96-無い物ねだりはしない主義
今日は、アリスメアーの幹部とゾンビマギアの訓練日。手合わせの日だ。
「オラァ!!」
「ハッ!甘いぞ公安警察ぅ!!そんな拳で!オレ様をッ!潰せると思ぶへらぁ!!?」
「おバカなのです…」
「天丼ありがとうございました」
「なんなのあいつ」
「ウケる」
アリスメアーの訓練室。幻影魔法と空間拡張工事によりコロッセオと同等の広さを誇る実験施設でもある。勿論、これも僕が作った。
そして今、その訓練室で───三銃士のビルと、ゾンビ魔法少女のカドックバンカーが戦っていた。
つい今しがた、先輩はビルのストレートパンチを顔面に食らい吹き飛んだが。
ざまぁ。
調子に乗ってるからだ。反省しろ。地面でヤ○チャするカドック先輩に、そう怨嗟の声を送る。
負けたら口の中にイナゴだからな。生きたままの。
「オレは負けねェー!!」
「魔法を使わねェ殴り合いでッ!俺に勝てるわけねェだろ戦争屋ァ!!」
うわぁーお。白熱しとる……格闘技の訓練でこれかぁ。
これで魔法アリになったら、魔法仕様の銃火器と武器化文房具が火花を散らす戦場になるわけか……そっちの方が個人的には見たいんだけど。
今はまだジャブ打つ時間だから、別にいいんだ。
殴る蹴る、体術で己の武をより成長させんとする2人を観戦しながら、さっきからこっちを突き刺す視線の主……ペローを見やる。
「なに?」
「いやー、その……これ、オレもやるんスか…?」
「当然じゃん。安心して?ここで死んでも復活できるよう魔法でなんやかんやしてるから。限りなくリアルなVRだとでも思ってよ」
「いやそれはわかるんスよ。でも、オレの相手って……」
「……ん〜」
萎縮するペローの気持ちは、まあわからなくもないが。
「なーに?私相手じゃ不満ー?」
「いや違うッスよ……オレの身体が持つか不安なだけで」
「大丈夫!重力は使わないから、さ!」
「不安…」
これから素力がパワーガールことエスト・ブランジェにフルボッコにされるから、ね。可哀想に……でもくじ引きは絶対だから。
対戦相手が万力なのは、積んできた徳の少なさを恨め。
つまりは自業自得。Q.E.D.証明完了。今日がペロー君の命日なのさ。
ちなみにチェルシーはゴーゴーピッドとやり合うよ。
今回の対戦は、ゾンビの鈍った勘を取り戻させるのと、三銃士をより強化するのが目的だ。あとは交流。
……他の幹部は流石に除いたよ。
オリヴァーは非戦闘職、どっちかと言うと政治面で頼る予定だし。ルイユは体型的に近距離戦闘に不向き。魔法で撹乱とかしかできないから……自衛はできるから、無駄に体力を使わせる意味がない。
メアリーは論外。ここにあいつの被害者3人いるのに、参加させられるわけがない。
そもそもメアリーって、僕と穂希にはボロ負けだけど、それ以外には普通に強いからね。新世代の3人じゃ、まだ歯が立たない。
……でも、リリーライトが全勝してんだよね。やっぱり地球のバグだろあいつ。
後、余った面々……マレディフルーフとマーチプリズ、ミロロノワールの3人は、僕と稽古である。
当の彼女たちはまだそれを知らない。
三銃士たちの二戦目相手だと思ってる……知ったら最後絶対に逃げるだろう。
そんなこんなで、前半3人の対戦は概ね順調に進んだ。
ビルとカドック先輩は終盤で魔法解禁の許可を出して、近距離戦特化のビルと中距離を保ちたがるカドック先輩の熾烈な戦いが見れた。イナゴを食べたのは、可哀想だから言わないでおく。撃鉄が引かれたが、きっと気の所為だ。
続いてのペローvsブランジェ先輩は、まあ終始ペローが圧倒されていた。最後の最後で粘りを見せて、先輩の肩に蹴りを掠めれてたけど……まあ負けてたね。
最後のガッツは賞賛に値すると思うよ。すごいすごい。
そんで、チェルシーとピッドの戦いは……まあ、電車を夢幻で消せるチェルシーに軍配が上がった。これはまあ、仕方ない。物理で徹底的に轢き潰すピッドと、夢幻魔法で有耶無耶にするチェルシーじゃあ、ね。
本人は不満そうだったけど、負けは負けだから。
リベンジはまた今度に取っといて。悔しいからって無言電突はやめなさい。
本当、この子の殺意の出力バグってんな……世が世なら列車殺人鬼だよもう。
さて。
「ふっふーん。こんなんでへばってたら話にならないよ!ほら立って立って!」
「勘を取り戻せって言うけど、だいぶ無茶だよな」
「えぇ〜?フルフル先輩ビビってんのぉ?つーか、あんなぽっと出の集団相手にして、勘とかそーゆーの取り戻せるわけないじゃん?」
そこに、好き勝手言ってる余裕な待機済みがいるね。
「なにを勘違いしてるのかな───オマエたちの相手は、この僕だぞ」
「えっ」
「ひゅっ」
「は?」
一転、絶望した顔をする3人の首根っこを強く掴んで、フィールドまで連れていく。
「いやだッ!!また死にたくなーい!!なんでそんなことするの!!」
「……終わったな、私の第二生…」
「嘘じゃん……あっ、お目目本気……うわーん、ラピピがいじめてくるぅ!!!」
「心外だなぁ……そこまで言うんなら、徹底的に痛めて、徹底的に扱いてあげるよ」
「オワッタ…」
この後、めちゃくちゃ魔法相殺して血祭りにあげた。
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「ねーねーラピスちゃん」
「なんですかマーチ先輩」
「久しぶりにさぁ〜、アレ、やらない?」
「……その心は?」
「えー、やらないと盛り上がらないでしょう。今の情勢は特に」
訓練後。冷蔵庫から取った凍ったバナナを歯でへし折り貪っていると、マーチ先輩が声をかけてきた。内容はまあ想像できるモノ。
確かに、するのは悪くないけど。
盛り上がりってことは、完全にやりたいだけだよね……改めての顔合わせにはなるか。
でもどうしよっか……それ、場所セッティングするの僕だよね。
「やろーよー」
「いいけど、シチュエーションやりたいだけでしょそれ。悪の女幹部ごっこ好きだったもんね……」
「あれ受けもいいしね。みんな好きなのは共通だよね〜」
「……ペラ回しはやってよ?」
「もち!」
僕も、あーゆーのは嫌いじゃないんだけど、喋って場を動かすのは苦手だからなぁ。キャラじゃないって言うか。マッドハッターとか煽り構文とか名乗りとか、アニメ見てみんなこーゆーのが好きなんでしょを実践しただけだし。
あの時は状況が状況だったから、後から羞恥心湧いてたわけで。
……うん、よくやってたな自分。魔法少女になってからカッコつけることが多くなったとはいえ。
本当の僕は……僕は……えっ、と…………あれ?
魔法少女になる前の僕って……なにやってたんだっけ?
思い出せないや。
「やべ、記憶ないなったわ」
「なんで!?」
「今気付いたんだけどね……魔法少女になる前の記憶が、すっげぇ薄らとしか残ってない。ウケる」
「……ヤバいじゃん」
「綺麗さっぱりじゃないのは幸いかなぁ〜。マージで軽いモヤかかってるみたい。あれかな。魔法少女のあれこれが濃密すぎて、復活の時に記憶から吹き飛んだかもしれん」
「それじゃん!!」
別に、全部記憶してなくてもいいけどさ。穂希とかとの思い出はあるし……うん、ちゃんとある。それさえあれば別にいいや。
多分、いらない情報として捨てられたな。
元々、僕の復活ってリデルの屍兵目当ての復活だし……リソースとかの問題で取捨選択した名残だと思う。何度も言うけど、困ってないから別にいいや。
だからそう深刻な顔しないでよ。
遠い昔に死んだ親の顔も思い出せないぐらいだけど……
別に、ねぇ?
「後でメンタルケア受けようね」
「え〜?いる?」
「バリバリにいると思うよ?今のラピスちゃん、かなりの重症なんだからね?」
「えー?」
そんなにぃ?
「ん〜、まぁいいや。そん時はそん時で」
「雑だなぁ。ラピスちゃんがいいなら、それでいいけど」
「……これって、後輩たちも呼ぶべきだよね。呼ばないと死人集会でしかないし」
「そうだね。ライトちゃんは死んでないけど」
「二年近く療養するぐらいだったじゃんか。そんなのもう死人扱いでいいでしょ」
「暴論だなぁ」
そんなこんなで、色々と脱線はしたけど……次の予定が決定した。
招待状渡さなな。
「───そんなわけで、夜会決まったから。これ招待状。君たちの分もあるからね」
「わぁーい」
「えっえっ、これって、あの!?」
「ほ、本物なのね…」
「ふわぁ〜!」
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マーチプリズ@ゾンビ系アイドル
みんな〜!これ、覚えてる人いるかな?
久しぶりにやるよ〜!
“逢魔が時の夜会”、開催決定!!
NG無しの生放送!みんな見に来てね!
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魔法少女応援隊広報部
広報部は魔法少女の活動を心から
応援しております
待って夜会?マジで???
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そこら辺の魔法少女オタク
晩酌用意せな…
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魔法少女の下僕
見ます
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