れて、吹き飛ばす。


「次」


 高速再生した絵の具の怪物も、核となる絵を暴いてまた全てを切り刻んで。もう二度と再生できないように、素材となった絵の具を蒸発させる。

 容赦なく、叩き潰す。

 今度は、進行方向にいたキルシュナイダーの首に聖剣を叩きつけ斬ろうと試みる、が。


「! 氷が邪魔だ」


───真面目すぎません?

───これが私なので。逆に貴女は邪念が多すぎます。

───そんなに…?

───えぇ、一目で斬るか悩む程には。最悪、私が引導を渡しましょう。絶対的正義の名の元に、ね。

───そんなに私邪悪なの!?

───はい。


 首に張られた氷が邪魔をして、逆に聖剣を凍結させんと魔力が侵蝕。切断を渋々断念したライトは、ならばと剣に纏わりつく氷を気合いで霧散させ、特攻を再開。

 跳んで避けようとするところを、頭脳体が逃げろと出力するよりも早く斬りかかり。

 横薙の極光で、キルシュナイダーの胴体を切断。

 上半身と下半身で綺麗に別れた先輩を、一切の慈悲なく破壊する。


───氷魔法<ヘイル・ストーム>


 それでも氷を放って攻撃してくるので、残酷なライトは容赦なくその顔を踏み潰した。

 氷雨の嵐は、届かない。


「次」


───糸魔法<マリオンドーラー>

───糸魔法<マーダーホワイト>


「無駄」


───えっと、初めまして?

───………

───…あ、あの?

───………(手を出す)

───あっ、よろしくの握手ね。はいよろしく。ちょっと発声とかしてみてくれない?


 西洋人形を操って、同時に波涛となった大量の糸で敵を呑み込み破壊しようとするマペットプリマーレには、糸を聖剣で切り刻み、人形を解体し、術者の首を撥ねて対処。

 ガクンとバランスを失って倒れた人形には目も向けず、胴体だけで暴れられないように極光で焼き尽くす。

 そして今度は。

 炎上する傀儡師を背景に、雷鳴を聞いて背後を振り向き聖剣を向ける。


「おいで」


───雷魔法<ライジング・ボルト>


 雷速で突っ込み、剛拳を叩き込んでくるオルドドンナに渋々一撃を許してから、追撃を食らわせる前に、跳ばれて逃げられる前に、光で斬る。

 すれ違い様に雷太古を破壊して、無防備な背中に聖剣を突き刺す。


───オレの方が速ェ!

───雷速より光速の方が速いよ。

───誰も力学の話なんかしてねェーよ。お前なんかよりオレの方が速ェんだよわかったか。

───なんで目の敵にされてるの私。

───気分。

───酷い。


「やっぱり……私の方が、速かったね」


 そして、そのまま極光を迸らせて───内部破壊。


 背中から大きく破壊されたオルドドンナは、機能停止に追い込まれた。


 連続で四体無力化した勇者は、最後の敵を見定める。


 彼女の背後で、抜刀の構えをとったモロハが、日本刀を煌めかせた。


「まっ、そうくるよね───いいよ、死合おっか」


 剣術において、首位を争う2人の魔法少女が激突する。


───斬魔一刀流・闇一重


 一呼吸置いてから、2人は駆け出し……モロハの悪夢を切り裂く一閃が、ライトの首を狙う、が。ライトは咄嗟に聖剣を持った手で庇い、右腕を切り落とされる。

 だが、タダでやられるライトではなく。

 手放された聖剣を左手で、空中で拾って、握り直して。モロハよりも速く、剣を振るう。

 狙うは、首。


───お主、いい目をしているな。

───どーも。先輩こそ、殺意満々ですね。

───そうかそうか、わかるか……では極光の。どうだ。拙者と一つ、手合わせでもせぬか?

───是非。


 光が軌跡を追い縋り───モロハの首を、一太刀に斬り落とした。


「ッ、くぅっ……でも、やりきった…」


 一騎打ちに勝利したライトは、血が滴る右腕を拾って、切断面と擦り合わせる。あまりに鋭利な刃に斬られたお陰なのか、切断面は真っ直ぐで。

 わざわざ整える必要なく、接合することができる。


───光魔法<リザレクト・ライト>


 くっつけた右腕は、綺麗に元通り。代償として、失った血は戻らないが……それでも十分。

 ついでとばかりに身体の表面の傷も癒して綺麗にする。

 なにせ、これは前哨戦。

 今のリリーライトがどんなものなのか確かめる、魔王の小手調べなのだから。


「あーあ、やられちゃったよ」

「本物よりも、動きが単純だったから……結構助かった。危なかったけど」

「そう」


 戦闘を見守っていたムーンラピスは、リデルを膝の間に挟んだまま、ライトと見つめ合う。

 何処までも余裕な表情に、どう亀裂を入れるべきか。

 そう悩む勇者に、魔王は思ってもいなかったと前振りをつけてから、言葉を紡ぐ。


「でも、躊躇ったでしょ。思いっきりはよかったけど……何回か斬るのを躊躇してた。やっぱり、見た目がそのままだと辛かったりする?」

「……そりゃ、そうでしょ。ここでなにも感じないとか、ありえないし……でも、やればできるからね」

「本当にそうだから困るよ……まぁ、おめでとう。よくぞ伽藍堂の人形を倒してみせた。褒めてあげる」

「どーも」


 気取ったように手を叩くラピスは、容赦なく告げる。


「すごいすごい……それじゃあ、今度は魔法強化もして、難易度を上げていこう。ここまで派手に壊されても、まだどうとでもなるしね」

「……は?」

「もう一回遊べるドン☆」

「は?」


 そう絶望に叩き落として、ラピスは魔法を行使。

 至る所に散らばっていた残骸が、独りでに動き出して、破損部が集まり、一つの塊に繋がっていく。聖剣によって斬り落とされた四肢も、首も、破壊された身体も。

 全てが元通り。

 復活したマギア・マリオネットが、変わらぬ姿で勇者を取り囲んだ。


「ふっざけんな!」

「そりゃそうでしょ。さぁ、人形共。もう一回と言わず、何度でも遊んでやるといい」

「私の二代目、性格悪いよなぁ」

「黙れ」


 再び動き出した人形五体に、ライトはもう我慢できずに舌打ちをする。


「くっ、なら!私だって、何度でも───え?」


 聖剣を輝かせ、もう一度、敵に斬り掛かろうとして……驚愕に、目を見開く。


 思わず固まった、視線の先で。


「───」


 光の灯っていなかった瞳に、意思を持たせて。ニヤリとほくそ笑む、モロハがいた。

 ただ、それも一瞬。

 すぐに元の人形の無表情に戻って───刀を、己の首に宛てがった。


「ッ、なんだ?なにを…」


 異常に気付いたラピスが、腰を浮かせた、その時。


ザシュッ…


 モロハの首が、宙を舞う。自分で自分を。人形の筈の、斬魔が、自刃した。


「これは…」

「なっ、は?そんな命令、僕は出して……ッ!?やめろ、やめろ!!」


 困惑が広がる途端、他の人形たちも、一斉に動いて。


 イリスミリエは、バケツに入った塗料を被って、自身を液体に変えて自己破壊。

 オルドドンナは許容量を超える雷を浴びて、自壊。

 マペットプリマーレは、無数の糸を身体中に絡めて……全身を細切れに。


 そして。


「あっ…」


 リリーライトは目に焼きつける。

 自分を見つめる、その目を───キルシュナイダーが、身体を氷漬けにしながら、意志のこもった、感情を宿したその最期を。

 勇者に期待の目を向けて、全てを託す、その目を。

 あの日、女王に唯一深手を追わせ、その命を代償にして時間を稼いだ、恩人を。


 砕け散った氷片が、床に落ち。無音が世界を支配する。


「今のは…」


 茫然と呟いたリデルは、信じられないモノを見る目で、床に散らばる残骸たちに意識を割く。今のは確実に、その人形の躯体に、意思が宿っていた。

 作り物の空っぽの器に。

 全員が、リリーライトを見て、やさしさを込めた目で、敵を破壊した。


「……バカな…そんな、ありえない…」


 黄泉路を通り終えた者が、帰ってきたとでも言うのか。


 復活に成功した6人と違って、人形たちの素体は、あの時点で既に成仏していた。邪法を使えば、方法があれば、無理矢理にでも連れてくることはできたかもしれないが。

 それでも、ラピスの手元には、魂はなかった。

 なかったから、気休めに傀儡を作って、こうして資源を再利用したというのに。

 今、あの瞬間。

 空っぽだった器から、確かに当人たちの魔力が、気配が感じ取れた。


「みんな…」

「……クソが。大人しく成仏しとけばいいものを…」

「ダメだよラピちゃん。そんな言い方は」

「っ、だって!今更じゃないか!それもなんだ!?すぐに退場しやがってッ!これだから魔法少女は!不可能だって言ってんだろうがッ!!」

「それ私の台詞だが」

「うるさい!」

「ひぃん…」


 感情的になったラピスが、制御権まで消滅させた五体のゴミを焼却する。もう二度と、あのウザったい魂が降りて来ないように。

 跡も残さないよう、徹底的に。

 黒い炎が焼き尽くす。無限に沸き立つ苛立ちを、無理に抑えて、息を整える。


 一瞬だけ来て、一瞬で帰っていった魂への愚痴を、延々心の中で吐き尽くす。


「はァ…策士策に溺れる、か。時間稼ぎにちょうどいいと思ったのに」

「大丈夫、あんな想定外、早々起こらないと思うよ」

「起こってたまるか…はァ……仕方ない。仕方ないな……予定変更だ」


 先輩後輩の我の強さを舐めていたラピスは、己の軽率な思いつき計画が間違っていたと認め、諦めの溜息を吐いて玉座から立ち上がる。

 リデルを座り直させて、そこに結界を張り。

 予定よりも早く、なによりも自分を優先してこの奥まで飛んできた友と対峙する。

 もう後はない。

 目の前の直球型をやるのは、自分一人。それ以外のは、予定通り、全て後輩たちにぶつける。


 仕込み杖をくるくる回し、計画最大の不安要素に銃口を突きつける。


「終わりにしようか。全ては、僕たちの為に」


 これ以上の問答は不要だと、悪夢に浸る蒼月は告げ。


「いーや。ここからが、始まりだよ……みんな一緒にその手を取り合う、希望の始まりの、ね!」


 何処までも悪夢を晴らす太陽は、そんなことないよと、渋るその手を掴みにかかる。

 笑顔をもって、最愛の野望を打ち砕かんと。


 勇者と魔王の最終決戦───人類の運命を決める戦いの火蓋が、切って落とされた。


次回、三色vs───

新世代組には数という試練を乗り越えて、同じステージに立ってもらいましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
擬似復活したさっきの4,3人?で!
次回、三色vs─── メード? 六人のゾンビ? 明日を本当に楽しみにしています
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ