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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
ユメを喰らうモノ
110/235

97-逢魔が時の夜会


───重苦しい赤色のカーテンに四方を囲まれた、薄暗い円形ホール。光源は、天井で輝く巨大なシャンデリアと、カーテンの間にある支柱の蝋燭のみ。

 紅と黒の目に悪い空間。その中央に置かれた円卓。

 黒い大理石の円卓には、かつて一世を風靡し、黄泉より帰還した6人の屍兵と、二年の潜伏を得て復帰した最強、そして新世代の新しい光たち。

 計11名の戦乙女───魔法少女たちが、円卓を囲んで顔を突き合せていた。


「ではこれより。第ほにゃらら回、“逢魔が時の夜会(マギア・ワルプルギス)”の、開催を宣言します」

「司会進行はこの私、マーチプリズが務めます」


 ほぼ三年ぶりの開催となる夜会を、最初の提案者である王国の魔法少女が代表して、段取りよく進めていく。

 夜分遅くの話だが、全員出席、欠員者ナシで集まれた。

 その滅多にない満席率に、拍手喝采を送りたい気持ちを押し殺して、マーチプリズは努めて冷静に、司会としての責務を全うする。


 “逢魔が時の夜会(マギア・ワルプルギス)”───欧米の魔法少女たちが始めた、魔法少女たちの情報交換を目的とした集会。会場は主催が用意して、集まれるだけ集まって言葉を投げ交わす。

 時には殴り合いの場に、時には魔女裁判の場に。

 基本的に清楚に見せ掛けた野蛮である魔法少女たちが、怪人たちの脅威のない空間で好き勝手やりあう……そんな憩い()の時間にもなっている。

 基本的にこの場では、嘘偽りのない情報を伝えることが求められている。

 虚偽申告は原則厳禁。決して魔法では縛っていないが、嘘がバレたら速攻リンチが待っている。

 そんな蛮族風味の夜会は、一時期廃れてはいたものの、興味を持ったマーチプリズたちの手により復活。日本版の夜会へと改修し、定期的に開催した。

 主に、魔法少女たちの顔合わせの場として。

 どんな怪人がいるのか、こんな怪人には要注意などと、情報を交換し合う。


:きちゃぁー

:親の顔より見た夜会

:もっと親の顔見ろ

:待ってました


 ちなみに、この夜会の様子を配信に垂れ流すのは、凡そ視聴者受けがいいからである。

 悪の組織の幹部集合のような描写がクルらしい。


 ……以前、何処ぞの月が嘘ついたら針千本の刑罰魔法を結界に展開しようとしたが、そこまでする必要は無いし、だいたいオマエ真実言わないで誤魔化してる側だろと強く却下された。


「では、出席者の確認です。皆様、与えられた番号順に、名乗りを上げてください」


 滔々と台本を読むマーチプリズの手で、交流の為の自己紹介が始まる。


「“極光”のリリーライト」

「“蒼月”のムーンラピス」

「“力天使”のエスト・ブランジェ」

「“戦車”のカドックバンカー、ここにいるぜ〜」

「“虚雫”のマレディフルーフ」

「“王国”のマーチプリズ」

「“汽笛”のゴーゴーピッド、なのです!」

「“廻廊”のミロロノワールだよ〜」

「……“彗星”のブルーコメット」

「“花園”のハニーデイズ、です!」

「しゅっ、“祝福”のリリーエーテです…」

「───以上、11名。現存する全ての魔法少女の出席をもって、夜会の開催となります。参加者の皆様、決して、嘘偽りなく、この星に迫る脅威について、議論を交わしていきましょう」


 膝の上に行儀よく手を置くリリーライト。

 机に両肘を立て、両手で口元を隠すムーンラピス。

 頬杖をつくエスト・ブランジェ。

 足を机の上に乗せ、頭の上で組むというダラケた姿勢のカドックバンカー。

 腕を組んで難しそうな顔をするマレディフルーフ。

 司会者らしく、姿勢よく座るマーチプリズ。

 両手を机の上に置き、食事を催促するかのように振るうゴーゴーピッド。

 膝を組んで悪辣に笑うミロロノワール。

 ……そして、緊張からなのか、しっかりと正しい姿勢で座る新世代の3人。


 座席の順番は、出入口から程近い席に新世代の3人が、そこから左右にゾンビマギアが3人ずつ座り、エーテから見て正面の位置に、ライトとラピスが座っている。

 そう、片割れの姉の冷たい視線を浴びやすい位置に。


「ひぇ…」


 暗がりの下、それぞれの座り方をする先代たちの目が、戦々恐々と緊張する後輩たちを見つめている。

 ……言い方を変えれば、真面目ちゃんたちを見る目で。


「もっと力抜けよ」

「別に、取って食ったりしないさ……まぁ、呪うことは、あるかもしれないけどね?」

「もー!脅さないの。殴るよ」

「暴力沙汰なんて野蛮なのです!ゴリラのお姉様の追放を希求するのです!!」

「ピッピって意外と喧嘩っ早いよね…」

「はい却下ー。そんですぐ煽り会うのやめる。もー、折角かしこまったいい雰囲気作ってたのに!」

「……それが原因だろ」

「ラピちゃんシー!」


 一度喋ったら止まらない、死んでも元気な先輩たちに、エーテたちは苦笑い。

 会話に混ざるに混ざれない、そんな光景だったから。


:萎縮させてんじゃねーよ

:そうそう、この空気感だよ求めてたのわ

:血の気の多いピッドちゃんすこ

:相変わらず空気悪いな。悪の女幹部会議かな

:君らってこーゆーの好きよね、を頻繁にお出ししてれる魔法少女たちに感謝

:すこすこのすこ


 ちなみに、NGなしの生放送である。


「はいはーい、もー話逸らさないの。駄弁りたい気持ちはわかるけど!で、早速だけど。本題に入るよ!」

「あ〜、なんの議題だっけか」

「記憶障害のカドック先輩は置いといて」

「おい」


 身内を躊躇いなく傷つける口撃の応酬を止めて、やぬとマーチの口から本題が告げられる。


「今回の議題は、遠い宙から来たる真の脅威、宇宙人───“星喰い”勢力について。対策と今後の方針、そして対立構造の明確化、です」

「発言は挙手をしてからお願いします」

「また、虚偽の申告は極力お辞めください。

 特に、この中で一番情報を持っているそこの蒼月さん。ご協力をお願い致します」


「名指しってマ?」

「残当じゃないかなぁ」

「癪に障る…」


 納得いかない顔で顔を顰めるラピスだが、当然の話故にそれ以上の文句は言わなかった。


「それではまず、情報共有から……ラピスちゃん、ねぇ、ちゃんと全部言ってね?情報の独り占めとか、ダサいからやめてね?」

「チクチク刺してくんのやめて?なにダサいって。初めて言われたんだけど」


 スポットライトを当てられて、ラピスは渋々、非ッ常に面倒臭そうに、自力で仕入れた……合法違法問わず、まあ言わない方が心象のいいやり方で集めた情報を伝える。

 ……情報の信憑性の為に、結局方法も教えるべきだなと開き直るのだが。


「情報仕入れ担当、ムーンラピスです。まず敵の本拠地は暗黒銀河と呼ばれる、地球にとっては未開の地。しかし、彼ら宇宙人にとっては、皇帝と呼ばれる存在……星喰いの管理下にある惑星集合国家である、らしい」

「暗黒銀河って言うと……ダークマターが関わってるとかなんとかの、仮想天体じゃなかったっけ」

「それは地球人目線の話。正確には、星喰いが支配統括、操作するダークマターで複数の惑星を囲い、星喰い自身の領域として確立させた人工銀河、だね。まあ地球人が過去想像した仮説とは、また違う概念なのだろうけど」

「別物、ってことね」


 リリーライトの質問に答えてから、本題を進める。


「敵の総数は、まあ宇宙単位ってことがわかればいい……数えるのも馬鹿になるぐらいいる。種族も、属性も、まあ面倒な程に。地球でもこんな多様性に満ち溢れてるんだ。それが宇宙規模になれば、どうなるかは言わんでも、ね」

「……ふむ。となると、宇宙全てが敵になるわけではないとでも?」

「さぁ。なにも、全てが星喰いの支配下にあるわけじゃあないけど……僕たちと友好的な存在かと聞かれたら、僕は首を振る以外にない」


 少なくとも、星喰い傘下の怪物たちが襲ってくるのは、言うまでもないが。


「あと、こっちで言う幹部怪人格のボス……星喰い直下の惑星支配者が12体、僕らの前に立ち塞がるよ。名称は、なんか厨二臭い……なんだっけ。なんちゃらかんちゃらの十二将星って名前でさ」

「……この前捕まえてた羊ちゃんは?」

「あれも十二将星。ちなみに、アリエスも含めて三体程、こちらで勝手に将星は無力化してある」

「はァ?」

「なにそれ」

「……羊の将星、アリエスと一緒に地球に来ようとしてた牛の将星をぶっ殺したり、水瓶の将星を記憶尋問してから本拠地で呪い爆散させたりしただけだよ。これといって、特別なことはしてない。防衛と工作と牽制をしただけ」

「だいぶ喧嘩売ってない?それ」

「知ーらね」


 指をパチンと弾けば、ラピスが集めた将星のデータが、円卓の中央に投影される。


「このデータは将星メーデリアの記憶を読み取って、更に抽出して編集したモノになる。こいつが正確か否かは……そいつの記憶力の信頼性の話になるね。ただ、捕虜にしたアリエスに聞いたところ、嘘はないってさ……自分よりも知ってることが多い、とも言ってたけど」

「ふーん。あの羊ちゃんは信用できるの?」

「さぁ?でも、嘘はついてないよ。それだけは確かだ」

「そっか」


 投影された12体の宇宙人。以前襲来した怪物形態とはまた違う、異形の人型。親近感を感じると同時に、異質な存在への忌避感も生まれる、そんな感想が出る集団を。

 ラピスは一人ずつ、暴いた将星たちの名を上げていく。

 凡そわかっている注意点も列挙して、こちらの戦力図と比較しながら。


「このレオードってヤツは、アリエスたちを内緒で地球に送り込んで、他の連中よりアドバンテージを得ようとした野心家になるよ。多分、手を組める可能性が微レ存」

「裏切られるんじゃないのー?」

「そん時はそん時。そも、敵対されたらこちらも応じて、ちゃんと殺せばいい。違う?」

「違くないね〜。我ながら野蛮だなぁとは思うけど」

「魔法少女は蛮族なのです」

「違うよ???」


:はへぇ〜、美形ばっか

:既に三体無力化されてた件について

:判断が早い!

:魔法少女は危険な生き物です!みんなで力を合わせて、かの危険生物たちを排斥しましょう!ちなみに私は勝てる自信がないので、ラピ様の恐怖に怯えながら天岩戸しますどうか殺さないでください by魔法廃絶委員会副委員長

:なんか出た

:自己申告してるヤツいるな?

:あれ解体されてなかったかその組織

:まだ捕まってなかったんかい

:つーか生きてたんかあんた

:てっきりラピスが殺したもんだと……

:人殺しちゃうやろあの人

:誰?


「コメント欄、関係ないことで話題乱すのやめてくんね?でもすっごい興味あるんだけど。副委員長さんは後で僕と二者面談です。場合によっては殺します」

「堂々と宣言しないでお姉さん…」

「仕方ないじゃろ」

「そうかな…そうかも……」

「洗脳されないで!」

「洗脳ちゃうわ」


 元アンチを封殺して、脱線していた話を軌道修正。


「はい挙手」

「はいリリーライトさん。発言をどうぞ」

「ラピちゃんに質問……本当に、こいつらを私たち全員で協力しないで倒すつもりなの?」

「勿論」


 議題は、アリスメアーと魔法少女が手を取り合うのか、啀み合う必要性があるのか否かについて。

 既に何度も交わしているが……確認の意味も込めて。


 一刀両断するムーンラピスは、以前と変わらぬ笑顔で、堂々と言い放つ。


「魔法少女でも将星には勝てる。でも、彼ら宇宙人が嫌う特異的な力を、魔法少女は手に入れることができない」

「……力、ですか?」

「そう。宇宙全体で見て毒でしかない瑕疵。存在するのもおぞましい、忌避すべき概念───それが【悪夢】」

「悪夢ってそんなヤバいのだったっけ。いや、そんなこと言ってたような……」

「【悪夢】は侵蝕する。夢に出てくるだけなら兎も角……最悪肉体の崩壊と精神の崩壊を招く。云わば、抗体のない特異的な病原菌、ミュータント」

「ヤバ」


 どの生き物にとっても邪悪な力───ならば、それらを身に宿している存在は、彼らにとってどんな存在か。

 夢と希望の力と、悪夢の力を持つラピスは、何者か。

 死者蘇生に伴い、蒼月と同様、悪夢を取り込んだ屍兵の用途とは。


 悪夢に染まり、狂気に堕ちて尚、活動できていた妖精はなんなのか。


「何処かで語ったかもしれないけど……宇宙全体で見て、地球はおかしいところなんだよ。悪夢の国の住人も、普段悪夢を見ても寝覚めが悪かったりするだけの一般市民も、悪夢を浄化できる魔法少女も、全部」

「……そして、星喰い勢力にとって、悪夢を宿す私たちは最悪の脅威であると」

「そゆこと」


 宇宙の辺境。【悪夢】が蔓延って尚、生き延びた星。


「アイツらも、喉から手が出るぐらい欲しいだろうよ……地球が持つ、宇宙の瑕疵を払う力が……魔法少女という、悪夢の浄化装置を」


 夜会は踊る。蒼月の掌の上で。


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