10-前作主人公枠の企み
「チェルシー?」
「……その、日向が心地よくて……つい」
「何処でも寝れる奴が言うと説得力ねぇーな、おい」
「戦闘中ぐらい起きてろよ」
「不用心が過ぎるぞ、歪夢よ」
「ぐぅ…」
今日の反省会。玉座の間で危機意識のないチェルシーを正座させる僕。なんで戦闘中に寝ちゃうの?せめてなんか結界張るとかバリアーするとか、身を守ってからにしろ。
時世によっては殺害、捕縛どころか=死だよ?
今のアリスメアーがほのぼの(当社比)してるから、軽い不安視ばっかでお目溢しされてるけど、普通に危ないよ?
僕の現役時代だったら即殺だよ?そこわかってる?
その柔い膝にザラついた石乗っける?石抱だか石責だかやろか?
「……ごめんなさい」
気不味そうに目を逸らすチェルシー。一応反省の意志はあるのか。なら、まぁいいか。初犯だしね……気の緩みは今後矯正するとして。
……僕の、マッドハッターの膝に頭を乗せてゲームするリデルがいる手前、あんま強く言えないんだけど。
こいつ威厳吹っ飛ばしすぎだろ。公私の切り替えヤバ。
……よくよく考えたら、なんで僕が玉座に座ってんだ?手を引かれるまま座ったけど、ダメだよねこれ。場違い感すごいよ?
「あっ、死んだ…うむ、まぁ……生きてるだけで儲けものであろう。次からは気をつけよ。貴様の失態一つで我々が追い詰められるのだからな」
「あぃ…、……?ねぇ、そのゲーム機、私の……」
「没収」
「ぅぇ」
いや勝手に持ってってたよなオマエ。なんなら戦闘前に起動してたじゃん。なに都合のいい理由見つけたって顔でゲームしてんだ。一日四時間のルールは守れよ?
……え、一時間じゃないのかって?いや、一時間で何ができるんだよ。
あと文句を言わせない為だ。こんだけやったんならもういいだろって感じで。
悪の首領にこんなこと強いてるの、大分おかしいけど。
「だが、ヤツらの成長速度には目を見張るモノがあるな。第二形態、ポゼッション・モードの討伐速度が予想以上に早い。まだ魔法少女になって一週間足らずであるのに」
「確かに」
「マッドハッター、理由はわかるか?」
「……恐らく、仮想魔法空間……時間が歪む異空間を作る魔法を使って鍛錬したと考えられる」
「余計なことを」
なんで僕が作った魔法だってわかったの?いや、原型は別の、先輩魔法少女の空間魔法を再現しようとして作った魔法なんだけどさ。
空間での1時間は現実で5分。時間の流れを弄ったからかなり便利な異空間になってると思う。
あれで鍛錬したから、リデルに勝てたんだよね。
……そう考えると、あの子達もすぐ強くなれそうだな。それはそれで困るんだけど。
でも久々に見たな、人間+物のアクゥーム。寄生だとか憑依だとか侵食融合だとか正式な名前はないあれ。挙げた全部の要素入ってると思うから、どれも間違いではないんだけど。
んまぁー、そんなとこで反省会は閉幕。チェルシーにも厳重注意したから、きっと今後はないだろう。
……自由になった反動だから、多分無理かもだけど。
今まで雁字搦めに生きていた子が、僕みたいな悪寄りの正義に拾われたのが運の尽きだ。
取り敢えず、今日は慰めで甘いものでも食べさせよう。
「甘やかすな」
「いらないのか?」
「食べる」
……あまっちょろい女王様だこと。
꧁:✦✧✦:꧂
───魔城台所、アイランドキッチンで作業をする僕は、家事能力低めの連中の為に晩御飯を作っている。どうしてこの僕が。役職的には最高幹部なのに。作ってもらう側であるはずなのに。
適者がいないから、ってのもあるけどさぁ。
なんで召使いのメードが作れないんだよ。どうしてその服着せてるんです?
マジでただの無職だぞ。強いて言うなら斥候・工作員・潜入捜査官とかか。暗殺者適性もあるかな……透明化とか気配遮断とか、そういう魔法の使い手なんだし。
それ以外で役立たずなの、本当どうかしてると思う。
「ハンバーグ?」
「カレーかもしれん」
「オムライスは如何でしょう」
「黙れ無能」
「え」
可愛らしいメニューを並べて、机から顔だけ出して伺う子供2人と、軽くいなされるメードを無視して調理する。そこの子供舌……歳相応のチェルシーは別として、そこのリデルはなんなんだよ。マジで精神後退してるよね?
……どうしよ、全然違うメニューなんだけど。
ハヤシライスなんだけど。カレーと似てるけど全然違う料理なんだけども。
……まぁ、いっか。
「あの格好で料理してるの、かなりシュールだよなぁ……生配信で見せてやりてぇ」
「やめろ、馬鹿野郎。気持ちはわかるが」
うるせぇぞ男子。確かにタキシード着てる帽子頭が更にエプロン着てるのはアレだけども。ったくさぁ。男飯しか作れない君らの為にも作ってやってるんだぜ?少しぐらいオブラートに包んで発言しろよ。
ぶっちゃけ僕だってハット・アクゥーム脱ぎたいけど、身バレ防止の為には脱げないのだ。最初から正体知ってるリデルとメードはともかく、三銃士には見せられない。
だってこいつら、悪夢操作の適正有り=魔法が使える、身バレのリスクがある相手ってことだし。認識阻害とかを突破されたら困るもん。
……変装する魔法、ちょっと作り直そ。それっぽい顔と偽名用意して、堂々とやっていきたい。
【悪夢】に誘った経緯はあれだけど、根はいいんだよなこいつら……
「ハンバーグ……」
「カレーじゃない……」
「オムライスが……」
「………はァ、わかった。今度な」
「「「わーい」」」
調子のいいヤツらだこと……できたハヤシライスを机に並べていく。人数分作るのは一苦労だが、一年半もやっていれば慣れていくもの。6人分なら手料理もできるようになった。結構負担だけど、皿洗いは男2人がやってくれるから不問にしている。そういうとこは使えるんだよね。
女児2人と無能メイドはソファにでも座ってろ。
はい、いただきます。うん、美味い。我ながら美味い。この油っぽさが好きなんだよなぁ。
……ちなみに、食事は帽子頭の状態でも食べれている。具体的にはハット・アクゥームのギザ歯が生えた口と僕の口内は任意で異空間を通して繋げられて、食べさせた物を共有することができる。
視覚もそうで、ハットの視界で僕は周りを見れている。
抵抗感はない。だってこのアクゥーム、僕から生まれた夢魔だから。
……でも帽子頭がハヤシライス食べてるの、控え目とか関係なくシュールだな。
「美味しいか?」
「うん!」
「腕が上がったな。褒めてやる」
「そうかいらないのか」
「ヤッ」
上から目線のくそボケから皿を奪えば、リデルのバカは本気涙目で返してと手を伸ばしてきた。あは、なんだろ、その見た目ならかわいさがあって好きだよ?
もう二度とバケモノ形態にならないでほしい。
ユメエネルギー毎回吸わせてるのに、覚醒にはまだまだ足りないみたいだから、別にいいけど。
うーん、宙ぶらりんな僕の立場。魔法少女にも悪夢にも完全に肩入れできない、揺れる心情に心を悩ませる。
なーんで蘇っちゃったのかね。過去の自分が恨めしい。
「あっ、そうだ。次もチェルちゃんが出るの?」
「うん、汚名返上する」
「気付薬でも持ってくか?」
「やだ……」
それって刺激臭するやつ?瀕死の時に嗅がされた記憶があるようなないような……思い出したくないな。
取り敢えず、次は寝ないで戦うように。
「それと、オレっち別に日和ってないからね?まだここで出撃させるタイミングじゃないよなー、って気を伺ってただけだからね?そこ、誤解しないよう訂正させろ?」
「ダメ。ペローは不憫属性で売ってくの。受け入れて」
「いやだが???」
……うとうとするのぐらいは許すよ。完全に寝入ったらグーパンだからね。
꧁:✦✧✦:꧂
「───」
……ところ変わって、“淵源の夢庭園”の地下奥深く。
扉や通路といった正規ルートとは一切繋がりを持たない完全に孤立、隔絶したその空間に、僕は僕の為の研究室を確保している。
研究室、ラボスペースと呼んでいるが、専門家と比べてやってることは魔法色が強い。
魔法の作成とか、対███兵器とか、色々作ってる。
研究成果はリデルにも外部にも発表してないけど、結構すごいのができてる自信はある。
……魔法作成の下地は、現役からの名残だ。作成なんて言ってるけど、実際は他の魔法少女が使ってた固有魔法を技術で再現してモノにしているのが大半だ。
ゼロから作って広めたのもあるけど、殆どが模倣だ。
自慢するとなれば、魔法をそうやって作れるのは僕しかいないことかな?
「しかし……」
なかなか上手くいかないものだ。理論的にも倫理的にもアウトなことをやっている自覚はあるのだけど……
おかしいなぁ。死んでも現世にしがみついてるヤツって意外と少ない?
……だとしたら、あいつはもう成仏したってことか?
いやだなぁ、それを考えるのは……ちょっと息抜きとかするか。
「ふむ……私に内緒で、裏でこそこそしていると思えば。こんなことをしていたのか」
「!」
おいおいおい。なんで入れてんだよ。認識できてんだ。認識阻害魔法で意識することもできないようになって……あークソ、あれか。庭園はどこであろうと自分の領地とかそういう原理でバレた感じか?
背後に突然、転移で現れたリデルをどう誤魔化そうか、高速で頭を回転させる。
本当にどうしよ。裏切り行為ってバレそうなのやってるからなぁ……
……もう寝静まった時間帯だったから、余裕ぶっこいて研究してたのに。
「なにか問題でも?」
取り敢えず押し切ろう。間接的にオマエの為になるのは言うまでもないからー!
「魔法少女、“蒼月”のムーンラピス」
「ッ、なに」
「死した同胞なんぞ集めて、なにをするつもりだ?これになんの意味がある?」
「……」
……おいおい、オマエ魔法少女の顔とか覚えてたわけ?
記憶してないだろなーと思って誤魔化す気満々だったんだけど?
そう、このラボスペースには魔法少女の死体が、いや、より正確に言うのであれば、アクゥームや旧三銃士を含む幹部怪人に殺された魔法少女たちの遺体がある。
ちょっと訳あって集めて、培養液の中で眠らせている。
……いや、死んでるよ?僕と同じツギハギボディでも、中身はまだ……あるようでない状態だけどね?
出番は当分先だから、隠しておきたかったんだけど。
……ちゃっかり僕の魔法少女名も告げて、警戒してますアピールしやがって。
「……秘密でいい?」
「流石にダメだぞ?」
必死に弁明したら誤魔化されてくれた。見逃されたとも言う。今んとこ離反するつもりも裏切るつもりもないって懇切丁寧に唱えて、なんとかなった。
流石に死体6人分の使用用途は内緒にしたけど。
まだ教えるつもりはないんだ。もしかしたら、使わずに済むかもしれないんだし。
「ふぅ……」
……相棒も僕と同じで復活できないかな、なんてことを考えてたのは、絶対秘密だ。
無理だったけどね。