94-魔法は危険性よりも万能性を推す
【悲報】文章力と料理経験の乏しさで飯テロできず
「ロールキャベツ?」
「うんっ!物価高騰で中々食べれてなかったんだけど……潤空お姉さんがいるんだから、奮発して美味しいの作ってもらおっかなーって!」
「……味の保証はしないよ」
「美味しいの知ってるから大丈夫!」
「寝子ちゃんからね、感想いっぱい聞いてるの!あたしも気になるし!」
「お願いします」
わかったわかった。作るから。材料はもう買ってきてるみたいだしね……あと、蒼生ちゃんの敬語が全然慣れないどうなってんのどうにかして。
……えっ、ムーンラピスとマッドハッターは別?
戦う時はちゃんといつも通りだから安心してほしい……いやできないが。
そうか、そうか。僕のファンだったのかこの子。なんか夢を壊したみたいでごめんね。
現役時代の話、ちゃんとしてやるか……
「悪いけど、リデルも呼ぶよ。あいつ、ガキになってから食べ物にうるさくなってね……手作り以外ヤダってすごい駄々こねるの」
「餌付け成功しただけじゃ…」
「大丈夫!私はそこまで抵抗ないし……お姉ちゃんも私が黙らせるから!」
「そ」
実質家主からの許可も得たことだし、リデルには連絡を適当にして、と。うん、それじゃあ行こうか。
リビングで麻雀をやっていたのは無視だ無視。
最近の子どもって成長早くない?囲碁もチェスも将棋も僕できないんですけど。
……違うか。陽キャだからインドアな遊びも豊富ってかこんちくしょう。
てくてく歩いて隣の家へ。玄関に出待ちしていた穂希が笑顔でいたから、腹いせに腹パンして下がらせた。突然の暴力に後輩ちゃんたちは固まったけど、いつものことだと穂花ちゃんとぽふるんはスルーしていた。
蹲って唸る不審者は見捨てて、キッチンへ。
……うん、ちゃんと材料が買ってある。こんな新鮮なのよく見つけたな。
「褒めて?」
「すごーい!きみはかいものができるふれんずなんだね!やくただずじゃなかったのぉ?」
「邪悪なジャパリパークやめろ!!」
「すごーい!きみはげんさくがわかるふれんずなんだね!ばかだとおもってたよぉ!!」
「表出ろ」
当然負けた。
「いつもあんな感じなの?」
「うん!」
「わ、すっごい嬉しそう……そりゃそっか。寝子ちゃー、あたしたちも負けてられないね!」
「なにが???」
「でも…」
「……うん」
「グロい」
「わぁ」
顔面に突き刺さった拳を引き抜いて、首根っこに刺さる聖剣も引き抜いて、原型を留めていなかった身体を魔法で元通りに。
うん、めっちゃドン引きの視線を感じる。双方に。
……おい、オマエのせいだぞ。さり気なく僕の不死性がバレちゃったじゃないか。
痛覚なくてよかった。
「やっぱり死なないんだ」
「日常描写で試すのやめてくんない?」
「やーだ♡」
「はァ…」
どうやって勘づいたんだか……確かに、今の状態の僕は簡単には死ねない存在になってはいるけども。取り敢えず攻撃する精神で確かめに来るの、本当にやめてほしい。
これで死んでたらどうすんだマジで。
直感で大丈夫だと思うの、本当にやめて欲しい。後輩の教育に悪い。
「潤空お姉さん…」
「……死なないのには理由があるから。そのギミックは、
自分の力で見つけなさい」
「っ、はい!」
これぐらいのヒントなら支障はないし……別にいっか。原理がバレても、どうしようもないしね。
気を取り直してテキパキと調理の準備を開始する。
……見られてると気が散るから、穂希たちには台所から出てもらうとして。
基本的に、僕は汎用魔法という僕自作の魔法を濫用して料理を作る。あれだ。マルチタスクできる。手と脳と魔力を酷使するけど、別に問題はない。
死んでからは脳機能のあれこれがおかしくなったのか、特に痛むことも無くなった。
多分異常なんだけど、まあ別にいいかなって。
さて。
まずは熱魔法で鍋のお湯を急速沸騰、そこにキャベツを全玉投下して、一気に茹で上げる。十分に火が通ったら、粗熱を取るために熱魔法の応用で吸熱して、粗熱を取る。実はこれ邪道なんだけど、葉を分けずに丸ごと茹でたのは魔法万能だから、で許して欲しい。
次に柔らかくなったキャベツを念力魔法で分解、邪魔な芯も削ぎ落とす。
この間、魔法との同時並行で玉ねぎを微塵切りにしたり大量のひき肉に調味利用とか刻みまくったニンニクとかをぶっ込んで混ぜて肉だねを作っている。包丁と手で。
そんである程度手動で肉だねの粘りを出したら、最後は魔法でトドメの攪拌。
続いて魔法で肉を俵型に成形して、キャベツに薄力粉をうっす〜く振り掛ける。
こっからが本番。肉だねをキャベツで巻いて、型崩れを防ぐ為に魔力でコーティング。魔法で同時に行い、空中で手巻き作業を爆速で終わらせる。
んで、巻いたのを鍋に入れたら、コンソメとベーコンとケチャップとかローリエとか水とかをぶち込んで、中火で丁寧に煮込む。
煮立ったのが確認できたら、弱火にして蓋をする……
わけもなく。
ペローの時間魔法で煮込み時間を加速。灰汁は浄化して無かったことにして無視。
あっという間に、八人分のロールキャベツが完成した。
「タイマーストップ、結果は?」
「……7分23秒」
「茹で時間と煮込み時間を短縮した分、驚異的な速度での完成だったわね……いや怖っ。意味不明よ」
「ほへぇ〜。お姉さんって料理でもすごいね…」
「魔力の無駄遣い」
「美味しいから全て許されてるまであるぽふ。いや本当、全然変わってない……」
「そこ、うるさい」
作ってやってんだから無作法には目を瞑れ。捨てるぞ。カウンターから此方を覗き込む視線を追い払い、これまた同時並行で作っていたサラダとか、魔法で炊いた米とかも茶碗によそって、はい夕飯の準備完了。
早めの飯だ。食え。
ついでにおかずも作ってやった。和洋折衷、そこら辺はいい加減だ。
テキパキとこっちが調理を終えている間に、穂希たちも机を拭いたり、コップにお茶を注いだりと、食べる準備を進めていく。
そこら辺も僕に任せてたら、グーが出てたかも。
そんなわけで、僕お手製ロールキャベツ、実食編です。よく味わえ。
あ、リデル呼ばな。
「───む?」
「今日はアウェーな環境での晩御飯です。たまごボーロを夕飯の前に食べるなと何度言ったらわかるんだこのボケ。おら座れ」
「納得いかん……チェルシー、オマエもか」
「ご馳走になってます…」
「はいナプキン」
「リリーライト貴様、私を子供扱いするな。それは幼児用エプロンではないかふざけんな!!」
「お似合いだよ」
「うるるー!!」
多分連絡を見ていなかったリデルを強制召喚して、僕の左隣に座らせる。ちなみに右隣は穂希だ。危うくリデルを2人で挟むところだった。
間食は控えなさいって言ったよね。
穂希の手で子供のかわいいエプロンをつけられて、大分不満なようだけど。
受け入れろ。
はい、全員座ったね。配膳も終わり、リデルも呼んだ。それじゃあ手を合わせて。
「いただきます」
「いただきます!」
「「「いたまきまーす!!」」」
「…いただき、ます」
「あむっ、いてっ」
「子どもたちを見習え」
「むぅ…」
まぁ、食べ物に感謝なんて日本発症の独自ルールだし、守らんでもいいけど。郷に入っては郷に従え、って格言を知らないのかね。
……仮にも敵の前だから警戒してるのか。
無駄なのにね。オマエを殺したら地球が滅ぶってことは伝えてあるから大丈夫だよ。逆にそれを目的とするヤツが現れても、僕がいるから大丈夫。
うん、意地張るのやめよーね。はいお手手合わせて。
……やってることが保母さんだよね。こんなつもりじゃなかったのに。
「……いただきます」
召し上がれ。
「美味しい!」
「……戦いでも強くて、料理も上手で、なにができないの先輩は」
なんだろうね。
この後、大変好評につき第二回の食事会を予約された。そーゆーのって雌雄を決した後にやるべきだと思うの。今中途半端に敵対関係にあるの、どうかと思う。
今更感すごいけど。
「君たちは僕に感謝すべきだよ。あんな腕がポンポン飛ぶ戦いを強いてないんだから」
「ありがとうございます……なんか複雑…」
「いーじゃんいーじゃん。事実なんだし。これから嫌でも吹っ飛ぶよ」
「怖い」
「嫌だ」
どーせ昔話なんて、穂希がいるぶんたくさん聞いてるんだろうし。適当に端折って、それっぽく話していく。まあ気にしすぎんな。
これからどう頑張っても怪我まみれになるんだし。
なんだっけ、この前の宇宙カマキリ相手に、危うく腹を掻っ捌かれそうになったんだっけ?そういうの、これから頻繁に起こるよ。否応にもね。
冷たい現実を突きつけて、甘えを捨てさせる。
言葉だと簡単だから、実戦で身につけてもらうとして。うん、まあ頑張れ。
僕も容赦なく潰すつもりではあるし……さぁて、マジでいつやろうかな。
向かってくる宇宙人共の殲滅が終わってからでいいか。