表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
アリスメアー、再始動!
12/234

Side:逆夢 -崖っぷち夢生-

三銃士の軽い深掘り(矛盾)


───オレの悪夢は、███の形をしている。


 なんも面白くない人生。大学まで適当に生きて、なんかいい具合に合格した職場で営業して、それなりに汗流して生きていく。それがオレの、過去の道程。

 ニコニコ笑顔と弁舌で相手を煽てて価値を売る。

 顔立ちの良さには自覚があったから、最大限にその顔を利用した。コミュ力なんかにも自信があったから、相手が隙を見せたらマシンガンのように言葉を重ねた。

 人付き合いを真面目にやって、上手く生きてきた。

 真っ当に、そこら辺の一社会人として、真面目に生きたつもりだった。


「……解雇、スか?」


 突然のクビ宣告。なんでも、アリスメアーとかいう変な殺人集団のせいで景気が悪化して、うちの企業にも影響が出ちまって。人員削減とかそういうのにオレは選ばれた。

 屈辱だった。ふざけるなって吠えた。

 でも、聞き届けてくれるわけもなく。オレは路頭に迷う羽目になった。

 晴れて無職になった後に家がアクゥームに潰されるわ、本当に酷い目に遭うことが多くなった。

 ……そんなオレの次の新天地は、裏町のホストクラブ。


 素質があるとかなんとかでオレはホストに仕立てられ、衣食住の面倒を見てくれるオーナーに問答無用で雇用され働かされた。

 びっくりしたし困りやしたが、生きる為には仕方ない。

 数ヶ月で変わった日本の情勢にビクビクしながら、でもオレには関係ないと目を逸らして……ホスト業務に汗水を流した。


 こういう時勢の時程、現実逃避に励む女の子は多いこと多いこと。かわいい子も多かったし、お金にもなるから、必死に口説いて、甘い言葉を耳元で囁いて、喜ばせて。

 営業で築いた力を、女の子を虜にする為だけに使った。

 そうすれば売上は右肩上がり。オレの評価は益々上がり大絶頂。


 ここで新たな人生を謳歌するのも悪くないかも、なんて思っていたのも束の間。


「うっそだろあいつらッ……裏切るとかありえねー!」


 特に悪どいことはせず、ただ求められるがまま女の子を可愛がる毎日。それが一変したのは、本当に突然で。突然怒声を浴びせられ、オレは、いきなり地獄へ真っ逆さまに叩き落とされた。

 なんでかしらないが、同僚がパチッた金とやらがオレのせいになってた。

 借金の肩代わりとかそんなんじゃないとか意味不明。

 謂れのない罪を擦り付けられて、やったことにされて、追われることになった。


 店もオレを損切りやがったし、頼れる味方は誰一人。


 ……ちなみにもう追われてない。全力で撒いてやった。我ながらよくやったと思う。


「はァ〜……どうすっかなぁ」


 路地裏の日陰、あんまゴミとか汚れがない比較的綺麗な場所で一人立ち竦む。壁に寄りかかって、ズルズルと下に崩れ落ちる。

 あーあ、あれでも頑張った方なのに。無駄になった。

 あんなんでも充足感とかはあったんだ。店長には恩義があったから、少しでも借りを返せればと思ってたのに。

 あの人、あっさり切りやがった。冤罪だっつーの。

 なーにが店の為だ。評判ばっか見やがって……切るならやらかした本人切れよ。オレの方が営業成績よかっただろナメんな。


 前職に続いて二度の裏切り。人間不信になりそうだ。


 それから暫くは裏町の怖いおにーさんたちの監視の目を掻い潜りながら、夜闇に潜んでこそこそと生きた。

 日雇いの仕事をこなして路銀を稼いで。

 浮浪者の見た目だからって薬を売ってくるやべーのとか喧嘩売ってくるあぶねーのから逃げて、避けて、なんとか生き延びて。


 ただただ無心に、生きる為に泥沼を這いずった。


 ……んまぁ、無理だったんだけど。まさか罪着せてきたヤツが執念深く追ってきて、グサッと刺してくるとか。

 回避は無理だった。真正面から腹に、こう。


「げほっ、オェッ…はァ、はァ……クソ、あんにゃろ……キモいんだよマジで……」


 クソ野郎をなんとか伸して、気絶させて。殺しちまえばあいつらと同じ底まで落ちると思えば、殺す勇気なんかは湧かなくて。

 殺意と怒り、憎しみを押し殺して、生存を模索する。

 なんか、なんかないのか?まだ死にたくない。生きて、生きなきゃいけない。ジジイになって、高額納税を逆手に豪遊するのが、夢だったんだから。

 ……そう、夢だ。オレには夢があった。ガキの頃、もう忘れちまった小さな夢が。


 こんなとこで死んだら、夢もクソもない。


「死にたく、ねェ……!」


 正義のヒーローになりたかった。そういうのに憧れた。最後の魔法少女が悪いヤツの首魁を討って……行方不明になってから、半年ほど時が経った秋の夜。

 真ん丸お月様に照らされて、オレは壁にズルズル背中を押しつける。


 視界が霞を帯びていく。憧れた現代のヒーローに脳みそ焼かれて、オレでも頑張れるんだと、軽いコメント一つで元気づけてくれた蒼い月に想いを馳せる。

 お礼を言いたくなった。潰された家から逃げる時、あの悪夢からオレを守ってくれた人に。

 結局言えなかったあの後悔が、今更胸に爪を立てる。


 ありがとう、ごめんなさい。生きろって言ってくれて、本当にありがとう。


 もういない人がいるであろう場所に、そう言紡いで。


───こいつでいいか。


 そんな死にゆくオレにその手を伸ばしたのが、帽子頭の変な女だった。


 気付いたらベッドの上で。なんか頭に生えてる兎の耳に戸惑ったオレは、自分が生きていることの驚愕と、なにが起きているのかという疑問、恐怖に脳を停止させた。

 カーテンを開けて現れた帽子の女に告げられた言葉で、オレの頭は更に真っ白になった。


───おはよう。我々は新生アリスメアー……そうだな、残党だとでも思ってくれて構わない。

───瀕死の君に怪人細胞を植え付け生還させた。

───君には悪いが吾輩たちの手駒として生きてもらう。無論拒否権は与えない。

───なに、怖いことなんてないさ。

───あるのは悪夢。死にたくないと願って、無意識にも悪魔の手を取った君が悪い。そうだろう?


───歓迎するよ。ようこそ、アリスメアーへ。


 問答無用、容赦の欠片もない勧誘に、オレは気付いたら首を縦に振っていた。命あっての物種とか、流されたとかそういうのじゃなくて……本当に、気付いたら。

 見た目も所属も怪しいし、普通は拒絶するんだけど。

 だってオレの家ぶっ壊したり、職場追い出される原因がそいつらだし……そう頭ではわかっていたのに、何故か。

 ……なんでかな。あの帽子頭に抱いたのは、恐怖とか、憎悪とかじゃなくて……意味のわからない安心だった。

 わけがわからぬまま、命を与えられたオレはあの人らの傘下に入った。


 兎の耳と尻尾が生えてたのは、本当どうかと思うけど。


「なーなー?帽子屋の旦那はなんでここにいるんだ?」


 状況を飲み込んで、お得意の順応性で環境に慣れて……魔法少女の敵になったんだなぁ、なんて思うようになったある日。城の廊下ですれ違った上司に声をかけた。

 帽子頭の異形、“お茶会の魔人”マッドハッター。

 そう名乗る彼女に、揶揄いを込めて旦那呼び。普通なら首を刎ねられる不敬発言だけど……そこそこの付き合いで距離感は掴めた。

 この程度ならこの人は怒らない。というか、女王サマも配信画面で見た時よりも穏やかで……その、ガキンチョになっちまってたその人から、画面越しに感じた殺意とか、怒りとかを向けられることもなかった。

 思っていたより悪くない雰囲気の新天地で、オレの素の歯に衣着せぬポジティブさで話しかける。

 縫い付けられた半月の目に睨まれるが、それだけ。


 ……女性相手に旦那呼びはまずい?うるせー見た目でも行動でもイケメンなんだよこの人。


「何故、何故か……何故だろうな。君達と違い、気付けばここにいた。あとは流れだ。特にこれといった理由も……崇高な想いも、吾輩にはない」

「……なんか意外。オレらとそんな変わんねーじゃん」

「ククッ、とはいえそれは過去の話……今の吾輩になら、確かに野望と言えるモノがある」

「え」


 勿体ぶって言葉を遮って、そこから出た彼女の言葉に、オレは目を瞬かせた。


───吾輩の夢見る先は、この青い星を悪夢に閉ざした、その先にある。

 君がその光景を見れるかは、今後の働き次第だがな。


 ……ちょっと気になって根掘り葉掘り聞こうとしたのは悪くないよな?


 だから、まぁ、なんだ。マッドハッターが語るそれを、この世界が悪夢に閉ざされた後の物語ってのを、なんだか見たくなったんだ。

 悪いことをしている自覚はある。でも、嫌いじゃない。

 同僚たちも、以前の職場と比べて大分良くって。彼らが裏切ることはないだろうな、なんて漠然とした思いが胸に落ちてきて。


 そのままズルズル一年半、オレはアリスメアーの幹部、三銃士として魔法少女と戦う道を歩んでいる。

 恩知らずの行動だけど、そこはまぁ寛大な心で、な?

 なーに、オレも同僚も、マッドハッターも、女王サマも世界を滅ぼすつもりはないんだ。楽観的に考えてるけど、そう悪いことにはならないと、オレの直感が言っている。

 だから信じてみることにしたんだ。オレは、あの人を。


「そんじゃー、その夢、悪夢にならないように、今の内に願掛けしときますね」

「……成程、最後は神頼みか」

「たりめーでしょ!」


 願えば叶う。今のオレは生き生きしているのだから。


 ヒーローじゃなくて魔法少女の敵になっちまったけど、それも悪くない。だって、敵であれどかっこいいキャラに憧れるのは、男のサガだろ?

 ……本当の夢はヒーローと敵対する悪役だった、なんて口が裂けても言えねぇや。

 や、ほら。死ぬ時ぐらい見栄張りたいじゃん?それよ。


 さて。


「おし……幸せな夢も、楽しい夢も、希望に満ちた夢も。全部全部全部、悪夢に逆さま落ちちまえ!

 ───《夢放閉心》、いでよ、アクゥーム!!」


 オレはペロー。三銃士が一人、“逆夢(さかゆめ)”のペロー。


 この世界を悪夢に閉ざす、新たな敵。今ばかりは、その配信画面に載ってやるよ。


 魔法少女の敵とか、オタク心にぶっ刺さるしなー!!


要約:

ベロー「だからペローだってば……んんっ、命を救われた恩を返す為に、一先ずアンタらの言いなりになるぜ。あと魔法少女の敵とかウマ味だから、頑張るぜ!」


 人を信じたいエンジョイ勢は、壊れた心に夢を見る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ