111-もふもふ羊の迷子相談
決起集会擬きは恙無く終わりを迎え、LIVE配信も適当に終わらせ、久しぶりに“魔王”を名乗ってみた僕は、辺りの惨状に思わず溜息を吐く。
気が滅入る。何故こいつらはこうも仕事を増やすのか。
……言わなくてもわかるでしょ?酒に酔った兎と富豪が蜥蜴に世話されてて、女王と猫と召使いは熟睡、占い師と初代女王はちびちび晩酌中。そんでもって、屍兵×6はまだどんちゃん騒ぎを継続中。
……片付けとか諸々は後でいいや。
今はやることがある。
「それで、どうしたの───アリエス」
さっきから物言いたげな目で見てきていた捕虜の将星、アリエスに近付くよう命じる。オドオドと、早足で僕へと近付く彼女の腕には、いびきをかくハット・アクゥームが抱えられていた。
鼻ちょうちんまで作って……
まって鼻どこ?
「あの、その……侵略されてた時、皇帝様は…私のこと、なにか言ってたりしてますか……?」
「……いや、言及無しだね。聞かれてもいない」
「そうですかぁ…」
多分、戦うことに夢中でそれどころじゃなかったんだと思うけど……あれ僕のせいか?
許して。
「……あの黒山羊、お兄さんなの?」
「あっ、はい!カリ兄さんは……その、血は繋がってないですけど……あれでも古参の将星で、結構強いんですよ!まあ、地球の皆さんには負けちゃうかもですけど…」
「基準を僕たちにするのはやめようね。そんじゃそこらのニンゲンは即殺できるから」
「そうですか…?」
不味い、アリエスの地球人像がヤバいことになってる。訂正せなあかん……人間はそんなに強くないんだよ、結構脆いんだよ……ライトの聖剣ブッパから生還できたカニも大概だけど、異星人と比べて頑丈じゃないんだよ……
そう親身に教えてやると、そうなんだ…とあんまり納得いってない顔をされてしまった。
そこは信じてくれ。
……それにしても、そうか。お兄さんか。種族違くねと思ってはいたけど、義兄か……うーん、合わせてやるべきなのか、それとも。
やばいな、物騒な思考しか出てこない。
こいつぁいかん…死体で仲良しとかすごい悪いことしか考えつかん。
これも【悪夢】の影響か……?それとも素?最悪かよ。
「それで?聞きたいことはそれだけ?」
「……いえ、一つだけ。その……これからについて、少しお話をしたくって」
僕の疑問に、彼女はまっすぐこっちを見て聞いてきた。
「これから」
「はい。私は捕虜、ですっ。アリスメアーの……いいえ、あなたの……だから、聞きたいんです。この戦いに勝って星を【悪夢】に閉じ込めれたと、して……あなたは、全部背負うつもり、なんですか」
「背負う。背負うねぇ……それは、一人で君たちの王様と戦うのかって話?」
「……その解釈で、大丈夫です」
「そう…」
わかりきった話だ。勝算はあるし、蒸返す必要もない。
でも、まあ……はぁ。まさか……この僕が、こんなのに絆されるとは。
「まず大前提として。君のことは殺さない」
「えっ」
「……殺す必要性が、なくなった。【悪夢】に閉じ込めるわけにはいかないから、仕方ない処置だ……後は、まあ、個人的な事情。ちゃんと生かして、自由をあげるよ」
「……う、嬉しいですけど……大丈夫、なんですか…?」
「多分ね」
「めぇ…」
言えない。枕要員として重宝したいだなんて。絶ッ対に言えるわけがない。
……敵陣を瓦解させる駒が欲しいってのもあるけどね。
「お兄さんに会いたいでしょ?」
「それは、まぁ……あの、我儘を言っても…」
「別にいいよ。君、今まで僕のこと邪魔してきてないし。多少の融通は効かせるよ」
「な、なら……カリ兄さんと、その……レオードのことも殺さないでくださると……」
「へぇ」
驚いた。命乞いは別にいいけど、うーん、どういう……ライオン丸にやれって頼まれたのかな。
えっ、違う?そうなの……えっ、なんで???
「……私の統括してる星、今は補佐官とかが運営してると思うので、大丈夫だとは思うんです、けど……それでも、あのライオンのお陰で、平和を保ててるんです」
「うん」
「彼が死んだら、今まで守ってきた子たちの未来とかが、なくなっちゃうかもって思うと……」
「損得勘定で考えて、生きていてもらいたい、と」
「はい」
……半分本当で、半分嘘か。小賢しい。でも、わざわざ責める程でもない……
成程、情か。意外と悪くないって思ってた感じかな。
「将星全滅のルートは、君を生かすと決めちゃった時点で不可能になった。それでも、誰を生かして死なすのかは、僕の選択次第……配慮はする。検討もしよう。それでも、どうするかは、相手の動き次第だ。いいね?」
「……はい。考えてもらえるだけでも、嬉しいですから」
「そ」
まあ、あのライオン丸……レオードは、他のとは違って会話ができる、筈だ。殺したい相手も共通している。一応手を取り合える要因がある。
……最悪の未来を想定すれば、殺すより生かした方が、確かにメリットはある。
黒山羊の兄の方は……アリエスを手元に置ける駒として生かしても、別にいいか。一度でも地球と敵対した将星は殺す予定だったなんて“嘘”は、今は言わないでおく。
さて。
「まぁ、遅くとも一週間以内には地球を【悪夢】に閉ざす予定だから……その後、僕は宇宙に侵攻する」
「そう、ですか…」
「で、その時に君の能力が大活躍するってわけ」
「えっ」
最初は列車魔法で銀河鉄道して、操隔魔法、距離とかを操作できる魔法で短縮して、敵星に突っ込むつもりだったんだけど。
この子が来たお陰で、いい意味で予定が狂った。
“夢渡り”。とてもいい。あの短期間で母星からここまで来れるんだ……重宝しないわけがない。
魔力消費もできて?時間短縮もできる?最高かよ。
そんなことを説明してやったら、すごい恐縮そうに手をあわあわさせる。
「た、確かにそれなら簡単に……でも、その……大丈夫、なんですか…?」
「最悪、夢の世界を悪夢でオーバーヒートさせっから」
「やめてください」
「はい」
すごい真剣な声色だった。
そうだね、“夢渡り”って夢見る生き物の、全てのユメと繋がってるんだもんね。そんなとこでパンデミックなんか起こしたら、僕はただの虐殺者になる。
別に、それも覚悟の上だけど。
その結末を望まない人がいるから、やらないであげる。それでアイツが頷くのなら。
……暴力で頷かせるのが、一番なんだけど。絶対に無理だもんなぁ。
「やっぱり、同胞が殺されるのは、キツい?」
「……否定は、しません。でも、それが戦争ですから……負けた私に言えることなんて、ないですよ」
「うーん価値観…」
やっぱ宇宙ってヤバンナだったりする?弱肉強食の色が強すぎるんだけど。
この子もかなり染まってるのね……
いや、それが普通なのか。別におかしなもんでもない。それこそ、この世界なんて弱肉強食の一言で片付けられる要素しかない。
あぁ、それにしても……考えることが、多い。
「ふぅ……これ以上の小難しい話は、また今度にしよう。そろそろ、これを片付けなきゃ」
「はい。あっ、手伝います」
「ありがとう」
本当、気の利く女だこと……あれ、うちの幹部どもより使えるんじゃね?
……きがつかなかったことにしよう。
彼らの尊厳の為にも(チェルシーとビルを除く)(つか主にメード)。
そう現実逃避していると、手伝いを申し出たアリエスが先輩たちに捕まっていた。
……うん?
「あれー、羊ちゃーん♪飲んでるー?」
「えっ、そんなにお酒強くないので……あれ、あなたたち確か未成年じゃ…」
「もう死んでるから適応外でーす☆」
「いえーい」
「ふぅー↑↑↑」
「美味ェ」
は???
この後めちゃくちゃ怒った