109-断るには嫌悪度が足りなかった
日曜まで尺稼ぎ
宣戦布告───地球の命運を決める決戦を、僕は穂希に申し込んだ。本当なら、別にやらなくてもいいのだけど。言論の自由とか、意志の拘束とか、同じ土俵に立てる奴を無視して強行突破するのもどうかと思ってさ。
……同じ土俵ってのがミソね。一般人及び権力者はまずお呼びではない。
さて。
「最終調整と行こう」
夜天の下、廃城の上でステップを踏みながら、くるりと身体を一回転。気分は上々、動かない心臓を無理に弾ませ熱を発する。
そう、楽しいのだ。
親友と敵対するのは悲しい。苦しい。吐きそうになる程気持ちが悪くって、胸がはち切れそうになって、どうにかなっちゃいそうで。
それでも。
「本気で殺し合うのは、久しぶりだもんなぁ」
やはり、僕も戦闘狂なのだろう。血に飢えた獣。笑って闘争を求めるバケモノ。戦って、暴れて、勝利を渇望するろくでなし。
他人のこと言えないね。
でも、アリスメアーと星喰い相手に同じことを思えるか聞かれたら、否と答えよう。だって、そいつらとの戦いは義務なのだから。僕がやらなければいけない、必要がある戦いだったのだから。
そこに楽しいと思える感情は、あまり湧き上がらない。
でも、穂希との、リリーライトと決着を付けるのは……ちょっと違う。
今までの相棒との殺陣は、じゃれ合いの側面がかなりの割合を占めている。
そりゃそうだろって感じだろうけど。
本気で戦った機会は、ほんのひと握り。ほぼなかったと言っていい。
大義名分をもって、大っ嫌いなアイツと雌雄を決する。
「あはっ」
喜悦を押し殺せず、異空間から引き摺り出した異城……今回の決戦フィールドである夢空廃城を、魔法でどんどん整えていく。
かつて猛威を振った空中要塞。欧米の魔法少女を何人も犠牲にすることで、漸く墜落した悪夢の国の破壊兵器。
その残骸が異空間を漂っていたのを半年前に見つけて、この度改修して再利用するわけ。今は瓦礫の山が辛うじて城を象ってる見た目だけど……まあなんとかなるだろ。
あと三日で、頑張って見た目を整えます。
……せっかく綺麗にしても壊れるだろって?いやそこは浪漫優先だろ。
「埋め埋め建て建て、と」
この後五時間かけて八割完成させた。やればできる子!休憩無しで頑張ったぞ。いや本当、この広範囲をよく……絶対広く使うと思うから、拡張しまくったらあかんことになった。
こいつ海の上に浮かべた方ががいいかな。
日照権とか違法建築とかで文句言われそ……いやその日皆既日食だから問題ないか。日食ファンの方々にはすごい申し訳ないけど。
取り敢えず、当初の予定通り夢ヶ丘の異界化させた空に設置するとしよう。
……もう朝か。水平線から、ある意味忌み嫌った太陽が昇ってくるのが見える。
「眩しい…」
この明るさには未だ慣れない。
朝焼けの空に目を焼かれ、ふつふつと胸から湧き上がる不快感から目を逸らして、広げていた工事道具をバッグにしまっていく。
細かいとこと残りの部分は後でやろ。五時間ぶっ続けは流石に疲れる。
久しぶりの疲労感に溜息を吐きながら、空に放置される廃城を後にする。
朝風呂シャワーして、ご飯作って、ちょっと寝よう。
体調不良で本調子じゃないなんて、それこそ穂希たちに失礼だもんね。
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「決起集会、しよう!」
「いらなくね?はい解散解散」
「ラピピ付き合いわるーい」
「知らね」
お昼過ぎ。
家事スキルを持ってるフルーフ先輩とブランジェ先輩と皿洗いとかをしていたら、アリスメアーでもなんでもない外様の魔法少女、マーチ先輩がそんな提案をしてきた。
勿論発案はすげなく却下。そんなことしてる暇あるなら瞑想でもしてろ。
そーゆーのは純魔法少女であるあっちの領分であって、僕ら悪役陣営にはいらんと思うのよね。
普通に面倒臭いし大声出したくないし嫌だよ僕は。
「やらない」
「円陣とか組もーよー」
「や」
そう強く否定するも、何故か乗り気の他の面々がとてもキラキラした目を向けてくる。
「……」
「私、やったことない。やりたい」
「帽子屋の旦那〜、勝ちたいんならやるべきっスよ」
「……意気込みってのは、別に悪いもんじゃねェ。嫌なら嫌でも、いいだろうけどよ」
「蒼月様…」
「うーむ、まあ私は悪夢の世界なんざ興味無いが……君の勝利には興味があるのでな!!」
「タチ悪いねそれ。まあ、ボスもそーゆーの、やってみていいんじゃないの?」
「kill…」
三銃士と幹部補佐、復活怪人とロクデナシ野郎がなんか言っとる……そんなにやりたいんかオマエら。
あとオリヴァー、オマエは後でシバく。
味方なら味方らしく肯定してろ。過激派ファンの気配はナイナイしとけ。
そんなにやりたいの〜?あっ、そこのゾンビ共はなんも言わなくていいよ。わかりきってるから。
しょぼんってするな。
暫く無視して、後片付けを終わりにしたけど……一向に視線の強さは変わらず。
はァ……
「うるるー」
オマエもかブルータス……腹括るか。裾を引くリデルを抱き上げて、みんなの輪に交ざる。
「ちょっとだけね」
「ラピスちゃんって女王サマにはゲロ甘だよね〜、ヨシ!それじゃあ配信準備じゃ!!」
「なんでも世界にお届けしようとするな」
「いーじゃんいーじゃん」
「情報漏洩ぇ…」
「ピッちゃんネコちゃん、ジェットストリームアタックで抱き着くんだ!!」
「はいなのです!!」
「んっ!!」
「やめろ」
マーチ先輩に消しかけられたガキンチョ共を引き摺って歩く。すんごい邪魔。つーか、それ元ネタが確かなら誰かもう一人必要でしょ……
いやそれが先輩なわけ?似合わないからやめな?
原作準拠と連続突撃してきた先輩を柔道で放り投げて、代わりにいつの間にか身体を攀じ登って、肩に乗っかったリデルの足を持って支えてやる。
子守り必要なのが多いな……中学の担任に、宵戸さんは面倒見が良すぎて心配、後で苦労するから自重なさいって言われた記憶が蘇ったわ。
その通りだったわ…
……元気にしてっかなあの人。あの世で。アクゥームに食われちゃったもんなぁ。
全部終わったら、また弔いに行くかー。
まったく……同級生も含めたら二桁いるから、まとめてやらなきゃだけど。
「月お姉様〜」
「んー?」
大変だなぁと他人事に思っていたら、服にしがみついたかわいい後輩、ピッドが不安な顔をして声を掛けてきた。どうしたんだい。
「月お姉様が勝ったら、ワタシたちはお払い箱なのです?もういらないのです…?」
「ッ、いや、そんなことは……ない、けど。まぁ……皆の頑張り次第で、こっちも意見変えるよ」
「コロコロと変えんじゃねーよ」
「じゃあ先輩もパットのサイズ選り好みするのやめろよ。壁なのは変わんないんだから」
「そこ刺す必要あったか?」
「見苦しい」
「相棒?」
ピッドの指摘は、まあまあ心に来る。夜会であんなこと言った手前、撤回するのはどうかとは思うけど……その、こんなのと一緒に戦いたい、って言ってくれるのは、正直嬉しい。絶対口には出さないけど。
良いとこ取りの僕たち、【悪夢】を操作できる存在へと昇華した魔法少女は、相手にとっても最大の脅威になる。身に内包している時点で劇物だし、早々捕食=取り込まれENDはない。
……死んだこの人たちには、幸せな悪夢の中で生きてて欲しいんだけど。
戦力としては美味しいんだけどなぁ……こう、心情的に休んでて貰いたい的な。
ならなんで蘇生させたのかって話になるけど。
そこはできたからやったでしかないし。駄弁りたいって気持ちがあったのも嘘じゃないし……人道的に考えれば、さっさと成仏させるべきなんだろうけど。もしユメ計画が成功すれば、そんな“理”は、それからどーでもいいものになるんだしねぇ……
うん、そこら辺は勝ってから考えよう。僕負けないし。
あとカドック先輩はざまぁ。フルーフ先輩に裏切られて可哀想ぷぷぷ。
「そゆことで」
「全然納得できないけど、普通決まんないよね〜。まっ、いざとなったらグーで行くからさ☆」
「死んじゃう…」
「死なないでしょ。てか、もう死んでるし」
「確かに」
「「アッハッハッハッハッ」」
「……」
「……」
「「ハァ…」」
ブランジェ先輩と一緒に言ってて悲しくなってきた……僕たちって虚しい生き物だね。
死体天使で一冊書けそうだもんね先輩って。
その点僕は……魔法模倣と正義反転と悪の首領になった裏切り者、と。ロクでもねぇ…
駄作ができそう。
「なにあの地獄の空気」
「自虐ネタは虚しい、ってことだぁーね」
「生者のオレらにゃわかんねーや。あ、決起集会の会場はどこにします?」
「お茶会んとこでいーんじゃねぇの?」
「オケですー」
ベローは後でシバく。
……あっ、ごめんペローだった。ごめん、泣かないでよ謝るから。
こそこそ月裏話:
潤空と穂希に同級生はいない
不思議だね