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101-終止符のない呪いの賛禍


 宇宙戦艦真下、影が落ちるビル群にて。

 将星の一人、“亡羊黒堊”カリプス・ブラーエと激突する蘇った魔法少女たち。探し人に覚えがあって、一瞬平和的解決を図れると一同思ったが……すぐに、宇宙人幹部との戦闘経験を経ておくべきだと断じて、戦闘を続行。

 そこに一切の躊躇いがないのも、蘇った魔法少女たちの長所である。


 ……決して、戦って黙らせて、傘下に加えてから家族に合わせてやろうなどと、野蛮な思考は回していない。

 ないったらない。


「山羊の妹なんざ知らねェな!!」


───兵仗魔法<ブラストファイヤー>


 カドックバンカーの容赦ない火炎放射が、回避を選んで駆けるカリプスの背を追う。余波でビルを融解させ、空に浮かんだ宇宙戦艦に熱の悲鳴を上げさせる戦火の化身は、途切れることなく紅の軌跡を描く。

 炎に執拗に追いかけられるカリプスは、持ち前の脚力でビル群を駆け回り、追加で撃ち込まれる魔法の数々を爪で切り裂き、一定の速度を維持する。

 焦りは無く、疲れは無く。一つの目的の元、駆ける。


「ハッ、悪ぃが逃げ切るぞ。そして、一つ助言だ……俺の走りを止めねぇと、マズいことになるぜ?」

「山羊が高山地帯以外で走るなー!」

「偏見なすげぇぞおい。つーか併走すんなよ。攻撃しろ。ナメてんのか鏡使い」

「この鏡、写してるだけで鼓動を緩やかに停止するんだ」

「俺がマズいな!」

「そだね!」


 浮かぶ魔鏡で常にカリプスの真横から離れず、彼の姿をその鏡面に写していたミロロノワールは、堂々とデバフの存在を宣言しながら、併走を続行。

 カリプスはヤケクソに斬撃を放つが、全て透過する。

 何故か当たらない斬撃に舌打ちを放ち、カリプスは空へ跳躍。


「───<羊爪我(ようそうが)>ッ!!」


 五本の爪、両手を合わせて十の刃が、飛ぶ斬撃となって周囲を切り刻む。魔法の弾幕も、溶解していたビル群も、無事だった建物も、近くを併走する鏡も、炎も。

 ウザったいと、己に迫っていた全て、近くにいた全てを斬壊する。

 その威力は絶大であり、魔法効果も相まってノワールの追従も振りほどく。


「うひゃあ!?あっぶなッ!!」

「……身体が軽くなったな。それに、斬撃も届いた、か。あとは……成程、さっきまで俺を追ってたのは鏡の分身。反対側で虚空から現れたのが、本体か」

「大正解!いやー、すごい脳筋技で対処されちゃったや」

「広範囲斬撃じゃなきゃ無理だったぜ」

「ホントにね!」


 自分と同じ動きをさせる鏡の分身……使い道も少なく、危険度も上がる魔法なのだが、ノワールは自分が何処までやれるのかを確かめたくなって発動した。

 カリプスを起点に鏡を発生させ、左右で囲んで飛んで。

 右にいると見せかけて、本体は左にいる猫騙し。

 如何に感知能力が高かろうと、力押し以外ではバレないアシンメトリーである。


 尚、カリプスのような脳筋sは強行突破で暴いてくる。


「退避退避〜」

「全然走るのやめないね」

「……魔法発動のプロセス?だとしても……いや、まさかそういう…?」

「フルーフ先輩?」

「……チッ」

「ガラ悪」


 その間、マレディフルーフはじっ…とカリプスの疾走を観察し続ける。カドックバンカーとゴーゴーピッドからの追撃を掻い潜り、我武者羅に走る黒山羊の将星を。

 上空からは、エスト・ブランジェが重力魔法の弾を逐次撃ち込んでいるが……既の所で全回避。

 最早地球に走りに来たと言ってもいい程、走るついでに攻撃するカリプス……観察の末、自分なりに解析を終えたフルーフは、その様子に舌打ちを見せた。

 想定する上で、一番最悪な未来を予想して。

 印象の悪さを指摘されても気にせずに、フルーフは声を荒らげてバディに叫ぶ。


「カドック!追うのをやめろ!」

「あぁん!?なんでだ!なんかされる前に、走らせんのを撃って止めて…」

「もう手遅れだ!一歩踏み出させた時点で詰みだ!」

「んな!?」

「へぇ」


 フルーフの忠告を、聞き慣れたカドックは素直に従い、名を呼ばれていないピッドとブランジェも、空気を読んで追走を停止。

 あまりに必死な呼び掛けに、なにかあると勘繰る。

 その聞き分けの良さと、気付く速さに、カリプスは目を細めて称賛する。


「呪いに精通してるだけはあるな。いいぜ、教えてやる。俺の魔法はあらゆる工程を挟まねぇと使えねぇ、欠陥中の欠陥魔法でな」

「……走ったのが、その理由だとでも?」

「そうだぜ歌姫。まあ、この情報開示もそうなんだが」

「呪いは廻る、ってこと!?」

「はい著作権」

「儀式が必要な型の魔法か……マーチ、彼が走った範囲を結界で覆って」

「おけ!」


 内容を聴いて、より危険度を察したフルーフの命令を、マーチプリズは忠実に実行。

 歌の魔力を現実に、物理的にテクスチャとして貼る。


「〜♪ 〜♪ 〜〜〜!!」


───歌魔法<サークル・オブ・メロディ>


 円形の魔法障壁が戦場をぐるりと囲む。マーチの主観でカリプスの走行範囲を覆えば、もうこの空間に入ることも出ることも敵わない。

 近付くだけで鼓膜が破れ、音圧で気絶する壁の完成だ。

 その精度に感心する声を上げながら、カリプスは当初の予定通り魔法を発動。


「お前らは危険だからな。精々ここでくたばってくれ」


 魔力のうねりが、空間を大きく揺らして……彼の走った軌跡から、轟ッと魔力が吹き荒れる。

 極地的な魔力嵐に揺れる魔法少女たちは、目を見張る。


「んなっ…」

「草がニョキニョキ…ッ、あぶっ!?」

「うわわわわ!?」

「回避ーっ!」


 カリプスが走った軌跡を上書きするように、漆黒の闇がゴポゴポと溢れ出て。その闇を掻き分けて、芽吹いた黒が草原を形成し……急成長。

 アスファルトを突き破り、コンクリートを粉砕して。

 葉から幹まで、全てが黒い……否、コズミックカラーの樹海が顕現する。


「黒堊の魔法───暗黒銀河固有種である、死の森を操る禁断の魔法だぜ」

「まーた限定的な…」


 踏み入ったモノ全てを汚染する死の森を我がものとするカリプスの固有魔法。一時期、幼少期を呪いの森で生きたからこそ発現した、禁忌。

 複雑な工程を経なければ使用できない、特異的な制約を設けなければ使えない程の封印が施された魔法。

 軌跡の上に生まれ、そこから広がる死と呪いの発生源。

 植物と呪詛、二つの属性を掛け合わせた魔法が、地球を侵蝕する。


 漆黒の森がビル群を飲み込む光景は、自然に滅ぼされた原風景を想起させ……


「ごほっ」

「なに、これっ…」

「……花粉、じゃあないね。空間汚染……存在するだけで身を滅ぼす呪いか」

「御明答!」


 そして、死した魔法少女たちでさえも、呼吸するだけで吐血させる。喉を抑えて苦しむピッドとノワールを見て、フルーフは冷静に呪いを分析。

 ちなみに、カドックとブランジェも焦燥気味だ。

 ……マーチに関しては、足場代わりのウタユメドームが樹海に飲まれ、木々に拘束されて身動きが取れず、呪いと濃厚接触していた。


「助けてー!」

「魔力も大して練れねぇだろ?この森、葉の一枚だけでも魔法使いにはキチいんだよ……さて、死にたくなかったら投降してくれるか?」

「……ふふ」

「ん?」


 一応、慈悲をもって軽く降伏を勧めたカリプスだが……項垂れて笑うフルーフを見て、違和感に気付く。なにせ、この死の森は熟練の将星であっても死に至る異界。如何に強力な戦士であろうと、生存は不可能である。

 幾ら呪いに精通していようとも。呪いを対策できる程の腕前であっても。

 そう、例え───目の前の少女が、死者であろうとも。

 カリプスは鼻がいい。頬を刻む縫い目の統一性からだけではなく、彼女たちの構成要素から、6人が蘇った死者であることはわかっていた。

 何故動けているのかはわからない。

 興味がない。

 その工程や術式は、かなり高等な代物なのだろうが……関係ない。


 故に、ああそうなんだな、と軽く受け入れ、カリプスは戦闘に挑んでいた。例え死体であろうとも、呪詛の前では無意味。全てを喰らう黒に呑み込まれ、ただ消えるのみ。

 使えば最後、星すらも呑み込む“黒”……今回は、初見で勘づけたことを称賛する気持ちで、マーチの障壁の外には伸ばさないでおいてはいるが。

 ……だが、ここで。カリプスに疑念が生じる。


「……あんた、なんで動けてんだ?」


 平然と立つフルーフに、首を傾げ───ゾンビのように立ち上がる他の魔法少女たちに、目を見開く。

 起き上がることも、呼吸することも難しいのに。

 うら若い少女たちが、呪いに侵されながら戦場に立つ。それも、死んでいるのに。


 そのチグハグな異質さに、気持ち悪さに……カルプスの表情は曇る。


「悪ぃな、倒れなくって」


 血反吐を雑に拭って、不敵に笑うカドックバンカー。


「負けず嫌いなんだよね〜、私たち♪」


 拘束する邪木から抜け出し、呪いに侵されながらも歌うマーチプリズ。


「おぇ…うーん、相性悪いなぁ。負ける気も、諦める気もないけど、ね?」


 天使故に、毛嫌いする瘴気を払うエスト・ブランジェ。


「ワタシたちは、月お姉様監修の、特別仕様なのです!」


 邪木に呑まれた列車から降りて、無邪気に声を弾ませるゴーゴーピッド。


「不滅の不死兵。終わらない悪夢が、今のワタシたち……なんだもねー!!」


 ミロロノワールが、ヤケクソ気味に月を揶揄して。


「今の私たちは、存在そのものが呪いに等しい。あんたの制御する宇宙産の呪いも素敵だけど……残念、私たちには届かない」


 「また一緒にいてほしい」───どこかの誰かの願い、呪いへと転じたそれを抱く、呪いの女王は。

 マレディフルーフは、更なる厄をもって立ち塞がる。


 あらゆる干渉を無意味とする概念を持つ、根絶できない死の森を、歪めて、虚無の塵へと無理矢理変換する。

 不可能を可能に、ありえないをありえるへ。

 呪いをもって救世の道を作り、その先頭を歩く“後輩”の道を整える。

 夜の水標、道先案内人を自称する怪物は、宙の呪いすら自分の虜にした。


「死して尚絶望に立ち向かい、そして絶望へと転ずる者。それが私たち。終わりを終わりと赦さずに、終わり損ねて星に縋り付く化生の者。故に、故に……この程度の呪詛、簡単に呑み込んでくれるわ」

「……やっぱ異常だよ、お前ら」

「褒め言葉だな」


───歪魔法<テムカセ>

───黒堊の魔法<オールド・スィオン・ルボワ>

───斬拳<羊爪我>


 呪いを宿した黒山羊と、呪いを食む深紅の怪+α───両陣営の激突は、禍々しい死の濁流と共に。

 死の鬩ぎ合いは、終わらない。


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