105-来訪
「───王たる我が、挨拶に来た」
新世代vs乙女座の戦いは、リリーライトの介入によって佳境に入り。エーテ、コメット、デイズの3人で更に力を合わせることで、遂に乗り越えた。
三重奏の魔法を食らい、無敵を崩されたスピカは天より落下する……
その瞬間に、空間に裂け目が開き。
異空間から伸びた手が、落ちゆくスピカを受け止めて。暗黒を伴って現れた怪物は、辛うじて意識のあった将星をやさしく抱きかかえる。
「陛下…」
「大儀であったぞ、スピカ。我が乙女よ。我の命令通り、よくやってくれた」
労う大蛇……“星喰い”、ニフラクトゥ・オピュークスがそこにいた。
「……ぁ、私、を……よく、やった…と……光栄、です…へい、か……」
感涙するスピカは、愛する皇帝の腕の中で気絶する。
新世代3人の相手だけならば、スピカもまだやりようがあったのだが……リリーライトの横槍、または援護により劣勢に立たされた。
“空”を突破できたのは、極光と星だけだが。
ウザったい夢想も、割り込んでくる花も邪魔だったが、それよりも前者二つが痛かったようだ。そうして敗北したスピカは、意識を手放した。
激戦の様子を眺めていたニフラクトゥは、本心で彼女を労わって、通り道として開いてきた異空間へと、スピカを置いていく。
気絶した娘を、己に忠誠を違う女を置き去りにする程、ニフラクトゥも酷くはない。気絶したまま放置されているカンセールと、降伏して胡座をかくカリプスも、引力操作で手元に無理矢理連れてくる。
その救出を邪魔する者は、いない。
「ガニッ…」
「うおお……ッ、陛下」
「ご苦労であった、カリプス。カンセールと共に、回廊で休むといい」
「……申し訳ございません」
「よい。許す」
「ハッ」
異空間───「星の回廊」に姿を消した配下を見送り、ニフラクトゥは再び地球に視線を戻す。
己と同じ空を飛ぶ、戦乙女───魔法少女を見やる。
「失礼、時間を取らせたな。して、そうか。オマエたちがこの星の戦士だな?」
「……魔法少女だよ。よろしくね。オウサマ?」
「よい、よい。敬意は不要だ。全て、支配された後に我を仰げばよい」
代表して応えるリリーライトは、目の前のこれが敵かと強く睨みつける。背後に飛ぶ妹と後輩たちを背に庇って、同時に、地上で静観の構えを選ぶ屍兵たちを認識して。
いつでも聖剣をぶち込めるように、警戒する。
皇帝は、目の前の戦士こそ、この星の最高戦力なのだと慧眼で見抜く。
これ程まで鍛え抜かれた器を、研ぎ澄まされた魔力を、彼は見たことがなかった。
脆弱なメスにしてはよくやると、内心高を括りながら。最大限の敬意をもって、ニフラクトゥは、リリーライトと相対してやる。
「ふむ、ふむ……若いな。この星の戦士、守り人は、みな若いのか?それとも、オマエたちが特別なのか……気にはなるが、どうでもいいな」
「そりゃ10代だし」
「も、目的は……部下の回収、なの?」
「如何にも。残念ながら、我の力をもってしても、ユメの根源は回収できないようだが……それはまた、次の機会に取っておけばいい」
「余裕だなぁ……そっちの方が助かるのは、確かだけど。それじゃ、帰って?」
「クク、そう急かすな、ニンゲンよ」
「チッ…」
早く帰ってくれと急かすライトは、検知範囲内にいない元相棒にも警戒する。正直、眼前で覇気を漂わせる皇帝を相手取るのもキツいのだが……
それよりも、いない彼女に意識が向く。
ニフラクトゥに気付かれないよう、細心の注意を払って警戒する。
……味方、友を一番警戒している虚しさからは、そっと目を逸らす。
「お姉ちゃん…」
「……わかってる。多分、大丈夫だよ」
「何の話だ?」
「気にしないで」
「ふむ……そう省かれるのは、悲しいな。だが、許そう。我は寛容だからな」
「あっそ」
ぞんざいに振り払ってから、ライトは聖剣を肩に担ぐ。この場に敵が残る理由など、たった一つ。
そも……見るからにわかる戦意を、無視はできない。
「で、やる気?」
「そうだな、その通りだ───我自身の手で、オマエたち魔法少女の力を、確かめたくなった。これ程までに将星を脅かす存在は、初めてだからな」
「あぁ〜、そりゃ仕方ないかぁ……か弱い格下を持つと、大変だね?」
やる気を見せるライトに、ニフラクトゥは両手を広げ、周囲に暗黒星雲を凝縮した球体を侍らせる。星々を喰らう破滅の力が、重圧となって地球という星に伸し掛る。
勿論それだけでは終わらず……魔力に当てられ、世界が震撼し始める。
「ッ!」
「みんな、構えて」
「───始める前に、名を聞かせてくれ、星の守り人よ。我に足掻く強者たちよ」
遅れて武器を構える、今を生きる少女たちに問う。
「“極光”のリリーライト」
「“祝福”のリリーエーテっ!」
「“彗星”のブルーコメット」
「“花園”のハニーデイズ!」
「そうか、そうか……それが、オマエたちの名か。しかと記憶しよう!」
名乗りを上げて、互いを認識し───小手調べの一戦が始まらんとする。
その時。
『───陛下!陛下ッ!皇帝陛下!!』
これから戦いが始まると言うのに、邪魔が入る。
皇帝を呼ぶ声が、空間いっぱいに……戦場にいた全員の耳に届く。魔法少女はなんだなんだと警戒を、自分当ての念話に興を削がれたニフラクトゥは、つまらない顔をして応答する。
「なんだ」
『申し訳ございません!至急、お伝えしたいことが……!緊急事態でございます!!』
「なに?」
緊迫する空気が、念話の相手───親衛隊から伝わり、すぐに意識を切り替えた。
「なにがあった」
『襲撃ですッ!現在、“極黒恒星”が何者かの襲撃にあっております!!』
「……ほう、下手人は」
『不明です!防衛網は壊滅!部隊が襲撃者の討伐・捕縛に出撃されましたが、恒星破壊級の攻撃を受け、向かわれた全部隊、及び将星様が戦闘不能になりました!!』
「それはそれは……ククッ、やってくれたな。人相もまだわかっていないのか?」
『はいっ』
それは襲撃の報告。己の居城に、何者かが踏み入って、好き放題に荒らしているということ───予想外の強者の出現に、皇帝は傲慢に笑う。
破壊されるよりも、それを成し遂げたまだ見ぬ強者への興味が勝つ。
ただならぬ雰囲気に魔法少女たちは顔を見合わせて……なんとなく、嫌な予感に駆られる。
最悪を、やってそうな存在に、心当たりがあって。
思わず天を仰いだり、顔を手で隠したり、俯いたりと、全員で絶望する。
4人と、地上でも同じように項垂れる6人に興味津々のニフラクトゥは、その反応から下手人が彼女たちの関係者であることを見抜き、そして笑う。
喧しい通信を即切って、目を逸らす魔法少女たちに声をかける。
「面白い。ここまでの暴挙は我も初めてだ。いいだろう。なあ魔法少女よ。我が国を狙う不届き者を知っているな?どうだ、紹介せよ」
「いやぁ、まあ正当防衛ってことで、ここは一つ」
「案ずるな。責めはせん。ひと目逢いたい。ここまで我を驚かせる存在など、そういない!」
「あっそ。つーか邪魔。そこどけよ蛇」
「!」
背後に開いていた異界の門、星の回廊が、大きく歪む。
声の発生源、星の回廊から現れた影に、ニフラクトゥは驚愕の顔で振り向く。
「オマエは…」
そこにいたのは、蒼色の礼装鬼人───ムーンラピス。相変わらずボロボロの魔法少女衣装を纏い……よく見れば若干傷と煤が増えている彼女は、いつもの感情の読めない青瞳でニフラクトゥを見下ろしていた。
長杖に変形させたマジカルステッキを、ラピスは怨敵に突き付ける。
「開けっ放しはよくなかったね。不用心だよ?」
そう、この女。皇帝が界通させた星の回廊に侵入して、居城への軽い襲撃を蜻蛉返りで成功させいた。やったのは聖剣兵装をぶっぱなして破壊してきただけだが……
結局できたのは建物の倒壊と連鎖爆発、将星に軽い傷を負わせたぐらいで、本人としては消化不良だが。
敵の親玉がこちらにいると気付き、爆速で単独嫌がらせ蜻蛉返りを実行したラピスは、驚き顔を見せる自分の敵に忠告した。
「忠告痛み入る。今後の参考にしよう。して……そうか、オマエだな?我の王域を穢し、破滅へ導かんとする者……我が配下の悉くを滅ぼす“蒼”は」
「……言い回しが一々古臭くてよくわかんないけど、一応肯定しておくよ」
「ククッ、いいな、オマエ。そうだ、我はニフラクトゥ。是非、オマエの名も聴かせてくれ」
「ムーンラピス。“蒼月”のムーンラピス」
「記憶しよう。オマエの名は、我が覚えるに値する名だ。ムーンラピスよ」
「あっそ」
遂に対面する星の代表たち。地球の未来を、悪夢により牽引する魔法少女は、心の底から彼女の存在を祝福して、敬意をもって笑いかける王に顰めっ面を返す。
絶対的強者である己に、ここまでの損害を与えたのは、彼女が初めてなのだ。
躊躇いも容赦もない月の王に、ニフラクトゥは好感しか覚えない。
……ラピス的には、好意を向けては困るのだが。いずれ殺す予定故に。
「どうだ、ムーンラピス。我の元に来ぬか?オマエならば暗黒銀河でもやっていけるだろう。オマエの全て……特に行動力を気に入った。どうだ?」
「却下。オマエの下に就くとか生理的に無理。死ね」
「成程、気に障ったか。失礼した……だが、我はいつでもオマエを待とう。興味が湧いたならいつでも言ってくれ。好きな席を空けておく」
「……なんでそんな好意的なの?」
「僕がわかるわけないだろ」
「クハハッ」
いつも通り気に入った強者への義務勧誘を終えてから、ニフラクトゥは「星の回廊」を開く。ラピスが無断使用でめちゃくちゃにした異空間は廃棄して、新たに構築する。
星と星の距離をゼロにするワープの力で、極黒恒星まで繋げる。
「さて、と。時間はないが、力比べと行こう。この機会を手放すのは惜しいが……仕方あるまい」
「時間制限でも設ける?私はいーよ」
「ふむ……では、三十秒。三十秒で、オマエたちを測る。それ以上は、この星が持たん」
「言ってくれる…」
「事実だからな」
一時は中断されたものの。小手調べの一戦が、三者間で開かれる。
「……あれ、私たちは?」
「完全に除け者ね……取り敢えず、いつでも防衛と結界を張れるようにしましょう?流れ弾で街が滅んじゃ、元も子もないもの」
「もう大分壊されてるけど……復興大変だぁ」
「がんばってぽふー!」
:可哀想…
:つかそれどころじゃなーい!!
:日本が戦場に…
:ラ ス ボ ス 降 臨
:ラピちゃんはなにやってんの???
:いつものお家芸
:過激派テロリスト
:避難避難〜
置いてけぼりのエーテたちを余所に、頂上決戦の前哨が始まった。
土壇場でオリチャーして成功させるタイプのヤバい主人公