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93-捨てようにも、捨てられない


「潤空おねぇーさん! 暗躍やめてください!今なら姉妹で幸せ空間セットが付きます!」

「なにその下手な営業文句。いらないよ」

「ご指導をお願いします」

「寝子ちゃんともっと遊びたいです!うちに飼い猫として住まわせてあげてください!」

「遠慮がないね君たち。蒼生ちゃんは体裁的に不味いから却下として、きららちゃん?ダメだよ。あの子は僕のだ。君のじゃない」

「何円出せばくれますか!!国家予算ぐらいなら集めればできます!」

「私で人身売買やめて」

「草」


 住人はいないのにまだ残っていた実家……明園家の隣の宵戸家に久々に入ったら、何故かいた後輩sと寝子たち。

 そのまま勧誘と稽古と養子縁組を申し込まれた。

 穂花ちゃんのは論外、蒼生ちゃんのは前文通り、そしてきららちゃんのは却下だ却下。

 なんで寝子を取り合う構図ができてるわけ?

 ……つーか、なんでいんの?ここ、一応だけども僕の家なんですが。


 合鍵は持ってたか。うん、仕方ない、のか?身辺整理をやりたくなったから来たけど、タイミングミスったな……これじゃあ家を焼けないぞ。

 困るなぁ。


「その灯油タンクは外に置いてね」


 察知された。

 赤い例のタンクは穂花ちゃんに没収された。更に寝子が夢幻魔法で消しやがった。こいつ、貴重な地球資源を一体なんだと思って……


 ……えっ、帰っていい?ここまでされたら、ここに来た意味ないんだけど。


「えっ、遊んでくれないの…」

「現役時代のお話をお聞きしたいです」

「…帽子屋さん、いこ」

「帰っちゃダメ〜!」


 ……敵同士で仲良くなろうとする対人スキルは、確かに褒めるべきか。わかった、わかったから落ち着いてって。強引に引っ張らないの。

 てか蒼生ちゃんや。なんで敬語?タメ口はどこに…

 収拾つかないなこれ。今までの敵意はいったいどこに。

 ちょ、こういう時のストッパー!穂希はどこに行ったの連れて来い!


 はァ……そんな悲しい目で、こっちを見上げないでよ。


「お姉ちゃん達は夕飯買いに行ったよ。ちなみに私たちがここにいるのは、週一回のお掃除をみんなでやってるのを3人にバレちゃったから」

「なに、そんなことしてたの?ありがとね」

「お礼はご飯でいいよ!二年ぶりに潤空お姉さんのご飯、食べたいな」


 ……すっげぇ申し訳ない。こんな善性豊かな子の貢献を無碍にしようとしてた女がいるってマジ?外道だなマジで性根叩き直した方がいいと思う。

 すいません転生させてください。

 いい子に生まれ変わってから善行積ませてください……でもその前にユメ計画、させてね。成功したら地獄の底で謝罪会見開くわ。


 失敗したら?HAHAHA…


 前言撤回、成功しても失敗しても謝ってやーらね。僕はもういい子なので。


 ……それにしても、無関係の子まで巻き込んで清掃活動やらせてたのはよくないね。

 お礼しなきゃな…

 僕が作ったご飯を食べたい云々、ね。それぐらいなら、別にいいけども。


「私は毎日食べてる」

「羨ましい!!そこ変わって!!」

「やだ」


 寝子、自慢するのやめようね。喧嘩になっちゃうから。


 ……仕方ない、か。ここは大人しく二年ぶりに良い姉を演じようじゃないか!

 良妻賢母っぷりを見せてやる。


「お姉ちゃんにメールするね」

「えっ、それはちょっと……」


 この流れ、夕飯まで一緒にいる気だなこの子。ちょうど今がお昼過ぎだから……どっちにしろか。えぇ……すごい面倒臭い。

 やるって決意した手前、もう断れないけど。

 ……流石にリデルも呼ぶか。他のメンツは自分で買って食わせればいい。メードとアリエスにはオリヴァーたちの介護をつければきっと大丈夫、な筈。

 信じたい。


 ……諦めるか。流れに身を任せるのは、いつもの常だ。もう慣れてる。


「……僕の部屋、まだある?」

「あるよっ!冷蔵庫は空だし、電気とかは付いてないけど生活はできる、と思う」

「…んまぁ、お金無駄だしねぇ……ありがとう。いーよ。なに食べるか考えといて」

「はーい」

「現役時代のあれこれは、食べてる時に話してあげるよ。親権はあげない。以上」

「はい!」

「ちぇ」


 ……僕も、大概甘くなったものだ。これから夢の底へと落とす予定の相手、だからなのか。

 もう、わかんなくなっちゃったや。


 後輩sとは別れて階段を登って、僕しか住んでいなかった実質廃屋の二階へ。生活感のない空間へ、手をかける。

 ……埃がないのは、ちゃんと掃除されている証拠、か。

 迷惑しかかけてないな自分。穂花ちゃんも、こんな負債さっさと捨てればよかったものを。

 あの子のやさしさに甘える、不快な自覚を抱きながら、部屋の中へ。


 殺風景な、なにもない僕の部屋。本当につまらない……掃除のしやすそうな空きスペースばっかだこと。マージでつまんない部屋だよなぁ…

 写真立てと偽物観葉植物、陽光を遮断する締め切られた重たいカーテン、普通のベッドにパソコンテーブル、もう使わない配信機材、整頓された勉強道具、魔法開発の参考になるかなと買った本が埋まった棚…

 ……女の子の部屋じゃねぇな。かわいいのかの字もないつまらなさ。


「……ハッ」


 誰もいないのをいいことに、シワひとつないベッドへと仰向けに倒れる。

 使う人もいないのに、寝心地のいいそこへ。

 ……昔から、そうだけど。最近は特に。悩むことが多くなった。


 死んでしまった魔法少女としての責務。

 アリスメアー二代目首領としての改革。

 対宇宙戦最前線に立つ者としての計略。


 普通に生きてたら、考える必要なんてない、あまりにも馬鹿げた命題。いつまで頭を悩ませても、答えなんてまず出ない。

 時たまわからなくなる。

 なにが正しいのか。自分が何処まで間違っているのか。どう変わればいいのか。

 わからない。


 ……過去の全てを切り捨てられれば、また変わるものがあると思って、この家に戻ってきたけど。

 壊そうにも壊せない。

 焼こうにも焼けない。

 全て捨てようにも……捨てきれない。穂花ちゃんたちがいたから、などではなく。


 純粋に。ただ───いらないと思いたかった思い出が、脳裏を過ぎっては離れなくて。

 変わりたいのに、変われない。

 いつまでも宵戸潤空を捨てられず、名前の多い帽子屋になりきれない。


 今のだってそうだ。あの子たちのお誘いなんて、乱雑に腕を振り払えばよかったんだ。なのに、そんな簡単なことすらできなくて。

 冷酷になりきれない自分が……怪人にしか本物の殺意を抱けない自分が、憎い。最近は宇宙怪獣にも、殺意自体は向けれてるけど……魔法少女相手には、まだそこまで。

 何故。人類の敵になる覚悟はしていた筈だ。

 魔法少女の敵対者、世界を滅ぼす者、悪夢の大王として宣戦布告までしたのに。

 なんだかなぁ。


「───うるあ」


 シミのない天井を、ジッと見て黄昏ていたら。真横から聞き馴染みのある声が聞こえた。

 声の方向を、目線だけを寄越して確認する。

 ……そこには、予想通りというか。かつての僕の相棒、契約妖精であったぽふるんがいた。


 ぷかぷか宙に浮いて、心配そうに僕を見る、彼が。


「…なに」

「久しぶりに、ちゃんとお話したいな、って思ったぽふ。ずーっと、知らないでいたから」

「……文句は穂希に言って」

「もう言ったぽふ。でも、責めはしないぽふよ。2人ともちゃんと考えてやったことなら……きっと、それが正しいぽふから」


 なんだこいつ。自己完結しやがって……胸の上に乗んな見下ろすな。

 こいつが偽妖精でニンゲン中身入りだったら殺してた。

 それにしても……こいつも変わってないな。相変わらずかわいい妖精してる。


 ぽふるんとは、たった一年半程度の交流しかないけど、かけがえのない存在、だった。

 最初は羽虫って邪険してたのが懐かしい。

 ……死地に送ろうとするクソ妖精と、便乗する考え無しバカ女のせいだ。仕方ない。ぽふるんも必死で戦力拡充を頑張ってたみたいだから、もう許してるけど。

 妖精も大変だよ。魔法少女を作らないとハブられるとか怖い縦社会だ。


 妖精と人間にも相性があって、契約ができるかどうかもそれ次第なんだとか。【悪夢】との戦いもかなりの年数が過ぎてから契約できる人間、つまり僕と穂希を見つけてる辺り、こいつも運が悪い。

 ……二年半経った今、追加で3人も契約できてるのは、ちょっとあれだけど。

 かァー、頑張ってんだね妖精も。それを無駄にするのが僕なんだけど。


「アリスメアーでちゃんとやってけてるぽふか?うるあは全部背負っちゃう子から、どうでもいいことまで任されて目ぇ回ってそうだな、って僕は思うぽふ」

「的確な推測ありがとう。ワンマン経営ですがなにか」

「うへぇ…あ、オリヴァーに任せたらどうぽふ?あの人も二足草鞋してて大変だろうけど、うるあの負担を軽くする方が重要ぽふ」

「……そう、だね」

「いや?」

「ううん」


 オリヴァーかぁ。あいつ、財閥連合の統率とか、家業のあれこれでも忙しいのに、そこにアリスメアーの業務とか追加させるのは、ちょっと。

 出撃頻度も他の面々より低い上に、基本悪役プレイして満足して帰ってるだけだから、仕事を与えるべきなのは、流石にわかってるけども。

 ……そういえば、この前奥さんにオーガスタスってのがバレたって言ってたな。

 夫のことをわからないほど、マフィアの女はか弱くないだとかなんとか。


 ……強いなぁ。愛の力は偉大なり、か。


 取り敢えず絶縁されなくてよかった。呼び出されて渋々顔見せに行ったら、クソ旦那をよろしくお願いしますって輝かしい笑顔で言われちゃったし。

 ……その横で、顔面フルボッコで蹲る父親が娘の椅子になっていたのは記憶から消しておく。

 仲が良くてなにより。


「オリヴァーは酷使してもいっか」

「多分、うるあのお願いなら喜んで全部やるぽふ」

「あぁ…」


 想像できる。今はトランプ兵っていう補佐もいるから、ちょうどいいかもね。

 ……顔の腫れが引いてから、だけど。


「そういや、穂希と一緒じゃなかったの?」

「うるあが来たーって聞いて、一人で来たぽふ。ほまれは買い物中ぽふ」

「抗議すごかったでしょ」

「そりゃあもう」


 変わってないなぁ……あいつも、こいつも……僕も。


 一人の時間をわざと邪魔してきたぽふるんとの会話は、悪くなかった。


 感情の揺れに機敏なのは、相変わらず……か。

 ヤになっちゃうね。


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