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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
決戦前日譚

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112-精神と時の部屋


「う〜ん、私たちもやる?」

「パクリはちょっと、ね……意思表示ぐらいはいいんじゃないかしら」

「いいね〜やろ〜」


───毎度の如く、魔法少女たちの溜まり場になっている明園家にて。生身の少女たちは、丸テーブルを囲んで話に花を咲かせる。

 先程まで開設されていたお茶会chのLIVEを見て、多少羨ましい気持ちがあったのは、事実。

 やりたいな〜といった気持ちも、嘘ではない。

 ……まだ、もう一人の姉と仲違いしたまま、殺し合って地球の運命を決めることに、抵抗があるのも……決して、嘘ではない。


 穂花も、蒼生も、きららも……ぽふるんも、不安で胸がいっぱいだった。

 席を外している実の姉も、きっとそう。

 契約妖精であるぽふるんは、ムーンラピスと敵対する、どうしても変えられない未来に四苦八苦して、吐きそうな顔で天井を見上げている始末。


「ぽふるん」

「……うぅん?なぁに、ほのか」

「こっちおいで」

「んー」


 ぽてぽてと机を歩いて穂花の腕に収まったぽふるんは、人肌の温もりで多少は落ち着いたようで、ほんの少しだけ落ち着いた表情を見せる。

 それでも、幾つもの後悔がぽふるんの胸中を渦巻く。

 あの日、嫌がる潤空を魔法少女にしたこと。

 あの日、残った潤空を置いて、穂希を優先して戦場から離れたこと。


 もし、あの日。ああしていれば。こうしていれば───ムーンラピスが一人で決断して、世界を、宇宙を相手取る選択をすることも。

 そもそも。

 アリスメアーの首領となって、いらぬ負債を背負わずに済んだかもしれない。


「うるあ…ほまれ……」


 思考が嫌な方向へ飛躍していく。

 かつての自分の選択が、よくない方向へと転がっている悪寒に苛まれる。そんなわけないと、全員ができることを精一杯にやった結果だと、そうだとわかっていても。

 アリスメアーとの仲がよくなっているのは、これまでの半年間でわかっている。

 わかっていても。

 後悔が。絶望が。もう、この手を取ってもらえない……悲しみが襲ってくる。


「大丈夫だよ、ぽふるん」


 その痛みは、穂花にもある。

 今でも、あの日を夢に見る。


───死にたくないなぁ。


───死んでたまるかよ。


 なにもできなかった、あの頃。全てが終わったと思って諦めていた。なのに、二年経って、今更。そう思っている心の裡を隠して、今まで頑張ってきた。

 仲間が増えたり、身近に敵幹部がいたり……あろう事か姉が生きてたり先代たちが復活したりもう一人の姉が敵になってたり、色々とあったが。

 目まぐるしい日々を送って、穂花は、それでも。


 前を向く選択を。前を歩いて……後ろもしっかり見て、その手を取る選択を選んだ。


「私、諦めないよ」


 敵は強大だ。戦力差は言うまでもなく。アリスメアーと蘇った魔法少女たちの連合に対して、たった4人と一匹。

 負ける未来の方が、よく見える。

 それでも。


 諦める理由には。運命を掴み取らないなんて、彼女には無理だったのだ。


「あら、仲間外れ?」

「勿論、あたしもいるよー!諦めない気持ちは、人一倍!だもんねっ!!」


 こうして、頼れる友も、仲間もできた。たった半年の、壮絶でありながら、成長を実感できる戦いを経て。3人で力を合わせれば、格上に土をつけることもできると、確信できるようになった。

 ならば、後は突き進むのみ。

 手を取り合って、姉の、【悪夢】の計画を打ち破って、本当のハッピーエンドを手に掴むまで。

 負けても負けない。

 勝つまで諦めない。

 負けてなるものか。


 そう意気込んで、笑って。

───夜空に浮かぶ月を、撃ち落とすのだ。


「みんな…」


 輝く瞳、頼り甲斐のある笑顔。見覚えのあるその姿に、ぽふるんは一筋の光を見る。

 安心できる、そのやさしい暖かさに。


「……うん、そうぽふね…みんなで、がんばろう!」


 寂しがり屋の親友を止められる。その手を取れるのは、彼女たちだけなのだから。

 もう一度、仲間を、契約者たちをぽふるんは信じる。

 きっと、辛い結末も、どうしようもない未来も、彼女の決断も。


 この子たちなら、暗雲を吹き飛ばして───みんなが、笑って過ごせる世界を作れるだろうと。

 確信する。


 自信満々に笑って、やりたいことを最後までやり続けた彼女たちのように。世界に束の間の平穏を届け、穏やかな世界を届けた魔法少女たちのように。

 勝ち星を重ね続けて、希望を掴み取ったように。

 新世代と呼ばれる彼女たちなら、きっと、伝説となった彼女たちを越えられると。


 悪夢も、星喰いも、乗り越えられるのだと。


「そうこなくっちゃ!勝つよ、絶対!!」

「支持率は、一応、まだこっちに傾いてるわ……だから、全部私たちが掻っ攫うわよ!見せてやりましょう!!」

「うん!悪夢になんか、負けないもんね!」

「がんばろうぽふっ!」


 目指すは完全勝利。納得できないなら、納得できるまで戦うまで。もう立ち止まらない。敵の強さは、自分たちが一番わかっている。わかっている上で、絶対に諦めない。

 アリスメアーに抗う魔法少女たちの決意は、いつまでも薄れない。




  ───そして。




 宵戸家、地下。

 家主の違法建築により設置された、垂直搬送機を降りた地底の奥深く。


 空間と時間が歪んだ、秘密の修練場にて。


「……」


 マーブル模様の歪んだ景色が広がる、石畳の空間で……たった一人。世界を照らす勇者、“極光”のリリーライトが座禅を組んで瞑想していた。

 マジカルステッキでもある聖剣を床に置き、精神統一。

 なにもない異界。

 ここで過ごす七日間は、外界での一日になる。

 肉体的な年齢も一日分しか取らない、世界のルールから大きく逸れた、一つの世界。

 ただ、長時間の運用……それこそ一年近く異界にいれば精神に異常を来たし、逆に弱体化……それどころではまず済まない末路を与える、月下の修練場だ。

 この特殊空間を、リリーライトは二年ぶりに使用する。

 かつては頻繁に使って、過激化する【悪夢】との戦いに挑んだほど。


「……」


 リリーライト、無心。

 体感時間では、既に四日、この異界で座禅を組んだまま動いていない。空腹や排泄といった生理現象も起こらない異界では、そんな人間を捨てた生活をしようとも、他者に咎められることはない。

 なにをしようと、全てを許される。

 故に、ライトは四日分を瞑想に使って。心の裡に巣食うドロドロを、熱を、研ぎ澄ませた。ドス黒いそれを、暗い気持ちまでもを、全部。

 【悪夢】も。

 “星喰い”も。

 なにもかもを、この手で切り開けるように───希望で世界を照らせるように。


 光の勇者になった少女は、月の魔王に手を伸ばす。


 届かない?

 通じない?

 必要ない?

 いらない?


「───そんなこと、誰が決めた」


 リリーライトは切り開く。


 この世の不条理など、正論など、異論など、相手が何者であろうと。

 この身を阻むのであれば、全力で乗り越える。


「ふぅ……ん〜、色々狂ぅ〜。やっぱこの空間、頭の中、おかしくなっちゃうよ」


 魔力回路、炉心である心臓、魂の状態も、全て良好。

 今すぐ戦いを始めても、本気のムーンラピスとの戦闘は成立できる……その程度までは、既に仕上がっている。

 そう、まだまだ。

 本気で殺り合うには、まだ足りない。

 月の傍に並ぶ光として。太陽の意地で。この程度では、満足できない。


「勝つ為には、納得させる為には……もっと、もっと…」


 貪欲に、勝利を求む。


 悠久にも思える瞑想を経て、ライトは漸く足元の聖剣に手を伸ばす。


「3人には悪いけど……ここでの修行は、独り占めさせてもらうね」


 本当ならば、自分よりも弱い後輩たちに、場を譲るべきなのだろう。だが、その正道を力強く押し退けて、全てを独占する。

 申し訳ないという気持ちはあるけれど。

 自分勝手なのはいつものこと。自分優先で、勝利の為に貪欲に。


 鞘から、聖剣を引き抜く。隙間から溢れた眩い極光に、異界は焼き照らされる。


 間近にいるライトは、見慣れた輝きなど気にも止めず。


「勝とうね」


 額に翳した聖剣に、想いを重ねる。


───わからず屋の幼馴染を、わからせる為に。


 それから三日間、夢ヶ丘を中心に極地的な震動が複数回確認された。


 真実は、地の底である。


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